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ミドルシニアの老後キャリアの希望とお金の現実

栗田 卓也
著者
キャリアリサーチLab所長
TAKUYA KURITA

前回のコラムでミドルシニア世代と一部シニア世代も含む40~65歳の正社員が、人生100年時代を期待と不安がないまぜになった心境で捉え、それに対する備えとして、7割近い人は「お金」や「健康」を中心に、何らかの準備を進めているという調査結果を紹介した。

当該調査においては、何歳まで働きたいかや就業形態、年収などについても聞いている。そこで今回は他の調査結果を含め、老後キャリアの希望イメージを紹介してみたい。

何歳まで働きたいか

まず初めに「人生で何歳まで働きたいか」を確認してみた結果、平均は65.7歳と、高年齢者雇用安定法で規定されている「希望者は原則65歳まで継続して就労」が義務化されている年齢までは働く意思が示される結果となった。また、66歳以降も働き続けたいと回答している割合は35.3%となり、3割強の人は老後も何らかの形で働き続けたいと考えていることがわかった。【表1】【図1】

【表1】何歳まで働きたいと思うか/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【表1】何歳まで働きたいと思うか/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【図1】何歳まで働きたいと思うか/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【図1】何歳まで働きたいと思うか/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)

ちなみに厚生労働省の「令和5年高年齢者雇用状況等報告」では、65歳まで何らかの雇用措置を講じている企業の割合は99.9%とほぼすべての企業で義務化に対応した状況となっている。但し、継続雇用制度の導入が69.2%で大多数の企業ではここで正社員から契約社員などに雇用形態が変わり、年収も落ちるケースがほとんどだ。

これが70歳になると何らかの雇用措置を講じている企業の割合は29.7%と、途端に厳しくなっているのが現状だ。65歳以上になると4人に3人は非正規雇用となっており、その状況を三輪研究員がまとめたコラムがあるのでそちらを参照頂きたい。近年、大手企業中心に定年制度の廃止などがニュースになるが、まだまた道半ばといったところだろう。

この就労希望年齢を年代別や性別で比較しても平均年齢にあまり大きな差はみられないが、回答年齢を分布図にしてみると、70歳や75歳・80歳など、一定の区切りの年齢で回答している人達が一定数確認できる。

66歳以上も働くとしている人のグループ属性を確認してみると、現在の年収がやや低く、継続して収入を得る必要がある人の割合が若干高い傾向がみられた。そこで次に、それぞれが回答した年齢まで働く理由を自由記述で回答してもらったテキストについて、いくつかのグループに分けて分析した結果を紹介したい。

年代によって働く理由に違い

ビックワードは「定年」と「年金」

各回答年齢まで働く理由を自由記述で回答してもらった結果を、共起ネットワーク分析※にかけてみた。

その結果、「定年」と「年金」というワードと共に、「体力の限界」や「住宅ローン」といったお金や健康に関する回答が多くみられた。一方で、定年後は自由な時間の中で、体力とお金が許す範囲で、趣味や人生を楽しむといったポジティブな回答もみられた。【図2】
※共起ネットワーク分析とは:テキストやデータの中で特定の単語やフレーズが一緒に現れる頻度やパターンを分析する手法。頻度の高い単語は円のサイズが大きくなる。

【図2】共起ネットワーク分析図/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【図2】共起ネットワーク分析図/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)

希望年齢別の理由比較

ここからは、人生でいくつまで働きたいかの自由記述回答を「60歳までの早期リタイア希望組(307名)」と「61‐65歳定年まで働く組(501名)」「66歳以上も継続組(442名)」の3つのグループに分けて分析してみた。【図3】

【図3】共起ネットワーク分析図/60歳までの早期リタイア希望組307名(40代185名 50代122名 60代0名)/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)

【図3】共起ネットワーク分析図/60歳までの早期リタイア希望組307名(40代185名 50代122名 60代0名)/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)

まず「60歳までの早期リタイア希望組」は「体力の限界」や「早く辞めたい」などといった現状逃避行型がいる一方で、FIREや早期リタイアで人生を楽しみたいなどポジティブな意見も多い傾向がみられた。実際にこのグループは年収がやや高めで、役職経験の割合も高いことから、一定の成功体験を持って早めに自由な時間を作りたいという意向がありそうだ。

続いて「61ー65歳定年まで働く組」のコメントを分析すると定年や年金を前提としたコメントが多い傾向がみられ、65歳の年金受給開始年齢までは雇用継続が可能な職場でしっかり働きたいという意向がみられた。このグループは配偶者や扶養家族が一定割合を占める為、働けるうちはしっかり稼ぎたいということだろう。【図4】

【図4】共起ネットワーク分析図/61‐65歳定年まで働く組501名(40代162名 50代233名 60代106名)/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【図4】共起ネットワーク分析図/61‐65歳定年まで働く組501名(40代162名 50代233名 60代106名)/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)

最後に「66歳以上も継続組」を見てみると、働くに付随して健康や体力の限界といった身体的な厳しさを表すワードや「住宅ローン」「年金の不安」といった資金の不安に関するコメントが多くみられた。

実際に現在の年収ベースがやや低い傾向にある。これは60歳以降に再雇用で年収が落ちているとも考えられるが、コメントと併せて考えると、暫くはお金の為に働くという選択をしている可能性が高い。【図5】

【図5】共起ネットワーク分析図/66歳以上も継続組442名(40代153名 50代145名 60代144名)/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【図5】共起ネットワーク分析図/66歳以上も継続組442名(40代153名 50代145名 60代144名)/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)

また数は少ないが、「生きがい」や「社会との関係」を持つというワードも表れており、働くことに別の意義を感じている人が存在していることも見えてきた。以上のように、人生でいくつまで働くかの理由を個別に分析してみたが、ある程度希望年齢によって、働く理由に差があることがわかった。では続いて、定年後も働くとしたらどのような雇用形態で働きたいかを確認してみよう。

希望は正社員だが許容できる範囲では契約やアルバイトも

就業形態の希望

同じ調査対象者に「老後に働き続けるとした場合、どのような就業形態で働きたいと思うか」を希望の就業形態を単一回答で、許容できる就業形態を複数回答で聞いてみた。結果、「いずれの就業形態でも働きたくない」と回答したのが5.9%と少数だった一方、大多数(94.1%)は働き続けることにいずれか検討できる状況にあることがわかった。

希望する働き方としては「正社員(フルタイム)」が58.5%でもっとも高くなった。許容できる就業形態では「正社員(フルタイム)」の73.0%がトップだが、「アルバイト・パートタイム」の24.1%や「契約社員」の23.6%など、4人に1人が正社員以外の就業形態を許容しており、比較的柔軟に考える姿勢がみられた。

年代別の希望

年代別に見ると61~65歳の年代で就業形態の幅が幅が広がっており、正社員として働くことが難しい現状を理解して、柔軟な姿勢に変わっていることがわかる。また、過去に部長以上の職務経験のある人は「業務委託・フリーランス」や「起業・独立・自営」など、自らの経験やスキルを活かした働き方にも検討できる割合が他より高い。【図6】【表2】

【図6】定年後も働く場合の希望就業形態と許容できる就業形態/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【図6】定年後も働く場合の希望就業形態と許容できる就業形態/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【表2】定年後も働く場合の希望就業形態と許容できる就業形態/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【表2】定年後も働く場合の希望就業形態と許容できる就業形態/出典:人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)

シニアの働き方の一つの方法として、固有の経験やスキル、人脈を有する人は、自律的な働き方も選択肢に入れられる可能性も示されている。

希望年収は現在の年収より低め

定年後の希望年収

雇用形態に続いて年収についても、現在の年収と定年後の希望年収を50万円単位で聞いている。今回は、現在年収と定年後希望年収両方に回答してくれた1,008名で集計した結果、現在年収750万円以上が32.4%、400万円~750万円未満が35.9%、400万円未満が31.6%と、一般的な年収より高めの構成となっている。【図7】

【図7】現在年収と定年後希望年収/人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)
【図7】現在年収と定年後希望年収/人生100年時代のシニアキャリアに関する調査(2024年4月調査)

そもそも正社員の40~65歳の平均年収を厚生労働省の令和5年賃金構造基本統計調査で集計すると612.4万円となっており、正社員全年齢の544.9万円より67万円ほど高くなっていることから、本調査の分布はある程度現状に近い割合を示しているといえるだろう。

同じ回答者に定年後の希望年収を聞いてみた結果として、現在年収750万円以上が32.4%→22.4%に、400万円~750万円未満が35.9%→36.1%に、400万円未満が31.6%→41.5%と、現在の年収を下回る金額帯の回答が10ptほど増えている。

定年後は雇用形態が変わることを認識して低めの希望年収を記載している可能性もあるが、同時に年収が多少下がったとしても年金を加算すれば大丈夫だと考える人も一定数存在するようだ。実際に、現在年収が400万円~750万円未満の453名のうち、23.0%の人は年収が400万円未満で良いと回答している。

但し、中長期的に考えると、現在の年金額が得られるかどうか怪しくなっているし、人生100年で考えると以前金融庁のレポートとして話題になった「老後資金が2,000千万円必要」という事を基準として考えると、心もとない状況も考えられる。そこで現在のシニア層のお金の現実を整理してみよう。

定年後も6割近い人は働く必要がありそう

65歳以上の世帯貯蓄額

まず、世帯貯蓄を総務省統計局の令和5年家計調査年報で世帯主が65歳以上の世帯貯蓄額平均を見ると2,462万円と一見裕福そうに見えるが、これを中央値で見ると1,602万円となり、貯蓄分布で見ると、約6割(58.9%)の世帯は貯蓄2,000万円以下となる。

更には単身世帯や貯蓄0円の世帯も含めて考えると、先ほどの「老後資金として2,000万円」を一つの基準として考えた場合、6割以上の人は定年後も生活の為に働く必要がありそうな状況となっている。このあたりは以前に執筆した「シニア雇用の現状とお金事情~働く必要がありそうな高齢者は6割?~」に記載している。

【図8】世帯主が65歳以上の世帯の貯蓄現在高階級別世帯分布/出典:令和5年家計調査年報  (総務省統計局)
【図8】世帯主が65歳以上の世帯の貯蓄現在高階級別世帯分布/出典:令和5年家計調査年報  (総務省統計局)

年金だけで生活を維持できるか

また、シニア層にとって年金だけで生活を維持できるかといえば、決して安泰といえる状況ではない。厚生労働省の厚生年金保険・国民年金事業年報で令和4年度の平均年金支給額(基礎年金含む)を確認してみると65歳で月額20万1,574円(単純計算で年間241.9万円)になるが、現在の物価上昇率を考慮すると心もとない金額だ。

生命保険文化センターの生活保障に関する調査によると、老後に夫婦二人で暮らしていく際の最低生活費が月額平均23万2,000円(単純計算で年間278.4万円)としている。先の年金収入と比較すると年間36.5万円の不足となり、人生100年と考えると35年で1,277万円貯金を切り崩すことになる。

これは最低限の日常生活をする上で必要としているので、家の修繕や病気、介護施設費用などは別途考える必要がある。年金の財源に関しても、賦課方式による積立金が不足する予測の元、国民年金支払期間を60歳から65歳に引き上げや、一定の所得がある人の保険料負担増加、パートアルバイトなどの加入対象者拡大といったさまざまな施策が議論されるなど、高齢者の金銭的負担が増える前提の議論がなされている。いずれにせよ、定年後はのんびり年金生活というのは、今や幻想になりつつあることは確かなようだ。

まとめ

老後はのんびり年金生活が難しいとなった場合、よく記事として紹介されているのは資産運用や投資、生活の見直しによる節約術などに関する内容が多いように感じる。無論、これらの検討は大事ではあるが、同時に「働き続ける」という選択肢も、重要な要素だと考える。

先の、老後でも働き続ける場合という設問では94.1%の人が働くことを許容しており、多少年収が下がっても多様な雇用形態で働くことをぼんやりとは視野に入れていることもわかった。
であれば、より良い老後の働き方を早いうちに検討しはじめ、自分のセカンドキャリアをどうデザインするかの準備を始めておくことが重要になるであろう。

たとえば、専門的スキルを活かしてリモートワークで収益を得つつ、田舎に終の棲家を検討するなら、早めに自分のスキルや経験の洗い直しや市場価値の確認、更には移住先の検討や長期のマネープランも作成しておく方が良い。

また、新たな市場価値に対応する準備を進めるというのも、有効な手段だ。これまでリスキリングなどの調査をすると、年代が高くなるほどリスキリングの意向が下がる傾向にあった。その背景には「今更リスキリングしても、実用期間が短い」という考えが根底にあったが、細く長くでも仕事を続けるという考え方に変われば、将来を見越して今一度自分のスキルアップに時間と労力をかけるという選択肢も見えてくる。

次回はそのあたりの老後のリスキリングの意向や、これまでの知識やスキル・経験の市場価値に関するデータを紹介すると共に、どのような準備を行っていくと良いのか記載してみたい。

キャリアリサーチLab所長 栗田 卓也

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