日本におけるリモートワークの現状、メリットとデメリットについて
求人情報サイトなどで「リモートワーク特集」が組まれているのをよく見かけるが、転職活動で就職先を選択する際にリモートワークなど働きやすさを重視していることがポイントになっているようだ。(転職活動における行動特性調査 2023年版 )
本コラムでは、「リモートワーク」について、日本企業のなかでどのように広がったのか、また、実際にどのように利用されているのか等を紹介していきたい。
目次
リモートワークとは
リモートワークとは、オフィス以外の場所で仕事をすることを指し、勤務先の職場ではなく、自宅やカフェ、コワーキングスペースなどで、インターネットや電話などの通信機器を使って業務を行う方法のことをいう。
リモートワークの特徴は、時間や場所にとらわれずに柔軟に働けること、通勤時間や費用を削減できること、プライベートと仕事のバランスを保ちやすいことなどが挙げられる。一方で、コミュニケーションや管理の課題、セキュリティや環境整備の問題、孤立感やストレスなどのメンタル面の影響なども考えられる。
日本でリモートワークが広がったきっかけ
新型コロナウイルス感染症の影響
2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの感染拡大は、日本でも多くの企業や個人に大きな影響を与えた。
政府は緊急事態宣言を発令し、不要不急の外出や移動の自粛、密閉・密集・密接の三密を避けるように呼びかけ、感染防止のために、それまで当たり前に行ってきた「職場への出社」が制限され、リモートワークを導入する企業やその利用機会を拡大する企業が急増した。
また、従業員側も、自分自身や家族の健康や安全を考え、リモートワークを希望する人も増えた。
政府のテレワーク推進政策
リモートワークの普及には、政府の推進政策も大きな役割を果たしている。実は、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける前から、政府は、働き方改革の一環として、「テレワーク(リモートワークとほぼ同義)」を促進する方針を示していた。
2020年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックの実施が決まった際には、交通混雑の緩和や災害時の対応力の向上などを目的として、テレワーク・デイという取り組みを実施した。これは、企業や団体が参加登録を行い、期間中にテレワークを実施するというもので、2019年には約2,000社が参加し、2020年には約3,000社が参加した。
新型コロナウイルスの影響で、テレワーク・デイは延期されたが、その後も政府はテレワークの拡大を促すために、各種の支援策やガイドラインを提供しており、そのときに決められた7月24日の「テレワーク・デイ」は現在も続いている。また毎年11月は「テレワーク月間」として働き方であるテレワークの積極的な実践を求めるキャンペーンが行われている。
ICTの進化とインフラ整備
リモートワークを可能にした最大の要因は、ICT(情報通信技術)の進化とインフラ整備だろう。高速で安定したインターネット回線やクラウドサービス、ビデオ会議システムなどのオンラインツールの普及や発展によって、職場以外の場所でも効率的に仕事ができるようになった。
また、スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどの携帯性の高いデバイスや5G、Wi-Fiなどのネットワーク環境の充実によって、場所に依存しないコミュニケーションや情報共有が容易になった。
総務省の「情報通信白書 令和6年版」によると日本における光ファイバー(※)の整備率は令和5年3月末時点で99.84%で、その割合はOECD加盟国のなかでも第2位の高さであり、さらにすべての都道府県で95%を超えており、場所にとらわれないリモートワークが全国的に実施可能になっているといえる。
※光ファイバーは非常に高速で大容量のデータ通信を可能にする。そのため、ビデオ会議や大量のデータの送受信など、リモートワークで必要となる通信がスムーズに行える。具体的には、光ファイバーはインターネットサービスプロバイダー(ISP)から自宅やオフィスへの主要なインターネット接続を提供し、その光ファイバー接続をWi-Fiルーターに接続することで、家庭内の複数のデバイス(スマートフォン、タブレット、パソコンなど)が無線でインターネットに接続できるようになる。
リモートワークの現状
ここからはマイナビが実施した「ライフキャリア実態調査 2024年版(データ集)」の結果より、実際にリモートワークがどのような状況で実施されているのかを確認していきたい。なお、ここでは正規社員として組織で働く人々を対象とする。
実施状況
まず、リモートワークの実施状況を確認する。リモートワークを実施している人のなかでも、その実施状況はさまざまで、在宅勤務やサテライトオフィス等があるが、マイナビが実施した調査によると、リモートワークとしてもっとも多く利用されている形態は「在宅勤務」のようだ。
しかし、その在宅勤務であっても、職場に制度として導入され、かつ自分も利用している人は全体でも16.8%で、「制度もなく、実施したことがない」が最多で44.1%となった。【図1】
総務省によると、2020年を境にテレワークを導入している企業の割合が増加し、2022年には半数程度となっている。【図2】
コロナ禍前と比べると一般的になりつつある印象だが、【図1】で「以前より制度として導入されているが、自分は行っていない」人が19.7%であるように、企業として制度を導入していても、必ずしも、全員が利用するわけではないようだ。
実施の頻度
次に実施割合の大きかった「在宅勤務」について、その頻度を確認する。週1日以上、在宅勤務を行う人に対して、その頻度を聞いたところ、いわゆる「フルリモート(週5日以上)」の人は2割未満となっており、もっとも多いのが「週1日」で33.9%、次いで「週2日」が23.9%だった。
一定程度、在宅勤務を実施している人はいるものの、出社と在宅勤務を組み合わせた「ハイブリッドワーク」が主流のようだ。なお、男女別に見ると、やや女性のほうが在宅勤務の日数が多い傾向が見られた。【図3】
日本も賃金は上昇しているが、直近5年間の上昇率を他国と比較すると、上昇幅が小さいことがわかる。なお、アメリカの最低賃金は、連邦政府と各州政府によって定められており、連邦最低賃金は全国一律で、各州はそれを下回ることはできないが、上回ることは可能というルールのもと、各州の最低賃金は地域の経済状況や労働市場の状況により異なる。
【表1】を見ると2020年から2024年まで金額が一定になっているが、独立行政法人労働政策研究・研修機構の報告 によると、2024年1月には全米50州のうち、22州で最低賃金が引き上げられており、その金額もまた、最低賃金の7.25ドルを上回る金額で設定されている。
リモートワーク のメリット・デメリット
次に、リモートワークを実施する人に対して、メリットとデメリットのどちらを感じるかを聞いた。全体的には「メリットのほうが大きい」が多い傾向が見られるが、特に仕事のみに関わることでは、「どちらともいえない」が最多となっている。明確にデメリットを感じるわけではないが、状況によって評価が分かれるということなのだろう。
ただ、プライベートとの両立などはどちらかというとメリットのほうが大きいと感じる人が多いようだ。【図4】
(なお、ここでいう「リモートワーク」は特に在宅勤務に限定していない。)
ここからは、メリットとデメリットについて詳細に確認していく。
メリット
リモートワークをするメリットとしてもっとも多く挙げられたのは「リモートワークを行った日の、プライベートの時間の使い方」で63.2%、特に女性では68.9%となった。
次いで「仕事とプライベートのバランス」が49.4%となっており、リモートアクセスによって仕事とプライベートのバランスを取りやすいことにメリットを感じる人が多いようだ。さらに、「心身の健康(46.4%)」が続き、特に女性では52.5%と半数を超えていた。【図5】
在宅勤務 を実施する場合は通勤が不要になるので、その時間をプライべートプライベートの充実にまわしたり、特に都市部では混雑によるストレスによる体力的な負荷が軽減されたりする等のメリットが考えられる。
デメリット
一方で、リモートワークに対してデメリットを感じる人もいる。メリットと比べると全体的に割合は小さくなっているが、特に、コミュニケーションに関する項目では、デメリットを感じる人が多いようだ。【図6】
デメリットを感じる項目でもっとも割合が高かった「会社の人とのコミュニケーション」についてはメリットを感じる割合と同程度となっており、意見が分かれているようだ。そこで、「会社の人とのコミュニケーション」に限定して、メリット、デメリットを感じる理由を確認したい。
まず、メリットを感じる理由として挙げられているのは「人間関係のストレスが軽減されるから」が最多で35.8%となった。次いで、「仕事に集中でき、生産性が上がるから(33.2%)」「余計な雑談が減らせるから(30.1%)」と続く。【図7】
コロナ禍でリモートワークが広がり始めた際、「リモートワークでは対面で直接コミュニケーションをとることができない」ことについて、人間関係を構築することに対してネガティブな影響があると指摘する声が多く聞かれたが、【図7】の結果を見ると、「対面で直接コミュニケーションをとること」の負荷が軽減されることをポジティブに受け止めている人も一定数いることがわかる。
一方で、会社の人とのコミュニケーションが困難だと感じる理由は「上司・同僚とコミュニケーションがとりづらいから」が最多で45.5%で、「細かいニュアンスを伝えづらいから(41.9%)」「雑談がしにくいから(38.3%)」「チームの連帯感が作りづらいから(31.8%)」が後に続く。【図8】
仕事において、上司や同僚と密に打ち合わせをしながら進める必要がある場合やチームの連帯感など、人間関係を重視する場合は、デメリットを感じやすいようだ。
リモートワークにおける「会社の人とのコミュニケーション」について、メリットとデメリットの両方を考えると、所属する組織の文化や人間関係の段階、また、仕事の性質や方法によって、適切か否かが異なると考えられる。
今後の見通し
コロナ禍における感染症対策という緊急の事態に対応してリモートワークを導入した企業が多かったこともあり、コロナ禍が収束し始めた際に、出社に回帰する動きが見られた。
しかし、従業員は、感染症対策という理由だけでなく、ワーク・ライフ・バランスの実現やストレスの軽減、集中力の向上など別のメリットを見出しており、企業による一方的な出社要請に対しては反発もあったと推察される。実際に、リモートワークが日本より普及していたアメリカでは、出社回帰によって人材が流出してしまったということもあったようだ。
しかしながら、人間関係の構築や、密なコミュニケーションをとることが求められる仕事においては、リモートワークに対してデメリットを感じる人もおり、必ずしも万能ではないことも明らかになった。そこで登場したのが出社とリモートワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」である。
本コラムでもリモートワークを実施している場合にフルリモートは少なく、その多くが「ハイブリッドワーク」であることを紹介したが、今後もこの形式が主流になると思われる。私自身も、ハイブリッドワークを実施しており、本コラムのような原稿を執筆するなど集中力が必要な場合はリモートワークの日に行ったり、意思疎通が重要となるような会議は出社の日にするなど、仕事の性質やその目的に応じて、リモートワークと出社を使い分けるようにしている。
リモートワークと出社、どちらが優れているかという議論ではなく、それぞれの良さを活かして、いかに従業員にとって働きやすく、また成果をあげやすい環境を作っていくのか、という視点が重要なのだろう。
マイナビキャリアリサーチラボ 主任研究員 東郷こずえ
※なお、本コラムで紹介した「ライフキャリア実態調査」は、全国15歳以上の男女14,000名を対象に、就業・非就業や雇用形態に関わらず、個人の現在の労働の実態・意識変化、生活の実態・意識変化などを調査したものである。今回はほんの一部しかご紹介できていないが、ご関心のある方はこちらをご覧いただきたい。