ジェンダーギャップ指数とは?日本の現状と改善に向けたポイントを紐解く【第1回】
本日、世界経済フォーラム(WEF)から2024年版のジェンダーギャップ指数が発表された。このタイミングにあわせて、マイナビキャリアリサーチラボでは、日本の改善が急務な「経済分野」に関する課題と解決策の提案を行う講演を実施する。本コラムはその内容を紹介するものである。
第1回ではまず、ジェンダーギャップ指数の内容と日本の状況について説明する。
目次
ジェンダーギャップ指数とは
ジェンダーギャップ指数とは、各国の男女間の格差を測るために、世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表している指標である。経済参加や機会、教育、健康、政治などの4つの分野における男女の平等度を0から1の間で評価し、1に近いほど男女の格差が小さいことを示す。
ジェンダーギャップ指数は、各国の絶対的な水準ではなく、相対的なパフォーマンスを測るものである。つまり、男女の格差が小さいということは、男女が同じように社会に参加しているということであり、必ずしも男女の生活水準が高いということではない。
ジェンダーギャップ指数の対象分野
ジェンダーギャップ指数の対象分野は以下のとおりだ。
- 経済参画:女性の労働力参加率や賃金格差、管理職比率、専門職比率など、経済活動における男女の機会や地位を評価する。
- 政治参画:女性の政治参画や影響力を評価する。国家元首や閣僚、議員、地方自治体首長など、政治的リーダーシップのポジションにいる女性の割合を指標とする。
- 教育:女性の教育水準や教育機会を評価する。初等教育から高等教育までの女性の就学率や卒業率、文系・理系の分野別の女性の進学率などを指標とする。
- 健康:女性の健康状態や健康へのアクセスを評価する。出生時の平均余命や性比、母子保健や家族計画のサービスの利用率などを指標とする。
日本のジェンダーギャップ指数の現状
日本のジェンダーギャップ指数は、2024年の報告では、146カ国中118位となり、前年から7ランクアップしたが、依然として、低い水準にとどまっている。日本は、特に経済参加や機会、政治の分野で男女の格差が大きいことが指摘され、日本の経済参加や機会のスコアは、0.568と146カ国中120位である。
日本では、女性の管理職比率、賃金格差などが問題となっており、特に、コロナ禍では女性の雇用が大きく影響を受けたことが、ジェンダーギャップの拡大につながったことが記憶に新しい。
また、日本の政治のスコアは、0.118であり、146カ国中113位である。2024年は閣僚の4分の1を女性が占めたことなどが評価され、やや改善したが、依然として、国会議員や地方議会議員などの女性の割合が非常に低く、男女の政治参画に大きな差があることが明らかになっている。女性の政治的リーダーシップを育成し、政策決定に女性の声を反映させる必要がある。
ジェンダーギャップ指数「経済参画」を示す項目と現状
日本のジェンダーギャップ指数を大きく改善するためには政治参画の状況を改善することが必要なのは言わずもがなではあるが、本コラムでは仕事をする私たちが身近な問題として考えていただきやすいように「経済参画」について注目する。
ジェンダーギャップ指数の「経済参画」として示されているのは以下の項目である。
- 労働参加率の男女比
- 同一労働における賃金の男女格差
- 推定勤労所得の男女比
- 管理的職業従事者の男女比
- 専門・技術者の男女比
*なお、「専門・技術者の男女比」について日本はカウントされていない。
これらの項目について、日本の現状を確認していきたい。実際のジェンダーギャップ指数は世界経済フォーラムが算出しているものだが、ここでは、日本の政府統計を用いる。
労働参加率の男女比
労働参加率の男女差については、厚生労働省が発表している「労働力調査」の就業率の結果を用いる。直近10年間の就業率の推移を確認すると、男女差は10%程度あるが徐々にその差は小さくなっている。この後に出てくる他の項目に比べるとかなり改善しているといえる。
しかし、女性の就業率は「非正規雇用」が支えており、令和5年の結果(年平均)によると、15~64歳の役員を除く雇用者のうち、男性では正規社員が2,262万人に対して、非正規社員は472万人だが、女性の場合は正規社員が1,227万人に対して、非正規社員は1,235万人となっており、半数以上が非正規社員ということになる。この点は、雇用の安定性や所得、社会保障費の観点からみると、ジェンダーギャップを解決すべき課題といえる。
さらに、昨今ではIT化やAI化が進み、この非正規社員の職が奪われるのではないか、という懸念もあり、女性の労働参加率をこれ以上、低下させないためにも対策が必要である。この点については、次回以降に公開予定の提案編のなかで詳しく説明したい。
管理的職業従事者の男女比
次に管理的職業従事者の男女比だ。この項目はジェンダーギャップ指数でも大きく課題があるとされているが、厚生労働省で実施している「令和4年雇用均等基本調査」によると、管理職に占める女性の割合は課長相当職で12.7%、部長相当職では8.0%だ。労働参加率に比べると、かなり大きなジェンダーギャップがあり、大きな課題となっている。
女性の管理職比率について、日本政府は2020年までに「社会のあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合を30%にする」と目標に掲げていたが、そのときは達成されることはなかった。現在は、「2030年までに役員における女性割合を30%に引き上げる」ことを目標に掲げている。
このように女性役員や女性管理職の比率をあげることはジェンダーギャップ解消という観点からも非常に重要なことであるが、企業にとっても必要不可欠な課題になっている点には注意が必要だ。内閣府男女共同参画局の令和4年度「ジェンダー投資に関する調査研究」によると、「投資判断に女性活躍情報を活用する」との回答は「一部活用」を含めると55.4%と半数を超えており、活用割合がもっとも高いのは「女性役員比率」、次いで「女性管理職比率」となっていた。
また、その判断理由としては、「企業の業績に長期的には影響がある情報と考えるため」という回答がもっとも高い。このように、昨今では企業の女性活躍状況が投資判断に考慮されるようになっており、女性が企業の責任ある地位で活躍できる職場にしていくことは、グローバルな競争のなか、企業の持続的な成長には不可欠であるといえるだろう。
なお、「女性管理職比率の向上」に関する施策については、次回以降に公開予定の「提案編 」で詳しく説明したい。
同一労働における賃金の男女格差と推定勤労所得の男女比
次に賃金について確認する。賃金については、性別だけでなく職業や年齢、社会人歴などによっても大きく異なると考えられるため、厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」の結果から、産業、年齢階級別の賃金を男女で比較した。
20代までは男女による違いはそれほど見られないが、年齢があがるにつれ、男性では産業による違いはあるが、55~59歳にかけて大きく上昇している。一方で、女性の場合は全業種においてほとんど上昇していない。なお、この調査は「常用労働者」を対象としており、このなかには1か月以上の期間を定めて雇われている非正規社員が含まれる。
また、就業形態としては短時間労働者が含まれている。つまり、女性の賃金が年齢とともに上昇しなかったのは、フルタイムの正規社員で働く女性の割合が男性に比べて低いことが影響しているといえるだろう。
さいごに
男女の完全な平等の達成に貢献することを目的として、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念とした「女子差別撤廃条約」が国連で採択されたのは1979年、日本は1985年に締結した。このように考えるとジェンダーギャップ解消に向けた世界の歴史はほぼ40年になろうとしている。
その間、多くの国で状況が改善されており、それは日本も例外ではない。日本においては、1985年に「男女雇用機会均等法」が制定され、雇用における男女の均等な機会と待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中および出産後の健康の確保を図るための措置を推進することとされた。
そのほか、現在に至るまで、「女性活躍推進」を旗印に多くの政策が実行されている。しかし、ジェンダーギャップ指数の順位はなかなか向上しない。これは日本が改善していないというよりも、世界に比べて改善スピードが遅いということなのだろう。
これだけ長い時間をかけて培われてきた価値観や慣習を変化させることは容易ではないが、今日の急速な環境変化のなかでは、良い変化も引き起こしやすいはずだ。次回以降のコラムでは、「提案編」として、「経済参画」に焦点をあてて、改善策などを紹介していきたい。
マイナビキャリアリサーチラボ 主任研究員 東郷 こずえ