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適性検査と臨床心理アセスメントの関係性について

長瀬存哉
著者
HRコンサルタント
ARIKA NAGASE

今回のコラムでは、就職・転職市場で活用されている適性検査が、現代のネット社会において、どの程度の役割と有用性があるのか、その考察を含めて触れていきたい。

適性検査を語る上で大切な臨床心理アセスメントの全体像

そもそも、就職・転職市場で活用される適性検査を語る上でとても大切なのが、応用心理学の一つとして存在する臨床心理アセスメントの存在である。

臨床心理アセスメントとはどのようなものか。端的に説明すると、ある人物の人柄や性格を、生活の場でのふるまいや行為をあるがままに観察し、その情報やデータを一定の基準にあてはめて判定したり診断したりすることである。そもそもは医学・心理学等の専門的な領域の支援を求める被験者や対象者に対し、最適な援助方法やプロセスなどの選択肢を与え、また支援プロセスの評価のために確立されたものである。

その全体像を整理すると以下のようになり、大きく3つの方法で測定することができる。【図1】その内容は、面接法、行動観察法、質問紙法・心理検査法である。中でも心理検査法には更に6つの検査に大別され、発達検査、知能検査、性格・人格検査、適性検査、学力検査、その他障害に関する検査、といったテスト・検査に整理される。

アセスメントの3つの主な手法

【面接法】
面接法の目的は、対話や会話を通して、言語的な部分のみならず、言葉になりにくい非言語的な側面や、表情や動きに関わる動作的な応答を通して、その人物像を理解していくことになる。問われた側の自発的なコミュニケーションを通して、その意図や真意を理解し測定するため、この方式の特長は、その瞬間にしかとらえられない反応や言動が情報源となっていく。採用選考時では1on1や1対多によるグループ面接などで活用されている。また、面接法では、質問の順序を整理・構造化をすることによって、コミュニケーションのやり取りに関する客観的な判断をしたり、数量化したりして確認ができる。

【行動観察法】
次に、行動観察に関しては、行動やふるまいそのものを客観的に測定していく方式となる。一つのテーマについて集団で作業し議論する姿を通じて、参加意欲や表情・態度・発言など、より日常や普段の行動スタイルに近い状態で、その「人となり」を測定する方法となる。これを複数の評価者が見定めることによって、判断のズレや補正が可能となり、より適切な判断や見極めが可能となる。また、測定したい行動を量と質の両面で測定することが可能で、対象者の年齢や性別に関わらず、判断に活用できる。就職・転職市場では、グループワークやディスカッション、プレゼンテーションなどで実施されている。

【質問紙法及び心理検査法】
質問紙法は心理検査法に含まれており、開発の主目的や狙い・歴史的な経緯から就職選考として活用されるのは、いわゆる性格・人格テストや適性テスト、学力テストといった方式を指しているケースが多い。特に性格・人格テストや適性テストは、深層心理分析の客観化を目指して開発された経緯があり、自我の防衛や無意識の動機の解明を目的としている。詳細は以前のコラムを参照頂きたい。これらは、人間性や人物像をより多面的に理解するために活用されている。こうした観点からも、発達テストやその他障碍者に関するテストは、対象が限定されることもあり、就職・転職の選考段階においては積極的に活用されていない実情がある。また、質問紙法含む一連の心理検査法は、測定したい項目や要素が統計的に検証されているため、測定したい項目、深層心理に関する項目を、ある一定のガイドラインに基づいて客観的に確認することが可能である。

このように、選考プロセスで活用される面接やグループワーク・行動観察や学力テスト、適性テストなど、こうした一連の選考手法の全体像が整理・体系化されているのが、臨床心理アセスメントということになる。そして、就職・転職市場で活用されているこれら一連の臨床心理アセスメントの共通点は、長い時間をかけて観察して判定するものではなく、比較的短時間に、その人物像や内面を把握するものとなっている。所定の時間内で反応した会話や行動、また、質問内容に対する回答から、一人ひとりの特性や能力など、人柄・人物の全体像・可能性を把握するなど、時間的・経済的にも有用な手法ということができる。以降、採用選考における一連の選考プロセスを「採用選考アセスメント」として記載していく。

各々のメリットを最大活用するために不可欠な“基準づくり”

採用選考アセスメントで重要なのは、さまざまな“基準づくり”ということが言える。先にも触れたように、開発された背景や目的に応じて、どの方法が適切なのか、その選定基準を定めることは大前提で必要不可欠と言える。

たとえば、面接法における選定基準では、コミュニケーション能力を測定するケースが多い。大きくはデコーディングとエンコーディングという基準に分けて判断する。デコーディングは相手の意図を正しく聞き取れているか、質問の内容を的確に受け止めているか、ということになる。エンコーディングは、自身の考えや思いを適切な言葉で表現しているか、わかりやすく端的に話しているか、という点になる。これらは言語的な基準ということになる。

こうした基準の前提事項に加え、非言語的な基準も重要となる。いわゆる表情や目線、会話の際のふるまい、話しやすい雰囲気があるなど、言葉以外の周辺情報も大切な情報源となる。

行動観察については、もっとも直接的で基本的な方法といわれるもので、臨床心理分野におけるアセスメントの原型ともいわれている。与えられた課題やテーマに臨む姿勢や、周囲に見聞きするバランスなど、行動全体を観察し、判断していく。採用選考における主な選定基準としては「個人の行動やふるまいに関する基準」と、「集団の中での基準」を客観的に設定し、判断することが可能なものとなる。周囲に対し発信が多いか受信が多いのか、周囲と積極的に関わろうとしているのか、フォロー側に立とうとしているのかなど、バランス感覚や駆け引きの立ち回り、話の流れをスムーズに生み出そうとしているのか、といった基準が重要となる。

質問紙・心理検査の場合、何を測定するかといった選定基準が検査ごとに定まっており、その基準を測定するための質問等が統計的な裏付けや信頼度を踏まえて開発されているケースが多い。そのため、企業側の採用選考における選定基準が明確であれば、選考方法の一手段として、とても効率且つ効果的な方法と言える。多くの選考対象者が存在する場合、こうしたツールを活用することによって、より短時間に多くの選考が可能となる。

活用する企業側の事前準備も必要

採用選考アセスメントを活用する上で、注意すべき点がいくつかある。その1つ目が “自身で持つ潜在的なバイアスは何か”という点を認識することにある。人は各々ある種のこだわりやフィルターというものが存在するため、それらをすべて無くすことは不可能である。そしてその人なりの見方や捉え方の“クセ”みたいなものを認識することで、活用する側の判断における客観性が高まる。

2つ目が成果にブレがないよう、人事や面接官の事前トレーニングが必要になる。質問の順番や内容の統一、観察する側、判断する側の心構えなどの統一といった活用する側の習熟度向上が大切である。

3つ目が企業にとって不可欠となる“求める人材の基準”の共有である。“活躍する可能性があるのか”また“企業の風土にフィットするのか”など、それら要件を行動特性や性格特性の側面で基準を定めていくことが大切である。ただ、ここで見落としがちなのは、職場環境や仕事における適性という点のみならず、求職者の“強みが活かせる仕事・環境であるか”という点にある。つまり、選考する企業側と採用される求職者側双方の関係がより良い状態に近づくか、求職者の人となりが、企業側の強みと重なり合い、更には弱点を補う可能性があるのか、という組み合わせの妙という点を明らかにし、作成した基準を人事や面接官の中で、しっかり共有していくことが重要となる。

まとめ

改めて、活用する企業側でもっとも大切なことは、こうした一連の採用選考アセスメントの目的と開発背景を理解した上で、各種選考プロセスにおける適切な手法を用いることを前提としつつ、選考における見極めや判定基準を定義化し、明らかにする必要がある。次回はこの採用選考アセスメントとコロナ禍で一気に拡大したWEB選考での活用について記載してみたい。(次回に続く)


著者紹介
長瀬存哉(ながせ・ありか) 
HRコンサルタント

1970年東京生まれ。大学卒業後、多種多様な業界の業態開発・商品開発に携わり、人の感性と環境・ハードとの間に融和と相乗効果が生まれる世界を見出し、人の可能性や創造性に関する調査・研究活動に取り組む。そこで、心理学・統計学分野のオーソリティに師事。HR分野の課題解決を通して、適性検査や意識調査・行動調査などの診断・サーベイ・アセスメントの設計・開発・監修を行い、その数は数百種類に上る。その後、取締役を経て独立。現在は、各企業やHRテクノロジーに関するコンサルティング・研修・講演活動を通して、HRの科学的なアプローチによる課題解決に取り組んでいる。

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