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退職リスクやヒューマンリスクなどの予測可能性について

四回目のコラムでは、適性検査で選考された指標と、企業における成果指標を連動して整備する取り組みについて触れた。今回は、多様な人材を受け入れつつ、さまざまなリスクとどう向き合い予測していくか、考察を含め紐解いていきたい。

組織が抱えるさまざまなリスクとは
【意図せず早期に退職する、ストレスに弱い!?】

組織にとって、成果を生み出す人材を採用し、組織の生命線ともなる人的資源を効果的に活かすことは、組織運営のすべての根本にあるといっても過言ではない。その一方で、さまざまなリスクを抱えたまま人材を採用・育成していくのは、企業の実情として避けたいのと同時に、その見極めで苦慮している実態がある。では、企業におけるさまざまなリスクとは、どのようなことが存在するのか、大別すると大きく3つに分けられる。

退職リスク
過去の高度経済成長期、入社したら定年になるまで会社勤めをする、という年功序列的な組織運営が主流をなしていた時代から、現在では、大きく変化を迎えている。たとえるなら「自身のキャリアを高めるために転職する」ことや、「自身の強みを伸ばせる環境で経験を積みたい」という考えに対し、企業側では、こうした意見を受け入れ、人材を活用し育てていく組織運営が、否応なしに対応せざるを得ない状況になっている。

こうした中、多くの企業の思いを代弁すると、「可能性ある人材を採用した=自社企業で長く活躍してほしい」という本音があるわけで、意図せずして早期に退職してしまうことは避けたい実情がある。特に退職比率は、入社してから3年で3割以内、というのが定説とされる中、その数値を超えないことが、企業人事の大きな任務の一つとなっている実態がある。いわゆる“退職リスク”というものになる。

ヒューマンリスク
また、社会的な問題行動は別として、会社にとってマイナスな言動やパフォーマンスは、 “最小限に留めたいリスク”として掲げ、独自の指標で見極めようと試みている企業がある。例えば、精密さが求められる企業では、ミスを繰り返してしまう人材はなるべく避けよう、接客系の企業では、顧客に対してトラブルを起こさない人材を見極めよう・・など、それぞれの事業領域や業界特有の避けたい指標として掲げ、それらを確認しようとしている。こうした一連の問題を“ヒューマンリスク”といったテーマで捉えている。

メンタルリスク
更に、社会の荒波や苦難などは多少存在するため、厳しい状況下におけるストレスに強い、打たれ強い人材を見極めようと試みている企業も数多く存在する。こうしたプレッシャーを乗り越えられない場合は、“メンタルリスク”として掲げ、どの程度のポテンシャルがあるか、事前に確認していこうといった動きがある。

企業におけるリスクを指標化するには
【事実の輪郭と精度のレベルが重要】

では、こうした企業におけるリスクをどのようにチェックしていくのか、また、そもそもこうしたリスクを事前に予測できるものなのか。さまざまな企業の指標化へのエッセンスを紐解いてみると・・事実を整理し、数値化・言語化する事の重要性が示された。では、先のリスクパターンごとに詳しく内容を見てみよう。

まず “退職リスク”に目を向けたいくつかの企業では、独自に“どのような理由で退職したか”という定性的な情報を、ポジティブな理由とネガティブな理由の二つに区別し、整理していた。具体的には、「レベルアップのために新たな環境に挑む」「起業して独立する」などは、ポジティブな理由とした。一方「人間関係で問題を起こしてしまう」ケースや「仕事に集中せず遅延が目立つ」「言葉数が少なく元気がない」などは、どちらかというと望ましくない理由として整理していた。つまり、後者は企業にとって避けたい退職理由であり、ネガティブな理由がもとで結果として退職に至ることこそ“退職リスク”である、と捉えた。シンプルではあるが、企業にとって避けたい事象を事実として捉え、その指標として設定したい言語の輪郭をクリアにし、定義化をしていくことが肝要となる。

次に “ヒューマンリスク”では、社内で生じている“困りごとは何か“をテーマとして明らかにしている。職種適性による適材適所の配属のため、各職種の“求められる要件”を明示し、いかに適しているかを確認するのと同時に、“これだけは避けたい指標”というものも定めて指標化していった。つまり、職種ごとに避けたいリスクを定め、ネガティブ要素の傾向がどの程度あるのかを判断する指標としていったのである。

その中身を紐解くと、直接顧客と接する業界の場合、“お客様とのいざこざを起こしてしまうのはリスク”といった具合である。その要因の一つ“怒りっぽさ”と “トラブルを起こしてしまった回数”などで実態を捉えるなど、数値による指標化をしていった。また、マニュアルに基づく定型作業を重視する業界では、“ミスを繰り返すのはリスク”と定めた例もある。更に高い精度が求められる業界では“注意散漫なのはリスク”といったように、なるべくこのリスクに該当してしまう人材は注意して対応するなど、企業ごとに指標化をしていった。この場合も“ミスやエラーの内容や回数”を蓄積し、“不安定さ”などの特性データとの関連性と合わせて、レベル設定を行っていった。つまり、これらの共通点からみると、避けたいリスクに対し、どのレベルだと許容できないのか”数値的な限界ラインや精度“を定め、特性データを仮説立てていく、という取り組みが不可欠であると考えられる(図2参照)。

リスクをどう予測するか
【実態と特性の法則を見出していく】

それでは、各々掲げたリスク指標に対し、どう予測していくのか・・その一つの有効な情報源が適性検査に関わる特性情報ということになる。

先の“退職リスク”の解決に向けた一つに、遅刻や欠勤回数の多さが判明したとする。その特有の傾向値を探るために、“人間関係に関わる耐性”や“持続性の欠如”などが仮説特性として掲げ、その適性データの情報をもとに、退職の結果と特性傾向との関係性を探っていったのである。特に “早期とは何日以内か“また“予兆となる遅刻や欠勤は何回か”を明確にし、「半年以内に退職した」「入社3か月で辞めてしまった」被験者の勤務状況を振り返りつつ、大きな要因となる特性の仮説を設定した。ただ、こうしたデータを蓄積しにくい状況にある企業の場合、どのような事がきっかけで体調を崩してしまったのか、出勤状態に変化が生じたのか、関連があった出来事や事実、エピソードなどを改めて振り返ることで、退職までの時間的な経過と退職日までの経緯を整理することが大切である。

同様に、さまざま掲げた“困りごとリスクやトラブル”には、周囲への迷惑行動や衝突・トラブルに至る事象などに対し、こうした現象の裏側には “怒りっぽいリスク=短気な特性、不安定な傾向”などの特性が大きく関わっていることを突き止めていった。つまり、仮説的な指標を設定する際、トラブルの内容や頻度を増す特性や構成する要素を分解し、実態との関係をデータ検証していったのである。

こうした独自の取り組みに対し、すでに多くの適性検査で定められている“耐ストレス”や“メンタル”に関する一般的な指標なども存在する。 “メンタルリスク”に関しては、多くの適性検査において、一定の水準でリスク判定を見極められる標準的な指標が定められており、シンプルにこうした指標を取り入れていく、というのも有効な手段の一つとなる。メンタルに関わるリスク指標でいえば、ある検査では“危機への耐性”、他の検査では“ストレスに関する耐性”などの指標が存在し、その要素が極端に低い、または弱い状態にある場合は、さまざまなプレッシャーに対するリスクが高い状態であることを示している。

このように、指標化した各リスクに対し、予測をしていくプロセスで重要なのは、避けたい行動や事象に対し、レベルや限界点を数値によって精度を定め、その理由は何か、構造は何かをデータや分析等による科学的な検証によって、その法則なるものを追及していくことにある。各々のリスク指標に対し、ある種の法則が導き出されれば、新たな人材がどの程度のリスクを抱えているのか、OKかNGか、一定レベルの予測ができる。つまり、過去に蓄積された事象と特性データとの関係性や構造を明らかにすることで、未来に起こりうる予測が事前にできる、という図式になる。そして、こうしたプロセスを計画・実行・検証を重ねて改善することで、各社が抱える“さまざまなリスク”への予測精度が高まり、より効果的に対応していくことが可能となる(図3参照)。

未来に向けた予測に不可欠なことは
【偏った見方を極力排除し継続的な検証を】

こうした指標を設定し、適切に運用していく際、更に注意しなければならないことは、バイアス(※注1)の存在である。言わば、偏った思い込みや決めつけなど、特有のフィルターで判断してしまうと、そこから抜け出せなくなってしまう、という考え方になる。こうした見方を正しく認識し、極力排除する取り組みと合わせて運用していくことが不可欠である。

そして、各企業におけるリスクは何か、そのレベルは何か、正しく見極めるための準備とは何か・・こうした整理とステップと共に、適性データの有効活用と検証によって、一連のリスクを予測することが可能となる。ただ重要なことは、“完璧な判定を目指す”ことのみを是とするのではなく、“未然に防ぐべき問題に向き合う”ことや、“そのリスクを最小限に抑える”という絶え間ない取り組みであることに他ならない。

人間とは、神秘的で未知のベールに包まれているのは言うまでもない。脳科学や遺伝子の世界でも、直近の研究で数年前までの定説が大きく覆されている、と聞き及ぶ。となると、これからも、日進月歩の変化と進歩がある世の中と、人間世界をどのように捉え、見つめ続けていくか、絶え間ない検証と謙虚な姿勢を持ち続けることが重要ではないだろうか。

以上で今回の適性検査の役割とその活用範囲に関するコラムは一旦終了したい。人の世界は深海より深く、宇宙より広い難題の一つとして捉えている著者としては、今後もこうしたテーマに真摯に向き合いつつ、世のために少しでも役立つ情報を提供・提言していきたいと考えている。

※注1:バイアス・・認知バイアス、アンコンシャスバイアスとも言われ、誤認識や無意識の歪みのこと。偏った思い込みや決めつけで物事を判断してしまおうとすること。脳が効率よく働こうとした結果生じる副次的なバグとも言われている。ハロー効果や近接効果、確証バイアスなど、自己を客観視するためのさまざまなバイアスが存在する。


長瀬 存哉 (ながせ ありか) HRコンサルタント
1970年東京生まれ。大学卒業後、多種多様な業界の業態開発・商品開発に携わり、人の感性と環境・ハードとの間に融和と相乗効果が生まれる世界を見出し、人の可能性や創造性に関する調査・研究活動に取り組む。そこで、心理学・統計学分野のオーソリティに師事。HR分野の課題解決を通して、適性検査や意識調査・行動調査などの診断・サーベイ・アセスメントの設計・開発・監修を行い、その数は数百種類に上る。その後、取締役を経て独立。現在は、各企業やHRテクノロジーに関するコンサルティング・研修・講演活動を通して、HRの科学的なアプローチによる課題解決に取り組んでいる。

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