マイナビ キャリアリサーチLab

「リスキリングで年収アップ」は本当にするのか【2023年最新調査から考察】

朝比奈あかり
著者
キャリアリサーチLab研究員
AKARI ASAHINA

AI 等の技術革新が世界的に速いスピードで進み、産業構造が変化し続けていることを背景に、昨今リスキリングの重要性が高まっている。政府は「人への投資」のため、リスキリングを進める個人や企業へ補助を行っており、今後も拡充が予想される。

しかし労力をかけてリスキリングを行うメリットはあるのか検討している人も少なくないのではないだろうか。今回のコラムでは、実際にリスキリングしている人としていない人の違いについて、“年収”という観点で比較をしていきたい。

リスキリングとは

まずは「リスキリング」とは何か説明する。リスキリングとは学び直しを指す言葉で、ビジネスモデルの変化や技術革新への対応を目的に、必要なスキル、知識を学習することを意味する。自主的に職務を離れ、大学などの教育機関で知識を獲得するリカレント教育とは異なり、企業側が従業員に対して、教育を実施することを主軸に置いている。

「リスキリング経験者」の定義

本コラムでは、転職動向調査2023年版(2022年実績)の結果を用いてまとめた。この調査は2022年に転職を行った正社員を対象としている。
「リスキリング経験あり」の定義は、対象者のうち「経験・希望している職種で今後必要になりそうな能力に対して、ひとつでもリスキリング経験がある人」となっている。ある程度知識のある職種について回答してもらうことで、信頼性のある数値を取得できるように考慮した。

リスキリングと年収

リスキリング経験率

リスキリングの経験がある人は約半数の49.1%となっている。【図1】
知識のある職種について、今後必要になりそうな能力を具体的に挙げられる人は、2人に1人がリスキリングを行っているようだ。

【図1】2022年に転職した正社員1,500名のリスキリング経験率

2022年に転職した正社員1,500名のリスキリング経験率/マイナビ「転職動向調査2023年版(2022年実績)」

リスキリング経験者の年収

「全体」「リスキリング経験あり」「リスキリング経験なし」それぞれの年収分布をみる。リスキリング経験ありの年収分布はなだらかで、「450~499万円」以降で、全体・経験なしをともに上回っている。【図2】

ウエイトをかけた平均年収額を算出すると、全体では478.8万円、リスキリング経験ありでは558.9万円、リスキリング経験なしでは395.5万円となった。リスキリング経験あり・なしで比較をすると、163.4万円の差があることが分かった。【図3】

【図2】現在の年収(リスキリング経験有無別/回答数1,500)

現在の年収(リスキリング経験有無別/回答数1,500)/マイナビ「転職動向調査2023年版(2022年実績)」

【図3】現在の年収(ウエイト平均値)

現在の年収(ウエイト平均値)/マイナビ「転職動向調査2023年版(2022年実績)」

大きな枠組みでは「リスキリング経験者」の方が、経験のない人より年収が高い傾向にあることが分かったが、もっと細かな区分でも同様の年収差が出てくるのだろうか。転職内容、性年代、業種、職種に分けて比較していきたい。

転職の仕方からみるリスキリング経験者の年収

転職前後の年収差

リスキリング経験の有無別に転職前後の年収を比較した。
「リスキリング経験あり」は転職前の年収が平均531.6万円、転職後は平均558.9万円で、+27.3万円となった。
「リスキリング経験なし」は転職前の年収が平均384.9万円、転職後は平均395.5万円で+10.6万円。ともに年収は上昇しているものの、年収差はさらに大きくなっている。【図4】

【図4】リスキリング経験の有無と転職前後の平均年収

リスキリング経験の有無と転職前後の平均年収/マイナビ「転職動向調査2023年版(2022年実績)」

経験・未経験転職の比率

業種や職種の経験を活かして転職をしているか、未経験の分野への転職をしているか、リスキリング経験有無別に比較を行う。
「リスキリング経験あり」は、経験なしと比較して、業種・職種両方の経験を活かした転職を行った割合が5pt以上低かった。【図5】

【図5】リスキリング経験有無別の経験・未経験転職率

リスキリング経験有無別の経験・未経験転職率/マイナビ「転職動向調査2023年版(2022年実績)」

リスキリング経験者は、業種・職種いずれか、または両方を変える転職を行う傾向がやや高かったようだ。

経験・未経験転職ごとの年収差

転職前後の業種と職種の変化について、「業種・職種共に同一」「業種異なる・職種同一」「業種同一・職種異なる」「業種・職種共に異なる」の4区分それぞれで、リスキリング経験によって年収に差は生まれたかをみていく。
「リスキリング経験あり」は、経験なしと比べて4区分の転職前・転職後すべての平均年収が100万円以上高い。転職前後の金額変化についてもすべての区分で増加しており、「業種・職種共に同一」が+35.8万円ともっとも高かった。
「リスキリング経験なし」の転職前後の金額変化については、「業種同一・職種異なる」が+16.3万円でもっとも高かったが、この増加額は「リスキリング経験あり」のもっとも低い増加額を下回っている。また「業種異なる・職種同一」では転職後の平均年収が転職前より減少している。【図6】
平均年収の金額、転職後の増加金額共に「リスキリング経験あり」が高い結果となった。

【図6】転職前後の業種・職種の変化別平均年収

転職前後の業種・職種の変化別平均年収/マイナビ「転職動向調査2023年版(2022年実績)」

性年代別にみるリスキリング経験者の年収

性年代の比率

次に、リスキリング経験の有無別に性年代の比率をみていく。
「リスキリング経験あり」は男性計75.4%、女性計24.6%だった。もっとも多かった性年代は男性30代で27.3%、次いで男性20代で23.9%となっている。
「リスキリング経験なし」は男性計57.7%、女性計42.3%。もっとも多かった性年代は男性30代で19.5%、次いで女性20代で18.7%だった。【図7】

【図7】リスキリング経験有無別の性年代比率

リスキリング経験有無別の性年代比率/マイナビ「転職動向調査2023年版(2022年実績)」

「リスキリング経験あり」は、経験なしに比べて年収が高い傾向にある男性が多く含まれており、平均年収にも影響が出ているのではないかと考えられる。

性年代別にみた現在の平均年収

そこで、リスキリング経験の有無別に性年代の平均年収を比較してみてみると、男女20~50代の8区分すべてで「リスキリング経験あり」が経験なしを上回っており、特に差が出たのは、女性30代で差額175.9万円、次いで男性30代で差額175.1万円だった。
男女を比較すると、女性20代はリスキリングの経験有無による年収の差額が67.8万円で、男性20代の差額の約半分だった。女性20代は男性20代と比べるとリスキリングによる年収の差が少ないようだ。30~50代については、男女のリスキリング経験による年収の差額に大きな隔たりはみられなかった。【図8】

性年代の比率では、「リスキリング経験あり」の方が年収が高い傾向にある男性が多かったため、その影響が強いことが懸念されたが、性年代で分けて平均年収を比較した場合でも「リスキリング経験あり」の年収の高さが目立った。

【図8】性年代別の平均年収

性年代別の平均年収/マイナビ「転職動向調査2023年版(2022年実績)」

業種別にみるリスキリング経験者の年収

業種の比率

リスキリング経験の有無別に業種の比率をみていく。
「リスキリング経験あり」は「メーカー」の比率がもっとも高く28.1%、次いで「医療・福祉・介護」で13.8%だった。
「リスキリング経験なし」は「医療・福祉・介護」がもっとも高く23.6%、次いで「メーカー」が11.8%だった。【図9】

【図9】リスキリング経験有無別の業種比率(回答数1,500)

リスキリング経験有無別の業種比率/マイナビ「転職動向調査2023年版(2022年実績)」

業種別にみた現在の平均年収

リスキリング経験の有無別に各業種の平均年収を比較していく。
平均年収をみると、全業種で「リスキリング経験あり」が経験なしを上回っている。サンプル数が30以下のデータを除いて、リスキリング経験の有無で年収にもっとも差が出たのは「メーカー」で差額204.4万円、次いで「不動産・建設・設備・住宅関連」で157.1万円だった。【図10】
「リスキリング経験なし」に多かった「医療・福祉・介護」は年収の低さが問題視されることが多く、実際に他業種と比べても年収は低い傾向にある。しかしリスキリング経験有無別にみると年収には100万円以上の差があった。このように業種で区分して平均年収を比較した場合でも「リスキリング経験あり」の年収の高さが目立った。

【図10】業種別の平均年収

業種別の平均年収/マイナビ「転職動向調査2023年版(2022年実績)」

職種別にみるリスキリング経験者の年収

職種の比率

リスキリング経験の有無別に職種の比率をみていく。
「リスキリング経験あり」は「サービス職」の比率がもっとも高く28.4%、次いで「企画・経営・管理・事務」で28.0%だった。
「リスキリング経験なし」においても「サービス職」がもっとも高く27.9%、次いで「企画・経営・管理・事務」が26.9%となった。
上位職種は同様だったが、「リスキリング経験あり」は「クリエイター・エンジニア」が5pt高く、「リスキリング経験なし」は「技能工・建築・土木」が5pt以上高かった。【図11】

【図11】リスキリング経験有無別の職種比率(回答数1,500)

リスキリング経験有無別の職種比率/マイナビ「転職動向調査2023年版(2022年実績)」

職種別にみた現在の平均年収

リスキリング経験の有無別に各職種の平均年収を比較していく。
平均年収をみると、全職種で「リスキリング経験あり」が経験なしを上回っている。リスキリング経験の有無で年収にもっとも差が出たのは「企画・経営・管理・事務」で差額205.5万円、次いで「コンサルタント・専門職」で157.0万円だった。【図10】
職種で平均年収を比べても「リスキリング経験あり」の年収の高さが目立つ結果となった。

【図12】職種別の平均年収

職種別の平均年収/マイナビ「転職動向調査2023年版(2022年実績)」

さいごに

今回のコラムでは、リスキリングしている人としていない人の違いについて、「年収」の観点から考察してきた。
具体的には、「リスキリング経験なし」には年収が比較的低いとされる性年代、業種が多く含まれており、平均年収にも影響が出ていると考えられた。しかしそれぞれの区分で年収を比較した場合でも、「リスキリング経験あり」の年収は70~200万円程度高いことが明らかになった。したがって、リスキリングをしている人は、していない人に比べて年収が高い傾向にあると言えるであろう。

リスキリングを行えば必ず年収が上がるわけでないが、一部の企業は資格取得に対して報奨金を出しているところもあり、年収増加につながりやすいと考えられる。また、リスキリングを行おうとする自主的な姿勢が間接的に年収増加につながっている可能性もあるだろう。さらに、取得した新しいスキルは、現在の仕事に好影響を与えるだけでなく、転職や副業にも役立つ。将来のキャリアのために自分の自由な時間を少しだけでも投資することは、非常に意義のあることである。
政府は無料講座の提供など通じで、さまざまなスキルを習得できる機会を提供している。興味のある方はぜひ一度調べてみるとよいだろう。

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