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GIGAスクール構想で期待される、キャリア教育の未来

みなさまこんにちは、株式会社Strobolightsの羽田と申します。前職はマイナビで、企業の新卒採用営業や学生向けキャリア教育事業の立ち上げを行っておりました。現在は独立し、クライアントのキャリア教育事業のお手伝いや学校での講演活動、そして自らも学生や若手社会人向けにキャリア関連のサービスを展開しています。

キャリア教育について、理論や数字ではなく、現場の感覚でこのコラムでは書かせていただいてきましたが、この記事が全10回の連載の最後となります。

最後なので、未来に希望を持てるような内容で終わりたいと思います。
テーマは「GIGAスクール構想」についてです。

GIGAスクール構想とは

GIGAスクール構想をご存知でしょうか。GIGAスクール構想とは、2020年度学習指導要領改訂の流れの中で始まりました。デジタルデバイスを日本全国の子供たちに普及させる環境整備、デジタル教科書やAIを使ったドリルなどのソフトウエアの充実、そして指導者の育成強化の3本柱で構成されている取り組みです。GIGAは「Global and Innovation Gateway for All(すべての児童・生徒のための世界につながる革新的な扉)」を意味するそうです。

特に注目すべきは環境整備。全国の小中学生に1人一台、コンピュータ端末を貸与する取り組みです。貸与されるのはモバイルPCやタブレット。在学中は生徒が自由に使え、自宅に持って帰ることもできます。

当初は2019年から5年間かけて順次ハード環境を整備する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の中で学校が休校になったりオンライン学習の必要性が高まったりする中、端末配布は一気に拡大しました。政府によると、2021年3月末にはほとんどの小中学校で導入が完了したようです。コロナ禍がきっかけで始まった取り組みのように思われる方も多いかもしれませんが、元々は学習指導要領改訂の流れで始まったのです。

私にも3人の小学生の子供がいますが、全員モバイルPCが学校から与えられ、自宅に持ち帰り、宿題などもPCを使ってやっています。ランドセルにモバイルPC。SF漫画のような光景が、すでに現実に起こっているのです。

どうしてここまで一気に普及したのか

2020年3月に新型コロナウイルス感染拡大のための緊急事態宣言が発令され、全国の教育機関も休校措置がとられました。そこから一気にオンライン授業が始まったのですが、このスピード感に驚かれた方もいるのではないでしょうか。「なんでそんなにすぐ対応できるの?」と。

上述のように、実はGIGAスクール構想はコロナ感染拡大の前から始まっていました。これまでも、視聴覚室を校内に設置する取り組みやPCやタブレットの配布などは行われていました。全校生徒にタブレット配布、というニュースもよく話題になっていました。

当然ながら、こうした環境を整えるためには莫大な費用がかかります。なので、これまでは資金力のある学校だけがIT 環境が整い、格差が生まれてしまっていました。

そこで政府は、IT環境を整えるための助成金などを各自治体に認め、環境整備に乗り出しました。しかし、その助成金はIT機器の用途以外でも使えてしまったので、自治体の方針によっては他の政策に予算が使われ、なかなか日本全国の足並みが揃っていませんでした。

GIGA スクール構想はここが違いました。つまり、ICT環境整備だけのための予算としたのです。それ以外に使えないなら、ということで各自治体もPCやタブレット、ネットワーク機械を充実させるための取り組みを始めたのです。
そこに、コロナ禍。不幸中の幸いとでもいうべきか、もしGIGAスクール構想が以前から動いていなかったら、オンライン教育はこんなに早く実現していなかったかもしれません。

プログラミング教育との違いと融合

GIGAスクール構想とプログラミング教育を混同している方も多いと思います。プログラミング教育は2020年小中学校で必修化されましたが、プログラミング教育とGIGA スクール構想、理念は同じですが取り組みとしては別のものです。

これもよく勘違いされていますが、プログラミング教育とは何もプログラマー育成を目的としているわけではありません。プログラミングを教える教育ではなく、ICTを活用し、ICTを使いこなすための教育です。そのために、コンピュータを使った作業や、ICTを使った問題解決の思考力を体に馴染ませる必要があります。学校の授業の中の視聴覚室でしかコンピュータに触れることができないと、この理念は実現できない。であるならば、環境面を整備してあげよう、ということでGIGAスクール構想が出てきたのです。

GIGAスクール構想の課題と期待

GIGAスクール構想がどういった経緯で、どんな理念で始まったのかはなんとなくご理解いただけたのではないかと思います。
ではGIGA スクール構想にはどんな課題があるのでしょうか?そして、GIGAスクール構想に期待できることは何なのでしょうか?一つずつ解説します。

ハード面は整備されても、ソフト面がまだ追いついていない

課題として大きいのは、これでしょう。教育のソフト面、つまり教員の指導力と指導する際のコンテンツ整備です。

これまで紙の教科書を使い、教室の中で1人の先生が数十人に対し指導する、講座形式の教育方法で成り立っていた日本の教育現場。教科書をデジタルに変えるだけなら簡単ですが、それでデジタル人材に育つかというとそうではありません。

そもそも、子供たちの発達段階でどのタイミングでどんな教育を施せばデジタル人材が育つのか、答えは誰も持っていません。そして指導者である学校教員もデジタルを教えるような教職課程を通ってきていません。

本当はデバイス普及とソフト面の研究が同時に進めばまだ良かったのでしょうが、上記の通りコロナによってデバイス普及だけが一気に広がってしまいました。まだまだソフト面の成長は追いついていないのが現状でしょう。

創発する楽しさを子供たちが知ることができれば

この記事のメインタイトルにも書いた通り、私はGIGAスクール構想にキャリア教育の立場で期待していることがあります。
それは、自ら手を動かして形にする楽しさを子供たちが体で理解することで、主体性や自己肯定感の獲得にもつながるのではないか、というものです。

PCやタブレット活用に相性がいい教育コンテンツの一つに、PBLが考えられます。PBLについては以前別コラムで書いておりますのでそちらをご参照ください。

PBLで発生するチームメイトとの連絡、調べ物学習、そしてプレゼンテーション資料の作成は、1人一台パソコンやタブレットを持っていれば今まで以上に円滑に進むと思います。こうした経験によるデジタル技能の獲得はもちろん期待されるところですが、それ以上に「自分で作ることの楽しさ」が学べるのではないかと感じます。

日本の学生に不足する能力値の代表格が「主体性」です。決められた時間に決められたカリキュラムを全員一律で教え込まれるこれまでの日本の教育システムが、子供たちの主体性を奪う原因の一つなのではないかと私は考えています。

「自ら動く」マインドセット

以前、自己肯定感の低い学生のコラムを書かせていただきました。自ら動いて何かをなし得たことがないから自己肯定感が低いのですが、ここで大事なのは「自ら動く」というマインドです。これがなければその後の行動にはつながりません。

自分が手を動かすことでなんらかのリアクションが返ってくる。この単純な経験の幼少期からの積み重ねが主体性の獲得につながるのではないでしょうか。子供たちがなぜあんなにテレビゲームに夢中になるかというと、自分の操作によってゲーム画面内に即座に変化が起こるからでしょう。デジタルデバイスを使ってパワーポイントを作成し、真っ白なスライドに自分の考えやアイデアが表現されていく。あの手この手で自分なりに工夫してより良い作品に仕上げていく。そのプロセスで「自分の行動で何かが動く」という原体験を得てくれれば、その後の人生で人は自走していくのではないかと感じるのです。
そのための環境整備として、GIGAスクール構想には大きな期待感を抱いています。

時代を読むのではなく、時代に対応する地力を

全10回にわたって、キャリア教育の現場の実感値や課題感を書かせていただきました。VUCAの時代(不確実の時代)とは随分前からいわれていましたが、奇しくも新型コロナウイルス感染拡大によって、現代社会の不確実性をいよいよ実感した方も多かったのではないでしょうか。

社会にはこれから、とんでもない変化が訪れます。日本は少子高齢化が加速し、農林水産省の推測では2050年には日本の国土の60%は無人の土地になるそうです。反面、世界規模で見ると人口は爆発的に増え、深刻な水不足や食料不足が現実のものになりそうです。

AIは2045年には人類の知能を追い越すといわれています。VRやAR、5Gのような次世代のテクノロジーはこれからも次々と登場するでしょう。

ここまで大きな変化が起こっている社会で、これから何が起こるのかは誰にもわかりません。時代の先を読むのではなく、その時その時に巻き起こる変化にどれだけ対応するかが求められてくるのではないでしょうか。

キャリア教育が目指すもの

日本の若者は、いわれたことを期日までに正しく行うことには一定の成果を収めます。しかし、自分の意見を求められたり自ら動いて周りを巻き込んだりすることは本当に苦手です。

キャリア教育とは、プレゼンテーションやロジカルシンキング、そしてPCスキルなどの上辺のスキル獲得を目指すものではありません。あくまでスキルは表層的なものであって、もっとも重要なのは自ら動き、社会に関わろうとする姿勢です。これこそが、キャリア教育で目指すべき、日本の若者に獲得してもらいたいものなのです。

極めて抽象度が高く、学習による達成度も測りづらい。キャリア教育自体に課題が山積、いや、課題しかありません。この辺りの苦悩も以前まとめておりますので、よろしければぜひご覧ください。

私はなんの因果か、この困難な世界に足を踏み込んでしまいました。大企業や政府など、日本全体に大きなインパクトを与える組織に所属はしていませんが、その分現場に近く、しがらみの少ない場所でキャリア教育に関する活動を行っています。
何かお役立てできそうなことがあれば、ぜひお声がけください。未来をつくるお手伝いができたらと思っています。

これまでお読みいただき、ありがとうございました。

羽田啓一郎
株式会社Strobolights
代表取締役社長

著者紹介
立命館大学卒。株式会社マイナビにて大手企業の新卒採用支援を経て、学生向けキャリア支援プロジェクト「MY FUTURE CAMPUS」「キャリア甲子園」「キャリアインカレ」「課題解決プロジェクト」「キャリア教育ラボ」等を立ち上げ、国内最大規模までグロース。2020年に独立、株式会社Strobolights設立し、小学生から若手社会人までのキャリア支援サービスを展開。早稲田大学、立命館大学、昭和女子大学、武蔵野大学などで就活やキャリア教育の講義も担当。

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