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【2024年卒】新卒採用市場の動向をさぐる~企業の採用意欲UP!初任給の引き上げは?

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

2023年3月、本格的な春の訪れとともに2024卒大学生の就職活動が始まった。日銀によると日本経済の先行きについては「新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる」という見解が出されたように、徐々に見通しが明るくなりつつある。しかしながら、資源高や海外経済の下振れ、ウクライナ情勢などリスク要因もぬぐいきれておらず、景気回復を実感として感じられる程度ではないのも事実だ。しかし、2024年卒の新卒採用に関しては、企業側の採用意欲が大きく高まっている。

一方、就活生である2024年卒の大学生に目を向けると、現役・学部生であれば2020年4月というコロナ禍で世界中が混乱していた時期に入学し、その大学生活はもっともコロナ禍に影響を受けたと言える世代である。就職活動においては、売り手市場といわれるかもしれないが、コロナ禍で大学生活を過ごしてきたことがどのように影響するのか、その点は慎重に受け止める必要があるだろう。

本コラムでは、まず企業側の採用意欲の高まり、ならびにその背景や人材獲得競争のためにどのような施策がとられているのか、について解説する。そのうえで、2024年卒大学生の学生生活を振り返り、主に「ガクチカ」においてどのような影響があり、どのような配慮が必要なのかをお伝えしたい。

企業側の採用意欲の高まり~「前年より増やす」が文理ともに約3割~

まず、企業側の採用意欲の状況を確認する。企業の採用予定に対して直近4ヵ年の変化をみると、「前年から増やす」が24年卒でもっとも高く、文理ともに3割近くになった。【図1】これは採用予定数について前年との比較で回答してもらった結果なので、必ずしも採用予定人数(実数)が大きく増加しているとはいえないが、採用意欲が高まっていることは明白だろう。

マイナビ 2024年卒企業新卒採用予定調査
【図1】マイナビ 2024年卒企業新卒採用予定調査

ここで少し新卒採用の特徴をお伝えすると、そもそも、新卒採用自体は中途採用やアルバイト・パート採用と異なり、あまり景気の影響に敏感に反応するものではない。採用実施の理由をみていただくと、上位2項目は「組織の存続と強化(活性化)」「年齢など人員構成の適正化」となっているが、これは、新卒採用が今すぐ空いているポストを埋めるための採用ではなく、組織全体として最適な構成にし、運営していくための採用であり、数年後を見越して実施されていることを示すものと言えるだろう。【図2】そのため、新卒採用を毎年、定期的に行う企業はコロナ禍においても採用人数を減らしたということはあったかもしれないが、新卒採用自体は続ける場合が多かった。

ではなぜ、24年卒は採用意欲が特別に高まっていると言えるのだろうか。上位2項目ほど割合は高くないが、「経営状態の好転・既存事業の拡大」が前年からそれぞれ増加している点に注目してほしい。先述したように、景気が完全に回復したとは言い切れない状態だが、見通しは明るくなっている。そのため、景気が完全に回復したときにきちんと事業を行えるよう、今から採用を行い、戦力として育成しておきたいというニーズが高まったと考えられる。また「前年に新卒を採用できなかった」もやはり前年から増加しているが、このことから、毎年ではないが数年に1度くらいのペースで新卒採用を実施しているような企業が、やはり上記のような理由から24年卒は新卒採用を再開しようと考えたのではないかと推察される。

マイナビ 2024年卒企業新卒採用予定調査
【図2】マイナビ 2024年卒企業新卒採用予定調査

配属ガチャ対策、初任給の引き上げなど人材獲得のための施策導入も

先述したように企業側の採用意欲が大きく高まっている一方で、よく知られているとおり、日本の人口減少は進んでおり、特に若者世代の人口減少は深刻な問題となっている。そうなると当然起こるのが人材獲得競争の激化である。昨今、報道等でも伝えられているように、退職防止や求職者へのPRのために待遇改善を実施したり、検討したりする企業が増えているようだ。新卒採用においてもそうしたトレンドの影響が表れ始めている。

まず、配属ガチャ」対策として実施・検討されているのが「職種別コースの導入」「勤務地/地域限定採用」である。「すでに取り組んでいる」という回答はまだ4割に満たない状態ではあるが、「検討はしている」を含めると半数を超える状況だ。新卒採用はそもそも育成を前提にしていることもあり、社内で育成しつつ、適性を確認して配属を決めることが一般的だと考えられてきた。しかし、そうした新卒採用においても(初職配属の身という条件づきであるケースが多いが)配属先について大まかに決めた状態で採用を行うことが増えてきている。【図3】

マイナビ 2024年卒企業新卒採用予定調査
【図3】マイナビ 2024年卒企業新卒採用予定調査

次にあげるのは最近特に注目されている「初任給・基本給の引き上げ」だ。新卒採用を実施する企業に「初任給の引き上げ」について導入・検討状況を聞いたところ、時期を明確に決めて導入・改正を行ったり、検討を進めたりしている企業の割合は合計すると4割を超えていた。時期を明確に決めていない企業も含めると、8割近い企業がなんらかの対策が必要だと感じているという結果になった。この傾向は初任給に限らず、「基本給の引き上げ」でも同様にみられた。【図4,5】

マイナビ 2024年卒企業新卒採用予定調査
【図4】【図5】マイナビ 2024年卒企業新卒採用予定調査

給与改定については、先述した初職の配属に比べると、新卒入社者だけでなく従業員全体に関わることになるため、実施のハードルは高いと考えられる。しかし、人材獲得はもちろんのこと、今いる従業員の退職防止のためにも、多くの日本企業で待遇改善が検討されるということは増えていくだろう。この点については、以前から日本は特に海外と比べても平均賃金が停滞してきたことが問題視されており、一過性のトレンドというものではなく、長年積み残されてきた問題にようやく取り組み始めることができたとみることもでき、歓迎すべき流れといえるのではないだろうか。【図6】

「OECD.Stat 平均賃金比較データ」よりマイナビ作成
【図6】「OECD.Stat 平均賃金比較データ」よりマイナビ作成

2024年卒 大学生のガクチカ事情

さて、ここまで企業の採用意欲の高まりについて述べてきた。そういう意味では「売り手市場」と呼べる状況にあると思われる。しかし、24年卒の就職活動についてすべてを楽観的に考えられるかというとそうではない。ここからは視点を変えて、2024年卒の大学生がどのような学生生活を送ってきたのか、またコロナ禍の影響はどのように現れるのか、について考えていきたい。

まず、2024年卒学生が受けてきた大学の授業がどのような形式で行われてきたかを整理する。文科省が大学等に行った調査によると2020年4月の入学時期について「例年通り授業を実施」と回答したのはわずか2.3%で、通常の授業の開始時期の延期や、遠隔授業などを実施または検討中の大学等は、全体の9割以上だった。その翌年である2021年3月に実施された調査ではオンライン授業と併用しながら授業を行う大学が徐々に増え始め、2022年3月に実施された調査では、「すべて対面で実施する」とした大学が全体の半数以上となり、「7割以上を対面授業とする」を含めると95.8%となっていた。このように、入学から現在の3年生に至るまでの間で毎年状況が変化していったことがわかる。【図7】このように徐々に対面授業に切り替わり、22年卒、23年卒の学生に比べると大学へ通学する日数も増えていったことにより、「学業」における経験などはつめるようになったと思われる。【図8】

左「大学等における授業の実施方針等に関する調査の結果について(文部科学省)」よりマイナビ作成
右「マイナビ2024年卒 大学生のライフスタイル調査(2022年11~12月実施)」
【図7】左大学等における授業の実施方針等に関する調査の結果について(文部科学省)よりマイナビ作成
【図8】右マイナビ2024年卒 大学生のライフスタイル調査(2022年11~12月実施)

一方で、気になるのが「サークル・部活動に所属している割合」だ。24年卒では50.6%と、半数をようやく超える程度となっており、20年卒と比べると12.2pt減少している。【図9】先述したとおり、入学した2020年4月当初は入学式が実施されなかったり、入学時期が延期になったりして、春の風物詩である「新入生の勧誘」を行うことができなかった大学がほとんどではないだろうか。そして「サークル・部活動」に所属する機会を逃したまま、大学生活を送ることになった学生も多かったと推察される。

このような学生生活を送ってきた学生のガクチカの状況だが、「ガクチカとして話せるエピソードの数」を聞いたところ、「2個以上」と回答した学生は全体の64.4%で前年をやや上回っていた。【図10】一方で、ガクチカに関してあてはまるものを聞いたところ、前年からの増加幅がもっとも大きかった項目は対前年4.4pt増の「コロナ禍で思うように活動できなかったことがある」だった。【図11】

【図7】で示したように22年卒、23年卒の先輩に比べると大学への通学が可能になるなど、学生生活を取り戻している部分もあるため、ガクチカのエピソードとしてはなんらか持っている学生が多いようだ。しかし、コロナ禍のために行動制限があったことで、サークル・部活動や留学、ボランティア活動など、経験できなかった活動があったという事実も見逃せない。

2023年5月に新型コロナウイルスが5級に移行するなど、今後の見通しは明るく、就職活動におけるコロナ禍の影響はないと思われがちである。しかし、エントリーシートや面接などで問われる「ガクチカ」については、今の状況だけではなく、大学生活全体を通した影響を鑑み、学生への質問項目などに配慮する必要があると言える。

【図10】左【図11】右「マイナビ2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(2022年11月)」
【図10】左【図11】右マイナビ2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(2022年11月)

さいごに

これまで述べてきたように、企業側の求人数と求職者である学生の人数という数字だけをみれば、仮に“選ばなければ”十分に就職先が見つかる「売り手市場」といえる状態である。しかし、この“選ばなければ”ということは当然あり得ない話だろう。学生は就職活動を通じて、自分のこれまでとこれからの人生と向き合い、どういう職業人生を送っていくのか、そしてその最初の1歩をどの企業で始めるかという非常に重要な決断を行うことになる。我々も含めてとなるが、状況把握のためにこれから内定率や内定社数の状況などが逐一レポートされることとなるが、それはあくまで概観を示す数字にすぎない。転職が当たり前といわれる世の中であっても、ファーストキャリアを始める最初の1社は文字通りたったの「1社」である。複数内定を持っていたとしても、「1社」にしか入社はできないのだ。だからこそ、「早く」や「たくさん」内定を得ることを求めるのではなく、これぞと思う1社に出会うことを大切にして、これから活動をしていっていただきたい。

キャリアリサーチラボ 主任研究員 東郷こずえ

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