マイナビ キャリアリサーチLab

コロナ禍が国内の雇用環境に与えた影響を探る

吉本隆男
著者
キャリアライター
TAKAO YOSHIMOTO

 

2020年1月に初めて日本でコロナ感染者が確認されて早一年半、東京では4度の緊急事態宣言が発出された。この間、日本の雇用環境は大きく変化している。いまだ感染拡大が続くなかで、まだまだ先は見通せないが、今年7月までの統計データを基に、雇用環境の現在地を確認しておきたい。

完全失業率は3%前後で踏みとどまる

2019年の完全失業率は、年間を通じて2%代前半を維持していただけに、コロナ禍以降は大幅な悪化が懸念されたが、2020年10月に3.1%を記録したものの、2021年に入ってからは2%代となる月も多く、3%前後で踏みとどまっている。

2001年頃に始まった第3次平成不況時と2008年のリーマンショック後に、男女計で5.9%を記録したことを考えると、コロナ下の失業率はそこまで悲観的な数字ではない【図1】。これを海外の失業率と比較してみても、2021年6月に15%代を記録したスペインや、10%に近い数値となっているイタリアなどと比較すると、日本の失業率の低さは際立っている。

完全失業率/「労働力調査」総務省統計局
【図1】完全失業率 出典:「労働力調査」(総務省統計局)

【関連コラム】
新型コロナウイルスが世界経済に与えた影響~雇用の観点から

コロナ禍で「隠れ失業者」増加の懸念

現在の雇用環境をさらに詳細に見るために、雇用者数と完全失業者数の増減にも目を向けてみよう。総務省統計局の労働力調査を見ると、雇用者数は、2019年の12月時点で6,037万人だったが、2021年6月には5,975万人と62万人減少している【図2】。完全失業者数については、2019年12月時点で155万人だったのに対して、2021年6月に202万人と、47万人増加している【図3】。その差が、約15万人となっているのは、失業したもののコロナ禍で求職活動をあきらめてしまい、失業者としてカウントされない「隠れ失業者」の存在を否定できないだろう。

雇用者数/「労働力調査」総務省統計局
【図2】雇用者数 出典:「労働力調査」(総務省統計局)

完全失業者数/「労働力調査」総務省統計局
【図3】完全失業者数 出典:「労働力調査」(総務省統計局)

非正規雇用も回復の動き

その背景を調べるために、雇用者数を雇用形態別に見てみよう。2019年11月以降の職員・従業員数の前年同期との差を調べてみると、正規の職員・従業員数は昨年前年比で安定して増加し続けているのがわかる。コロナ禍と言えど、人手不足が深刻で正規雇用を増やし続ける必要があった状況が読み取れる。あるいは、同一労働同一賃金の導入によって、非正規雇用を正規雇用に切り替えたケースも少なくないかもしれない。

一方、非正規雇用に目を向けてみると、コロナ禍が深刻さを増すにつれて雇用者数は大幅に落ち込んでおり、2020年3月以降は継続して前年比を大幅に下回っている。2021年4月になってようやくプラスに転じたのは、前年の落ち込みがひどかったことと、雇用の削減を進めすぎたせいで、人手不足になる業種が増えてきたからだと考えられる【図4】。

職員・従業員数の前年同期との差/「労働力調査」総務省統計局
【図4】職員・従業員数の前年同期との差 出典:「労働力調査」(総務省統計局)

「医療、福祉」、「情報通信業」が正規雇用を牽引

雇用者数の推移を産業別でも見てみよう。正規、非正規を合わせた雇用者の場合は、「宿泊業、飲食サービス業」、「製造業」などが前年比マイナスの月が多く、「情報通信業」、「医療、福祉」などが前年比プラスの結果となっている。また、直近の2021年6月だけを見ると、「卸売業、小売業」、「情報通信業」、そして「宿泊業、飲食サービス業」などが前年比プラスとなっている【図5】。

産業別雇用者数の前年同期との差/「労働力調査」総務省統計局
【図5】産業別雇用者数の前年同期との差 出典:「労働力調査」(総務省統計局)

 

さらに、正規、非正規に分けて雇用者数の推移を調べて見ると、正規職員の場合は、前年比プラスの業界が比較的多く、「医療、福祉」、「情報通信業」などは、前年比プラスを継続しており、直近の2021年6月では、「卸売業、小売業」、「学術研究、専門・技術サービス業」などが前年比プラスとなっている【図6】。

産業別正規職員雇用者数の前年同月との差/「労働力調査」総務省統計局
【図6】産業別正規職員雇用数の前年同期との差 出典:「労働力調査」(総務省統計局)

一方、非正規職員の推移を見てみると、2020年3月以降、前年比マイナスの業種が多く、特に「宿泊業、飲食サービス業」、「卸売業、小売業」、「製造業」のマイナスが大きい。しかし、2021年4月以降は、雇用者数回復の傾向が強くなってきており、「卸売業、小売業」、「金融業、保険業」に加え、「宿泊業、飲食サービス業」でも前年比プラスの結果となっている【図7】。

産業別非正規職員雇用者数の前年同月との差/「労働力調査」総務省統計局
【図7】産業別非正規職員雇用数の前年同期との差 出典:「労働力調査」(総務省統計局)

有効求人倍率は下げ止まるも、先行きは不透明

最後に、直近の有効求人倍率を確認しておこう。2021年7月は1.15倍となり、前月を0.02pt上回った。コロナ禍以降、断続的に減少した有効求人倍率は2020年7月頃より下げ止まり、直近は3ヶ月連続で微増している【図8】。
しかし、ここに来て、コロナ禍はより深刻度を増しており、緊急事態宣言エリアの拡大、期間の延長なども決定されている。日本経済と雇用環境の先行きについては、まだまだ予断の許さない状況が続いている。その為にも、雇用の指標となる数値を定期的に確認しながら、暫くは今後の雇用の行方を追い続けていきたい。

有効求人倍率/「一般職業紹介状況」厚生労働省
【図8】有効求人倍率 出典:「一般職業紹介状況」(厚生労働省)

著者紹介
吉本 隆男(よしもと たかお)キャリアライター&就活アドバイザー

1960年大阪生まれ。1990年毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)入社。各種採用広報ツールの制作を幅広く手がけ、その後、パソコン雑誌、転職情報誌の編集長を務める。2015~2018年まで新卒のマイナビ編集長を務め、2019年からは地域創生をテーマとした高校生向けキャリア教育プログラムおよび教材の開発に従事。2020年定年退職を機にキャリアライター&就活アドバイザーとして独立。
日本キャリア開発協会会員(CDA)、国家資格キャリアコンサルタント。著書に『保護者に求められる就活支援』(2019年/マイナビ出版)

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