
「仕事と私生活の満足度」
どちらも高めることが個人と企業にもたらす効果とは?
私たちの生活において「仕事」と「私生活」は切り離せない大切な要素だ。近年では「ワークライフ・インテグレーション」という考え方が注目され始めている。仕事と私生活を天秤にかけるのではなく、どちらも充実させて相乗的に人生を豊かにしていくという考え方で、「ワーク・ライフ・バランス」の発展形であると言われている。詳しくは以下のコラムで説明している。
仕事と私生活の満足度がどちらも高いことは、私たちにどのような効果をもたらすのだろうか。このコラムはマイナビが実施した最新の調査データに基づき、ワークライフ・インテグレーションを追求することで得られるポジティブな効果を考察する。
仕事と私生活の満足度が個人、企業それぞれにあたえる影響を探り、その背後にあるデータとの関連性を詳しく解析していく。
目次 [もっと見る]
使用した調査の概要
調査期間 | 2023年11月17日(金)~11月20日(月) |
---|---|
調査方法 | インターネット調査 |
調査対象 | 20~59歳の正社員の男女 |
有効回答数 | 3,000件 ※調査結果は、端数四捨五入の関係で合計が100%にならない場合があります |
以下の調査の内容を再集計してコラム化している。
3つの満足度について
仕事、私生活、今生きていることへの満足度
20~50代正社員3,000人に聞いたところ、仕事への満足度が高い割合は33.6%、私生活への満足度が高い割合は50.0%となっており、仕事と私生活を比べると、私生活の満足度が高い人の方が多いことがわかった。【図1】【図2】
※調査結果は小数点以下を四捨五入しており、合計値が100%にならないことがある


また、今生きていることへの満足度が高い割合は46.8%と半数近くの人が高い満足度を示している【図3】。

3つの満足度の相関関係
次に、「仕事・私生活の満足度」と「今生きていることへの満足度」の関係について見ていく。「今生きていること」と「仕事」の満足度の相関係数※は0.42、一方で「今生きていること」と「私生活」の満足度の相関係数は0.72だった。「私生活の満足度」と「今生きていることへの満足度」には強い相関がみられることが明らかになった。
つまり私生活に満足している人は今生きていることへも満足している傾向にあることを示唆しており、私生活の充実は人生の満足度に強く関わっている可能性があるとわかった。また補足として、「仕事」と「私生活」の満足度にも0.34と弱い相関がみられている。
※2種類のデータ間の関連性(相関関係)の強さを示す指標。「1」に近いほど相関関係は強くなり、一般的に「0.7」以上は「強い相関関係がある」と判断されている。

仕事と私生活の満足度で4グループに分けた結果
分類詳細
前項では、仕事と私生活の満足が今生きていることそのものへの満足に相関を示したが、ここからはもう少し細かくみていきたい。特に仕事と私生活においてはそれぞれバランスが異なる人々がいると仮定し、以下の4グループに分類した。【図5】
- ワーク グループ(仕事のみ満足)
- ライフ グループ(私生活のみ満足)
- プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)
- もやもや グループ(どちらも不満またはどちらともいえない)

4グループの内訳
4つのグループに区分した際、もっとも人数が多かったのは『もやもや グループ(どちらも不満またはどちらともいえない)』だった。次いで『ライフ グループ(私生活のみ満足)』、『プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)』、『ワーク グループ(仕事のみ満足)』と続く。
年代比率を見ると、『ワーク グループ(仕事のみ満足)』は他グループと比べて40代50代がやや多い傾向にあり、『ライフ グループ(私生活のみ満足)』は他グループと比べて、20代30代がやや多い傾向にある。また『もやもや グループ(どちらも不満またはどちらともいえない)』は20代の比率が低い傾向にある。【図6】

4グループ別の「今生きていることへの満足度」
「今生きていることへの満足度」について4つのグループ別に分析したところ、もっとも満足度が高かったのは『プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)』となり約9割だった。
「今生きていることへの満足度」に強い相関を示したのは「私生活の満足度」であったが、「仕事の満足度」は不要というわけではなく、仕事も満足している方が「今生きていることへの満足度」は高いことがわかった。
仕事と私生活双方の充実は人生の満足度に寄与していると考えられ、個人の視点では大きなメリットであると考えられる。【図7】

仕事と私生活の満足度と「生産性」の関係
ここまで個人の視点で「仕事と私生活の満足度」をどちらも高めるメリットについて考察してきた。ここからは、企業の視点でメリットについて考えるため、4グループそれぞれの「生産性」を探る。
生産性とは
労働における生産性は、一般的に「労働生産性」と呼ばれている。労働生産性は、労働量に対する成果のことを指し、労働量は労働者の数や労働時間を、成果は生産量や付加価値額で計算される。
本コラムでは、労働時間、生産量や付加価値に関連するデータをまとめ、4グループそれぞれの「生産性」を考察していく。
労働時間に関するデータ
『プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)』は、他のグループと比較して、以下のような特徴がみられた。
定時で帰る割合 | プラチナグループがもっとも高く、ライフグループより3pt程度高い【図8】 |
年間休日 | ライフグループとプラチナグループが同程度で高い【図9】 |
これらのことから、『プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)』は『ライフ グループ(私生活のみ満足)』と同程度に労働時間が短い可能性がある。


生産量や付加価値に関するデータ
『プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)』は、他のグループと比較して、以下のような特徴がみられた。
年収 | プラチナグループがもっとも高く、他グループより平均で80万円程度高い【図10】 |
出世意欲 | プラチナグループがもっとも高く、ワークグループより5pt以上高い【図11】 |
モチベーション | プラチナグループがもっとも高く、ワークグループより10pt以上高い【図11】 |
より良いやり方 取り入れ | プラチナグループがもっとも高く、ワークグループより10pt以上高い【図11】 |
仕事の自主性 | プラチナグループがもっとも高く、ワークグループより10pt以上高い【図11】 |
仕事の介在価値 | プラチナグループがもっとも高く、ワークグループより5pt以上高い【図11】 |
年収については、年代別に比較も行っている。『プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)』と年収がある程度高いと予測される『ワーク グループ(仕事のみ満足)』を比較した。
『プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)』と『ワーク グループ(仕事のみ満足)』の差は、20代では約20万円、30、40、50代では約100万円と、どの年代においても『プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)』の方が高い結果となっている。【図10】

生産量や付加価値に関するデータをまとめると、『プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)』は仕事に対するモチベーションや自主性が高く、仕事に対する積極性が高い傾向があることがうかがえる。【図11】

これらのことから、『プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)』は『ワーク グループ(仕事のみ満足)』よりも生産量や付加価値が高い可能性がある。
生産性に関するデータまとめ
労働時間、生産量、付加価値のデータから、『プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)』は、『ワーク グループ(仕事のみ満足)』をはじめとした他のグループと比べて労働時間が短い中で生産量や付加価値が高いと考えられ、生産性が高い人材である可能性が示されている。
今回の調査では、仕事と私生活双方に満足している人材は生産性が高い人材である可能性が高いことがわかった。そのため、企業の視点においても「仕事と私生活の満足度」をどちらも高めることは大きなメリットがあると考えられる。
今後の展望
ここまで、個人と企業の視点から、働く個人が「仕事と私生活どちらも満足している」ことへのメリットを考察してきた。集計結果は、個人と企業の双方にとって大きなメリットがあることを示唆している。ここからは、私生活と仕事それぞれの満足度を高めるための方法について考察していく。
私生活の満足感を高めるには
私生活の満足感を高めるためには、働く時間や場所の柔軟性を高めることが重要だ。実際に『プラチナ グループ(仕事・私生活ともに満足)』は職場の柔軟性が高い傾向にある。【図16】

短時間勤務、地域限定勤務、職務限定勤務など、正社員の定義を多様化することによって、私生活の時間を確保する制度の整備が必要だろう。
仕事の満足感を高めるには
仕事の満足感と相関が比較的高かった職場の環境は、「仕事そのものに満足している(相関係数0.65)」「達成感がある(0.60)」だった。
職場の環境 | 「仕事への満足度」との 相関係数(上位抜粋) |
---|---|
仕事そのものに満足している | 0.65 |
達成感がある | 0.60 |
成長実感がある | 0.56 |
会社の方針(経営理念)に共感できる | 0.48 |
周囲からの承認機会がある | 0.47 |
職場の人間関係がよい | 0.46 |
あたえられている責任の重さがちょうどよい | 0.45 |
※職場の環境は、「仕事そのものに満足している」「達成感がある」「成長実感がある」「会社の方針(経営理念)に共感できる」「周囲からの承認機会がある」「職場の人間関係がよい」「あたえられている責任の重さがちょうどよい」「上司との関係がよい」「休日や勤務時間などの労働条件に満足している」「昇進できそうだ」「給与に満足している」「福利厚生に満足している」の計12項目となっている
「仕事そのものへの満足」については、望む部署に自主的に異動できる「社内公募制度」の導入や、経営層や管理職が会社の方針や仕事の意義を積極的に発信する機会を増やすことが効果的ではないだろうか。
達成感については、別コラムで年代別・職種別に仕事のやりがいを紹介しているので、そちらを参照していただきたい。また、上司とのフィードバックの機会を定期的に設け、できなかったことやできるようになったことを振り返ることで、達成感を得やすくなるだろう。
今回のコラムで挙げた3つの満足度(仕事・私生活・今生きていること)のうち、もっとも満足度が低かったのは「仕事への満足度」だった。そのためまずは「仕事への満足度」に関連しコストやリスクが比較的少ないと考えられる、
- 「経営層や管理職が会社の方針や仕事の意義を積極的に発信する機会を増やす」
- 「上司とのフィードバックの機会を定期的に設ける」
などから施策を行うことが現実的であると考えられる。
同時に仕事・私生活の満足度に関連する制度改正も進めることが重要だ。仕事の満足度を高め、私生活の満足度もさらに高めていくことは、企業の成長と従業員の満足度を高める鍵となるだろう。
今後に向けて
今後企業は、ウェルビーイングや健康経営など、従業員の仕事と私生活をともに充実させる支援が求められるだろう。仕事と私生活をともに充実させることが当たり前となっている組織が増加するよう、今後も「仕事と私生活の満足度」をどちらも高めることへのメリットを研究していきたい。
働く個人は、未だ「仕事と私生活はどちらかを削り合うものだ」という認識が一般的になってしまっているのではないだろうか。今後も「仕事と私生活はどちらも充実させることができる」というメッセージを積極的に発信していきたい。
キャリアリサーチラボ 研究員 朝比奈 あかり