マイナビ キャリアリサーチLab

運動部学生のキャリア展望とデュアルキャリアについて
~運動部学生の就職に関する意識調査より~

宮地太郎
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
TARO MIYAJI

マイナビアスリートキャリアと一般社団法人大学スポーツ協会(以下UNIVAS)は2022年12月に 「運動部学生の就職に関する意識調査」を発表した。この調査はUNIVAS加盟大学および加盟競技団体の運動部学生に対して、就職に対する意識や、現在の活動状況についてヒアリングしたものである。以前2022年3月の同調査でも考察「多忙な運動部学生の就活に対する複雑な心境~運動部学生の就職に関する意識調査より~」を行ったが、今回は運動部学生の卒業後のキャリア展望とデュアルキャリアについて考察していく。

デュアルキャリアとは

デュアルキャリアは「デュアル=二重」の生き方という意味だが、主にアスリートが競技と仕事など競技以外の2つのキャリアを並行する言葉として使われる。

文部科学省が2012年3月に策定した「スポーツ基本計画」において、トップアスリートとしてのアスリートライフに必要な環境を確保しながら、現役引退後のキャリアに必要な教育や職業訓練を受け、将来に備えるという、「デュアルキャリア」についての意識啓発を行い、トップスポーツと地域、産官学が連携しながらアスリートのキャリア形成支援を展開するとともに「好循環」を創出する政策目標を掲げている。このような目標を10年以上前に掲げた背景には国際競技力向上の政策目標や、2007年頃から使用していた「セカンドキャリア(競技生活を送っている時期はアスリートとして、引退後は別のキャリアを歩む)」という「単一路線型」の捉え方が「デュアルキャリア」につながる「二重路線型」(=ダブルキャリア)へのアプローチに弊害となっていたためだ。

競技のキャリアより人生のキャリアの方が長期間であり、競技継続のために教育、就業、家庭、その他人生における重要な出来事とのバランスが取れない状態や、どちらかが犠牲になる状態は両立しにくく長続きもしない。互いが阻害要因になるのではなく、競技が仕事に、仕事が競技に双方向に良い影響を与える、より好循環な状態というのが、「デュアルキャリア」の大事なポイントとなる。次項より運動部学生が卒業後のキャリアや競技の継続についてどのように考えているのかをみていく。

卒業後も競技を続けたい人は約4人に1人

運動部学生が現在取り組んでいる競技について、卒業後どのように関わっていきたいのかを競技成績別にみていく。全体では「プロとして競技を続ける(5.3%)」、「(実業団等)競技者として就職し、競技を続ける(8.2%)」、今回のテーマであるデュアルキャリアで競技を続ける選択肢となる「一般就職はするが、競技者として競技を続けたい(11.3%)」となり、その合計は24.8%。つまり約4人に1人がプロや実業団、一般就職をして、といった違いはあれど競技を続けたいと希望している。世界大会&全国大会以上出場レベルでみると、「プロとして競技を続ける(7.9%)」、「(実業団等)競技者として就職し、競技を続ける(12.9%)」、「一般就職はするが、競技者として競技を続けたい(11.3%)」で合計は32.1%となり、約3人に1人は競技を続けたいという結果となった【図1】。

【図1】 競技成績別 卒業後の競技とのかかわり方/「運動部学生の就職に関する意識調査」
【図1】 競技成績別 卒業後の競技とのかかわり方/「運動部学生の就職に関する意識調査」

競技成績のレベルが上がるほどに競技を続けたいという比率は上がっているものの、世界大会&全国大会以上出場レベルでも、約3人に2人は競技を続けずに一般就職をして「趣味程度に関わる」「競技の指導者を目指す」「見る・支える側からスポーツに関わる」「今後競技に関わらない」という結果であった。プロや実業団で競技を続けられる人は限られており、競技成績が高いから競技が継続できるということになる。ただデュアルキャリアの「一般就職はするが、競技者として競技を続けたい」のみで限定してみると、地域大会出場レベルが12.7%と世界大会&全国大会以上出場レベルの11.3%よりも上回っており、競技成績が高い=(デュアルキャリアで)競技を継続する という図式は当てはまらないことに注目したい。

運動部学生のデュアルキャリア認知はまだまだこれから

卒業後に限らず競技を辞めた後のキャリアについて聞いたところ「考えている(明確に考えている+なんとなく考えている)」と回答したのは計56.9%で、「考えていない(全く考えていない+あまり考えていない)」は計43.1%だった。卒業が迫った大学4年生の運動部学生においても、「考えていない(全く考えていない+あまり考えていない)」と回答した割合が39.3%に上った【図2】。

【図2】これまでに競技を辞めた後のキャリアについて考えたことはありますか/「運動部学生の就職に関する意識調査」
【図2】これまでに競技を辞めた後のキャリアについて考えたことはありますか/「運動部学生の就職に関する意識調査」

競技を辞めた後のキャリアについて考えていない層も一定数いることがわかった。前述した卒業後の競技との関わり方も考えた結果であれば良いが、競技を辞めた後のキャリアを考えていない層が、仮に卒業後の競技とのかかわり方を考えたのであれば、デュアルキャリア等の競技継続の選択も候補に挙がる可能性を探っていきたい。そこで競技を辞めた後の考え別「考えている(明確に考えている+なんとなく考えている)」と「考えていない(全く考えていない+あまり考えていない)」に2つ分けて、卒業後の競技との関わり方をみたところ、「一般就職はするが、競技者として競技を続けたい」は「考えている計(12.4%)」と「考えていない計(9.9%)」と2.5ptの差があった【図3】。

【図3】 競技を辞めた後の考え別 卒業後の競技とのかかわり方/「運動部学生の就職に関する意識調査」
【図3】 競技を辞めた後の考え別 卒業後の競技とのかかわり方/「運動部学生の就職に関する意識調査」

また、デュアルキャリア(仕事と競技の両立)について、「(デュアルキャリアを)知らない」と回答した学生は全体で61.0%だった。また、「知っていて検討したことがある(13.4%)」「知っているが検討したことがない(25.6%)」となりデュアルキャリアについて知っている人のなかでは「検討したことがない」が大幅に上回る結果となったが、これも「考えている(明確に考えている+なんとなく考えている)」と「考えていない(全く考えていない+あまり考えていない)」でみてみると、「考えていない計」では72.9%がデュアルキャリアを「知らない」という結果となった【図4】。

【図4】 競技を辞めた後の考え別 卒業後の進路としてデュアルキャリアを検討したことはありますか/「運動部学生の就職に関する意識調査」
【図4】 競技を辞めた後の考え別 卒業後の進路としてデュアルキャリアを検討したことはありますか/「運動部学生の就職に関する意識調査」

さいごに

大学卒業後にプロや実業団以外の競技を続ける方法が広がり、検討が進むことは運動部学生のキャリア構築や競技界の発展にもつながることは間違いない。デュアルキャリアを含めていろいろな選択肢を知った上で、より広い可能性の中から自分の納得する人生を思い描いて欲しいと願う。今回の調査において運動部学生の仕事と競技を両立させるデュアルキャリアの認知や浸透は十分とは言えないが、今までは競技継続をあきらめるしかなかった人が、デュアルキャリアという仕事と生活を両立できる新たな選択肢があるということ、また卒業後や競技を辞めた後のことを考え、心構えをすることで競技を続けられるような就職先に出会える可能性があることをぜひ知って欲しい。

キャリアリサーチLab主任研究員 宮地 太郎

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