転職時の「年齢の壁」はなくなったのか~20-30代と40代、50代の違いは?~
目次
はじめに
人生 100 年時代といわれる中で、働く意欲がある労働者がその能力を十分に発揮できるよう、雇用制度改革が進められている。
通年採用による中途採用・経験者採用の拡大を図る必要があるとされ、2021年 4 月 1 日から、常用雇用者数 301 人以上の企業は、直近 3 事業年度の各年度において採用した正規雇用労働者のうち中途採用者が占める比率の公表を義務付けられた。
そういった施策が実施される中、「マイナビ転職動向調査(2022年版)」の結果では、正社員の転職率は2016年以降、増加している様子がみられている。
2020年はコロナの影響で企業の採用活動が縮小したことで転職率も低下したが、2021年にはコロナ前の基準まで復調した。
年代別に傾向をみると、若年層ほど転職率が高い傾向はみられるが、“2016年以降増加⇒2020年はコロナの影響で減少⇒2021年に増加“という動きは、40代50代のミドル層においても同様にみられた。
よく転職市場では「35歳限界説」など、年齢を重ねるほど転職の難易度が上がる『年齢の壁』が存在すると言われているが、人材の流動化が促進され、比較的高年代でも転職が活発になりつつある現在でも、その壁は変わらずに存在するのだろうか。本コラムでは調査結果をもとにその辺りの感触を探っていきたい。
企業の若手人材への採用ニーズは顕在。専門スキルを持つ人材への需要は増加
まず、企業が求める人材からみていきたい。
「マイナビ中途採用・転職活動の定点調査(22年4月)」で今後3か月間に中途社員を採用予定の企業に対し、採用する想定の人材(複数回答)を聞いた。
するともっとも高かったのが「若手人材層(20-30代)」で59.6%、次いで「現場で即戦力となってくれる人材」で56.7%、「未経験でポテンシャルのある人材」で33.9%となった。この結果から現在の中途市場において、企業の“未経験でも将来的な活躍が期待できる若手人材”の採用ニーズが高いことは明確である。
一方で、専門スキルを持つ社員を獲得するために中途採用活動を実施する企業は、ここ数年で増加傾向がみられている。「マイナビ人材ニーズ調査」で中途採用担当者に対し、採用活動の理由を聞いた結果を2018年から経年でみると、「専門能力や技術を持つ人材の獲得」が2021年には48.8%となっており、2018年と比較すると5.3pt増加している。自社にはいない専門的スキルを有する人材を採用するために中途採用活動を実施する企業は2018年時点からもっとも割合が高かったが、4年間でその傾向はさらに強くなったようだ。【図3-1】
また同調査では、新卒採用担当者にも同じ内容を聴取している。新卒の採用活動の理由を聞いた結果を2018年から経年でみると2020年までは「事前の計画による定期的な採用」がもっとも高かったが、2019年以降、「専門能力や技術を持つ人材の獲得」は増加し、2021年にはもっとも多く挙げられた理由となった。【図3-2】
専門スキルを持つ人材への需要は、中途採用や年齢に限らず、新卒採用含めた正社員の採用市場全体で高まっている様子がうかがえる。
若手が有利に思える転職市場だが、21年の「転職で年収が上がった」人がもっとも多いのは男性40代
次に転職者の転職前後の年収の変化をみていきたい。
「マイナビ転職動向調査」の結果では、転職で年収が上がった正社員の割合※は、2019年以降増加傾向にあり、2021年は35.6%となった。性年代別でみると、男性30代40代で年収が上がった人が4割を超え、年収が下がった人を20pt以上上回った。
※50万円ごとの区切りで聴取した年収が転職前より転職後の方が高い割合を指す。
転職後の職種別でみると、「クリエイター・エンジニア」で年収が上がった割合がもっとも高くなった。前項で企業の専門スキルを持つ人材への需要が高まっていると述べたように、エンジニア等の専門スキルを持ち、実務の経験を積んだ30代40代の転職市場における価値の高さが、年収額の増加として現れている様子がうかがえる。
女性で年収が上がった割合は、20代でもっとも高く、次いで40代となっている。転職後の職種で、比較的女性の従事者が多い「サービス職」において、他の職種より年収が上がった割合が低いことから、従事している職種による影響もありそうだ。
企業による若手人材の採用ニーズの高さは顕在だが、転職の成功を年収アップと定義するのであれば、40代(特に男性)の成功者割合が高い、とも捉えられる結果が調査から得られた。
転職活動者は、「年齢の壁」を感じているのか
では、転職活動者は年齢の壁を感じているのだろうか。「マイナビ中途採用・転職活動の定点調査(2022年5月)」 で、実際に転職活動をした人・今後3か月以内に検討している人に聞いてみた。
するとやはり、年代が上がるほど「年齢の壁を感じた」と回答した割合が高くなり、50代では「どちらかというと感じた」も含めた「感じた計」は8割以上となった。
また、「感じた」と回答した割合をみると、20~34歳までは2割程度だが、35~30歳で3割以上に増加しており、転職活動者の年齢の壁の明確な実感は35歳が境目となっている様子も読み取ることができる。
この結果から、年齢の壁はまだ根強く残っていると感じている転職活動者は特に高年代層において大多数であることがわかったが、40代・50代でも年齢の壁を「感じなかった」と回答した人は2割程度となっており、そう思った理由を自由回答で聴取したものをいくつかみてみたい。
上記の結果をみると、業務内容や職種の影響もありそうだが、一部の転職活動者ではスキルや経験値など他のものは求められつつも、年齢という理由だけで壁を感じることはなかったと考えている人も一定層存在することも確かなようだ。
さいごに~転職時の「年齢の壁」に見られた変化~
調査結果から、転職する際の「年齢の壁」は、まだ大多数の人が“存在する”と感じていることがわかった。採用する側の企業による若年層への採用意欲の高さも顕在であった。
年齢が上がるほど、転職先でどういったことができるのか、スキルや実績を持って証明することの必要性が高まることは確かなようだ。
しかし、企業が求める人材の変遷をみると、専門スキルに対する需要の高まりは、40代50代のミドル層に対してだけではなく、若年層を含めた全体にあてはまることから、ミドル層に限った問題ではないようにも思えた。
加えて、ミドル層の中でも、一部とはなるが年齢の壁を感じなかったという意見もみられた。彼らの意見を鑑みると、転職がより身近になってきた環境の中で、年齢を経験として捉えるポジティブな変換は起こっているのではないかと感じられた。
キャリアリサーチLab主任研究員 早川 朋