ティール組織の特徴と強みー進化する組織の新しいアプローチ
現代のビジネス環境は急速に変化しており、企業は柔軟で迅速な対応が求められている。従来のトップダウン型の組織モデルでは、変化に対応しきれないことが多く、新しい組織モデルが必要とされる中、注目されているのが「ティール組織」だ。本記事では、ティール組織の特徴と強みについて解説し、その魅力と導入のメリットを探っていく。
目次
ティール組織とは
ティール組織は、従来のトップダウン型の指示系統や細かなマネジメントがなくても、目的に向かって自律的に成長し続けられる組織を指す。権力者が存在せず、メンバー一人ひとりが自身の役割や環境のルールを理解し、状況に応じて独自に意思決定ができる柔軟性が大きな特徴となる。
ティール組織は、フレデリック・ラルー氏の著書『Reinventing Organizations』で紹介された組織形態だ。従来のマネジメントにおける考え方や組織の在り方とは異なる形でありながら、組織がより柔軟で適応力のあるものとなり、メンバーの創造性と主体性を最大限に引き出すことができるとされ、注目を集めている。
ティール組織に進化するまで
フレデリック・ラルー氏は、組織モデルの進化の過程をレッド(衝動型)・アンバー(順応型)・オレンジ(達成型)・グリーン(多元型)・ティール(進化型)の5色で表現して紹介している。
この中の最新型の組織モデルを「ティール(Teal)」という青緑色を指す言葉で表現したため、この組織モデルは「ティール組織」と呼ばれているのだ。続いてはこの5段階の進化過程について詳しく見ていく。
レッド組織:衝動型
レッド組織は、力と恐怖に基づくリーダーシップが特徴である。権力者が組織を支配し、強力なリーダーが絶対的な指導力を持つ。このモデルは、もっとも原始的といってよい組織形態で、短期的で衝動的な行動によって目の前の利益を優先する傾向にある。また、個人の力に依存している形態のため、組織の長期的な成長や持続可能な発展には適しておらず、成果の再現性もないという点が特徴とされる 。
アンバー(琥珀)組織:順応型
アンバー組織は、組織のメンバー間に明確な階層構造が存在し、ルールや規律によって秩序が保たれている組織モデルである。「軍隊」とも比喩され、組織のメンバーは決まった役割を全うすることが求められ、トップダウン型で指示通りに行動する。そのため、安定した組織運営を行うことができるという特徴があり、予測可能な環境での運営に適しているが、新しいアイデアは生まれにくく、急速な変化や革新が求められる状況には対応しにくい。
オレンジ組織:達成型
オレンジ組織は、現代のビジネス環境においてもっとも一般的な組織形態である。アンバー組織と同様に階層的構造はあるが、組織メンバーが才能を活かして成果をあげた場合には評価され、出世が可能という点が特徴的な組織モデルだ。組織内の階層構造に流動性があるため、競争意識が生まれやすくなり、イノベーションの促進やモチベーション向上にも繋がりやすいという特徴もある。
しかし、この組織では組織の成果をあげることが最優先とされ、効率性と生産性を重視して数値管理が徹底されることで、過重労働や労働問題に繋がる可能性が高いという側面もある。
グリーン組織:多元型
グリーン組織は、階層構造は存在するもののボトムアップ型の意思決定を行う組織で、個々のメンバーがより主体性を持って行動することができるモデルである。組織としての目標達成は重視しつつも、各メンバーの個性や多様性も尊重しながら運営していくため、意思決定のスピードや効率性が低下する可能性がある。
また、組織内の決定権限はマネジメント側にあり、権限をどの程度組織メンバーに分散させていくかについては明確に決まっていないため、自律性はティール組織ほど確立していない。
ティール組織:進化型
ティール組織は、もっとも進化した組織モデルであり、リーダーや階層構造が存在せず、組織はメンバー全員のものとして個々が自主的に行動することで運営されていく。組織メンバーはそれぞれが対等(フラット)な関係で指示命令系統はなく、各メンバーが組織の目的を理解してその場に応じた意思決定を行うことが特徴的だ。
意思決定の際に合意を得る必要がなく、組織の目的達成に向けて自分ができることと個人の目標達成のための行動が一致しているため、メンバーは自主的に成長しながら活躍できる。このようにティール組織は、組織メンバーが自主的に意思決定するため、柔軟性と適応力を持ち、変化する環境に迅速に対応できるとされる。
ティール組織の3つの要素
次に、ティール組織を目指すにはどのような要素を求めればよいのか、ティール組織において重要な3つの要素について見ていこう。
セルフマネジメント(自主経営)
セルフマネジメントとは、上司が部下に指示を出して業務を管理するのではなく、各メンバーが自分自身で業務を管理して意思決定し、行動することを指す。会社は、メンバーそれぞれが適切な意思決定をできるよう、情報の透明化や助言を得られる仕組み作りなどを行う必要がある。
メンバーの自律性と自己管理は、自分の仕事に対してオーナーシップを持ち、自己の能力を最大限に発揮するための基盤となる。これにより、組織全体のパフォーマンスが向上し、迅速な意思決定が可能となる。また、メンバーが自分のすべきことを理解し、自律的に行動することで、組織全体の柔軟性と適応力が高まる。
エボリューショナリーパーパス(進化する目的/存在目的)
ティール組織では何のために組織が存在しているのかをメンバー全員が理解し、追求し続けていくことが重要である。また、この「組織の目的」とは単なる利益追求ではなく、社会的な価値を創造することであるため、社会の変化に応じて常にメンバーで話し合いながら進化させ続けていくものとされる。
これにより、メンバーは自分の仕事に対する意義を感じ、モチベーションが高まる。目的志向の文化は、組織全体の方向性を明確にし、メンバーが共通の目標に向かって協力するための基盤となる。
ホールネス(全体性)
ティール組織では、従来のピラミッド型の組織構造が存在せず、すべてのメンバーが平等な立場で意見を出し合い、協力して業務を進める。そのため、メンバーがお互いの多様性を認め合い、自分の意見を自由に表現できる環境が整っていることが重要だ。
ホールネスが実現している組織では、自己の能力が最大限に発揮され、全員が活発に意見交換し、挑戦することで創造的なアイデアが生まれやすくなる。これにより、組織全体のパフォーマンスが向上し、持続的な成長が実現されるのだ。
ティール組織を実現するための取り組み
では、そのような要素を備えたティール組織を目指すには具体的にどのような取り組みが考えられるのか見ていこう。
組織のビジョンと目的を明確にする
ティール組織を導入する前に、組織のビジョンと目的を明確にし、社員全員に共有することが重要である。組織の存在目的(エボリューショナリーパーパス)を設定し、同時に、これが固定的ではなく世の中の変化にあわせて組織の存在目的も変化し続けるものであることを理解してもらう。
ビジョンと目的が明確であれば、社員は自分の役割を理解し、組織全体の目標に向かって協力できる。これにより、組織全体の一体感が高まり、社員のエンゲージメントが向上する。
自己管理の文化を育む
社員が自律的に行動できる環境を整え、自己管理の文化を育むことが必要である。これには、トレーニングやワークショップを通じて、社員に必要なスキルを提供することが含まれる。
セルフマネジメント(自主経営)のスキルを身につけることで、社員は自分の役割を理解し、責任を持って行動できる。自己管理の文化が根付くことで、社員同士の信頼関係が強化され、協力的な環境が生まれる。これにより、組織全体の柔軟性と適応力が高まり、迅速な意思決定が可能となる。
心理的安全性の確保
ティール組織において重要な「ホールネス(全体性)」を実現するには、社員が安心して意見を述べられる環境を整えることも重要だ。これにより、社員は自分のアイデアを自由に表現し、組織全体のイノベーションが促進される。
メンバー同士が本音で話し合うことができる環境を作るために、組織内のコミュニケーションの活性化や意見を尊重し合う風土を築く取り組みも必要だろう。
まとめ
ここまで、さまざまな組織モデルやティール組織の要素について見てきたが、日本企業においてはオレンジ型の組織が一般的であり、階層的構造がないティール組織になることには難しさを感じるだろう。
しかし、組織をメンバー全員のものとして捉え、進化させ続けていくというティール組織は、変化の大きい今後のビジネス環境において強さを発揮するとされる組織モデルである。企業全体の形を変革するのは難しいかもしれないが、部署単位やプロジェクトのチーム単位など、小さな組織単位でティール組織の要素を取り入れることからはじめてみてもいいのではないだろうか。
組織の在り方は企業の風土や業務内容にもよるところが大きいだろうが、組織モデルがメンバーの主体性や成果にも影響することを理解し、より良い組織の形を模索していけるとよいのではないだろうか。