マイナビ キャリアリサーチLab

平成30年を振り返る
大学生の属性と就職先産業の変化

吉本隆男
著者
キャリアライター
TAKAO YOSHIMOTO

 

大学生の就職環境は、経済の好不況とその時代の社会環境に影響を受けながら、さまざまに変化してきた。今回は平成の約30年間で大学生を取り巻く就職環境がどのように変化したのかを、文部科学省の学校基本調査を中心に整理してみたい。

進学率は過去30年で1.6倍に上昇

文部科学省の資料によると、18歳人口は1992年の205万人をピークに下降し、平成21~令和2年頃までほぼ横ばいで推移。令和3年頃から再び減少局面に突入すると予測されている。少子化の深刻度は年々高まっている状況ではあるが、大学進学率をみてみると、1990年の36.3%が2020年に58.6%になり、過去30年で約1.6倍に上昇している【図1】。

高校から大学と短期大学に進学した学生数は、1990年が約73万人で、1993年に約81万人でピークに達し、2020年には約68万人にまで減少している。30年間で約5万人減少しているが、特徴的なのはその内訳で、この間、短期大学入学者が23.5万人から4.9万人に約8割減少、代わりに大学入学者が49.2万人から63.5万人へと約1.3倍になっている。

大学・短大進学者数/「学校基本調査」文部科学省
【図1】出典:「学校基本調査」 文部科学省

過去30年で短期大学は半分近くに減少

なぜ、ここまで短期大学生の数が減少したのか。直接的には短期大学の減少が影響している。1990年の短期大学の数は593校で、大学数の507校を上回っていたが、2021年には315校に半減。短期大学の4年制大学への転換もあって、大学数は803校に増加している【図2】。

大学・短期大学数の推移/「学校基本調査」文部科学省
【図2】出典:「学校基本調査」 文部科学省

結果として、在籍者数も大きく変化している。1990年の短期大学の在籍者数は47.9万人だったが、2020年には10.8万人にまで減少。逆に大学の在籍者数は213.3万人から291.6万人に増えている。大学と短期大学の在籍者数を合わせた数は、1994年以降は約300万人で横ばい。平成の30年間で短期大学への進学よりも大学への進学を選択する学生が徐々に増加していたことが分かる【図3】。

大学・短期大学の在籍者数/「学校基本調査」文部科学省
【図3】出典:「学校基本調査」 文部科学省


女性の社会進出に伴い大学選びの基準も変化

短期大学から大学へのシフトがここまで進んだ背景には、女性の社会進出によるところが大きいのではないだろうか。男女雇用機会均等法が制定されたのは1985年。1997年と2006年に改正が行われた。こういった社会環境の変化に伴って、女性の学歴に対する考え方、就職に対する意識も変化したのだろう。就職とその後のキャリアを考えて4年生大学を選択する女子学生が増加したのは自然の流れだと考えることができそうだ。
その影響もあってか、大学卒業後の就職者数も年々増加している。1990年には大卒の就職者数は32.4万しかいなかったが、2008年には約39万人に増加。リーマンショックの影響で一時落ち込んだが、その後は右肩上がりで増加しており、2020年には約44.6万人になっている【図4】。

大学卒業・修士課程修了後の就職者数/「学校基本調査」文部科学省
【図4】出典:「学校基本調査」 文部科学省

30年間で産業別就業者数の上位が入れ替わる

次に、卒業後の就職先を産業別に整理してみよう。文部科学省の「学校基本調査」によると、令和2年度(2020年度)の大学生の産業別就職者数のベスト5は、「卸売業、小売業」「医療、福祉」「製造業」「情報通信業」「教育、学習支援業」の順となっている。
30年前の平成2年度の産業別就職者数ベスト5をみてみると、「製造業」「サービス業」「卸売・小売業、飲食店」「金融・保険業」「公務」の順になっている。産業分類が変更されているので、単純には比較できないとしても、この30年で就職先の産業が大きく変化しているのが理解できる【図5】。

令和2年(2020年)と平成2年(1990年)の大学生の産業別就職者数/「学校基本調査」文部科学省
【図5】左が令和2年(2020年)の就職先業界・右が平成2年(1990年)の就職先業界
出典:「学校基本調査」 文部科学省

 

サービス産業化にともない就業者の割合も変化

その背景にあるのは、やはりサービス産業化の進展に伴う働き方の変化だろう。古典的な産業分類ではあるが、「第一次産業、第二次産業、第三次産業」に分けて整理してみると、この30年間で第二次産業の就業者割合が約17%減少し、その分、第三次産業の就業者割合が増加している【図6】。

令和2年(2020年)と平成2年(1990年)の大学生の産業別就職者比率/「学校基本調査」文部科学省
【図6】左が令和2年(2020年)の就職先産業割合・右が平成2年(1990年)の就職先産業割合
出典:「学校基本調査」より作成 文部科学省

参考までに、修士課程の産業別就業者数をみてみると、30年前も現在も「製造業」が一位で変化がない。産業分類の変更に伴うものか、あるいは産業構造の変化によるものか、現在では「情報通信業」が第二位となっている【図7】。

令和2年(2020年)と平成2年(1990年)の博士課程の産業別就職者数/「学校基本調査」文部科学省
【図7】左が令和2年(2020年)の修士就職先業界・右が平成2年(1990年)の修士就職先業界
出典:「学校基本調査」 文部科学省

産業構造の変化が働き方に影響

最後に、日本の産業構造の変化を整理しておこう。内閣府の「国民経済計算」によると、第三次産業は30年間で60.9%から72.4%に11.5%増加している。今後、IoT、ビッグデータ、AIなどのテクノロジーによって第4次産業革命が進展し、超スマート社会が実現すれば、生産や消費などの経済活動に変化が訪れ、人々の働き方にも大きな変化がもたらされるだろう。たとえば働く場所に縛られなければ第1次と第3次を掛け合わせた働き方も増えてくるかもしれない。引き続き長期的視点で学生の就職先と産業構造の変化を見守っていきたい【図8】。

産業の構成割合の推移/「国民経済計算」内閣府
【図8】 出典:「国民経済計算」 内閣府

著者紹介
吉本 隆男(よしもと たかお)キャリアライター&就活アドバイザー

1960年大阪生まれ。1990年毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)入社。各種採用広報ツールの制作を幅広く手がけ、その後、パソコン雑誌、転職情報誌の編集長を務める。2015~2018年まで新卒のマイナビ編集長を務め、2019年からは地域創生をテーマとした高校生向けキャリア教育プログラムおよび教材の開発に従事。2020年定年退職を機にキャリアライター&就活アドバイザーとして独立。
日本キャリア開発協会会員(CDA)、国家資格キャリアコンサルタント。著書に『保護者に求められる就活支援』(2019年/マイナビ出版)

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