インターンシップにおける効果的なフィードバック
インターンシップは「就業体験」の場であり、学生が社会人になったつもりで仕事をし、将来のキャリアについて考える場だ。学生が日ごろ接している周りの同級生、教授、あるいは家族ではなく、初めて会う社会人に仕事を教わり実際に取り組むというのは緊張するであろう。筆者が今回取り上げるのは、インターンシップでのフィードバックだ。フィードバックとは、参加学生の立ち振る舞い、プログラムへの取り組み姿勢、成果などへの評価を担当社員が学生に伝えることを指す。今回はどのようなフィードバックが効果的であるか、学生の声をもとに考察していく。
フィードバック実施の実情
コロナウイルスの影響により、22年卒からWEBでもインターンシップが実施されるようになった。23年卒では約8割がWEBでの開催だ。【図1】フィードバックの実施について、8月に実施した調査では、WEBで78.2%、対面で72.4%の割合でフィードバックがあったようだ。さらに、参加者全体に対するフィードバック、グループに対するフィードバック、個人に対するフィードバックに分類しているが、学生が求める“個人へのフィードバック”【図2】の実施率は対面でのインターンシップの方が4.0pt高かった。【図3】
企業が学生にフィードバックするには、参加中の学生の様子をつぶさに観察することが欠かせない。その点、半日や1日の短期プログラムで学生一人ひとりに的確なアドバイスをするのは難しく、長期プログラムであるほど学生の特長・適性が見えやすいと言える。
学生に聞いた「印象的だったフィードバック」
「マイナビ2023年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(8月)」で、「特に印象的だったフィードバック」を自由記述で学生から回答を集めた(1,964件)。
最も多かったのが、インターンシップへの取り組み姿勢やグループワークでの発表について、社会人に褒められたことが嬉しく、自信につながったというものだ。自分が社会に出て通用しそうだという気持ちは、その後の仕事選びにおいても重要な糧となるだろう。
また、初対面の社会人から「あなたには○○な印象を抱いた」「○○な性格は仕事をする際こんな風に役立つ」など、しっかりと見てくれた上での言葉をもらうというのもインパクトが強いようだ。なかでも「自分では気づいていなかった特長」についての言葉は、1人で行う自己分析ではたどり着けないものであるため貴重だと言えよう。
続いてフィードバックを通じて学びがあったというものだが、これは上記の「褒められる」「長所を教えてもらう」とは反対に「改善点」を教えてもらうことで至る心境のようだ。インターンシップに参加する大学生のタイミングというのは、まだまだ成長段階だ。今後自身が取り組むべき課題が明確になることで、意欲がわき、指針が見えるものだ。
学生に聞いた「残念だったフィードバック」
ここで注目したいのが「優しく褒めるばかりでなくダメ出しをしてほしかった」「お世辞は悪印象」という記載が複数あったことだ。向上心や目的意識の高い学生にとって、上辺の誉め言葉は逆効果になる。初対面の社会人が、学生である自分に向ける言葉について、学生は我々が想像するより敏感だ。もちろん辛口なコメントばかりを言うわけにもいかないが、彼・彼女が「もし自社の社会人1年目の後輩社員だったら」あるいは「こうすればより良くなる」というような視点でフィードバックをすることが、学生の学びに繋がると言えそうだ。
もう一つ残念だったものとして記載されていたのが「個人へのフィードバックが無かった」というものだ。例えば、「今日参加してくれた皆さんは…」「このグループのメンバーは…」だけでは「その中で“私”はどうだったか」について、学生は内省するほかなくなってしまう。せっかくの機会なのだから、自分が客観的にどう見えているのか、良い部分も改善点も知りたい、これが学生の思いの中心と言えよう。
個別フィードバックの代替手法
学生一人ひとりへのフィードバック難しいケースもあるかもしれない。そこで「初対面の人から自分がどう見えるか」「インターンシップ期間内で周りが感じた長所・短所」を学生に伝える他の手法として、グループワークをした学生同士でフィードバックをする時間を設けるというものが挙げられる(グループワークがプログラム内にあることが前提となってしまうが)。開始前に自己紹介ならびに参加にあたっての目標(例:傾聴力を発揮する)をグループ内で共有し、プログラム終了後に学生同士で互いの目標が達成できていたか、他に感じた長所や改善点など伝えあう。日ごろ接している友人ではなくインターンシップ先で出会った他大学の学生から貰う言葉というのも、社員からのフィードバックには劣るかもしれないが、自己分析に繋がり、役に立つ。個別のフィードバックが難しい場合の代替策として筆者がおすすめする手法である。
最後に
冒頭で記したように、昨年から広がったWEBでのインターンシップが今年も主流となっている。コロナ禍に置かれて早1年半以上が経ち、私たちの生活、コミュニケーションや価値観は少なからず変化しつづけている。未曽有の状況で誰しもが不安を抱える中、これから社会に出ようとしている学生にどんな言葉をかけよう。インターンシップの場にやって来る学生一人ひとりに向けた、一つの「肯定」と一つの「改善点」が、きっと希望になるに違いない。
キャリアリサーチLab研究員 長谷部香