【キャリアリサーチLab研究員が検証】生成AIでエントリーシートは書けるのか?
目次
学生の生成AI利用について
身近となった生成AI
前回のコラムにて2024年卒から2025年卒の採用にかけて学生や企業の生成AIに関する調査結果を紹介したが、この1年間で学生は生成AIを利用することが身近になっており、就職活動にも活用している割合が増えていた。また、企業も学生が就職活動で生成AIを活用することに関しては肯定的な見解が増えていた。
今回のコラムでは就職活動における学生の生成AI利用についてさらに深掘りをしていく。
就職活動における学生の生成AIの利用はどのようなものか
学生は就職活動でどのように生成AIを利用しているのだろうか。
エントリーシート作成のための利用
マイナビの調査にて学生の就職活動における生成AIの利用内容を聞いたところ、もっとも多かったのはエントリーシートの推敲(56.6%)で、続いてエントリーシートの作成(41.7%)という結果になった。【図1】
テキストに関する利用が多くあげられたが、エントリーシートのWEB入力が当たり前となった昨今において、生成AIのテキスト生成は相性が良いのだろう。
実際にどのようなプロンプト(生成AIに指示を出す命令文)を利用しているかを調査したところ、まわりで流行っているプロンプトや有用だと感じたプロンプトについて下記のような回答が得られた。【表1】
学生が生成AIを活用することへの企業側の懸念
2024年6月に行った企業への調査にて、学生が就職活動において生成系AIを活用することに対しての考えを聞いたところ「活用してほしい」という回答が57.7%と前向きな見解が半数を超える結果となった。
しかし、その内の52.7%は「使い方を慎重に検討したうえで活用してほしいと思う」というように全面的に肯定というよりは、一定のリテラシーの元に活用してほしいという回答であった。【図2】
また、2023年に行った同調査で「就職活動には利用しない方が良いと思う」と回答した企業の理由には「面接時に記入してあることと辻褄が合わないことをいってしまう恐れがある」「就活を生成AIに完全に委ねることには反対」といった声があげられた。【表2】
企業が懸念していることはエントリーシートなどで記入された内容と面接で話す内容に齟齬がでてしまうことだ。そのため、本コラムでは学生から得たプロンプトを実際に利用してエントリーシートを作成し、企業の懸念について問題がないか検討を行う。
研究員が実際に生成AIでエントリーシートを作成
作成するための設定について
エントリーシートといっても企業によって内容はさまざまである。今回は汎用性の高い自己PR文章(400文字程度)を作成する過程をみていくとする。また、生成AIを利用するにあたり、事前に利用する架空の学生の人柄とその学生が受ける企業の設定を決めておく。【図3】
生成AIに入力するプロンプトは表2より抜粋した。【表3】
流れとしては、まず人物像をアウトプットさせる。その際に強みと弱みとなるポイントもアウトプットしてもらい、その内容を元に文章を生成してもらう。その後、生成された文章を生成AIに読み込ませて不足等を確認し、最後に生成AIを企業の面接官と見立てて、文章を採点してもらう。
また、今回のコラムでは下記の生成AIを利用した。
- 利用生成AI:JAPAN AI CHAT
- モデル:GPT-4o mini
生成AIで人物像や強み・弱みをアウトプット
まず、自己PR文章を作成するために人物像を生成AIにアウトプットさせる。(入力したプロンプトの内容は架空の学生の設定から著者が作成したものである。)
■入力したプロンプト
下記の内容の人はどんな人物だと思われますか。
サークルリーダーとしてサークルの方針会議の出席率をあげたことがある。月に1回サークルのスケジュールや今後の方針を考える会議があるが出席率が低かったため、サークルのメンバー一人ひとりに声をかけ、その率をあげることに注力した。
半年間の留学では言葉が通じない中でもたくさんの授業を受けることで多くを学び、さらには授業を通じて友達を作った。
■アウトプットされた生成AIの回答
この人物は、リーダーシップやコミュニケーション能力に優れた人だと思われます。サークルの方針会議の出席率を上げるために、メンバー一人ひとりに声をかけるという行動は、責任感や人間関係を大切にする姿勢を示しています。また、留学中に言葉の壁を乗り越えて多くの授業を受け、友達を作った経験からも、柔軟性や適応力、そして学ぶ意欲が高いことが伺えます。全体として、積極的で協力的な性格を持ち、周囲との関係を大切にする人物像が浮かび上がります。
他者からみた人物像として責任感があり、人間関係を大切にする人物といった回答が得られた。その他には、リーダーシップやコミュニケーション能力に優れ、学ぶ意欲が高いこともあげられた。こういった点は強みともいえるので、次は弱みについて質問をした。
■入力したプロンプト
ではこの人の弱みはなんだと思いますか。
■アウトプットされた生成AIの回答
この人物の弱みとして考えられる点はいくつかあります。
・過度な責任感: メンバー一人ひとりに声をかけるという行動は素晴らしいですが、過度な責任感から自分一人で全てすべてを背負い込んでしまう可能性があります。これがストレスや burnout の原因になることもあります。
・コミュニケーションの負担: 多くのメンバーに声をかけることは、時間やエネルギーを要するため、他の業務や活動に支障をきたすことがあるかもしれません。
・言葉の壁: 留学中に言葉が通じない中で学んだ経験は貴重ですが、言語の壁がある環境では、コミュニケーションが難しくなることがあるため、特に新しい環境や人間関係においては不安を感じることがあるかもしれません。
・完璧主義: サークルの出席率を上げるあげるために尽力する姿勢は素晴らしいですが、完璧を求めすぎるあまり、他のメンバーに対して過剰な期待を抱くことがあるかもしれません。
これらの点は、彼の強みと同時に弱みとして働く可能性があるため、バランスを取ることが重要です。
以上から「リーダーシップ」「コミュニケーション能力の高さ」「責任感」「学ぶ意欲」「柔軟性」を強みとする。また、弱みとしては「過度な責任感」「コミュニケーションの負担」「完璧主義」とする。
自己PR文章を生成
次に上記であげられた人物像を使って、自己PR文を作成するようにプロンプトを入力する。
■入力したプロンプト
あなたは大学4年生で就職活動中です。下記の情報を使って希望している企業へ提出するための自己PR文(400文字程度)を書いてください。
・強み:「リーダーシップ」「コミュニケーション能力の高さ」「責任感」「学ぶ意欲」「柔軟性」
サークルリーダーとしてサークルの会議の出席率をあげるために一人ひとりに声をかけ、出席率をあげた。また、留学では多くの授業に参加することで学び、友達を作った。
・弱み:「過度な責任感」「コミュニケーションの負担」「完璧主義」
■アウトプットされた生成AIの回答
私は大学4年生で、リーダーシップやコミュニケーション能力を活かして、サークル活動においてメンバーの出席率を向上させることに成功しました。具体的には、サークルの会議に参加しないメンバーに一人ひとり声をかけ、出席の重要性を伝えることで、出席率を大幅に改善しました。この経験を通じて、相手の立場に立ったコミュニケーションの大切さを学びました。
また、留学経験も私の成長に大きく寄与しています。多くの授業に参加し、異文化の中で学ぶことで視野を広げ、さまざまなバックグラウンドを持つ友人を作ることができました。このような経験から、柔軟性や学ぶ意欲が身につきました。
一方で、過度な責任感や完璧主義が私の弱みでもあります。これにより、時にはコミュニケーションに負担を感じることもありますが、自己改善に努め、チーム全体の成果を重視する姿勢を大切にしています。貴社での仕事を通じて、さらに成長し、貢献できる人材を目指します。
このように入力した強みや弱みの言葉を使用した文章が生成された。しかし、「この経験を通じて、相手の立場に立ったコミュニケーションの大切さを学びました。」といった入力していない情報が記載されていた。生成AIの文章生成については学習データからそれらしい言い回しや文章をつなげているケースが多い。
そのため、情報として与えられていなくとも、プロンプト内にある言葉から類推し、文章化される場合がある。こういった、意図しない文章の生成については注意が必要であるといえる。また、使われている「コミュニケーションの負担」という言葉はプロンプト内での説明が足らず、本来とは異なる意味で文章に組み込まれていた。
生成された文章の不足を確認してもらう
次に生成された文章に不足がないか生成AIに確認してもらう。
■入力したプロンプト
あなたは企業の人事を担当しています。以下のエントリーシートで、不足している情報や理解ができない内容などがあれば教えてください。
※エントリーシートの内容は上記でアウトプットされたものを入力した
■アウトプットされた生成AIの回答
エントリーシートの内容は全体的に良いですが、以下の点についてもう少し具体的な情報や説明があると、より説得力が増すと思います。
・具体的な成果: 出席率を「大幅に改善」と述べていますが、具体的な数字や割合を示すと、成果がより明確になります。例えば、「出席率を〇〇%から〇〇%に向上させた」といった具体的なデータがあると良いでしょう。
・リーダーシップの具体例: リーダーシップやコミュニケーション能力を活かした具体的なエピソードや行動について、もう少し詳しく説明すると良いです。どのようなアプローチを取ったのか、どのような課題があったのかなど、具体的な状況を示すことで、あなたの能力がより伝わります。
・留学経験の詳細: 留学経験について、どの国に行ったのか、どのような授業を受けたのか、具体的なエピソードがあると、異文化理解や柔軟性の具体的な証拠になります。また、友人との交流でどのようなことを学んだのかも具体的に述べると良いでしょう。
・弱みの克服方法: 過度な責任感や完璧主義が弱みであると述べていますが、それに対してどのように自己改善に努めているのか、具体的な方法や取り組みを示すと、自己理解と成長意欲が伝わります。
貢献の具体性: 「貴社での仕事を通じて、さらに成長し、貢献できる人材を目指します」とありますが、具体的にどのような形で貢献したいのか、貴社のどのような部分に興味があるのかを示すと、より具体的な意欲が伝わります。
これらの点を考慮して、エントリーシートを見直してみると、より強い印象を与えることができると思います。
これらの内容に従って自己PRを以下のように修正した。
私は大学4年生で、リーダーシップやコミュニケーション能力を活かして、サークル活動においてメンバーの出席率を40%から70%に向上させることに成功しました。出席率の低い理由はどのようなことが会議で話されているのかを知らず、他の予定を優先するためでした。そのため、サークルの会議に参加しないメンバーに一人ひとり声をかけ、出席の重要性を伝えることで出席率を向上させました。この経験を通じて、相手の立場に立ったコミュニケーションの大切さを学びました。
また、カナダへの留学経験も私の成長に大きく寄与しています。他の人の倍以上の授業に参加し、異文化の中で学ぶことで視野を広げ、さまざまなバックグラウンドを持つ友人を作ることができました。このような経験から、柔軟性や学ぶ意欲が身につきました。
一方で、過度な責任感や完璧主義が私の弱みでもあります。そのため、一人で抱え込まず誰かを巻き込むことを意識し、チーム全体の成果を重視する姿勢を大切にしています。貴社では、これらの経験で培ったリーダーシップやコミュニケーション能力を用いて貢献できる人材を目指します。
自己PR文章を採点
最後に上記で作成した自己PRを生成AIに採点してもらう。
■入力したプロンプト
あなたは○○社の面接官です。○○社は挑戦、多様性という価値観を大事にしており、近年はディーセントワークを推進する活動をしています。これらを踏まえて、以下のESを100点満点で採点してください。
■アウトプットされた生成AIの回答
このエントリーシート(ES)は、リーダーシップやコミュニケーション能力を具体的な経験を通じて示しており、貴社の価値観やディーセントワークの推進に関連する要素も含まれています。以下のポイントを考慮して採点します。
ポジティブな点
具体的な成果: サークル活動での出席率を40%から70%に向上させた具体的な数字が示されており、成果が明確です。
・コミュニケーション能力: メンバー一人ひとりに声をかけたことが、相手の立場に立ったコミュニケーションの重要性を示しています。
・留学経験: 異文化での学びや友人作りを通じて得た柔軟性や学ぶ意欲は、グローバルな視点を持つ貴社にとってプラスです。
・自己認識: 自身の弱みを理解し、改善策を講じている点は、自己成長に対する意識の高さを示しています。
改善点
・貴社との関連性: 貴社の具体的な価値観やディーセントワークの推進にどのように貢献できるか、もう少し具体的に述べると良いでしょう。
・エピソードの深掘り: サークル活動や留学経験について、もう少し具体的なエピソードや学びを深掘りすると、より説得力が増します。
総合評価
全体として、具体的な成果や自己認識がしっかりしており、貴社に対する貢献意欲も感じられます。改善点を踏まえつつ、貴社の価値観により強く結びつけることができれば、さらに良い内容になるでしょう。
得点: 85点/100点
ただ単に評価点をつけるのではなくポジティブな点や改善点などの情報も一緒にアウトプットされた結果となった。
実際に生成AIを使ってエントリーシートを書いてみた結果
生成AIで文章を生成するためには
今回、架空の学生の設定を元に生成AIでエントリーシートに記載するための自己PR文を作成した。人物像を生成AIにアウトプットさせる際にはこれまでどういったことを行ってきたのかという過去の行動について考える必要があり、実際の学生も何の準備もなく生成AIを利用するという訳ではなく、過去の行動の振り返りや自己分析を行ってから利用していることが想定できる。
また、文章を作成にするにあたり今回は何度か生成AIとやりとりをしたがさまざまな角度から文章を生成してもらうことでより具体的な文章にすることができた。文章の生成という場合では何度かやりとりをすることが望ましいだろう。
その一方で生成AIに人物像などをアウトプットしてもらうことで今まで強みだと意識していなかったものが自分の強みであると新たにわかることもあるかもしれない。
生成AIを利用する際の注意点
利用する際には必ず生成された文章が事実と相違ないかを確認する必要があると感じた。そして、最終的な目的は文章を読んだ人に自分がどういった人物であるかを知ってもらうことである。そのためにはアウトプットされた文章をそのまま利用するのではなく一部でも表現を変えるなどをして「自分らしさ」が伝わるようにすることが大切である。
最後に
企業の懸念について
アウトプットは数分で完了するものの、より完成度の高い文章を作成しようとすればある程度の試行錯誤が必要であることがわかった。そのため、企業の懸念とされる「エントリーシートなどで記入された内容と面接で話す内容に齟齬がでてしまう」という点においては、このような試行錯誤が行われている文章であれば齟齬はないだろう。
今後は生成AIを当たり前のように活用する“生成AIネイティブ”な学生が増えてくる。その時には、手書きが当たり前であったエントリーシート記入がWEB入力に代わったように生成AIを用いてエントリーシートを作成することが当たり前になるかもしれない。重要なのは技術の発展を受け入れ、適切に活用するスキルだと考える。
マイナビキャリアリサーチLab 研究員 中島英里香