企業がこれからのシニアに求める能力と、ミドルシニアのリスキリング意向
目次
非正規雇用を中心としたシニア需要の増加
人生100年時代においては、定年退職後にいかに働くかは個人にとって重要であり、また人口減少社会でシニアにいかに働いてもらうかは企業にとっても重要な課題である。
採用業務の企業担当者を対象としたマイナビの非正規雇用の外国人・シニア採用に関する企業調査(2022年)では65歳以上のシニアの今後採用意向は伸び、6割を超えている(2020年59.2%→2021年61.3%→2022年63.2%)。
また、非意向者に対して聞いた採用をしたくない理由では「特に必要性を感じないため」の項目が減少しており(2020年32.1%→2021年32.4%→2022年27.8%)、採用意欲が無い場合であっても他に何らかの阻害要因があるだけで、潜在的なニーズは増加していると考えられる。
シニアニーズの中身は高度化している
長らく人口減少・高齢化が叫ばれている状況では、相対的にボリュームゾーンであるシニア層がいかに多く就労するかが人手不足解消のポイントのひとつであり、そういった人手不足解消の文脈でシニアの就労が語られることもある。
しかし先述の調査からシニアを採用したい理由を見てみると、確かに「人手不足の解消・改善に繋がるから」の項目が主ではあるが年々減少傾向にある (2020年58.1%→2021年53.4%→2022年50.3%)。
さらに別の設問項目を見ると、シニアに期待する事柄は多様化・高度化の傾向が見られた。シニアに期待する役割や能力を聞いた設問では、2021年調査では「職場に特有の専門知識・専門スキル」がもっとも高くまた2位以下を大きく引き離していたが、2022年調査では減少し、「第一線で現場社員として活躍するための知識・スキル」や「若手・中堅社員のロールモデルとなる」といった項目は前年比増加していた。【図1】
これらの結果から、職場に限定された知識・スキルを保有していることも大切だが、時に現役時と同様に第一線で活躍し、時に後進のモデルとなるようなシニア像を企業側がより期待するようになったと考えられる。
体力的・健康的な不安も
また能力面だけでなく、体力健康面でも企業側の要求は高まっているように見える。
シニア採用で感じた課題でもっとも大きいのは「体力・健康を維持できない」であり、他の項目と比べて15pt以上高い。【図2】
加齢により現役時と同じ体力・健康状態を保つのが難しくなるのは当然のことであり、雇用側もこういった特徴を考慮した取り組みが求められるが、シニア受け入れめの取り組みを確認すると、「体力に応じた仕事内容・仕事量」「短時間労働の導入」「残業なし」といった項目は徐々にではあるが減少しており、シニアであってもできれば現役時代と同じように働いて欲しい状況がうかがえる。【図3】
企業のニーズに対して労働者側の対応
職場特有の知識・スキルを持っているだけでなく、高齢であっても第一線で活躍したり、後進のモデルになったりといったことが求められるシニア像は、高齢化が進みながらも労働生産性を高め付加価値増大を目指さなければいけない現在の状況を考えても、今後の潮流となっていくのではないか。
こういった状況の中で、労働者はどのように対応しているだろうか?ここからは、今後シニアとなっていく現在の40~50代(ミドルシニア)の状況を確認していく。
第一線で活躍し続けられるような知識・スキルを得るには日々の仕事の他にも学習を怠らないことも肝要であろう。自己学習の観点で見ると、昨今話題に挙げられるのは「リスキリング(学び直し)」と呼ばれるものである。
ここではミドルシニアのリスキリングの状況を確認する。
ミドルシニアのリスキリングは企業ニーズを満たすか?
まず正社員の40~50代のリスキリング意向に関して中途採用定点調査を確認すると、学び直しの必要性を感じている人は7割以上であった。【図4】
またミドルシニア・シニアのアルバイト調査からは、アルバイト・パートの40~50代に関しても学び直し意向はおよそ半分であり、正規・非正規に関わらず大半のミドルシニアがリスキリング、学び直しの必要性を感じていた。【図5】
同様の調査の結果からリスキリング(学び直し)が必要な理由を確認する。中途採用定点調査ではリスキリングが必要な理由は「仕事の幅を広げたい」が主で「現在の仕事に活かしたい」の項目の割合は相対的に低かった。【図6】
アルバイト調査であっても同様に「現在の仕事に活かしたい」の割合は少なく、もっとも高い項目は「収入を増やしたい」であった。【図7】
以上の結果からミドルシニア層は学び直しの意向は高いが、その目的としては仕事の幅を広げることや、収入のアップが多数を占め、現在の仕事をより良くするような方向性は比較的少ないことが分かった。
現在注目されている「リスキリング」は、急激に進歩しているIT技術への適応といった意味合いが強く、仕事の幅を広げるといったことも大半はIT分野の技術を取り入れることを指すことが推察される。
仕事の幅を広げることや新技術へ対応することは重要なことであるが、これからはシニアであっても第一線で活躍することを期待されるかもしれず、新しい分野でそのような水準になるにはかなりの労力が必要であろう。
今の仕事の質を高めたり、より専門性を高めたりするという方向性も重要になってくるであろう。
40-50代では運動習慣が少なくなりがち?
企業がシニアに対して求めるもう1点の課題は体力・健康面での問題であった。
現時点では弊社調査で関連項目の聴取は行っていないため、公的統計資料を用いてミドルシニア層の運動状況を簡単に確認する。
スポーツ庁の調査の中から運動習慣と運動不足感を確認すると、30代に加え40・50代のミドルシニアは比較的運動習慣が少なく、【図8】また運動不足感を実感しやすい層であるようである。【図9】
30~50代は仕事における役割も大きくなり、またこの年齢であるとライフステージも多様になってくるので、運動以外に割く時間が増えるだろう。さらに加齢による体力の衰えも実感し始めている頃だろう。
企業がシニアに対しても体力・健康を求めている中、早め早めから運動習慣を身につけておくことも重要かもしれない。
まとめ
人口減少が続く中で、シニアに期待される役割や能力は単に人手不足の解消に留まらない。シニアであっても第一線で活躍することや、シニアだからこそ若手や中堅社員のモデルとなって培った経験や技術を伝えることがこれまで以上に期待されていくだろう。
そのような中で、現在の仕事と異なる観点を与えるリスキリングという考え方だけでは、既存の技術を深化・熟練させるという方向性には向かない可能性がある。
また、なるべく現役時代と同じ内容・長時間の労働が期待されるかもしれない状況では、能力面だけでなく体力・健康状態も充実していることが期待される。
今回ミドルシニア(40・50代)のリスキリングに関するデータを確認したが、ミドルシニアはキャリアの中盤から終盤に差し掛かる頃である。今後はシニアであってもできるだけ能力面・体力面ともに現役時代と遜色ないような状態が求められるならば、どのような技術・分野に力を入れるかの判断は重要である。
もちろん、今後人手不足が深刻化する社会においては現状のままでも活躍の場は用意されているだろうが、人生100年時代においてより充実した人生と自らのキャリアオーナーシップを獲得するためにも、現在行っている・あるいは意向しているリスキリングや日々の習慣が20年先の仕事に繋がっているかという観点を持つことは、場合によっては若年層に劣らず必要になるであろう。
キャリアリサーチLab研究員 荒木 貴大