マイナビ キャリアリサーチLab

Vol.2「渡航制限緩和後の最新の外国人雇用状況」
ゼロからわかる外国人労働者市場~実態から未来予測~

杠元樹
著者
株式会社マイナビグローバル 代表取締役社長
MOTOKI YUZURIHA

渡航制限の緩和により、途絶えていた外国人観光客の入国も一部再開され、インバウンドも復活の兆しを見せ始めました。技能実習生や特定技能外国人の成田空港での定番ともいえる入国シーンもコロナ禍前のようにみられるようになりました。

改めて注目を浴びる外国人採用ですが、今後を考える上での疑問は、「これから外国人労働者はコロナ禍前のように激増するのか」、そして「2019年に鳴り物入りで登場した在留資格『特定技能』は日本の労働力不足や外国人労働者問題を解決する良い制度となり得るのか」の2点にしぼられたかと思います。

結論として少なくともこれから数年間は「外国人労働者は確実に増加」し、また「特定技能がその主役を担う可能性が高い」と考えられますが、その先はネガティブな要素も多く不透明であるのも事実です。外国人労働者市場の現在と未来予測について、各ステークホルダー視点(求職者/現地送り出し機関/日本の人材紹介会社/雇用事業主)を交えながら数回にわたって考察していきます。

Vol.2では、外国人労働者を押し上げる要因にもなっている「特定技能」の直近状況を中心に、渡航制限緩和後の最新の外国人雇用状況を解説します。

すでに外国人労働者は急増中。今年は「入国待機組の技能実習生・留学生」の入国ラッシュにより過去最高値の更新は確実

JNTO(日本政府観光局)発表の訪日外客数(2022 年 5 月推計値)によると、5月単月の訪日数は147,000 人と2ヶ月連続で 10 万人を上回る数字となっています。新型コロナウイルス感染症の影響が出る前の2019年同月比では94.7%減になりますが、それでも確実に訪日外国人数が回復しています。

一部のニュースメディアではこの数字をインバウンド(訪日外国人観光客)としてセンセーショナルに扱っていますが、実態は異なります。この数字はあくまで「日本に来訪した外国人の数」を表しており、観光客以外も含まれます。

エリア別にみると、トップ5は、ベトナムの3万9000人、中国の1万7600人、韓国の8800人、インドネシアの8700人、アメリカの8100人です。ベトナムはコロナ禍前の2019年同月が3万9900人だったので、それよりわずか900人少ないところまで復活しています。ベトナムは観光目的の訪日がまだ解禁されていないため、入国者の多くは長らくの規制により入国できなかった技能実習生によるものと考えられます。

この「入国待機組の技能実習生」はまだ相当数存在しており、しばらくは技能実習生の入国が続きます。同時に「入国待機組の外国人留学生」も今後続々と入国予定です。技能実習生は現地でのトレーニング費用の一部、留学生は入学金を支払ってWEBでの授業も始まっていますので、溜まっていた人数は一気に入国してきます。

在留資格別の詳細数値はVol.1でも解説した「外国人雇用状況の届け出状況まとめ」が来年2月頃に公開され明らかになりますが、1年後、数字上では2022年は「技能実習生・留学生が激増した1年」となる可能性が高いと考えられます。

特定技能は今後も大きく伸長。目標人数の到達も視野に入った

参照:【特定技能制度運用状況】出入国管理庁2022.06時点
特定技能在留外国人数の推移(平成31年4月~令和4年63月末現在)(速報値)
参照:【特定技能制度運用状況】出入国管理庁2022.06時点
特定技能在留外国人数の推移(平成31年4月~令和4年6月末現在)(速報値)

特定技能とは人手不足が深刻な特定産業分類において一定の専門性・技能を持つ外国人を受け入れるために2019年に創設された在留資格です。技能移転による国際貢献が目的の技能実習制度と異なり、労働力の確保が目的であることが大きな特徴です。

より詳しく特定技能について知りたい方はこちらの記事をご参照ください。

特定技能は出入国在留管理庁から3ヶ月ごとに在留人数の速報値が公表されていますので、最新動向がウォッチできます。

特定技能在留数は2022年6月末で87,472人と、3ヶ月間で135%増加しました。直近では3ヶ月ごとに130%、前年同月比では300%と大きく伸長しており、単純計算だと、2023年度中には上限である政府目標35万人に到達します。

35万人という数は、技能実習生数(2021年10月月末時点)と並ぶ数です。上限枠が少なかったこともありますが、一部の分野(職種)はすでに上限に達しました。

特定技能は鳴り物入りで登場した在留資格であるものの創設当初は伸び悩んでいましたが、いよいよ本領発揮、といった状況です。

今後も続く高い増加率。なぜこれほど特定技能が急増しているのか?

では、なぜ今になって特定技能がこれほど伸びているのかを、制度的な特徴も含めて解説します。

理由①対象者数の増加

まず単純に対象者が増加しました。外国人が特定技能の在留資格を得るには2つのパターンがあります。

  • 特定技能試験に合格する
  • 技能実習2号を修了し、特定技能1号に移行する​

1つめの特定技能試験は海外だけでなく日本国内でも実施されています。特定技能は当初、海外での試験合格者による増加が期待されていましたが、コロナ禍で停滞を余儀なくされました。代わって日本国内での試験回数が増加し、介護・農業など職種によっては毎日試験が実施されています。外国人に人気の高い外食(飲食店)や、食品製造は一時期試験に申し込みができなくなるほど応募が殺到しました。

「技術・人文知識・国際業務」など就労系の在留資格を取得するには学歴(専攻)と日本での滞在理由に関連性が求められますが、特定技能には学歴要件はありません。そのため、今まで「技術・人文知識・国際業務」の在留資格取得が難しかった専門学校や日本語学校の留学生にも日本で働く門戸が開きました。

参照:【特定技能制度運用状況】出入国在留管理庁2022.06時点
技能試験及び日本語試験の実施状況について(令和4年63月末現在)(速報値)をもとにマイナビ作成
(注1) 受験者数及び合格者数には、令和4年6月末までに実施し、結果が公表された技能試験及び日本語試験を計上している。
(注2) 介護分野の介護日本語評価試験は、受験者数及び合格者数に計上していない。

また、技能実習2号の修了者が帰国せずに在留資格を特定技能1号に変更して働くことも可能になり、単純にいえば技能実習生35万人が特定技能への移行対象者になりました。

コロナ禍で帰国もままならず、待遇アップも期待して特定技能1号に移行する外国人も増加した訳です。

今後は渡航制限が緩和されたことで、一度母国に帰国した技能実習2号修了者の再入国の可能性、海外での特定技能試験の実施回数が増えることによる合格者の増加など、ますます対象者は増加していきます。

特定技能外国人の成田空港での入国シーンが一部ニュースになっていますが、今後は日常的に海外からの特定技能外国人の入国が続いていくと思われます。

理由②国内在留者の採用市場が活性化。企業は日本での生活・就業経験を高く評価

海外からの渡航が何かと話題になりがちですが、現時点(2022年10月時点)でのトピックは国内在留者を対象とする国内市場にあります。

前述したように、特定技能の取得ルートは2つですが、国内在留者はいずれも日本在留期間が長く、海外から入国する人材に比べ日本語レベルが高く、日本での生活・就業経験があることから採用ハードルが相対的に低いという特徴があります。

特に、業務的に日本語能力を求める外食や介護は留学生の評価が非常に高いという状況にあります。外食では、留学生が飲食店やコンビニエンスストアでアルバイトをしている光景はもはや一般的となりましたが、アルバイトで業務経験のある留学生を雇用できるため採用側からは非常に重宝されます。

現在は渡航制限が緩和され、海外現地の試験も増えてきました。今後は「海外から日本」の特定技能の増加が増えてくるとは思いますが、採用ハードルが低い日本在留者は今後も人気が続くと思われます。

つまり、帰国が困難になったことにより特定技能に切り替えた日本在留者数が増え、また国内の試験回数の増加によって資格取得者が増加したこと、そして、結果的に国内在留者の良さに採用側(企業)が気づいたこと、このあたりが特定技能増加の要因と考えられます。

渡航制限緩和後の現在と近未来は「外国人労働者が激増」

入国待機組の入国ラッシュと特定技能の伸長により、今年は外国人労働者数が激増すると予想されます。

また、特定技能外国人の受け入れが軌道に乗り始め、今後「海外から日本」の選択肢が増えることで来年以降も増加していくと考えられます。

このように書くと順風満帆としか思えない外国人採用市場ですが、「この傾向に死角はないのか」「このまま順調に増加していくのか」といえば必ずしもそうとは言い切れません。阻害要因や制度上の課題を次回で整理したいと思います。

Vol.3では「10年後の日本は外国人労働者だらけになっているのか?」というテーマで外国人市場の未来を予測したいと思います。


著者紹介
杠 元樹(ゆずりは もとき)
株式会社マイナビグローバル 代表取締役社長

2004年(株)毎日コミュニケーションズ(現マイナビ入社)
「なんでもチャレンジできる」社風により、新卒1年目から企業の採用支援と同時に、「日本人の海外大学留学生」プロジェクトや、外国人の日本留学生企画の企画から販売まで関わる。その後、インバウンド事業の事業部長として、主に中華圏をターゲットにした日本の情報発信メディアを立ち上げた。現在はマイナビグループの中で外国人採用を専門に担う(株)マイナビグローバルを経営し、東南アジア出身の外国人労働者と向き合う。採用支援の立場で日本を代表する大手企業からベンチャー企業まで1000社以上の採用支援を行うと同時に、外国人留学生・旅行者・労働者と国籍・対象は異なりつつも、外国人インサイトに悩み研究する日々を送っている。外国人採用サポネットでも情報発信中。

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