スポットワークで働く上での注意点~現在の日雇い派遣と比較~
目次
幅広い層で関心が高まるスポットワーク
2025年卒を対象にしたマイナビの調査によると、大学生の4人に1人以上(25.4%)が、スポットワーカーに「興味がある」と回答するなど、近年スポットワークという働き方が注目を集めている。【図1】
スポットワークとは
スポットワークとは、1時間~数時間単位で働く、1回限りのアルバイトのことである。 雇用の流れとしては、まず企業や店舗が、人手がほしい時間帯にピンポイントで求人を出し、その求人をみた求職者が、自分の空き時間(すきま)に働ける仕事を選び、応募する。
企業や店舗は、雇用開始前に面接等を実施せず、webやアプリ上の登録情報をもとに短期雇用するか決め、労働者と直接雇用契約を結ぶというフローだ。
スポットワークサービスを展開する企業(アプリ運営元)では、同じ雇用先で働ける時間や回数に上限があり、労働者が社会保険の加入対象とならないように、労働時間や日数を制限しているケースも多い。
スポットワークに関心が高まる背景
すきま時間で働ける「スポットワーク」に注目が集まる背景として、2018年に厚生労働省が「副業・兼業は新たな技術開発や起業の手段、労働者自身のキャリア形成に繋がる方法として有効である」として、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の「モデル就業規則」上で副業禁止の規定を削除したことを機に、副業を解禁する企業が増えたことも影響しているのではないだろうか。
少子高齢化により労働力人口が減少する中、生活のすきま時間で働けるスポットワークは労働力を求める企業に重宝されるだろう。また、日常のすきま時間を活用して働けることは、働き方の多様性を広げ、これまで労働市場に参加できなかった層に対しても、「3時間だけ」「1日だけ」というような超単発的な働き方を通して、労働参加できる環境をつくったともいえる。
しかし「過去、似たような働き方はなかったのだろうか?」と考えると真っ先に「日雇い派遣」が思い浮かぶ。本コラムでは、スポットワークについて企業と労働者の現状を紹介し、それぞれが思うメリット・デメリットについて触れていく。
そのうえで「日雇い派遣」がどういった働き方なのか、また現在はどうなっているのか?を確認し、スポットワークとの働き方を比較することで今後の活用方法への注意点なども示していく。
スポットワークの状況
企業の採用状況
今回は、スポットワークの採用経験有無と現在の採用状況について、「非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2024年5-6月)」を使って説明する。
本調査は、2024年7月1-10日の期間で調査を実施しており、調査対象は、直近2カ月以内に採用活動を行った、または新規採用を行った企業(従業員10名以上)に所属している全国の経営者・役員または自社の採用方針を把握している会社員である。(サンプル数:887人)
対象者のうち、1度以上スポットワーカーを採用したことがあると回答したのは全体の5分の1程度(21.5%)だった。業種別の採用有無では、「飲食・宿泊」が29.6%ともっとも採用した割合が高く、続いて「小売」が26.9%、「建設」が26.7%だった。
また、従業員数別でみると、従業員数300名以上の大企業で採用した割合は34.8%となりもっとも高く、従業員数が少なくなるにつれて、採用したことがある企業の割合が低くなる傾向にある。【図2】
また、現在採用していると答えた企業は15.1%で、過去に採用実績があり、現状も採用を続けている企業は6割強だった。業種によってスポットワークの利用状況に差はあるものの、過去に採用をした企業の大半が現在も採用を続けており、リピート利用に繋がっていることが推察される。
これらの結果から、企業はやむなく利用しているケースも含めて、サービスの利用継続意向が一定割合ある事が分かる。 【図3】
労働者の就労状況
続いて、労働者側についても、「非正規雇用市場における採用・求職動向レポート(2024年5-6月)」からみていく。調査期間は2024年7月1-4日で実施し、全国の15-69歳の男女で直近2カ月以内に非正規雇用の仕事探しをした人に対して調査し、そのうち無職・自営業・家族従業者・経営者(役員含む)を除いて集計を行った。
2024年7月時点でスポットワークでの勤務経験を尋ねたところ、経験者は全体で44.3%だった。雇用形態別でみると、「正社員」で60.4%、「非正規社員」で33.9%となった。【図4】
また、今後のスポットワーク就労意向をみると2人に1人以上(52.0%)が「就労意向あり」と回答した。さらに、「今まで経験なし」としたグループの今後の就労意向は31.0%となり、正社員で45.8%、非正規社員で25.3%となったことから、今後スポットワークを探す人が増えてくることが見込まれる。【図5】
スポットワークの雇用については、企業側でも継続して募集意向が見られ、さらに労働者側でもスポットワーク未経験者の労働市場への参入意向が見られた。
スポットワークのメリット・デメリット
ここまで企業の採用状況と労働者の就労状況をみてきたが、両者ともにスポットワークのどういった点に魅力や難しさを感じているのだろうか。
企業が感じるメリット・デメリット
採用・求職動向レポート(2024年5-6月)では、同一の対象者に対して「スポットワ-ク」に感じるメリットとデメリットを調べている。その結果をみると、企業がスポットワークに感じるメリットは、「融通性(シフト調整のしやすさ)」が36.7%でもっとも高く、「単発性(働く時間・働く期間の短さ)」が36.2%で続いた。【図6】
さらに過去にスポットワーカーを採用した企業では「単発性」が61.8%(全体比:+25.6pt)、「融通性」が61.8%(全体比:+25.1pt)となり、非利用企業と比較しても、「単発性」では利用企業の方が32.7pt高く、「融通性」では31.9pt高かった。
実際に雇用したうえでメリットとしてポイント差が優位なことから、この2点のメリットが企業のリピート利用を促していると推察される。【図7】
スポットワークの単発性は、繁忙期やピークタイムなどの特定の時間帯だけ人員を厚くすることを可能とし、他の時間帯の人件費等の固定費を削減することができるだろう。また、既存社員のように希望勤務時間の事前聴取・シフト作成が必要ないため、責任者の業務負荷も減少すると考えられる。企業側にしてみれば採用の効率化、人件費など固定費の削減などに期待が持てることが利用意向にも繋がっているのだろう。
一方で、デメリットとしては、「コミュニケーション協業」が27.8%となった。スポットワーカーは、組織に属する時間が短いことから、他社員との関係構築の時間も短く、場合によっては、「短時間の仕事であることで、業務的な交流もする必要がないだろう」という意識を、受け入れ側(既存社員)に抱かせかねない。
コミュニケーション協業を必要としない単純作業であれば問題ないかもしれないが、より能力を発揮できるように、既存社員と協力し合えるような取り組みが求められるだろう。
労働者の感じるメリット・デメリット
続いて労働者の感じるメリットとデメリットをみていく。メリットでは、「単発性」が65.6%でもっとも高く、「時間の有効活用性」が続く。労働者が、スポットワークの短時間・短期間就労にメリットを感じている背景には、勤務時間を完全に自分で選べることが関係していると考えられる。
通常のアルバイト雇用では、事前に自身の可能な日程を企業へ共有し、企業側で他雇用者との調整によりシフト表を作成するが、スポットワークの場合は、すでに組まれたシフトの内から埋まり切らない時間帯や急に空いてしまったシフトで募集する。
労働者は、企業が事前に決めた日程や時間を見て、自分が働くかどうかを決められるため、空いている時間、いわゆる「すきま時間」を有効に活用して勤務することができるのだろう。一方デメリットでは、企業同様に「コミュニケーション協業」が24.8%となりもっとも高かった。
コミュニケーション協業を本調査では、「周りの人(ここでは、スポットワークの勤務先で業務に関係する人を指す)と連携して仕事はしやすいかどうか」という定義をしている。短時間・短期間では、勤務先でのコミュニケーションが十分にとれないケースもある。そもそも連携できるようになる前に労働契約期間が終了してしまう可能性もあるだろう。【図8】
メリットとして感じられている「単発性」の裏には、「コミュニケーション協業」が難しいというデメリットが存在しているようだ。
企業と労働者双方で共通するメリット・デメリットから、スポットワークは受け入れ側(既存社員)との業務連携やチームワークを発揮することの難しさが課題と捉えられており、魅力には、単発的な雇用契約ゆえに、企業は労働力と固定費のバランス調整のしやすさ、労働者は働く日数や時間等の調整のしやすさがあるようだ。
スポットワークと日雇い派遣
ここまではスポットワークに対する企業・労働者それぞれが感じるメリット・デメリットについてみてきた。ここからは、企業・労働者ともにメリットとして挙がった「単発性」に関して、働き方が共通する「日雇い派遣」と比較していく。
日雇い派遣とは?
日雇い派遣とは単発的(短時間・短期間)に派遣社員として働くことを指す。他の登録型派遣雇用(※1)と同様に、派遣会社が、企業と労働者との間に立ち、労働者を斡旋する形で行われる。2012年10月の労働者派遣法の改正以前は、労働派遣が禁止される業務(※2)以外の規制はなく、1日単位や半日(時間単位)の雇用形態・派遣契約が可能で、スポットワークとほぼ同様の働き方であった。
しかし、2012年10月の労働者派遣法の改正により、日雇い派遣は原則禁止となる。スポットワークでも示したように、超短期労働の場合、社会保険加入の対象とならないケースも多く、仕事も単発的で長期就労が約束されていない。このような不安定な雇用体制が問題視されるきっかけとなったのは、2008年のリーマンショックだった。
世界的な不況を背景に、企業は経営的危機感から、全国各地で派遣切り(雇い止め)を行った。その結果、仕事を失い、貧困に苦しむ労働者が生まれた。こうした労働者は、「ワーキングプア」「ネットカフェ難民」と呼ばれ社会問題となった。
生活困窮者の存在がクローズアップされたことにより、今後安易にワーキングプアを生み出さないように、日雇い派遣は一部の例外(※3)を除き原則禁止され、2012年時点で約7万人いた日雇い派遣労働者は、改正後の翌年2013年には半数以下の約3万人まで減少した。【図9】
※1 登録型派遣とは、派遣会社に登録後、就労決定した派遣時に一定の期間のみ、有期雇用契約を結ぶ働き方。派遣期間が終了と同時に、雇用契約は終了する。
※2 港湾、建設、警備、医療関連業務、弁護士・社会保険労務士(士業)など
※3 例外とは、「60歳以上の方」や「雇用保険の適用をうけない学生」「副業として従事する人(生業収入が500万円以上)」、「主たる生計者以外の人(世帯年収が500万円以上)」を指す。例外的対応をされる理由としては、上記対象者は「生活のためにやむを得ず日雇い派遣の仕事を選ぶことのない水準」にある者とされるため。
スポットワークと日雇い派遣の比較
スポットワークと現在の日雇い派遣の共通点と相違点について下記の図をもとに説明する。【図10】
共通点としては、雇用期間の短さや業務の単発性、勤務先での業務内容が挙げられる。一方で相違点は大きく分けて3つある。
労働可能条件の有無
1つ目は、前章で述べた労働可能条件の有無だろう。スポットワークには条件がないが、日雇い派遣には、「生活のためにやむを得ず日雇い派遣の仕事を選ぶことのない水準」にある者のみ勤務可能とされている。
雇用主・給与支給元
2つ目の相違点としては、雇用主・給与支給元も挙げられる。スポットワークは企業での直接雇用になるため、勤務先が雇用主・給与支給元であるのに対して、日雇い派遣は両方派遣会社(派遣元)となることは、大きな相違点であろう。
労働者の業務幅の規制
3つ目の相違点としては、労働者の業務幅の規制だ。スポットワークに関しては、就労業方法の主流が有料職業紹介事業者の提供するサービスとなっているため、有料職業紹介事業で紹介が禁止されている業務(「港湾運送業務に就く職業」「建設業務に就く職業」)の取り扱いが禁止されている。しかし、日雇い派遣に関しては、より広範囲な業務(建設業、港湾運送業務(追加)警備業、医療関連業務、弁護士・社会保険労務士などの士業)も禁止されている。
スポットワークと現在の日雇い派遣では、単発性という共通点はあるが業務の幅や労働可能条件で大きく異なり、スポットワークの方がより広い働き方を選択できそうだ。また今後の流れとして、派遣法の規制もあり派遣雇用に関しては、一定期間以上の中・長期的雇用に特化し、補えない単発期間のすきまの労働をスポットワーカーが担い、住み分けしていく可能性もあると考えられる。
スポットワークと日雇い派遣の比較からの考察
本コラムでは、スポットワークと日雇い派遣の共通点・相違点についてまとめた。少子高齢化により将来的な労働力不足が危ぶまれる今日では、外国人労働者の積極的な受け入れや高齢者の定年延長、女性活躍のための産休やパパ育休の充実などの施策がとられ、さまざま層が労働参加できる環境を目指している。
今後も労働者の個性が広がる中で、一人ひとりの希望に合った多様な働き方の選択肢が必要となる。その中で、スポットワークは時代のニーズにそっている部分があるといえるだろう。スポットワークのメリットである「単発性」は、時間的制限がある労働希望者に対してスポット的に労働参加できる環境を与え、正社員の副業・兼業のハードルを下げ、企業の労働力不足への対応策の1つを示した。
一方で、新規労働者の参入を鑑みると、企業・労働者の双方がデメリットと考える「コミュニケーション協業」に対しての対策も必要となっていくだろう。また、かつて許可されていた日雇い派遣が、経済状況や社会情勢の変化により発生した社会問題により規制されたように、スポットワークも今後社会変化による影響をうけ、法規制が必要とされる状況にならないとは言い切れない。
多様な個性を持つ労働者すべてが、心身ともに健康で社会的にも満たされた幸福な生活を送れるように、一人ひとりがスポットワークのメリット・デメリットや、かつて日雇い派遣が禁止された背景等も十分に理解したうえで、自身の希望にあった働き方を取捨選択していってほしい。
マイナビキャリアリサーチLab研究員 嘉嶋 麻友美