マイナビ キャリアリサーチLab

初年度年収にみる近年の提示額変化~もっとも年収の高い業界・職種とは~

栗田 卓也
著者
キャリアリサーチLab所長
TAKUYA KURITA

転職者への初年度年収とは

長引くコロナ禍においても堅調に回復傾向にある国内の転職市場。今回は売り手市場の様相を呈している状況下で、転職者への提示金額がどのように推移しているかをマイナビ転職のデータ分析を中心に紹介していく。マイナビ転職では、初年度のモデル年収を求人ごとに400万~550万円といった形で各企業が求職者に幅をもって提示している。「マイナビ正社員初年度年収レポート」では、提示されている下限と上限の中間の値(先の例でいえば475万円)を平均値とし、調査分析を行っており、今回はそのデータの年次推移を中心に紹介してみたい。
※初年度年収は入社後向こう1年間に支給される予定の金額で、基本給に諸手当と前年度の標準的な賞与額を加えたもの。諸手当には採用対象者に一律支給される予定の固定手当、平均残業時間を基準とした時間外勤務手当を含む。歩合給やインセンティブは含まない。

初年度年収は増加傾向

まず全体傾向をみていくと、求職者に提示される初年度年収は増加傾向にある。中央にある折れ線グラフの数字が各年度の平均初年度年収となっており、コロナの影響を受けていない2018年平均の428.2万円から、コロナ禍の2021年平均では453.2万円と、25.0万円増加している。
転職市場では職務経験やスキルを有する経験者への提示金額の方が高くなる傾向があることから、その差を明らかにするためにマイナビ転職の「未経験者歓迎フラグ」を活用し、経験者求人と未経験者求人に分類して比較した結果を棒グラフで示している。各々の平均推移をみると、経験者・未経験者どちらも3年連続で前年を上回って推移していることから、求職者に提示される額は年々上昇していることが改めて分かる。また、全体の掲載案件数に占める経験者求人の割合も確認してみたところ、2019年では24.0%だったが2020年では33.8%と10%ほど上昇しており、コロナ蔓延以降は経験者を優先して採用する傾向が強まったことも分かった。その影響もあり、全体の平均値が2019年から2020年にかけて12.9万円上昇している。(経験者求人差分:10.5万円、未経験者求人差分:2.3万円)このように上昇傾向を示している初年度年収を業界や職種といった詳細の分析も含めて検証していく。【図1】

条件別平均初年度年収の推移の割合/マイナビ正社員の平均初年度年収推移レポート(2022年3月)
【図1】<全国>募集条件別平均初年度年収推移
出所:「マイナビ正社員の平均初年度年収推移レポート(2022年3月)」

業界別の初年度年収でもっとも高いのは「コンサルティング」業界

ではここから直近の2021年平均を業界別の内訳をみながら、2018年平均と傾向を比較してみたい。2021年平均でもっとも高い年収は「コンサルティング」業界で514.5万円。続いて「IT・通信・インターネット」業界の504.7万円、「金融・保険」業界の494.0万円となっている。「IT・通信・インターネット」業界は以前から経験者採用の割合が高く2018年で40.3%だったが、コロナ禍で19.9pt増の60.2%と、スキルや経験を前提に高い金額提示をしていることが分かる。「金融・保険」業界なども経験者採用割合を22.7%から15.8pt増の38.5%まで高めている。「金融・保険」業界の掲載案件を職種別の内訳でみると、掲載案件に占める「ITエンジニア」職種の割合が2018年の4.5%から2021年では11.0%と増加し、初年度年収でも667.0万円、経験者求人割合90.2%となっており、近年のフィンテックに注力する「金融・保険」業界の採用戦略が鮮明に表れる結果となっている。

初年度年収が一番低いのは「公的機関・その他」業界で397.4万円と、トップの「コンサルティング」業界とは100万円以上の差がある。「運輸・交通・物流・倉庫」業界や「サービス・レジャー」業界などは経験者採用割合があまり増えず、初年度年収の差も低いままとなっていることから、売り手市場で採用が難しい状況下で、異業種からも幅広く人材を受け入れ、採用数を確保したいという姿勢がみられる。

いずれの業界においても初年度年収の提示額は経験者求人割合の増加にある程度比例しながら、増えていることが改めて示されている。【図2】

業種別初年度年収及び経験者求人割合/マイナビ正社員求人の平均初年度年収推移レポート(2022年3月)
【図2】業種別初年度年収及び経験者求人割合
出所:「マイナビ正社員求人の平均初年度年収推移レポート(2022年3月)より独自に作成」

職種別初年度年収でもっとも高いのは「コンサルタント・金融・不動産専門職」

同じように職種別の初年度年収を2021年と2018年で比較してみたい。2021年平均でもっとも高かったのは「コンサルタント・金融・不動産専門」職で、初年度年収555.4万円、経験者求人割合44.8%となっている。続いて、「ITエンジニア」職が初年度年収536.9万円で、経験者求人割合はもっとも高い72.2%。3番目に「建築・土木」職が初年度年収503.1万円、経験者求人割合50.9%、続いて「企画・経営」職が初年度年収490.8万円、経験者求人割合50.0%と、初年度年収が高い職種は経験者求人割合が高い傾向にある。また、掲載案件の2割を占める「営業」職は未経験者求人を中心に、初年度年収459.5万円、経験者求人割合25.7%となっている。【図3】

 職種別初年度年収及び経験者求人割合/マイナビ正社員求人の平均初年度年収推移レポート(2022年3月)より独自に作成
【図3】 職種別初年度年収及び経験者求人割合
出所:「マイナビ正社員求人の平均初年度年収推移レポート(2022年3月)より独自に作成」

業界別で掲載案件数を比較すると各業界で「ITエンジニア」職の案件が増加傾向

業界と職種で各々の平均初年度年収を紹介したが、今度は掲載案件数をベースに、業界ごとにどのような職種の掲載案件が増加しているのかを比較し、需要の変化を把握してみたい。下の図は2018年と2021年各々の業界別掲載案件数を100として、各業界における職種別の比率を求め、その差分を示したものになる。たとえば前述の「金融・保険」業界では2018年の4.5%から2021年では11.0%と差分が6.5pt増となっていることを示している。

2018年と2021年の比較において、全体的に増加率が高かったのは「建築・土木」職で3.3pt増となっているが、これは主に建設業界において、現場で活躍する「施工管理・設備・環境保全」職や、「設計・積算・測量・構造解析」職の掲載案件が増加した影響が大きい。

続いて「ITエンジニア」職が2.6pt増となっており、「公的機関・その他」や「コンサルティング」以外の業界ですべて増加傾向にある。その職種内訳をみてみると、「テクニカルサポート・監視・運用・保守」が2018年比で4.7pt増加、「社内システム」が2018年比で4.1pt増加しており、コロナ禍で自社のインフラ整備やネットワーク構築需要が高まっていたことが分かる。また「サービス・レジャー」や「マスコミ・広告・デザイン」「運輸・交通・物流・倉庫」は営業職の掲載が増加しており、販売力強化に積極的な姿勢が感じられるなど、業界ごとの特徴もみられた。【図4】

2018年と2021年の業界別掲載案件数の差分のグラフ/マイナビ正社員求人の平均初年度年収推移レポート(2022年3月)より独自に作成
【図4】 2018年と2021年の業界別掲載案件数の差分
出所:「マイナビ正社員求人の平均初年度年収推移レポート(2022年3月)より独自に作成」

まとめ

今回はマイナビの初年度年収レポートデータを中心に、業界別・職種別の初年度年収や掲載案件数の比率比較を紹介した。改めて業界・職種ごとに変化がみられ、経験者求人割合の増加に伴い、初年度年収の提示額が増加傾向にあることがお分かりいただけたと思う。人事担当者にしてみると、初年度年収の提示額を再検討していかないと、採用しづらい状況が今後もしばらく続きそうだ。提示の際には毎月リリースしている「マイナビ求人の平均初年度年収推移レポート」を参照いただきたい。

また各業界がこぞって「ITエンジニア」職の採用を強化する動きもあり、コロナ禍の特殊需要増の傾向も確認出来た。

こちらも今後しばらくは、リモートワークの環境整備やDX推進といった働き方改革の流れや、サービス提供のために、初年度年収は高騰していくことが予想される。最近は社内の人材育成も含めて、人材を確保しようとする動きもみられることから、研修制度の充実や新たなスペシャリスト育成プログラムの需要なども高まりそうだ。
初年度年収の動向については、またしばらく数字の経過を見ながら、定期的に報告してみたい。

キャリアリサーチLab所長 栗田 卓也

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