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問われたのはオンラインとリアル双方のインターンシップの在り方(第4回学生が選ぶインターンシップアワード開催報告)

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

2018年にスタートした「学生が選ぶインターンシップアワード」は学生の社会的・職業的自立に貢献した優れたインターンシッププログラムを表彰する、日本最大級のアワードだ。学生の職業観涵養を促進する効果的なインターンシッププログラムを周知することで、プログラムの質的向上およびインターンシップのさらなる普及や促進、学生と企業のより精度の高いマッチングを目指している。

第4回目となった今回は全国の421法人(うち大学17法人)から、523プログラムの応募があった。 厳しい審査を経て、見事大賞に輝いたのは沖縄ワタベウェディング株式会社の「Wedding Produce Program」、文部科学大臣賞に輝いたのは国立大学法人鹿児島大学「課題解決型インターンシップ」だった。

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コロナ禍でのインターンシップの在り方 

就業体験が必須となるインターンシッププログラムにおいて、対面での接触機会が制限されるコロナ禍の影響は大きかった。企業のなかには社員の出社制限を行っていたり、来客禁止など社外の人を職場に入れることが禁止されていたりするケースもあり、いわゆる「プレ期間(広報活動開始前にインターンシップなどに参加し、就職活動の準備を行う期間)」がスタートした2020年6月の段階では多くの企業が戸惑いを感じていた。当初はインターンシップの実施が延期や中止されることもあり、本アワード実行委員長の林の言葉にあるように、本アワードを休止することも検討されていたほどだ。

「学生が選ぶインターンシップアワード実行委員会」実行委員長 株式会社マイナビ 林のコメント

学生が選ぶインターンシップアワード実行委員会 実行委員長 株式会社マイナビ 林俊夫

コロナ禍という特殊な環境下で対処的に始まったオンライン活用であるが、リモートワーク導入といった働き方が多様化するなかで、「就業体験がオンライン上でなされることも自然な流れではないか」という考え方も出てきており、新たな可能性が芽生えている。

本アワードに応募されたプログラムにおいても「すべて対面で実施」が37%、「一部オンラインで実施」が20%、「すべてオンラインで実施」が43%という結果となっており、63%もの法人がオンラインを活用していたことがわかった。

オンライン実施のインターンシップは『アリ』だったのか

表彰にあたって、今年の争点はなんといっても「オンライン実施のインターンシップは『アリ』なのか」という点だった。表彰プログラムの選定とあわせて行ってもらった参加学生アンケートの分析の結果からこの点についての議論を紹介したい。

分析を行った多摩大学の初見准教授によると「『ナシ』だとする明確なエビデンスはない。得られたのは『インターンシップのよしあしを決めるのにオンラインかリアルか、は問題ではない」ということ」であった。インターンシップを実施するうえで、教育効果や企業への志望度を高めるために大切なことは、あくまでそのプログラムの内容、「質の高い経験ができたか」であって、デリバリー方法(提供手段)がオンラインかリアルかで、統計的に有意な差は見られなかったということだ。

多摩大学 初見康行准教授

「質の高い経験ができるインターンシップ」とは何なのか

【ポイント1】プログラム内容だけでなく、インターンシップの前後が重要である
└特に事前・事後学習を充実させることが、全体の満足感や教育効果を高める可能性がある

インターンシップでは根幹となるプログラム内容だけでなく、事前・事後学習と呼ばれる学生をフォローするための時間が設けられている場合がある。事前学習といわれる部分は単にオリエンテーションを行うだけでなく、「このインターンシップで何を学び、どうなりたいのか」という目標設定を行ったり、事前に必要な知識などを学ぶ時間を取ったりする。また、事後学習では、あらかじめ設定していた目標をどの程度、達成できたのか、また何を学べたのかを確認したり、インターンシップでの学びを定着させるために振り返りの学習機会を設けたりする。かなり手厚いフォローに思われるかもしれないが、こうした時間を設けることで「就業体験」が、ただ珍しい経験ができた、というだけでなく、キャリア教育としての学びの機会となり、また、深い部分で企業や仕事理解ができることで志望度を高めることになるのだ。

【ポイント2】「実務を体験=満足度の向上」という、単純な構造ではない可能性
└実務体験によって「リアリティショック」を早期に受けていることが推測される

初見准教授は「意外だったのは『実務を体験=満足度の向上』とは限らないかもしれないという点です。あくまで推測ですが、大変さや厳しさも含めて仕事のやりがいを実感している学生がいる一方で、実務を体験することでギャップを感じてしまう学生がいる証なのかもしれません。」と指摘している。ただし、ここでいう「リアリティショック」は必ずしも悪いだけのものではない。初見准教授はさらに次のように述べている。「短期的にはリアリティショックを受けて志望度が下がってしまうこともあるかもしれませんが、中長期で見た場合、早期のリアリティショックがギャップを減らし、最終的な企業と学生のマッチングを向上させる効果があるかもしれません。」新入社員が入社後にリアリティショックを受けてしまうのはよく聞く話だが、学生から社会人へ大きく生活が変わるなかである意味、仕方ない部分もある。しかし、インターンシップを通じてそのショックを少しでも和らげることができれば、長期的な視点で見た場合、学生にとっても有益な経験となるだろう。

【ポイント3】インターンシップの成果として、スキル・能力の向上を知覚させる
└業界や仕事の理解だけでなく学生のスキル・能力育成をサポートする

インターンシップといえば「どういう体験ができるか」が焦点になりがちだが、このインターンシップに参加することで「どういうスキルや能力が身につくのか」も大切だ。この点について初見准教授は「しっかりアピールできている企業や法人が、まだまだ少ない印象です。この点を改善するだけでも、教育効果や志望度を高めていけるのではないでしょうか」と指摘した。

多摩大学 初見准教授による解説はこちら

最後に

2021年7月現在、いまだコロナ禍の収束は見えていないが、6月からすでに2023年卒学生向けのプレ期間が始まっている。インターンシップにおけるオンライン活用は2022年卒がスタートの年だったと先ほどお伝えしたが、今後、さらにブラッシュアップされ、洗練されていく可能性は高い。

法政大学の梅崎教授は審査講評のなかで「インターンシップアワードはプログラムを改良するための学びの場」と指摘している。最後に梅崎教授その言葉をここに紹介して結びとする。

「質の高いインターンシップを実施するためには、経験値によるプログラムの改良が必要になります。その小さなクオリティの差を、学生たちはよく見ている。内容そのものに加えて、事前学習の時間は適切か、事後の振り返りで学びを深められるか、という2点が重要なチェックポイントです。「ぜひいいところは盗んで 、取り込んでいってもらいたい。そうしてPDCAサイクルをまわしながら改良を続けることで、まだ見ぬプログラムができあがるかもしれません。一方で審査員としては、真似て広がるプログラムに加えて『そうきたか』『こんな新しいプログラムがあったのか』という、未知のインターンシップに出会いたいとも願っています」

キャリアリサーチLab主任研究員 東郷こずえ

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