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雇用・労働キーワード~現役法務が注目テーマを解説④
「テレワーク廃止・強制出社は違法?」

キャリアリサーチLab編集部
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はじめに

コロナ禍において世界中に広く浸透したテレワークですが、某米国企業におけるテレワーク廃止が大きな話題となりました。それに追随するかのように、日本企業においてもテレワークを廃止し、出社に戻す動きが加速しています。

テレワークには出社にかかる身体的・時間的負担の減少や、家族との時間が増えた等の従業員側のメリットだけではなく、オフィスの維持費や交通費の削減等といった雇い主である企業側にも多くのメリットがあります。

それにもかかわらずテレワーク廃止の動きが加速しているのは、一体なぜなのでしょうか。また、瞬く間に1つの就業スタイルとして広まったテレワークを雇い主の一存で廃止してしまうことに法律的に問題はないのでしょうか。

この記事では「テレワーク」に関する基本的な内容を説明すると同時に、「テレワーク廃止」の決定にはどのような点に注意が必要であるかを解説していきます。

テレワークとは?

テレワークとは?

「テレワーク」という言葉が、実は造語であることはご存知でしたでしょうか。

厚生労働省「テレワーク導入のための労務管理等Q &A集」によると、テレワークとは「テレ(Tele)/離れたところで」と、「ワーク(Work)/働く」をあわせた造語であり、『ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方』と定義されています。

また、テレワークは働く場所によって、「在宅勤務(自宅)」や「モバイルワーク(移動中車内やカフェ等)、「サテライトオフィス勤務(所属するオフィスとは別のオフィスやコワーキングスペース)」といった呼び方もされているようです。

なお、この記事ではそれらをひとまとめにして、「テレワーク」と記載します。

参考文献:厚生労働省「テレワーク導入のためのQ &A」2頁

テレワークの効果(メリット)・意義とは?

では、テレワークにはどういった効果(メリット)や意義があるのでしょうか。広く認識されているものとしては、次のようなものが挙げられます。

  1. 不要・不急の打ち合わせや来客等などによる中断が入らないことから、業務に集中できる
  2. 自律的に業務に取り組めるため、従業員の創造性が発揮される
  3. モバイルワークでは、移動中の時間を有効活用できるため、訪問できる取引先の数や1つの取引先に滞在できる時間が増える

また、総務省の「テレワークの意義・効果」によれば、以下のような効果(メリット)・意義もあるとされています。

参考文献:総務省「テレワークの意義・効果」

少子高齢化対策の推進

  • 人口構造の急激な変化の中で、個々人の働く意欲に応え、その能力を遺憾なく発揮し活躍できる環境の実現に寄与
  • 女性・高齢者・障がい者等の就業機会の拡大
  • 「出産・育児・介護」と「仕事」の二者選択を迫る状況を緩和
  • 労働力人口の減少のカバーに寄与

ワーク・ライフ・バランスの実現

  • 家族と過ごす時間、自己啓発などの時間増加
  • 家族が安心して子供を育てられる環境の実現

地域活性化の推進

  • UJIターン・二地域居住や地域での企業等を通じた地域活性化

環境負荷軽減

  • 交通代替によるCO2の削減等、地球温暖化防止への寄与

有能・多様な人材の確保生産性の向上

  • 柔軟な働き方の実現により、有能・多様な人材の確保と流出防止、能力の活用が可能に

営業効率の向上・顧客満足度の向上

  • 顧客訪問回数や顧客滞在時間の増加
  • 迅速、機敏な顧客対応の実現

コスト削減

  • スペースや紙などオフィスコストの削減と通勤・移動時間や交通費の削減等

非常災害時の事業継続

  • オフィスの分散化による、災害時等の迅速な対応
  • 新型インフルエンザ等への対応

なぜテレワークを廃止するの?

従業員だけでなく、雇い主である企業にもメリットが多いとされるテレワークですが、廃止を検討する企業が増えているのはなぜでしょうか?

一度テレワークを導入したものの、廃止を検討している企業においては、以下のような問題が生じているようです。

テレワークの環境を整備しきれなかった

テレワークの導入には、従業員へのパソコン支給やセキュリティ対策の整備を行う必要があります。それと同時に、従来使用してきた紙の書類の電子化や、オンライン上での情報交換といった社内体制の準備も不可欠です。

クリアすべき課題が多いにもかかわらず、テレワーク導入の気持ちばかりが先走ってしまい、いつまでたっても実態が追いつかないことから、結果としてテレワークの導入を断念するといったことも起きているようです。

・業務管理が難しく、コミュニケーション不足に陥りやすい

テレワークでは従業員の勤務状況の把握が難しく、把握のためにはこまめに進捗報告を求める必要があります。ただ、過度な進捗確認にはストレスを感じる従業員も少なくないようです。

また、当然ながら、出社を行わないことで社員同士の交流は激減し、業務中における指導やアドバイス、フォローの機会も減ることとなります。それらを補うために、社員教育やフォロー体制を新たに構築する必要がありますが、そこに時間を割く余裕がないといった実態もあるようです。

・情報漏洩リスクが高まる

自宅やオフィス外での勤務においては、業務に関する情報管理を従業員に任せることになり、必然的に情報漏洩リスクは高まります。

そのため、従業員の危機意識を高めるための教育にも時間を割く必要が生じてくるのですが、リスクを懸念して、制度自体を取り止めるとの判断もなされているようです。

テレワークを廃止するには?

テレワークを廃止するには?

では、実際にテレワークを廃止する場合、どのように進めるのが適切でしょうか。

現在のところ、労働関係を規定する法律において、テレワークに関する具体的な規定を設けているものはありません。つまり、テレワークを廃止することが、これら法規との関係で直接問題になることはありません。

一方、テレワークを制度として就業規則に規定した場合、または就業規則を変更せずに雇用主からの業務命令によってテレワークが実施された場合などは、就業規則や業務命令変更の限界に関する問題となります。

テレワークを制度として就業規則に規定した場合

まず、テレワークの導入にあたり就業規則を変更して制度として盛り込んだ場合ですが、テレワークを廃止するためには、改めて就業規則を変更する必要があります。

そして、就業規則の変更に関しては、原則として雇用主が従業員と合意することなく就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件を従業員の不利益に変更することはできません(労働契約法第9条)。

しかし、例外として「(1)従業員に変更後の就業規則を周知させたこと」および「(2)就業規則の変更が従業員の受ける不利益の程度などを勘案して合理的なものであること」という要件を満たした場合は、従業員と合意することなく就業規則を変更することが可能となります(労働契約法第10条)。

まず、要件(1)については、従業員の過半数で組織する労働組合または従業員の過半数を代表する者の意見書を添付し、所轄の労働基準監督署に届出を行うとともに、従業員に周知する必要があります。

次に、要件(2)ですが、この合理性の判断にあたっては、個別具体的な事案に応じて「従業員の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」という労働契約法第10条が定める考慮要素を含め、就業規則の変更にかかわる諸事情が総合的に考慮され判断されることになります。

たとえば、機器やネットワーク等の整備が進まず情報漏洩のリスクがある場合や、社員の労務管理が難しい場合、または建設業や小売業等、対面での業務が必要というような場合は、労働条件の変更の必要性という点から、就業規則を変更してテレワークを廃することも合理的だと判断され得ると考えます。

これに対して、たとえば生産性の低下のみを理由として一律にテレワークを廃止した場合は、従業員の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性という点から、不合理と判断される可能性があります。

参考文献:厚生労働省 パンフレット「労働契約法のあらまし」(令和3年改訂版) 15頁「就業規則による労働契約の内容の変更」

就業規則を変更せずに雇用主からの業務命令によってテレワークが実施された場合

次に、就業規則を変更せずに雇用主からの業務命令によってテレワークが実施された場合ですが、雇用主が従業員に対して就業場所を出社に切り替えるよう命令することは、雇用主の指揮命令権の範囲内として、広く認められると考えられる可能性があります。

つまり、コロナ禍において雇用主が業務命令としてテレワークを命じた場合、従業員の感染防止を目的とした緊急・一時的な措置と考えられるため、雇用主が感染縮小後に従業員に対して出社に切り替えるよう命令することも、当然に雇用主の指揮命令権の範囲内とみなされる可能性が高いということです。

参考文献:厚生労働省「テレワークモデル就業規則」

まとめ

テレワークは、新型コロナウイルス感染症の流行とともに、多くの企業が導入を開始し、今や当たり前の就業形態になりつつあります。

そのため、今更出社勤務には戻れないと考えるビジネスパーソンも少なくはなく、就職や転職の場面においても、求人を出している企業がテレワークを導入しているか否かは、求職者が企業選択を行うにあたっての重要なポイントとなっています。

そのため、テレワーク導入の有無は有能な人材の確保にも大きな影響を及ぼす可能性があるとの指摘もなされています。生産性の低下等の理由によって、企業がテレワークを縮小・廃止する方向に動いた場合、他の企業へ転職するといった自主退職者の急増も懸念されるようになっています。

企業としては安易にテレワーク廃止の流れに追随するのではなく、出社勤務・テレワークそれぞれのメリット・デメリットを検討し、従業員が柔軟な働き方を行えるように環境を整えていく必要があるのではないでしょうか。

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