年代別の「転職率」と「転職理由」とは? 20代・30代・40代・50代それぞれ解説
総務省の労働力調査では、2023年7〜9月平均で、転職を希望する人の数が初めて1,000万人を上回った。この結果から、転職はますます身近な存在となっていることがわかる。本コラムでは、マイナビキャリアリサーチラボが実施した調査をもとに、どのくらいの正社員が転職を行っているのか、年代別に年間推移をまとめていく。
目次
「転職率」とは
公的機関の調査では
厚生労働省の「雇用動向調査」では、「転職入職率」が発表されており、転職入職率は、常用労働者数(※1)に対する転職入職者数(※2)の割合のことを指している。
また総務省の「労働力調査」では、転職者の人数が発表されており、転職者は「就業者のうち前職のあるもので、過去1年間に離職を経験した者」と定義されている。
※1 常用労働者:期間を定めずに雇われている者、1か月以上の期間を定めて雇われている者のいずれかに該当する労働者
※2 転職入職者:事業所が新たに採用した者のうち、入職前1年間に就業経験のある者
マイナビ調査での「転職率」算出方法
マイナビが実施した転職動向調査では、正社員に絞って「転職率」を算出している。具体的には、2020年度国勢調査の正規雇用者の性年代構成比に合わせたスクリーニング調査回収数での正社員転職者の出現率から、正社員の転職者の構成比を算出している。
本コラムでは、転職動向調査で算出した「転職率」と、「転職理由」をまとめた。
正社員全体の傾向
転職率の推移
2023年の1年間における転職率は7.5%。過去最高数値の2022年と同等の高い水準を維持する結果となった。
2020年は新型コロナウイルスの影響で転職が鈍化したが、「コロナで転職活動に積極的になった」人も存在し(※3)、翌年の2021年には新型コロナウイルス影響前と同水準の転職率に戻っている。2022年以降はさらに転職率が高まっており、人材の流動化が活発になっていると考えられる。【図1】
転職者の年代比率を見ると、20代(34.0%)がもっとも多い。2021年以降、20代は減少傾向にあり、30~50代のミドル世代が転職した比率が高まっている。【図2】
(※3)
転職理由の推移
転職理由について、2020年・2021年では「仕事内容に不満があった」がもっとも多かった。2022年以降は「給与が低かった」がトップとなり、転職理由が変化していることがうかがえる。
2022年以降は物価高騰の影響が強くなり、給与待遇の良い企業を探している求職者が増加しているようだ。2023年の転職理由もトップは「給与が低かった」となったが、年代別に差が見られたため、次章から詳しく解説する。
20代の転職率と転職理由
20代の転職率推移
2023年における20代の転職率は13.2%だった。全年代の中で転職者の出現率がもっとも多い。
2020年から2021年にかけて転職率の増加が顕著であることが特徴として挙げられ、新型コロナウイルスの影響下で転職活動をしている人が多かったのではないかと推察される。2021年以降は高水準を保つ形で推移している。【図4】
20代の転職理由
2023年に転職した20代の転職理由でもっとも多かったのは「仕事内容に不満があった」だった。次いで「給与が低かった」「休日や残業時間などの待遇に不満があった」が続く。【図5】
全体と比べると「休日や残業時間などの待遇に不満があった」が若干高くなっている。私生活を重視したい、ワークライフバランスを整えたいなどのニーズが他の年代よりも高い可能性がある。
30代の転職率と転職理由
30代の転職率推移
2023年における30代の転職率は9.8%だった。他の年代と比べると、2020年から2023年にかけて緩やかに増加を続けており、2023年は過去最高値となった。【図6】
30代の転職理由
2023年に転職した30代の転職理由でもっとも多かったのは「給与が低かった」だった。次いで「会社の将来性、安定性に不安があった」「仕事内容に不満があった」が続く。【図7】
全体と比べると30代は「給与が低かった」が高い傾向にある。30代は20代に比べて配偶者や扶養家族がいる割合が高いため(※4)、生活環境の変化によって給与の重要性が高まったという人が多いのではないかと考えられる。
(※4)
40代の転職率と転職理由
40代の転職率推移
2023年における40代の転職率は5.6%だった。転職率は2020年から2022年にかけて緩やかに増加しており、2023年は過去最高値となった2022年と同数値で推移している。【図8】
40代の転職理由
2023年に転職した40代の転職理由でもっとも多かったのは「仕事内容に不満があった」。次いで「給与が低かった」「会社の将来性、安定性に不安があった」が続く。【図9】
40代は「仕事内容に不満があった」が転職理由のトップとなった。「給与が低かった」も上位ではあったが、30代とは異なる傾向が見られた。全体と比べると「身に付けたスキルを活かす仕事がしたかった」が高い傾向にあり、経験を活かして仕事内容を異なるものにしたいと考えて転職した人が多かったのではないかと推察する。
50代の転職率と転職理由
50代の転職率推移
2023年における50代の転職率は3.4%だった。転職率は2020年から2021年にかけて増加しているが、新型コロナウイルス影響前の2019年の水準には達していない。2021年以降ほぼ同数値で推移している。【図6】
50代の転職理由
2023年に転職した50代の転職理由でもっとも多かったのは「職場の人間関係が悪かった」だった。次いで「仕事内容に不満があった」「会社の将来性、安定性に不安があった」が続く。【図9】
50代の転職理由トップの「職場の人間関係が悪かった」は全体と比べて10pt以上高く、顕著な差が見られている。全体の転職理由トップだった「給与が低かった」の回答は、50代では5pt以上低く、他の年代とは異なる理由で転職をしている人が多い可能性がある。
50代では、昇進昇格がある程度結果として見えており、待遇面よりも人間関係など職場の居心地に重きを置く人が多い可能性がある。また終身雇用制度を前提として働いてきた人が多い世代であるため、転職することへの意識の違いが出ているのではないかと推察する。
まとめ
転職率は過去最高水準であり、人材の流動化が進んでいる。特に20代・30代・40代では新型コロナウイルスの影響前よりも転職率が高まっていることがわかった。転職がすべての問題を解決するわけではないが、労働者が自らの働く環境を選択できる時代になったことは、個々のキャリアにとって重要な意味を持つだろう。
転職理由として「給与の低さ」がもっとも多く挙げられる中で、30代の「子育て世代」においてこの傾向が特に強いことに注視する必要がある。彼らは家族を支える責任と生活の質を求め、より良い労働条件を探求している。賃上げをはじめとした物価高騰への対応は今後も重要視されるだろう。
また各年代によって転職理由には違いがあった。年齢に関わらず、自分の立ち位置を見直し、キャリアの再構築を考えることは、今後の働き方において重要なステップとなるだろう。この流れは、個人の成長だけでなく、社会全体の労働環境の改善にも寄与すると考えられる。
キャリアリサーチラボ研究員 朝比奈 あかり