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支援を通じて、プロボノに関わる人や組織、企業の変化・成長を起こしていきたい(NPO法人『二枚目の名刺』廣 優樹代表)

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

プロボノ活動を推進していくためには、社会課題を解決したい社会人(個人)と、受け入れ側である組織(NPOや企業)以外に、その両者をつなぐ中間支援団体といわれるNPOの存在が欠かせません。

具体的にどのような支援活動を行い、どういう効果を上げているのか。そして、今後のプロボノの可能性とは──中間支援団体の1つ、NPO法人『二枚目の名刺』の廣 優樹代表に話を伺いました。

NPO法人『二枚目の名刺』代表の廣 優樹さん

廣 優樹さん
NPO法人『二枚目の名刺』代表
組織や立場を超えて社会を創ることに取組む”2枚目の名刺”により、NPOと社会人がつながることを通じ、社会人、ソーシャルセクター、企業の変化・成長を同時に後押しするモデルを提唱。商社にてシニア領域の事業開発・投資を担当、渋谷区教育委員会総合コーディネーター。4人の娘の父。

「こんな社会になったらいいのに」という思いを当たり前に行動できる社会を目指して

──『二枚目の名刺』のビジョンや活動概要を教えてください。

廣:私たちNPO法人『二枚目の名刺』は、社会課題を解決しようとしているNPO法人などの団体や企業と、それらを支援したい社会人をつなぐ活動をしています。2枚目の名刺としての活動を行うことで、社会人本人はもちろん、受け入れ先のNPOやさらには社会人が勤めている企業の3者に変化・成長を起こしたいと思い、2009年に立ち上げたNPO法人です。

設立した当時は、今のように、プロボノ活動や兼業・副業が当たり前にできる環境ではなく、どちらかといえば「会社外で何かするくらいなら目の前の会社の仕事をしろ!」そんなことを上司からいわれるような時代だったと思います。

今いる組織や立場を超えて、NPOの取り組みを後押ししたり、地域の活動にこれまでと違う視点を持ち込んで盛り上げたり。一社会人の「こんな社会になったらいいのに」という思いを、当たり前に行動につなげられる社会、すなわち2枚目の名刺というのが当たり前の選択肢となる社会にしたいと思い始めた取り組みです。

自己成長できるように、個人には数多くのフィードバックの機会を設ける

──個人とNPOが参加するプロジェクトをどのようにサポートされているのでしょうか?

廣:まずプロジェクトをつくるにあたって、個人と受け入れるNPOが出会う場(イベント)を定期的に開催しています。そのイベントを、私たちは「コモンルーム」と呼んでおり、NPOの代表者3名をお招きして、社会人(個人)30名程度 に対して、各団体のビジョンや問題意識、社会課題解決に向けたNPOならではのユニークなアプローチ(活動)を発表してもらいます。そして、最後に、今後プロジェクトを一緒に進めてくれる人を求める熱いメッセージを投げかけてもらいます。

個人(社会人)は、各NPOの代表者のメッセージを受け止めることで、自身の価値観がゆさぶられていきます。そして、自分が興味のあるプロジェクトに手を上げるのです。自身のスキルや経験を活かすプロジェクトへの参加もありますが、「自分のやりたい」と思ったプロジェクトに参加できる共感ベースのマッチングが、私たちが支援するプロジェクトの特長です。

プロジェクトがスタートしたら、私たち『二枚目の名刺』に在籍する「サポートプロジェクトデザイナー(以下、SPJデザイナー)」が社会人(個人)とNPOをつなぐ役割として、伴走します。先ほどもお話したように、個人とNPOに「変化・成長」を促すという狙いもあるため、「SPJデザイナー」から「こうしてください」と指示をすることはありません。

初めて会った社会人同士がお互いのことを知って、NPOのことを理解し、その中で自分は何ができるのか、チームとしてどのような価値をもたらすことができるのかをみんなで話し合い、そこからテーマを決めていきます。「変化・成長」を促すための設計として社会人(個人)に対しては、振り返りの機会を数多く設けています。プロジェクト開始前や中間報告、最終報告でのメンバー同士での振り返り、1on1、さらには事後アンケートなど繰り返し行い、それらで受けるフィードバックを通じて内省してもらいます。

NPOに対しては、社会人を受け入れる際の注意点などもアドバイスしています。いくつものプロジェクトを支援してきて、我々の中にも、社会人の受け入れに関する知見やノウハウが数多く蓄積されてきたので、NPOには、そういった支援を行っています。実際、これらプロジェクトを通じて、NPOと社会人(個人)との満足度でいうと、NPOは、プロジェクトでの成果への満足度は82%であり、社会人(個人)は、95%が自身の変化・成長を感じたと回答してくれています。

自社では得られない経験、前向きな失敗経験を通じて、メンタリティーを高める

──プロジェクトに参加している社会人や、所属している企業から、具体的にどのような声や反応がありますか?

廣:まず社会人(個人)でいえば、越境学習効果があります。企業における人材育成の観点から、「構造的に会社の中で学べないけれど、 これからの事業に必要な要素を、組織を超えて(越境して)学んできてほしい」ということで注目を浴びているのが越境学習です。

会社の同質性のある人とは異なる人たちとの協働や一緒に価値創造する経験を通じて、他者の考え方や仕事の進め方を知り、そして同時に自分の強みや特徴を理解し、マインドセットが変わり企業に戻ってくる。ここに、企業の人事部は注目しているわけです。

また、会社の中では「失敗経験を積みにくい」という声もよく聞きます。社員をサポートプロジェクトに送り出したあるアパレルの人事担当者は「コンフォートゾーンから抜け出して、どんどん挑戦し、前向きな失敗をしてもらいたい」と、取り組みの狙いを話してくれました。

保険会社の人事担当者は「密度の高い修羅場を経験して、強烈な刺激と新しい気づきを得てほしい」、商社の人事担当者は、「共感から0→1で何かをつくり上げる経験というのは、商社でも担当できる機会はそう多くない。しかし、そのメンタリティーは商社にとってものすごく大事で、一般的にも今後企業の事業創造には重要な要素になる」と、話してくれました。

一方で、所属する組織に与える影響としては、こうしたプロジェクトを通じたプロボノ活動を経験して、実際にコミュニケーション方法やリーダーシップスタイルが変わったり、外資系企業の事例では、その後意識と行動が変わり、昇進につながった方も少なくないと聞いています。考え方が変わる、視座が変わる、それから自らアクションをとるように変わっていったのだと思います。

組織にいると自然と同質化していきますが、その中で新しいイニシアチブが取れる人材、新しい事業をつくれる人材、多様な人を束ねられる人材が今求められていて、そういうことを期待して送り出し、実際に、会社が求めている人材になって戻ってきたというフィードバックをよく頂きます。

これまでにない考え方に触れ、新たな気づきが得られ、サポーターが増える

──一方、NPOなどの受け入れ側の組織に与える影響はどんなものがありますか?

廣:「外部の人が入ってきたからこそ生まれる変化がある」と、いいます。異質な人材を受け入れることで、そこにいる人材の考え方を変え、新たな気づきを得ることができます。また、サポーターを増やすことにもつながると聞いています。一時的でもプロジェクトメンバーが一緒に事業を推進し、実際、受け入れ側のNPOの活動に共感したプロジェクトメンバーから、 2期、3期もやろうという声が上がることが少なくありません。

副次的効果としては、社会人(個人)が所属している企業と連携してイベントを行ったり、寄付につながるケースもあります。NPOによっては、そういった連携ができるネットワークが限られていて、プロジェクトを通じてつながりができ、より新たな展開が起こるケースも多々あります。

ミスマッチの要因は「やらされ感」「試行錯誤を避ける」「多様性を受け入れられない」

──第三者の視点から見て個人と組織でミスマッチのポイントは、どこでしょうか。

廣:1つは「やらされ感」。受け身で取り組んだ場合は、その人に訪れる変化・成長は限定的です。プロジェクトにもポジティブなものをもたらしにくいです。私たちが「スキルや経験」をもとに、これをやってほしいと依頼するのではなく、共感をベースに自ら取り組むへの参加を表明する形にこだわっているのはこのためです。

2つ目は、「多様な人を受け入れられない」ケース。世の中ではダイバーシティ・インクルージョンなどが注目され、当たり前のようにいわれていますが、目的は「ダイバーシティ・インクルージョン」ではなく、多様な人を受け入れた上で、それをどう価値創造につなげられるかです。必ずしもマネジメントリーダーだけではなく、その場にいる人たちもどうやって一緒に積み上げていこうかと考えられる思考・意識が非常に大事です。NPOともチームメンバーとも価値観も仕事の進め方も違う。そうした中でどう協創していけるかがキーとなるわけで、ここに対応できないと、苦しいプロジェクトにると思います。

3つ目は、「試行錯誤しない」こと。さきほどもお伝えしましたが、社会課題の解決には解決方法に正解がありませんし、マニュアルもありません。正解がないからこそ、仮に上手くいかなくても、それは必ずしも失敗ではないわけです。むしろ、上手くいかないことを恐れ、考えたけれどトライしなかったり、議論したけれど実現につなげなければ、現状は変わらず、またその先にもつながっていきません。

短期のプロジェクトでも、社会人(個人)とNPO(組織)は悩みながら進んでいます。このプロセスこそが両者に変化をもたらします。会社にいると一定のプロセスと成功パターンがあって、それに沿ってやれば大きな失敗はないかもしれません。自然と試行錯誤が求められる環境だからこそ、個人も組織も、考え方や思考の幅がアップデートできるのだと思います。

自らの人生のオーナーシップに気づく

──第三者の立場から見て、プロボノ活動を行う意義はどんなところにあるのでしょうか。

廣:1つ目は「越境学習」機会の提供です。つまり、自分が変わる機会があります。流行の言葉だと「リスキリング」が、これに当てはまります。その影響もあってか、最近はミドルシニア(特に50代)の方の参加者が増えました。全体の20%強が50代です。

2つ目は、「人生のオーナーシップ」を持てることです。働く時には、金銭報酬ややりがい、成長は大事です。仮に新卒1年目ですべてが満たされるような部署に配属されたとします。それでもライフステージが変われば、自分の成長に使える時間は変わってきます。あるいは、異動によって仕事が変わり、やりがいもこれまでとは違うものになるかもしれません。

会社に勤めていると、異動や研修の機会の多くは与えられるものです。自分によって先ほどの金銭報ややりがい、成長のバランスが変わっても、会社の中だけでは、自分の力で最適化していくことは難しいです。ところが2枚目の名刺を持つことで、会社の仕事、『二枚目の名刺』の取り組みを含めたバランスを自分でコントロールできるようになります。要するに、「自分でそのバランスを作り出すこと=人生のキャリアオーナーシップ」になってくるわけです。

新たな役割を見つける機会に

 ──今後のプロボノの展望についてどうお考えですか?

廣:大きく3つのことが考えられます。まず「現状を打破できる人」や「多様な人材と組んで価値創造できる人」は、どの業種・業界においても企業は求めています。「自分で考えてアクションできる人材」とも言い換えられるかもしれません。今兼業・副業にも関心を持っている人は多いと思います。

金銭報酬を目的に行う場合、それは、自分(個人)が保有するスキルを使いできることを行うから、お金がもらえるわけです。それも一つの選択です。ただ、それだけでなく、必ずしも金銭報酬を目的としない、未知の領域への挑戦、共感する取り組みへの参画なども選択肢に加えてはどうでしょうか。本業以外の場でもフィードバックを得ながら、 自分のOSをアップデートしていく、そのような形は、今まで以上に注目されるようになると、私は思っています。

社会における「役割」の考え方も、随分変わってきています。「親」としての役割、「パートナー(夫や妻等)」としての役割、「地域市民(地域社会とのかかわり)」などは、これまでよく見られた形です。ところが、個人の生き方が多様になっていることに伴い、社会の中で様々な形を選択する人が増えてきています。同時に、社会へのかかわり方も変化してきているわけです。

私たち人間は、社会との関わりの中で生きている動物であるため、これまでの典型的な役割に代わる他の役割というのが、今後求められてくるのではないかと考えています。そのような変化の中では、『二枚目の名刺』という活動やプロボノの活動は、社会とのかかわり方の選択肢となっていくでしょう。ミドルシニアの方がリタイア後に、自分なりの社会貢献の仕方を選びたいというのは、その1つの形だと思います。

最後は 今加速度的に進んでいる少子化と人口減少において、人口構成の大きなシェアを占めている65歳以上の高齢者の方々の動向が1つ大きな社会テーマになるように思います。定年退職により一気に役割がなくなり、そのままサポートされる側に回るのか、それとも社会をつくる側にいるのか。プロボノ活動が、社会をつくる当事者になれる良い契機になってくるのではないでしょうか。

編集後記

今回、NPO法人『二枚目の名刺』の廣代表にお話を伺いました。

社会人とNPOとのマッチングを、副業・兼業などでは一般的な個人の「経験・スキル」ではなく、「共感」軸で行うというのは、とてもユニークで魅力的な方法だと感銘しました。「経験やスキル」軸ではない形でプロジェクトに参加するため、これまで自分では意識できなかった、新たな自分の強みも発見できる機会にもなりそうです。

社会貢献だけでなくステークホルダーの変化・成長に還元できる活動なので、若手はもちろん、今後定年退職を控えたシニア世代にとっても、セカンドキャリアを考える上で、大きな可能性を秘めた活動で、大いに期待できます。

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