マイナビ キャリアリサーチLab

多忙な運動部学生の就活に対する複雑な心境
~運動部学生の就職に関する意識調査より~

宮地太郎
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
TARO MIYAJI

マイナビアスリートキャリアと一般社団法人大学スポーツ協会(以下 UNIVAS)は2022年3月に 「運動部学生の就職に関する意識調査」を発表した。この調査はUNIVAS加盟大学および加盟競技団体の運動部学生に対して、就職に対する意識や、現在の活動状況についてヒアリングしたものである。運動部学生に特化した稀有な調査であり、調査結果をひも解くと見えてくることも多く、考察をしてみた。

運動部学生は就活に有利?

運動部学生については筆者自身、過去に採用側企業の広報をお手伝いしていた経験があり、その時の印象としては、運動部学生に対してポジティブな印象を持つ企業が多いと感じていた。運動部学生との接触をもっと増やしていきたいと強く表明する熱心な企業も多々あったと記憶している。つまり採用側から人気があるという認識だ。その為、運動部学生は就職活動において、あまり困ることはないのではなかろうかと漠然と思っていた。

実際にこの調査から運動部学生自身がどのように思っているかを見てみると、【就職活動経験者限定】運動部学生は就職活動に有利だと思いますか の回答として、「有利だと思う」(39.3%)と「どちらかというと有利だと思う」(38.2%)で計77.5%と高い結果となった【図1】。また理由として「誇れる経験ができている」(53.7%)や「自分に自信を持つことができた」(32.8%)など部活動の経験によって、誇れるものや自信を得ることができたというものや、「部活内で情報共有ができる」(40.0%)や、「OB・OGに相談ができる」(32.2%)といった人間関係の強みを感じているようだ【図2】。

【左・図1】運動部学生は就職活動に有利だと思うか 【右・図2】どのような点が有利だと思うか/「運動部学生の就職に関する意識調査」マイナビアスリートキャリア・一般社団法人大学スポーツ協会
【左・図1】運動部学生は就職活動に有利だと思うか 【右・図2】どのような点が有利だと思うか

就活有利と感じながらも不安ありという複雑な心境

では、運動部学生自身が比較的就職活動に有利だと感じている割合が高いのであれば、特に何も問題はなかろうと考えてしまうが、そうとも言えない結果があった。【就職活動経験者+予定者限定】に就職活動に対しての不安を聞いたところ、もっとも多い「就職できるかどうか」が不安との回答が70.3%と高い割合を示した。

有利であると感じている割合が高い中、就職できるかどうか不安という割合も高いという、運動部学生の就活に対する複雑な心境が垣間見える。不安の声として、「学業や部活動と両立できるかどうか」が33.9%、「スケジュールが過密になり大変になりそう」が26.5%と続いており、企業・業界分析や自己分析、エントリーシートの提出や選考など多くの活動が必要とされる就職活動において、スケジュールの調整や部活動との両立に多くの不安を抱えている実態がうかがえる【図3】。

就職活動に対しての不安/「運動部学生の就職に関する意識調査」マイナビアスリートキャリア・一般社団法人大学スポーツ協会
【図3】就職活動に対しての不安

就職活動に多くの時間や労力が必要なのは事実ではあるが、それは運動部学生に限った話ではない。調査では運動部学生の部活に対する活動実態も記載されているので、次項で詳細を見ていきたい。

運動部活動の実態と就職活動スケジュール

運動部の活動について聞いたところ、平日の練習時間帯は夕方(16~18時)が57.7%、夜(18~21時)が61.5%と高く、授業の後に練習という生活スタイルが垣間見える【図4】。また、活動の曜日は火~土曜日は7割以上と平日の活動割合が高いことがわかり、日曜日と月曜日の活動の割合は比較して低かった【図5】。1日の平均練習時間は2時間~3時間の回答が38.2%ともっとも高く、2時間以上の回答計が70.8%と年間でも1日平均でも多くの時間を部活に費やしている状態だ【図6】。

【左・図4】平日の練習時間帯 【中・図5】運動部として活動することが決まっている曜日 【左・図6】平日1日の平均練習時間/「運動部学生の就職に関する意識調査」マイナビアスリートキャリア・一般社団法人大学スポーツ協会
【左・図4】平日の練習時間帯 【中・図5】運動部として活動することが決まっている曜日 【左・図6】平日1日の平均練習時間

年間を通した月別では冬季休業期間や後期試験のある12月~2月はオフシーズン割合が高い。オフシーズンではないオンシーズンは4月~6月が97%以上、7月~11月も90%とその期間は長い【図7】。

運動部学生の活動シーズン/「運動部学生の就職に関する意識調査」マイナビアスリートキャリア・一般社団法人大学スポーツ協会
【図7】運動部学生の活動シーズン

このスケジュールに就職活動のスケジュール(準備含む)と重ねてみると、先述したような不安を学生が感じる理由が見えてくる。多くのインターンシップが始まる6月、広報活動開始の3月、採用選考開始の6月と部活とオンシーズンと並行して行わなければならないという実情は、前述の「学業や部活動と両立できるかどうか不安」「スケジュールが過密になり大変になりそうで不安」という声が出てくるのも頷ける結果と言えよう。

運動部学生だからこそ得られることに目を向けて

運動部学生は部活に多忙で、スケジュール過密、就職活動との両立に不安ありという結果だが、悲観的になることはない。採用側企業からのポジティブな印象は私の感覚でしかないが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、多くの学生が学内学外と共に行動を制限される中、

・沖本研究員の「新型コロナが2022年卒学生の就活に与えた影響を振り返る~ガクチカ不足、就活WEB化の影響と入社への不安とは~」
・Strobolights羽田啓一郎氏の「コロナ禍で、大学生の「ガクチカ」はどう作るのか」

でも論述されている通り、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)が話題となる中で、運動部学生は部活動という貴重な経験を得ることができることは就職活動において何にも代えがたい武器となるだろう。

新型コロナで一気に一般化したオンライン就活の流れも時間制約の多い運動部学生にとってはより活動しやすい環境になったはずだ。対面・WEBの是非はともかく移動の時間や労力の減るオンラインは時間の融通が利きやすく、スケジュールに合わせて選択できるという状況が増えることは説明会や選考会にも参加しやすくなるのは間違いない。

また、同期や先輩や後輩、先生やOB・OGなどと幅広い人間関係を構築できることは、コロナ禍において情報共有や相談できる相手が増えるという点で客観的に見ても恵まれていると言える。

部活動は個人だけでコントロールしにくい時間もあるだろうし、過密なスケジュールになるのは致し方が無い。そのような状況で行う就職活動は大変だと思うし、不安になることもあるだろう。ただその道を選んでいる以上はデメリットだけを憂いても仕方がない。それよりは運動部学生だからこそ得られる多くのことに目を向けて「誇り」や「自信」と共に就職活動に向き合って欲しいと願う。

キャリアリサーチLab主任研究員 宮地 太郎

関連記事

コラム

コロナ禍で、大学生の「ガクチカ」はどう作るのか

コラム

新型コロナが2022年卒学生の就活に与えた影響を振り返る
~ガクチカ不足、就活WEB化の影響と入社への不安とは~

コラム

広報活動開始!2023年卒大学生の動向と新卒採用の行方を探る