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プロボノの積極的な活用が若手社員の成長にも良い影響を与える!(船橋株式会社)

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

プロボノを導入する目的は、受け入れ組織によって千差万別です。今回は実際にプロボノを活用している企業にリアルな声を伺いました。

インタビューをしたのは、創業100年以上の歴史・実績を持つ船橋株式会社の代表取締役 舟橋昭彦さんと、同社の企画課 大谷真奈美さん。プロボノを活用した背景や具体的な事例はもちろん、プロボノ人材を受け入れる目的について、語ってもらった。

代表取締役の舟橋昭彦さんと企画課の大谷真奈美さん
画像左が代表取締役の舟橋昭彦さん、画像右が企画課の大谷真奈美さん

100年続く老舗企業、6年で6回ものプロボノ活動を実施

──船橋株式会社では、どのような事業を展開しているのですか?

舟橋:私たちは、大正10年に名古屋駅近くに創業した防水衣料専門メーカーです。防水エプロンや業務用カッパ(レインウェア)など、消防団員や建設業、警備業、食肉加工業などで働く人々が「快適」「安全」「清潔」に作業がおこなえるような製品を製造・販売しています。

100年続く老舗企業ではありますが、従業員は40名(そのうち社員は13名)ほどで20代の若手が中心の会社でもあります。

──プロボノのプロジェクトを数多くおこなっているとお聞きしています。

舟橋:そうですね。2017年からこれまでに6回の受け入れをおこないました。プロボノの内容と受け入れ人数は、次の通りです。

①2017年 既存商品の拡販:食肉センター向けのカッパ(6名受け入れ)
②2018年 既存商品の拡販:子ども向けのレインコート(4名受け入れ)
③2018年 業務改善:工場の採算性チェック(4名受け入れ)
④2019年 新規事業開発:カッパのサブスクモデル(4名受け入れ)
⑤2021年 新規事業開発と拡販:漁師用の水産カッパ(5名受け入れ)
⑥2022年 新規事業開発と拡販:漁師用の水産カッパ/継続(3名受け入れ)

既存商品の拡販から新規事業開発まで、多岐にわたる活動内容

──このうち、代表的なプロジェクトをいくつか教えていただけますか。

舟橋:1つは、プロボノとして初めて取り組んだ「食肉センター向けのカッパの販路拡大」です。

①2017年 食肉センター向けのカッパ
NPO法人が運営しているプロボノのマッチングプラットフォームを活用して、富士ゼロックス(現社名は富士フイルムビジネスイノベーション)の研修プログラム「フューチャーリーダーズチャレンジプログラム」の一環で20代〜30代の若手社員を受け入れる3カ月間のプロジェクトをおこないました。

対象とした商品は、従来製造・販売していた食肉加工用のカッパです。これまでは代理店販売が中心でしたが、展示会への出展を新たに検討することにしたのですが、プロボノ人材にはSWOT分析やPEST分析などのフレームワークを活用した新規顧客開拓のアプローチを提供してもらいました。

食肉加工用のエプロン
食肉加工用のエプロン

次に、印象に残っているのは、2021年から取り組んでいる、漁師用の水産カッパの新規事業開発です。

⑤2021年 漁師用の水産カッパ
名古屋市が進める「デザイン経営」という手法を用いた中小企業ブランド等構築支援事業「FUXION」 に参画。このプロジェクトは、企業価値を整理し、ブランドやビジョンを策定する取り組みでした。

当社がちょうど創業100年だったこともあり、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を再構築するために、これまで大切にしてきた価値観や目指す将来像、組織としての存在意義などをプロボノ人材と私、若手社員で議論を重ね、形にしていきました。

⑥2022年 漁師用の水産カッパ/継続
次の年にも、名古屋市の中小企業デザイン経営実践支援事業「FUXION EVOLE」として、2021年に策定したMVVを反映した新商品の販売を目指すプロジェクトにもチャレンジしました。プロボノ人材にはカスタマー調査などを依頼し、クラウドファンディングやECサイトを立ち上げ、「漁師用の水産カッパ」の新商品開発に取り組みました。

インターンシップの経験と専門知識を持つ人材の不足。その2つがプロボノを始めたきっかけに

──そもそもプロボノの受け入れを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

舟橋:2014年から大学生の長期インターンシップ(基本6カ月間)をおこなっていました。具体的には、反射板のついた子供用のカッパの新規商品の開発です。この、学生と取り組んできた土台があったことが理由の1つとしてあります。

反射板のついた子供用のカッパ「とぅいんくるコート」
子供用のカッパ「とぅいんくるコート」

もう1つは、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」のうち圧倒的に足りないのは「ヒト」、特に専門知識や豊富な経験を持つ人材が、当社を含めて中小企業では不足していることです。当社はBtoBのニッチな商品を扱っているので、市場を拡大していきたいと思っても、どうすればいいかわからない状況だったので、まずはその方面に精通しているプロボノ人材を募ることにしました。

フレームワークを学んで、ロジックを持って、ビジネスを回せるようになってきた

──プロボノ人材を受け入れてみて、得られたメリットは何でしょうか?

舟橋:インターンシップと比較してみると、インターンシップではこちらが指示を出して、学生に手を動かしてもらうことが基本的なスタイルです。一方プロボノの場合は、プロボノ人材は一緒に事業戦略や営業マーケティングなどのプランニングを考え、実際に手を動かすのは、当社がおこないます。

そうした中でメリットとしては、これまで当社にはなかった論理的に物事を進めていくためのフレームワークなどの考え方を修得できたことです。直感で業務に取り組むことも多く、無駄な作業もやっていたと思います。

それが、SWOT分析やSTP分析などのフレームワークを活用し、効率的な手順まで当社として学びを蓄積することができたので、論理的に物事を考えたり、伝えたりできるようになりました。PDCAを回すことで、課題も明確になり、着実に成果を感じられるようになってきたのです。

ただ、まだまだ新たな市場開拓や新商品をマネタイズしていく上では、ノウハウや経験が足りないため、今も力を借りているところです。

プロボノ人材と一緒に活動する際の課題

 ──反対に、難しいと感じることはありますか?

舟橋:1つは成果が出るまで、並走できないことです。プロボノはプロジェクト単位で期間が限られているのですが、活動が終わってしまうと、社内で知見が足りない部分をおぎなうことができません。

大谷:もちろんやるべきことが決まっていればその方針に従ってやるだけなので、プロボノ活動が終わっても問題ないのですが、新規事業のように成果が出るまで時間がかかるものだと、この課題が顕著に表れてきます。

それに、プロボノの方と一緒に動いている間は、フィールドワークやミーティングをおこなったりして、日々忙しく、充実した時間を過ごしていたため、最終報告が終えるとすごく達成感もあります。しかし、それだけに活動が終わってしまうと(まだ終わったわけでもないのに)燃え尽きてしまう従業員も少なくありません。

舟橋:2つ目は、プロボノと一緒に活動している社員とそうではない社員との間で、温度差が生まれてしまうことです。プロボノに関わっている人たちは熱量がありますが、いざ社内でプロジェクトを回していこうとした時に、参加していない社員には、その思いを共有しきれないことがたびたび起こります。

ただ、売り上げや利益向上などの成果につながったりと、それ以上のメリットがあるからこそプロボノ活動を続けているのですが、そういう課題がちらほら出てきます。

まず「やること」「やらないこと」を決めるのが何よりも大事

──課題を払拭するためにも、プロボノ人材を受け入れる上で大事にしていることはありますか?

舟橋:私たちが大事にしていることは次の6つです。

①壁にぶつかっても、情熱だけは失わないようにする

成果につながらないからといって代表の私がやる気を失ってしまうと、プロボノ人材は何を頼りにやればいいのか、わからなくなってしまいます。だからこそ、情熱だけは失わないようにして取り組んでいます。

②実現したい未来を語る

プロボノ人材は、私の考えや会社のビジョンに共感して応募してくださるので、つくりたい製品を通じて、どのように社会や顧客に貢献したいのか。思い描いている未来は必ず伝えるようにしています。

③現状の課題を相手にわかるように共有する

期間限定で取り組んでもらっているため、その期間に一定の成果を上げるには、何が課題で、あなたのどのようなスキルが必要なのかを、わかるようにプロボノ人材には説明します。

④時間をつくってもらっていることに感謝する

プロボノ人材はみなさん仕事の隙間をこのプロジェクト活動に充てて、アイデアやノウハウを提供してくれます。その姿勢につねに感謝の気持ちを忘れずに、事あるごとに伝えるようにしています。

⑤プロボノ人材とはフラットな関係をつくる

フラットな関係でプロジェクトを進めるために、ニックネームで呼び合うようにしています。ちなみに私のニックネームは「ジン」です。その理由は、中高時代に「オジン」というあだ名で呼ばれていたからです。

⑥やることとやらないことを決める

最初に「やること」「やらないこと」を決めておかないと、期間内になかなか結果を生み出せません。6つのうち、この「やること」と「やらないこと」を決めるのが一番大事かもしれません。

長期に依頼したいプロボノ人材とは、個別に契約を結ぶ

──プロボノ人材のノウハウを社内に蓄積するために、将来的には採用などにもつなげていきたいとお考えでしょうか?

舟橋:これまでもインターンシップやプロボノを何度もおこなっていますが、そこで受け入れた人材を採用したケースは一回もありません。それよりもプロボノ活動を、自分も含め社員にとっての「成長の機会」に活用しています。

優秀なプロボノ人材と一緒にプロジェクトを進めるのは、若手社員にとっても、大きな刺激と学びの機会になりますし、それが自社にとっての資産になると考えているからです。

大谷:私は新卒6年目なんですけど。社員13名の会社にも関わらず、後輩が4名います。彼らが生産管理や営業、開発という各部署に分かれているので、これからは、彼らを積極的にプロボノ活動に参加させることで、活動後の各部署の落とし込みもしやすくなり、個人の成長にもつながるのではないかと考えています。

舟橋:「この人の力がこれからも必要だ」と思う方には、外部パートナーとしてプロボノ活動後に、個別契約をしています。

大谷:たとえば、継続的につながっているWebデザイナーの方とは、彼女が勤務する会社に当社のホームページや会社案内、名刺などのリブランディングを発注しました。プロボノ活動を通じて共通理解ができているので、仕事も非常に進めやすかったり、こちらの要望にも的確に応えてもらえます。

戦隊モノのキャラクターのように、バランス良く人選するのが大事

──プロボノ人材を受け入れる上で、成功に導くポイントはどんなところですか?

舟橋:私が先ほどお話しした6つとは別に、もう1つ重要なポイントがあります。それは「人選」です。誰でもいいから能力の高い人にお願いすれば良いというわけではなく、新規事業開発や既存商品の営業拡販など、テーマに合わせ必要な人材のペルソナ設定をして、そのプロジェクトに合致した方を選ぶことが大切です。

毎回、複数のプロボノ人材にお願いするので、プロボノ人材同士の相性なども考えなければ、意見が合わずに揉める可能性もあります。ただ私の場合、熱い気持ちがあれば誰でも歓迎してしまうので、人選においては大谷に一任しています。

──人選においては、どういう採用基準を設けているのでしょうか

大谷:私よりプロボノ人材のみなさまのほうが経験豊富なので、スキル面については、高い採用基準を設けていません。それよりも、社長や私との相性が合うかどうか、チームワークを大切にできるかどうかが重要なポイントになってきます。

もう1つのポイントは、3〜4名を同時にお願いするので、チームとしてのバランスです。イメージは戦隊モノのキャラクターを集めていく感じです。リーダーシップを発揮できそうなレッド、頭脳派のブルー、みんなとは異なる意見を言ってくれるグリーン、ムードメーカーのイエロー、そして癒し系のピンクなど、バランスのとれたチームになるように人選しています。最終面談には社長にも同席してもらうのですが、誰を選ぶかは私に任せてもらっています。

関係人口的な人材ネットワークを構築し、意欲を持つ若手にプロボノとの交流を提供

 ──最後にプロボノ人材を活用して、今後実現していきたい目標を教えてください。

大谷:将来的には、これまで当社のプロボノ活動やインターンシッププログラムに参加してくださった人たちとの関係を再構築していきたいと考えています。そして、新たにプロジェクトが走り出した時に、声をかければ再び参加してもらえる。

そういった関係人口的な人材ネットワークを築いていきたいと思います。たとえば、インターンシップに参加してくれた学生が、今度はプロボノ人材や兼業人材として関わってくれるようなつながりを模索していきたいですね。

舟橋:私はプロボノ活動を通じて、社員の成長につながる環境をもっと提供していきたいと考えています。通常の社員研修も導入したことがありますが、自分自身で「成長したい」「誰かのために頑張りたい」という思いがなければ、人はなかなか変われません。

当社の若手には、「誰かの役に立ちたい」と思っている人間が非常に多いので、そのための改善や新規事業であれば、率先して取り組みます。そういう機会を利用して、社員から「こんなことで困っている」「こういう改善をしたい」などの声が上がってきた時には、プロボノ人材などを積極的に活用して、社員がチャレンジできる場を提供したいと考えています。

第1回 ルーキー・オブ・ザ・イヤー2024 in LOCALで大賞に選ばれる大谷さん
第1回 ルーキー・オブ・ザ・イヤー2024 in LOCALで大賞に選ばれる大谷さん

編集後記

今回は、プロボノ人材の受け入れ企業にお話を伺いました。プロボノ人材を受け入れるきっかけとしては、新たな取り組みをしたいと思っても、その経験やノウハウがある人材が社内にいないことを挙げられていました。新たなことを始めたいと思った時に、「プロボノ」は自社に足りない要素をおぎなえる有効な手段になるでしょう。

ただし、プロジェクト単位での活動のため、いかにしてそこで得たノウハウを活かして、プロボノ人材がいなくなっても、継続させていけるか。その仕組みづくりを整えることが重要になってきます。

またプロボノ人材が「やること」と「やらないこと」を事前に明確にしておくことと、プロボノ人材を採用する際のペルソナ設定をきちんとおこなうこと。この2つもプロボノ活動を成功に導く上では不可欠なポイントになります。プロボノを導入することによって「今いる社員の成長」につなげることもできるかと思います。

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