マイナビ キャリアリサーチLab

国内トップ大学ではなく、海外大学を目指す高校生たち

羽田啓一郎
著者
株式会社Strobolights 代表取締役社長
KEIICHIRO HADA
キャリア教育

こんにちは、株式会社Strobolightsの羽田と申します。前職はマイナビですが今は独立し、さまざまなサービス開発に関わりながら、小学生から社会人までの「キャリア」を軸に活動をしています。

今回の記事テーマは「日本の大学ではなく海外の大学を選ぶ高校生」についてです。

日本の大学ではなく海外の大学を選ぶ高校生

前職マイナビ時代に、私はキャリア甲子園という高校生向けPBL型ビジネスコンテストを立ち上げました。PBLについては以前こちらで書かせていただいているのでご確認ください。

キャリア甲子園には毎年多くの高校生が参加し、ビジネスプランを考えプレゼンテーションを企業に披露する機会となっています。一連の体験を通して自分の将来に意欲的になる子も多く、学校の勉強や進路選択に前向きに取り組むようになる高校生も多くいました。

その中で「海外大学」を希望する高校生が珍しくない程度には増えてきたなと感じたのが2017年頃。単純にキャリア甲子園自体の参加者が増え、私が接点を持つ高校生が増えたからだというのもありますが、海外大学志願者は年々増えているような実感があります。2021年現在は、「海外大学を考えてます」という高校生と出会ってもそんなに珍しいとは思わなくなりました。詳しく知りたい方は「海外大学 進学 数」など検索するとあらゆる記事がヒットするかと思います。

ここでいう「海外大学を考えている」というのは、日本の大学生が短期留学や1,2年間の交換留学をすることではなく、日本の大学にそもそも行かずに海外の大学に籍を置く、つまり海外大学に「進学する」という意味です。

なぜ、海外大学を目指す高校生が増えているのでしょうか。この記事では定量的な調査データではなく、私が直接接点を持ち、高校生や海外大学に進学した学生と会話しながら感じることを書いていきたいと思います。

なお、私は海外大学進学自体にはフラットなスタンスです。薦める立場でもありません。ただ、後述しますが、意欲的な高校生が選択するのが海外大学になってしまうという現象については何か日本の大学も考えなければならないポイントはあると考えています。

海外大学進学を目指す学生にもいくつかのパターンがある

何事もそうですが、何らかのカテゴリで世代そのものを括ってしまうことは、便利な一方で危険性もあります。たとえば1990年後半頃から2012年頃に生まれた若者のことを「Z世代」などとよく呼びますが、当然ながらZ世代にもいろいろな人が存在します。「最近の若者はこんな考え方をするんだな」と一括りにしては本質を見誤ります。

同じく、「海外大学進学志望者」というカテゴリにもいろいろいるようです。

「私の周りにも海外大学志望者はたくさんいますが、いろいろコミュニティが分かれていて、違うコミュニティの人には存在は知っていても出会うことすらない」

これは日本の有名私大に一度進学しつつも、この秋から海外の有名大学に進学する女子大生の一言です。ここでいう「コミュニティ」を分けているのは、進学先の国だけではなく本人の指向性です。

ではどんな分け方ができるのか。本人たちの話を元にもう少し細分化してみてみましょう。

①日本では学べない学問に真剣に取り組みたい

すでに何らかの学びたいことがあり、その学びの分野が海外にしかない、というケースがあります。日本の大学では叶えられない希望を叶えるために海外大学を選ぶ、ということです。たとえば、ある学生は音楽と神経、脳波の影響について学びたいと思い日本の大学を調べたところ、音楽史についての学問や脳科学の学問はあるものの、「音楽と脳波の関係性」を専門で学べる大学は見つからず、結果的に海外大学へ進学しました。

言葉を選ばずいうと、日本では社会に出る猶予期間として大学進学をする学生も少なくないのが実態です。そうではなく、純粋に学問追究として大学を選ぼうとした結果、海外大学という選択肢に行き着くのです。

日本の高校生は、大学選びのみならず、学部選びも苦労することが多いですね。偏差値で狙える範囲の学校・学部を選ぶ高校生も多いのではないでしょうか。その一方で海外大学を目指す学生は、学部・学科よりさらに細分化された学問や、逆に学部・学科を横断する学問 について関心を持ち、「この学問が学べる大学」を探すのです。

こういう学生の面白い特徴が、将来どうするつもりなのか聞くと「全然考えてません」と答えることです。純粋に学びたいことがあるから大学に行くのであり、日本の学生でありがちな「就活に有利かどうか」という選択軸は持っていません。純粋な学問追究のために進学するのです。

博士まで進むことも視野に入れつつ、「その時になったら考える」というスタンスです。しかし目的のための実行力は持ち合わせている学生たちなので、ベースは「なんとかなる」もしくは「なんとかする」というマインドです。試行錯誤はしながらも自分でキャリアを作っていける学生たちでしょう。

②日本の大学や学生に疑問を感じている

上記①とも共通する部分がありますが、何らかの「学び」を真剣にしたいと考えている子たちがこのケースに当てはまります。大学に進学した先輩や兄、姉を見ているうちに「日本の大学生って遊んでばかりなの?」と疑問に感じ、海外大学を志望するようになります。

①と異なるのは何か学びたいことが具体的にまだあるわけではない、ということ。日本の場合、多くの大学では大学受験の時に進学する学部、つまり専門分野を決めなくてはなりません。ところが海外の大学は1,2年生で基礎を学び、3年生の時に専門分野を決めていく、というスタイル(国や大学によりますが)。「まだ何を学びたいかはわからないけど、しっかり学びたい」という場合、海外大学という選択肢が出てくるのです。

③もともと帰国子女で自然と海外大学に意識がいっている

これはもともとの家庭環境が影響してくるので限定的な条件になってしまいますが、海外大学に進学することが当たり前の選択肢として本人の意識の中にあるケースです。幼少期に海外に在住経験があり、海外生活が意識の中で身近です。人によっては日本に帰国した後にカルチャーギャップに苦しみ、海外の価値観、文化のほうが自分には合っている、と考える場合もあるようです。

④海外大学卒業というブランドが欲しい

承認欲求の表れだともいえますが「海外大学に行くことがかっこいい」と思っているケースです。このケースの人は欧米などの先進国の大学に進学したがる傾向があります。そのほうがステータスとして上、という感覚なのでしょう。特別でありたい、周りと違う存在でありたい、そんな承認欲求の結果が海外大学、というわけです。

「海外大学に行くほうがかっこいい」という理由だけ聞くと浅はかな印象を持つかもしれません。ただ、彼らが憧れる欧米の大学は授業が厳しく卒業するのが大変なことでも有名です。

「チャラい動機で入学していても、授業についていける学生はもともとが優秀だし相当努力している。だから馬鹿にはできない」と、あるアメリカ在住の日本人学生はいっていました。

そもそも、彼らが憧れる海外トップ大学は入学難易度も高い。そこに合格するわけですから、動機はともかく優秀なのは間違いなさそうです。

⑤語学力を高めたい

最後のケースは何らかの理由で語学力を磨きたい、というケースです。上記の①②のように何か学びたい学問があるというよりは異文化の中で語学を学ぶことを主目的とします。これまでのケースはアメリカやヨーロッパといった比較的先進国の大学を志望する傾向があるのに対し、このケースはそれに加えてフィリピンなどの東南アジア圏への進学も選択肢に入ってくるようです。ここでいう語学力とは英語力である場合が多く、東南アジア圏には英語で授業を行う大学も多い。欧米圏に比べると生活費や学費を安く抑えることができるのは大きなメリットと言えるでしょう。あくまで私の観測範囲での話になりますが、①②③④は比較的富裕層の高校生が志望することが多いので、これまでのケースとは全く違う学生群です。

海外大学という選択肢に出会うかどうかは所属しているコミュニティによる

このように、一言で「海外大学」といってもいろいろなケースがあります。いずれにしても、「海外大学進学」という選択肢に出会うか出会わないかが大きな分岐点。普通に日していたら、海外大学という選択肢を自分ごととして捉える機会は多くないでしょう。この出会う確率は生活している環境によって大きく異なるといえそうです。身近に海外大学に進学した先輩や海外大学進学を目指す友人がいれば、「そうか、海外大学に進学するという選択肢があるんだ」と気づくことになります。

学びたい若者が異国に旅立ってしまう現状

それぞれ思惑は違うといっても、共通しているのは「学び」を重要視している点。何かについてとことん学びたいと思う高校生は海外大学を目指す。このことは日本の大学機関にとって警鐘なのかもしれません。

ただ、このようにいう現地の学生もいました。

「日本の大学生活は学外での学び・経験が豊富な印象があります。海外大学に進学すると本当に大学の授業の勉強だけで1日が終わってしまうので、他の活動をする余裕はあまりありません。日本にいるとサークル、バイト、ボランティア、長期インターンなど大学の勉強以外にもさまざまな機会がありますよね。それはそれで学びになると思います。なので、学問を追究したい人は海外大学、学問以外の経験も積みたい人は日本の大学、という選択肢なのかなと私は思っています」

経験を学びとし、自分の糧にできるかどうかも本人次第。日本にいても学びの機会はあるはずなのです。

学びへの強い欲求に、日本の大学は応えられているのか?

あえてやや扇動的な書き方をしましたが、「海外大学>日本の大学」という意識は多くの方が持っているのではないでしょうか。それはただ単に「グローバルだからすごい」という話ではなく、研究・教育機関としての格の違い、そしてそこに通っている学生の意欲などを総合したイメージなのではないかと思います。私は、日本トップといわれる大学を滑り止めにして海外大学を受験し、両方受かった末に海外大学に進学した学生を何名も知っています。

私自身もそうでしたが、大学進学を考える日本の高校生の多くは、学びたいことが特にあるわけではなく、偏差値や通学の距離感を考えて進学先を考えていると思います。いわば、自分を突き動かすものがない状態で流れに任せて大学に進学するのです。

しかし海外大学進学にはこの「突き動かすもの」が必要になってきます。

海外大学、特に欧米トップ大学の入試方法をご存知でしょうか。これらの大学は語学力はもちろん、エッセイがしっかり書けていないと合格できません。エッセイではこれまでの自分の人生経験を振り返り、なぜ自分がこの大学に入学したいのか、を論理的かつ本質的に語る必要があります。英語の勉強とエッセイ対策のための海外大学進学専門の予備校も存在し、高校生たちは自分の半生と本質に向き合います。もちろん、ここで内省し言語化するだけの原体験を持ち合わせていないと、そもそも何も書くことができません。したがって、海外大学進学をする高校生は、それまでの人生で留学やボランティアなどの何らかの課外活動を経験していることが暗黙の必須条件になっています。

キャリア教育

④のような承認欲求の表れのような志望動機の学生も、上辺だけの対策では海外大学には進学できません。内省し、自分を突き動かすものに向き合う。「入学した後の勉強も大変だけど、エッセイを書くのが本当に苦しくて辛かった」と語る海外進学学生は少なくありません。日本の学生の場合、多くは就職活動をするときになって初めて自分のこれまでの人生を振り返ります。海外大学に進学している学生は、高校3年生の時にすでにそのプロセスを経験しているのです。

前述した通り、日本の学生生活にも学びはもちろんあります。学びたい学問が日本の大学で学べるから日本の大学を選ぶ学生もいるでしょう。そしてすべての海外大学が上記のような受験選抜方法なわけではありません。あえて意図的に偏った書き方をしている部分もあります。

ただ、何らかの原体験を持ち、強い学びの欲求を持つ若者が選抜され、入学後の過酷な勉学に励んでいる姿を見ていると、日本の学生生活はやはり牧歌的だなと感じてしまうのです。

私は以前、「小学生がプレゼン!?進むキャリア教育の低年齢化」という記事の中で「成功体験の蓄積」について書かせていただきました。キャリア教育の低年齢化が促進されれば、何らかの原体験をもち、学びや自己成長に前向きな若者が増えるはずです。その時に彼らが進学先として選ぶのが日本の大学ではない、となると何とも複雑な話になります。


日本でも学習指導要領の改定や入試制度改革など多くの議論が繰り広げられています。ただ、現場ではまだまだ混乱が続き、有効的に機能しているとはいえません。
キャリア教育の低年齢化とともに、「突き動かすもの」を持つ若者も行きたくなる大学環境の整備も必要なのです。

日本の大学を学びの場に選んだ学生たちに行うキャリア教育の支援。私が専門としているのはこの領域です。キャリア教育を受けることで、内なる欲求に気づき、より学びたい意欲がでる、そうった場を提供していきたいと考えてます。
今後も、小学生やから高校生の状況も含めた広い視野で試行錯誤と情報発信をしていきます。

株式会社Strobolights 代表取締役社長 羽田啓一郎氏
羽田啓一郎
株式会社Strobolights
代表取締役社長

著者紹介
立命館大学卒。株式会社マイナビにて大手企業の新卒採用支援を経て、学生向けキャリア支援プロジェクト「MY FUTURE CAMPUS」「キャリア甲子園」「キャリアインカレ」「課題解決プロジェクト」「キャリア教育ラボ」等を立ち上げ、国内最大規模までグロース。2020年に独立、株式会社Strobolights設立し、小学生から若手社会人までのキャリア支援サービスを展開。早稲田大学、立命館大学、昭和女子大学、武蔵野大学などで就活やキャリア教育の講義も担当。

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