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組織が矛盾を抱えたとき~パラドックス時代に生き残る組織は何が違うのか?~

近年、企業は多様なニーズに適応することが求められています。たとえば、業績の向上や集団やチームの尊重、従業員個人のニーズへの対応や社会環境や地球環境への配慮、法律や倫理への対処など、さまざまな価値観に基づき多様な活動を進めていくことが求められています。多様な価値観が台頭するなかで、徐々に浮かび上がるのがパラドックスに起因する問題です。相反するニーズに同時に向き合うことが要求されるとき、組織のなかでは何が起こっているのか?本稿ではパラドックスを巡る問題とその対応について解説します。

パラドックスとは何か?

パラドックスとは、相反する要素なのに、どちらもある成果を生み出すためには求められるという一見矛盾した意味の構造です。たとえば、次のようなケースです。

【1】組織はメンバーの「類似性」が高ければ、パフォーマンスが上がる。
【2】組織はメンバーの「異質性」が高ければ、パフォーマンスが上がる。

これらの命題は、どちらも真理を提示していると言えます。

【1】の命題は真理と言えるでしょう。協働を成立させるためには一定の類似性が求められます。同じ価値観、同じ思考、同じ技能レベルであれば、コミュニケーションは円滑になり、チームのパフォーマンスや組織のフットワークは高まるでしょう。実際に、メンバーの類似性にこだわって採用を進めている企業もあります。

では【1】と反対のことを言っている【2】の命題は正しくないのでしょうか。そうではないところにパラドックスの特徴があります。【1】同様に【2】も正しいことを提示している命題です。全員同じ考え方しかできない組織よりも、個々がバラバラの専門性や技能を持っていた方が、創造的なアプローチを生み出せることは学術的にも報告されています。

これらの命題をもとに考えると「類似性」を高めても、「異質性」を高めても、パフォーマンスは上がらないことになってしまいます。このように、個別に見れば合理的で妥当な考えなのに、並べると違和感や矛盾を生み出すようなもの。それがパラドックスです。

パラドックスを抱える組織

現在、組織のなかには多くのパラドックスがあります。

たとえば、「個人化」と「組織化」のパラドックスです。労働人口が減りつつあるなかで、社員個人を尊重した組織運営が多くの企業に導入されています。さらに、コロナ禍をきっかけに浸透したテレワークによって、職場における「個人化」はいっそう強まっています。メディアでもよく目にするように、「個人化」を進めることで採用パフォーマンスや離職率が改善されるという側面は確かにあります。

一方で、「組織化」を進めることも重視されています。協働環境を維持するために、組織への愛着を高め、協力意識を持って業務に臨むことが重視されています。エンゲージメントや、企業カルチャーの浸透など、組織化を戦略的に促そうとする動きは年々強化されているように感じます。

組織パフォーマンスを高めるために「個人化」を促しながら「組織化」も促す。このような一見、矛盾した取り組みが各社で進められています。

また「経済合理性」と「社会貢献性」のパラドックスも見られます。多くの企業は、最小のコストで最大の利益創出を達成するための経営活動を進めています(経済合理性)。他方で、近年では人的資本やESG経営の台頭に見られるように、ビジネスにおける持続可能性(business sustainability)も重視されるようになりました。経済・社会・自然環境など、よりマクロな視点で人間社会の保全や発展を考える取り組みが重視され始めています。

業績や経営効率だけを考えていては、社会からの評価が低減し、消費者からの支持や株価の低迷などのリスクも浮上するでしょう。継続的に経営をするためには「経済合理性」も「社会貢献性」も、いずれも組織には求められています。

他にも、学習のパラドックス(例:既存の強みを磨きながら、既存の強みを批判的に捉える)や、組織内パラドックス(例:事業部Aと事業部Bが真逆のアプローチでマネジメントする)など、多様なパラドックスが組織のなかにはあります。【図1】

経営組織の0抱える多様なパラドックス例
【図1】

さまざまな価値観が、同時・並列的に台頭する時代のなかで組織はどのように向き合うことが求められているのでしょうか。相反する指示や命令、正反対の評価軸のなかで社員が混乱せずに、多様な要求に対応する組織は何が違うのでしょう。

次のチャプターでは、パラドックスと対峙する際の考え方について共有をします。

パラドックスで強化される組織・脆弱化する組織

パラドックスにもっとも敏感に反応するのは、現場の社員です。組織がパラドックスを抱え込んだとき、現場ではどのような事態が生まれるのか。ある企業の事例を紹介します。

顧客企業A社では、人事部から「これからの時代は、キャリアの自律が大事。自分の関心あることを進めることも重要」とアナウンスをしたところ、ある現場社員から次のようなメールが届いたそうです。

“経営層や人事部は、主体的にキャリアを進めろと言いますが、現場の管理職は誰もそれは重視していません。先日も、自分なりに仕事の幅を拡げようと調べものをしていたら、“そんな暇があるなら俺(上司)の仕事を手伝ってくれないと困る。もっとチームのことを第一に考えてくれてもいいんじゃないか”と言われました。正直、社員に「キレイごと」をアナウンスされても、矛盾を抱えるだけだし、会社を信頼できなくなる。”

パラドックスは、現場における不信感・不安感を呼び起こします。相反する価値観やエネルギーが真逆の方向に向かって進んでいる状態ですから、現場が混乱するのは当然のことと言えるでしょう。パラドックスに向き合うとき、組織の内部では張り詰めた糸のような緊張が生まれ(paradoxical tension)、A社のようにさまざまなリスクやネガティブな影響が発生していきます。

では、パラドックスを抱えるすべての組織がネガティブな影響を抱えるのでしょうか。もちろん、そうではありません。組織パフォーマンスをさらに高めていく組織と、脆弱化していく組織に明暗はっきり分かれるのです。さて、これらの組織の違いはどこにあるのでしょうか。

ポイントは、パラドックスの引き起こした問題を「無視」するのか、「学習」するのかの違いです。

下の図2は、パラドックスの生み出す問題がどのように処理されていくのかを説明しているモデルです。組織の抱えるさまざまなパラドックスが、A社の事例のように徐々に組織のなかの緊張を高め、対立を生み出していきます。そして、ふとしたきっかけで問題を引き起こすのです。

パラドックスが生み出す緊張(tension)にいかに向き合うか?
【図2】

注目頂きたいのは、「緊張・対立の表出(図における赤のカラーリング箇所)」から右と下にのびる2パターンのルート、「パラドックスの無視」と「パラドックスの学習」です。パラドックスが生み出すさまざまな問題に組織がどのように対応するのかによって、その後の道のりは大きく異なります。

「パラドックスの無視」から見ていきましょう。「無視」は、パラドックスを「なかったことにする」という組織の態度です。

仮にA社のケースを用いてこの対応を説明するならば、先のような現場社員からのメールを人事部や経営層がスルーしてしまうような対応です。社員個人のキャリアを尊重する企業姿勢が、現場のマネジメントとの間に不整合を生み出していることが判明します。社員のエンゲージメントの低下も感じ取れる状態です。これは、明らかに図の「緊張・対立の表出」と言えます。しかし、この事態を重んじることなく、上司にうかがいを立てても判然としない。時間だけが経過し、対応もうやむやになり、やがてはそのメールの存在も「風化」させてしまう。これが「パラドックスの無視」です。

このような対応をしていては、当然ながら現場は大きなストレスを抱えます。会社が発信する「きれいごと」を聞きながら、会社の方針とは真逆の上司の要求に対応していくわけです。会社に対する不信感は強まるでしょう。

このようにして「パラドックスの無視」は組織を大きく消耗させます。モチベーションの低下、離職の増加、業績のさらなる停滞などの不具合が発生するリスクが高まります。さらに、厄介なことに組織がこのような事態を「無視」する限り、組織の抱える矛盾や緊張はより強くなり、問題はより深刻になっていきます。

では、このような悪循環に陥らないためには、どのような行動が求められるのでしょうか。

それが「パラドックスの学習」です。目の前の状況と向き合い、複雑に絡み合っている構造を精緻に理解するような対応です。組織内に発生している矛盾に注目し、その事実を客観的に捉え、要因を探り、何をすればより良くなるのかを模索する。そういう冷静かつ創造的な態度が求められます。

A社のケースにおいて、「学習」を進めるのならば、どのようなアクションが求められるでしょう。たとえば、現場からのメールの内容をもとに、現場へのアンケートやヒアリングを進め、どのような要因がバランスを崩しているのかを特定し、その要因に働きかける戦略を真摯に検討する。そのようなアクションです。混乱や矛盾を放置せず、常に組織を変化させようとする柔軟性やフットワークが何よりも大切です。

「パラドックスの学習」を導くためのポイント

最後に、パラドックスによる問題の表出に備える対応として、代表的なものを4つ提示します。

まず、もっとも大切なのは「客観的な問題把握と要因整理」です。問題が発生しているにも関わらず、「無視」をしてしまう組織は、表層的な問題把握になっていることが多いようです。社員から進言があっても、調査に乗り出さなかったり、調査をしても客観性が担保されなかったりと、個人の感想・主観的意見にとどまってしまう。結果的に、何に働きかけるべきかが見えず、抑圧的・強制的に問題を「解消」してしまうケースは実は多いです。

アンケートでデータを収集し、精緻に分析する。そして、新入社員から役職者まで網羅的なヒアリングをかける。このような、徹底して問題を追究する姿勢が大前提として求められます。

2つ目は、「上下間の情報共有の仕組み」です。問題が明らかになっても、組織の一部しかそれを把握していないという状況では、抜本的な取り組みは期待できないでしょう。パラドックスによる問題は、構造的・制度的な矛盾であることが多く、そのために部分的な改善で解消されるようなものではありません。抜本的な取り組みを生み出すためにも、組織内のキーパーソンにしかるべき情報を届ける仕組みが必要です。

3つ目は、「心理的安全性と忌憚のない意見交換」です。対策案を検討するときに「声の大きな人」の意見が議論を主導するのでは、創造的な対策は生まれないからです。経営層と上司、現場がフラットに話をできる風土でなければ、どこかで抑圧的なエネルギーが働き、対策は本質からズレていってしまいます。

最後に「『学習』を重視する組織文化の醸成」です。問題を適切に把握し、対策を検討し、変革を進めるには相応の労力やコストがかかります。業績や利益を重視する価値判断軸しか組織のなかにないのなら「学習=無駄なアクション」と意味づけられてしまうかもしれません。そのため、少なくとももう1つの価値判断軸が求められます。徹底して向き合うことを良しとする価値観がなくては、「パラドックスの学習」は進みません。

パラドックスは、言うなれば「陰と陽」です。いずれも受け入れていくことが不可欠であり、片方だけでは組織の持続的な成立は生まれないでしょう。相反するエネルギーを自らの糧とするために、組織には到来する変化を真摯に学び続ける姿勢が求められています。


<参考文献>
Lewis, M. 2000. Exploring paradox: Toward a more comprehensive guide. Academy of Management Review, 25: 760–776.

Smith, W. K., & Lewis, M. W. (2011). Toward a theory of paradox: A dynamic equilibrium model of organizing. Academy of management Review, 36(2), 381-403.

Beech, N., Burns, H., de Caestecker, L., MacIntosh, R., & MacLean, D. 2004. Paradox as invitation to act in problematic change situations. Human Relations, 57: 1313–1332.

March, J. 1991. Exploration and exploitation in organizational learning. Organization Science, 2: 71–8.

O’Reilly, C., & Tushman, M. 2008. Ambidexterity as a dynamic capability: Resolving the innovator’s dilemma. Research in Organizational Behavior, 28: 185–206.

著者紹介
神谷俊(かみや・しゅん)
株式会社エスノグラファー 代表取締役
バーチャルワークプレイスラボ 代表

企業や地域をフィールドに活動。定量調査では見出されない人間社会の様相を紐解き、多数の組織開発・製品開発プロジェクトに貢献してきた。20年4月よりリモート環境下の「職場」を研究するバーチャルワークプレイスラボを設立。大手企業からベンチャー企業まで、数多くの企業のテレワーク移行支援を手掛け、継続的にオンライン環境における組織マネジメントの知見を蓄積している。また、面白法人カヤックやGROOVE Xなど、組織開発において革新的な試みを進める企業の「社外人事(外部アドバイザー)」に就くなど、活動は多岐にわたる。21年7月に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)を刊行。

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