マイナビ キャリアリサーチLab

Vol.3「10年後の日本は外国人労働者だらけになっているのか?」
ゼロからわかる外国人労働者市場~実態から未来予測~

杠元樹
著者
株式会社マイナビグローバル 代表取締役社長
MOTOKI YUZURIHA

渡航制限の緩和により、途絶えていた外国人観光客の入国も一部再開され、インバウンドも復活の兆しを見せ始めました。技能実習生や特定技能外国人の成田空港での定番ともいえる入国シーンもコロナ禍前のようにみられるようになりました。

改めて注目を浴びる外国人採用ですが、今後を考える上での疑問は、「これから外国人労働者はコロナ禍前のように激増するのか」、そして「2019年に鳴り物入りで登場した在留資格『特定技能』は日本の労働力不足や外国人労働者問題を解決する良い制度となり得るのか」の2点にしぼられたかと思います。

結論として少なくともこれから数年間は「外国人労働者は確実に増加」し、また「特定技能がその主役を担う可能性が高い」と考えられますが、その先はネガティブな要素も多く不透明であるのも事実です。外国人労働者市場の現在と未来予測について、各ステークホルダー視点(求職者/現地送り出し機関/日本の人材紹介会社/雇用事業主)を交えながら数回にわたって考察していきます。

前号Vol.2では渡航制限緩和後の現在と近未来は「外国人労働者が激増する可能性が高い」とお伝えしました。少なくとも数年間は増加傾向が続くと思われます。

では、その後の外国人労働者の増加に死角はないのでしょうか?順風満帆に外国人労働者は増え続けるのでしょうか?

Vol.3は「外国人採用市場の未来予測 10年後の日本は外国人労働者だらけになっているのか?」をテーマに、すでに顕在化しているマイナス要因や、懸念されている制度的課題を整理したいと思います。

顕在化しているマイナス要因~外国人労働者の日本人気は低下傾向にある

「国民全体が親日」「日本アニメが大好き」「日本は平和で安全」「母国より何倍も稼げる」といったキーワードで外国人にとって日本は人気国である、というのはもはや過去となりつつあります。観光旅行目的は別にして、労働目的においては明らかな変化の兆しが見て取れます。

人材ビジネスの仕事や自社採用の目的で海外を訪問すると大歓迎を受け、教育施設で学ぶ溢れんばかりの求職者は「日本にいきたい!」「日本大好き!」を大声で連呼します。海外現地での採用経験のある企業であれば、同様の体験をしたことは多々あるのではないでしょうか。この姿を見ると表面的には変わりないように思えますが、内情を経年で捉えると変化が見受けられます。

たとえばベトナムは現在も日本への最大の送り出し国ですが、入国までに関わる諸々の手数料(管理費含めて)や企業が本人に支払う給与は増額傾向にあります。

職種で見ると、飲食料品製造は引き続き人気ですが、介護職などはかなり雇用条件が厳しくなっています。単純に言えば、それなりの費用を払わないと採用が難しくなってきているということです。

理由は「ベトナム現地でも人集めに苦労するようになったから」の一点です。人を集めるためのエージェントへの支払い額や、広告費・途中離脱者ための補填費用などが、以前からすると大幅に増加したと言われています。

現地送り出し機関もビジネスですから、当然必死になって求職者を集めますが、それゆえの質の低下も別問題として指摘されています。

では集客が苦戦してきた要因は何か、それは日本就職の相対的なポジションダウンと在留資格制度の魅力不足が要因として考えられています。

諸外国の魅力向上~中東・東アジア(韓国・台湾)との競争時代に突入

引き続きベトナムを例にすると、日本同様に台湾・韓国への送り出しも増えており、東アジア内での人材獲得競争が起きています。

あまり知られていませんが、台湾のベトナム人単純労働者数は223,300名(2018年)で、日本のベトナム人技能実習生164,499人(2018年12月末時点)と比較すると労働者の多さに気づきます。コロナ禍前には台湾・台北駅周辺で週末になるとベトナム人が大挙している光景を目にした方もいたのではないでしょうか。韓国のベトナム人就労人数も約72,000名(2016年5月時点)となっています。在留資格の違いもあり単純比較はできませんが、台湾・韓国でも外国人労働者を積極的に受入れている現状がわかるかと思います。

また、フィリピンは海外への人材送り出しが盛んな国の一つで、世界のシーベース(客船乗務員)はフィリピン人が大多数を占めています。近年はランドベース(陸の上の仕事)においても圧倒的に給与水準の高い中東での建設業、シンガポールやヨーロッパでの家事使用人・看護師の仕事で多くの人材が働いています。元々フィリピンにおいて日本の人気は高いとは言えませんが、起爆剤として期待された特定技能も盛り上がりを見せているとは言い難い状況です。

ミャンマー・カンボジア・インドネシアなどその他東南アジア諸国も「親日」のイメージを持つ方も多いと思いますが、若い労働者に日本のイメージを聞いても回答に詰まることが多々あります。逆に「働きたい国は?」と質問すると「韓国」と回答することが圧倒的に多いことに驚きます。理由を聞くと韓国のコスメとファッションが好きだから等が挙げられていました。

この感触は現地をリサーチした筆者個人の所感ですが、少なくとも「日本人が思うような日本人気ではない」と感じざるを得ませんでした。

ただ、特定技能制度の創設によって、技能実習とは異なり「外国人も労働者としての権利」を得ることができたことは集客において好材料ではあります。「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以降の報酬を受けること」の旨が規定されたことで、同一労働同一賃金の適用が厳格化されました。本人意思による転職が可能となったことで、キャリアアップも可能となりました。今後2号の職種追加によって家族帯同・在留期限の課題がクリアになるとまた風向きも変わってくると期待されています。

海外現地事情~なぜベトナムからの来日人数が多いのか

【表1】在留資格、国籍・地域別在留人数/出入国在留管理庁「令和4年6月末現在における在留外国人数について」を加工

それでも現時点ではベトナムからの来日人数が多く、直近もその位置に大きな変化はありません。それはなぜでしょうか?

この問いに対して「ベトナム人は勤勉で日本側の評価が高い」「ベトナム人は日本が大好き」 という回答が聞こえてきそうですが、実態は少々異なります。

ベトナム人の来日人数が多い要因は「ベトナムの現地エージェントがやる気になっていること」、つまり民間の活力を活用していることにほかなりません。500社近くあると言われる日本向けの送り出し機関(人材エージェント)が激しく競って人材の集客・教育を行っています。【表1】その結果、送り出し機関の日本語ができる社員数は多くなり、日本語教育レベルは高く、また日本企業とのスムーズなやりとりが実現しています。

日本政府の意向とは関係なく、どの国においても自国民が他国で労働する際に関わる現地法令やガイドラインが存在しますが、ベトナムはエージェントが利益を上げやすい仕組みになっています。わかりやすく言うと、求職者と採用企業側両方から手数料を取ることが可能です。

また、フィリピンの場合はPOEA(フィリピン海外雇用庁)が行う雇用側の審査に通過する必要がありますが、ベトナムの場合、在留資格申請において日本の採用側(企業)に特殊な手続きは必要ありません。

そもそも手数料を取ることの是非はありますが、ここでその良し悪しには言及しません。ただ「民間の活力を活用する」ことは、この大きなプロジェクトを進めるうえで非常に大きな要素なのです。特定技能制度の推進の鍵もこの点にあると言っても過言ではありません。

人材の質は低下している?なぜ人によって外国人労働者への評価が極端に違うのか

以前から介護・看護EPAを導入した介護施設や初期の技能実習生を入れていた企業からは近年は人材の質の低下を憂いた声が聞かれます。新しく外国人材を受け入れた事業者からも「外国人はよく頑張って素晴らしい!」という声がある一方、「想像とはちょっと違った。文句も言わず黙々と働くと思ったのに」と少々不満の声も聞こえてきます。

なぜこうも極端な印象になるのでしょうか?
答えは単純で、外国人が増え人材が多様化したことでいろいろな人に出会う確率が増えたからです。
憧れの国ニッポンに来ることができて嬉しい、日本が大好き、だから賃金が安くても頑張る、といったイメージがあるかもしれませんが、全員が全員そのような価値観を持って日本で働くわけではありません。そのようなイメージを外国人労働者に持っていると、ギャップが起きてしまうのは当然です。

留学生だけで約30万人、技能実習生も約35万人、身分系在留資格(日本人と結婚した人など)は約60万人存在します。外国人を一括りに評価するには無理があります。留学生だけを取り上げても、大学と専門学校・日本語学校では在籍する人物のバックグラウンドは大きく異なります。日本人に置き換えてみても新卒大学生(約50万人)の特徴を一括りにはできないわけで、外国人も同様なのです。また、前述したように海外現地での集客の苦戦から、質の低下も指摘されています。そのため、モンゴルやインドなどまだ日本渡航者が多くない国にアプローチする技能実習の監理団体も出てきています。

今後の課題 選ばれる日本になることは必須条件

集客の苦戦傾向は前述のとおりですが、円安・諸外国の賃金アップが進む中で日本の相対的なポジションダウンは更に進む可能性があります。悲観的に考えれば、日本側の意思に関わらずいずれ外国人は減ってしまいます。しかし対策は明確で、「選ばれる日本になること」が必須条件といえるでしょう。

そこで最後に、筆者の考える「選ばれる日本になる」ための3つのポイントを解説します。

特定技能制度の日本側の理解

特定技能制度で多くの人材を日本企業に紹介している筆者の経験として、受け入れる企業側の理解が進んでいないケースに立ち会うことがあります。「なぜ賃金を日本人と同等にしないといけないのか」「支援業務にお金と手間がかかるが理解できない」「転職されるリスクがある」との声も聞かれます(※1)。

ただ、近年よく報道される「日本の給与水準が30年前と変わらない」問題は海外労働者にとっても直面している問題です。ただでさえ日本語という大きな壁があるうえに、他国の給与水準が相対的に上がれば日本を選択しなくなるのは当然の結果です。安い給与で簡単に雇える状況ではなくなってくるという現実を理解する必要があります。

また、技能実習の「本人の意思で辞めることができない」制度的特徴は国際的に大きな非難されていますが、企業側にとってはありがたい制度であるのが実態です。ただその反省もあり特定技能は「労働目的のビザ」として創設され、外国人にも転職など労働者の権利を認めています。日本人同等の業務であるならば、外国人だから安い給与とはいかないこと、職業選択の自由があることもご理解いただきたいと思います。

※1:特定技能では雇用した特定技能外国人が円滑に生活できるよう雇用側支援する、または支援を委託することが義務付けられています。また、転職が可能という制度的特徴があるほか、日本人と同等以上の賃金でないと在留資格が下りません。

受け入れる組織のダイバーシティ

これは当社主催の研修で企業様にお伝えしている内容になりますが、外国人の日本人化を求めるだけではなく、日本企業の国際標準化も重要と考えています。

対応言語はもちろん日本語ですし、日本文化・日本の企業文化を否定する必要はまったくありません。ただ、それでも「やさしい日本語の活用」「日本文化こそ独特だという理解(≒外国人が特殊ではない)」、「わかりやすい就業規則への変更」など企業側がすぐにとれるアクションは多々あります。

家族帯同は必須要件

求職者側の立場にたったとき、家族との生活維持は日本へ来る際の大きな要素です。

特定技能1号では家族帯同が認められていませんが、特定技能2号では家族帯同が認められています。この記事の執筆時点では2号の対象は「建設」「造船・舶用工業」だけです。2号への職種追加・手続きの簡素化が実現されれば大きなアドバンテージになると考えられます。

10年後の市場は不透明だが、10年後も選ばれる日本であることが重要

無条件に外国人が来日してくれる時代ではなくなってくることが現実的な予測です。そのための制度変更や受け入れ企業側のスタンスや体制も重要となります。変わってきたと言われる一方で、外国人を雇うことへのマイナスイメージが色濃く残っている会社が多いのも事実でしょう。また、マーケットの活性化には民間の活力・ノウハウも欠かせません。市場が活性化するためには、海外現地や日本の人材会社が一定儲かる仕組みのすべてを否定はできません。

人材事業で儲けるなどけしからんと思われるかもしれませんが、外国人に限らず市場の魅力・民間企業をその気にさせること・市場原理の導入は市場を活性化させるうえで重要な仕掛けだと考えられます。


著者紹介
杠 元樹(ゆずりは もとき)
株式会社マイナビグローバル 代表取締役社長

2004年(株)毎日コミュニケーションズ(現マイナビ入社)
「なんでもチャレンジできる」社風により、新卒1年目から企業の採用支援と同時に、「日本人の海外大学留学生」プロジェクトや、外国人の日本留学生企画の企画から販売まで関わる。その後、インバウンド事業の事業部長として、主に中華圏をターゲットにした日本の情報発信メディアを立ち上げた。現在はマイナビグループの中で外国人採用を専門に担う(株)マイナビグローバルを経営し、東南アジア出身の外国人労働者と向き合う。採用支援の立場で日本を代表する大手企業からベンチャー企業まで1000社以上の採用支援を行うと同時に、外国人留学生・旅行者・労働者と国籍・対象は異なりつつも、外国人インサイトに悩み研究する日々を送っている。外国人採用サポネットでも情報発信中。

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