マイナビ キャリアリサーチLab

ミドルシニアの人生100年に対する備えと関心

栗田 卓也
著者
キャリアリサーチLab所長
TAKUYA KURITA

前年から今年にかけて厚生労働省が国民年金(基礎年金)の保険料支払期間を現在の40年間(20歳以上60歳未満)から5年延長させ、64歳までとする方向で検討を開始したという報道などにあるように、社会的にシニア層の労働市場への継続参加要請は高まっている。

背景には労働人口減少による人手不足の解消や年金を含めた財政の財源不足といった社会課題などがあるが、「人生100年」と言われている昨今、これからシニア世代に移行するミドルシニア世代の社会人は、老後も働くことをどのようにとらえているのだろうか。

改めて今回40代以上のミドルシニア層の方々がこれからのライフキャリアについてどのように考え、今後の準備をどの程度行っているのかを把握するため、新たな調査を実施した。対象は40~65歳までの正社員男女1,250名で、人生100年に対する考え方に関して調査結果を報告していく。

人生100年時代をどうとらえているのか

ポジティブ・ネガティブで比較 

まず初めに「人生100年」をどのようにとらえているのか確認してみたい。人生100年をポジティブなものとしてとらえているかネガティブにとらえているかを聞いてみた。結果、ポジティブ派が49.6%に対し、ネガティブ派が50.4%とほぼ真っ二つに意見が分かれる結果となっている。

性別や地域別ではあまり大きな差はみられなかったが年代構成で比較してみると61~65歳においてポジティブに考える割合が高い。このあたりは定年若しくは年金受給が現実的になり、老後の夢が膨らみやすい時期なのだと推測される。【図1】

【図1】左:人生100年時代と聞いて今後のご自分の人生を「ポジティブにとらえている」 右:ポジティブ・ネガティブ別年代構成/人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【図1】左:人生100年時代と聞いて今後のご自分の人生を「ポジティブにとらえている」 右:ポジティブ・ネガティブ別年代構成/人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)

それ以外のポジティブ派の特徴としては、過去に管理職経験を持つ割合が高いことや、現在の年収が比較的高いといった特徴があり、これまでのキャリア形成で一定の成果を得られたと認識している人が多い傾向がみられた。

感情で比較

続いて「人生100年」を喜怒哀楽の感情としてどのようにとらえているか聞いてみた結果、「喜ばしい」(45.6%)や「楽しそう」(42.3%)といった感情は割合としては4割程度だが、「悲しくなる」(29.2%)や「腹立たしい」(20.3%)といった感情をもつ割合が2~3割であることと比較すれば、悪い印象を持つ人は少なく、一定割合ポジティブな印象でとらえている人が多いといえる。

但し、「不安・憂鬱になる」は50.7%と半数を超えており、まだ見えぬ先の人生に一定の不安を抱えていることが見て取れる。これを年代別に見ると40~55歳の年代で半数を超えており、人生100年と聞いて自分たちの世代がどのような環境になるのか先の見えない不安感情が表れていると推察される。

性別では女性が56.6%で男性の46.8%と10pt近い差がみられるなど、金銭的な課題を含め、不安や憂鬱を感じやすい傾向があるようだ。また「やりたいことができそう」とする回答もほぼ半数の44.9%存在するので、楽しみと不安が入り混じる印象を抱いていることがわかる。【図2】

【図2】人生100年と聞いて今後のご自分の人生/人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【図2】人生100年と聞いて今後のご自分の人生/人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)

以上のように、改めて人生100年に対して、40代以上の正社員は期待と不安が入り混じった感情でとらえていることがわかった。また大多数の企業が定年と設定している60歳を超えると、将来をポジティブにとらえる傾向にあることもみえてきた。ではこれらの年代の人々が人生100年に対して、どのような準備をしているのか確認してみたい。

人生100年への備えは「健康」と「お金」への関心が高い

人生100年時代に準備していること

人生100年に備えて現在準備をしていることを確認したところ、「何もしてない」とする排他選択が31.6%だったので、約7割(68.4%)の人は何らかの行動を起こしているという結果となった。年代別に大きな差はみられなかったが、性別では女性の方が72.4%と男性の65.7%より準備を進めている割合が高かった。

備えに関しては幅広く7項目21選択肢で聞いているが、項目別に見ると「健康」と「お金」に関する準備を進めていることがわかった。「健康」に関しては「健康のために食に気を付けた活動」や「体力づくりのための活動」など、女性や61‐65歳で特徴的に高くなるので、定年後に向けて食事や体力づくりに気をかける機会が増えていると思われる。

また56~65歳で「趣味や地域活動など、仕事以外のコミュニティへの参加」が目立って高い。定年を前に、定年後の自分の居場所を求めて、新たなコミュニティへの参加を意識的に行っている姿が思い浮かぶ。コミュニティに関しては「つむぐキャリア」の議論の中でも度々出てきたが、職場以外の居場所を確保する意味で、重要な要素となっている。

さらにお金に関する準備では女性の方が貯蓄や投資など、積極的な印象を受ける。年代別にみると41~45歳で投資に関する準備の割合が高く、早くから将来への経済的不安を取り除くため、資産形成を進めているようだ。【図3】

【図3】人生100年に備えて現在実施している事/人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【図3】人生100年に備えて現在実施している事/人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)

人生100年時代に向けて必要だと思うこと

同じ選択肢で「将来に向けて必要だと思う事」を聞いてみたところ、同じ「健康」と「お金」に関する項目が多く挙げられた。

これを現在実施している事との差分を詳細な選択肢で比較してみると、「体力づくりのための活動」(+8.7pt)や「趣味や地域活動など、仕事以外のコミュニティへの参加」(+7.4pt)、「心の健康を維持するための活動」(+7.4pt)、「これからのお金に関する相談」(+7.3pt)などが、現在実施している事より7pt以上高くなっており、将来必要だと認識しているものの、現時点ではできていない項目となっている。

また、「副業や兼業」(+6.6pt)といった働き方の選択肢の幅を広げることにも関心がありそうな選択肢も上位に挙げられている。【図4】

【図4】人生100年に備えて将来に向けて必要だと思う事/人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【図4】人生100年に備えて将来に向けて必要だと思う事/人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)

まとめ

個人的にも今年56歳となる自分の将来を検討する上で、「健康」や「お金」に関して考えることが多い。また、定年後にどのようなコミュニティに参加するのかも悩ましい問題だ。以前に読んだロバート・ウォールディンガーの「グッド・ライフ-幸せになるのに、遅すぎることはない」という書籍において、1938年にスタートしたハーバード成人発達研究の紹介がなされていた。

その研究によると、喜びに満ちた人生を送るための条件として必要なものは社会的成功や運動習慣、健康的な食生活という要素も重要だが、もっとも重要なのが「良好な人間関係」で、中でも「他者との交流の頻度と質」こそ、幸福の二大予測因子だと結論付けていた。

如何にお金を持っていようと、有り余る自由な時間を有していようと、良好な人間関係を維持し続けなければ、幸福にはなれないという研究成果が示されていたのが興味深い。その点からも、充実した老後のキャリアを過ごしていくために、これまで積み重ねてきた人間関係に加え、定年後のコミュニティの在り方や今後の友人交流の在り方などもしっかり検討していくことも重要になるだろう。

私自身もこれまでのコミュニティとの関係を維持できる働き方やさまざまな趣味のコミュニティに飛び込んでみるなど、試行錯誤している最中である。とはいえ、33年も同じ会社で働いていれば、人間関係も会社の仲間や業務上お付き合いのあった方々中心になっているのは否めない。そんな環境にある自分個人のこの先のキャリアの選択肢としては、体力に無理のない範囲で働き続ける方が身体的にも金銭的にも人間関係的にも良好な状態を維持できるのではないかと考えている。

但し、これはあくまでも私個人の意見である。実際にシニアの方々が今後も労働を継続する意思があるのか、また働く上でどのように考えているのかも今回調査しているので、次回のコラムで紹介していきたい。

キャリアリサーチLab所長 栗田 卓也

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