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自律分散型の働き方とジョブ・クラフティング
– 武蔵大学・森永雄太氏

森永雄太
著者
武蔵大学経済学部経営学科教授
YUTA MORINAGA

はじめに

新型コロナウイルス感染症の大流行を契機に、自律分散型の働き方が浸透してきた。同時に従業員には自律的に仕事に取り組むための自己管理が強く求められるようになってきた。本稿では、ジョブ・クラフティングという考え方を足掛かりに、ストイック過ぎない自己管理の方法について考察したい。

ストイックでない自己管理の探求

代表的な自己管理の考え方では、目標を設定した上で自分自身を「監視」し、上手にできている場合に自分で自分をほめたり、ご褒美をあげたりすることでその行動を強化していくことが推奨されている(たとえばFrayne & Latham, 1987)。このような自己管理研究は、仕事の場だけに限らず、受験勉強や健康管理などさまざまな領域で実践され、その有効性も明らかにされている。

ただしこのような自己管理が、多くの人によって実践されているかというと必ずしもそうではないだろう。何より「自己管理」と聞いてウキウキする人自体も少ないはずだ。この言葉にはどうしても「やりたいことを我慢して、やりたくないことを続ける」というイメージがつきまとう。みなさんの中にも、「自分はそんなにストイックでないから無理だ」と感じてしまった人もいるかもしれない。

自律分散型の働き方の浸透に伴い、以前より多くの従業員に自己管理が求められるようになってきた。そこでは、ストイックでない人も、それなりに自己管理することが求められている。そのためには、もっと間口を広げて自己管理を実践する必要性に迫られている。

ジョブ・クラフティングとは

ここで紹介したいのが、従業員が自分の仕事に対して積極的に変更を加える行動を指すジョブ・クラフティングという考え方である(Wrzesniewski, A., & Dutton, 2001)。ジョブ・クラフティングを紹介する際に、私がよく例として用いるのが、東京ディズニーリゾートのカストーディアルのエピソードである。カストーディアルとは、箒と塵取りをもってパーク内を歩き、主に掃除を担当している係のことだ。もともとはあまり人気のある職種ではなく、やめてしまう人も多かったそうだ。ところが、カストーディアルの中には、決められた掃除という役割だけでなく、箒を濡らして地面にキャラクターの絵を描いてゲストを喜ばせたり、積極的にゲストと交流を持ったりするものもいるらしい。このように決められた最低限の仕事だけに留まらず、自分の役割を広げたり、他者との関わり方に変更を加えたりすることで、仕事の意味ややりがいを見出していくこと、これがジョブ・クラフティングである。

実は東京ディズニーリゾートでは、すべての従業員はゲストをもてなすキャストだと位置づけているそうだ。このカストーディアルは、このような組織の方針を取り入れた上で、(おそらく)もともと自分にとって得意であった「絵を描くこと」を自分の役割に取り込むことに成功したといえる。このようにジョブ・クラフティングの考え方を上手に取り込むことができれば、自分の得意分野や自分らしさを活かすことができる。そして業務を役割に取り込むことが可能になり、仕事に対して前向きに取り組むことができるようになる。

ジョブ・クラフティングは従来の自己管理研究が想定してきた方法とはやや異なり、やりがいや面白みを上手につけ加えていくことで、やるべきことをやり遂げることを可能にする方法といえる。もちろん、なんでもかんでも役割を広げるだけでは、上司や同僚から否定的に捉えられることもある。ジョブ・クラフティングを上手に取り入れることで、自分自身を上手に仕事に向き合えるようにしてくれるだろう。

ジョブ・クラフティング研究の発展

ジョブ・クラフティングが一般に広く注目され、その良い効果が強調されるようになったのは、ヨーロッパで仕事要求度-資源理論の観点から再定義と尺度開発がなされてからである。

Times,Bakker,&Derks(2021)の4次元尺度

ここではTims, Bakker, & Derks (2012)によって開発された4次元からなる尺度を紹介しながらジョブ・クラフティングのタイプを紹介していこう。

1つ目の次元は、対人関係における資源を増加させるジョブ・クラフティングである。具体的には,上司や職場の他者からフィードバックやアドバイスなどを得ようとするタイプである。

2つ目の次元は、構造的な仕事の資源を増加させる種類のジョブ・クラフティングである。自分の専門性を高めたり能力を高めたりする機会を作り出す行動が含まれる。

3つ目の次元は、仕事の要求度を増加させるジョブ・クラフティングである。新たなプロジェクトに積極的に参加したり自分の仕事をより挑戦しがいのあるものへと変更したりするタイプである。

4つ目の次元は、仕事の要求度を減少させようとするタイプのジョブ・クラフティングである。これは3つ目のタイプのジョブ・クラフティングとは逆に.仕事の負担を減らすために大変な仕事や困難な意思決定をしなくて済むようにふるまうというようなタイプである 。

このうち第1次元から第3次元までの3つの次元のジョブ・クラフティングを行うことは、概ね従業員のワーク・エンゲージメントを高める傾向にあるという結果が示されている。これらのタイプのジョブ・クラフティングを上手に取り入れることができればいきいきと働くことができる、という結果である(Rudolph, Katz, Lavigne, & Zacher, 2017)。一方、4つ目のタイプのジョブ・クラフティングがどのような影響をもたらすかについてはさまざまな見解があり、今後の研究が待たれる領域である。

働く「環境」のクラフティングへ

自律分散型の働き方のもとでこそ、ジョブ・クラフティングに取り組むことが有効だ。また、クラフティング視点を応用して自分が働く「環境」にも工夫を加えていくことで、無理なくウェルビーイングな働き方を実現することが期待できる。

たとえば、最近ではテレワークを導入する企業が多い。テレワークは便利な部分も多いが、中には仕事と私生活の境界があいまいになったり、同僚とのコミュニケーションが減って孤独感を感じたりする人もいるようだ。そういう人の場合は、自宅で自然と仕事に集中しやすくなるようPCやデスク周りに自分のこだわりを反映させるなど、居心地の良い空間づくりを考えてみてもよいだろう。また、自分に良い影響を与える上司や同僚とコミュニケーションをとる機会やツールを積極的に取り入れる工夫をするとよいかもしれない。

また最近では、従業員が働く仕事の内容に合わせて好きな場所で働くABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)型のオフィスを導入する企業が増えてきた。ABW型のオフィスでは、固定席のオフィスと比べて、オフィスをどのように使いこなしていくかが、従業員に委ねられている。どの作業をどのスペースで取り組むのが心地よいのか、打ち合わせをどの設備を用いて行うのか、を自分なりに整えていくことなど、クラフティング的な発想を応用して、自分にあった環境を自ら作り出していくことが可能になるだろう(Roskams, McNeely, Weziak-Bialowolska, & Bialowolski, 2021)。

ジョブ・クラフティングは自分の強みや関心を活かしながら、やるべきことをやれるようにする際に有効な考え方である。大変な仕事に耐えながら、なんとかしのぐ、というだけでなく、上手に変更を加えていくことで、本来求められている役割を遂行することを試みようとする考え方ともいえる。みなさんも自己管理の一環として、仕事そのものをクラフティングすること、さらには、働く環境をクラフティングすること、を心掛けてみてはいかがであろうか。

参考文献:
Frayne, C. A., & Latham, G. P. (1987). Application of social learning theory to employee self-management of attendance. Journal of applied psychology, 72(3), 387-392.
Roskams, M., McNeely, E., Weziak-Bialowolska, D., & Bialowolski, P. (2021). Job Demands-Resources Model: Its applicability to the workplace environment and human flourishing. In A Handbook of Theories on Designing Alignment between People and the Office Environment (pp. 27-38). Routledge.
Rudolph, C. W., Katz, I. M., Lavigne, K. N., & Zacher, H. (2017). Job crafting: A meta-analysis of relationships with individual differences, job characteristics, and work outcomes. Journal of Vocational Behavior, 102, 112-138
Tims, M., Bakker, A. B., & Derks, D. (2012). Development and validation of the job crafting scale. Journal of vocational behavior, 80(1), 173-186.
Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of management review, 26(2), 179-201.


武蔵大学経済学部経営学科・森永雄太教授

著者紹介
森永雄太
武蔵大学経済学部経営学科教授
神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。立教大学助教、武蔵大学経済学部准教授などを経て、現職。専門は組織論、組織行動論、経営管理論。
近著に『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 健康経営の新展開』(労働新聞社)など。

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