マイナビ キャリアリサーチLab

「働き方と暮らし」の50年を振り返る【第5回】

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

本コラムはマイナビ50周年記念企画による『「働き方と暮らし」の50年を振り返る』シリーズの5回目となる。

前回のコラムでは「2000年~2012年(情報化時代の到来)」の時代背景や当時の労働政策など振り返った。今回は「2013年~2023年(AIとデータドリブンな社会の展開期、新型コロナウイルス感染症の流行)」についてまとめていく。

2013年~2023年(AIとデータドリブンな社会の展開期、新型コロナウイルス感染症の流行)

時代背景

この時期はAI(人工知能)技術が台頭し、また、データの重要性が増大していった。データの収集、分析、活用がますます重要になり、企業や社会全体がAI技術に基づいたソリューションを採用してきたといえる。また、この時期を象徴する出来事としては2020年頃から世界中に広がった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行があげられる。大きくコロナ禍の前後に分けて、当時の様子を振り返りたい。

2013年、2020年に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックの招致が発表され、日本中が明るい雰囲気に包まれた。東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、インフラ整備や環境振興などの取り組みが進められるなど、東日本大震災からの復興を目指して、全体的に前向きな動きが続いていた。

経済的な側面に注目すると、この時期は、安倍政権が推進したアベノミクスの下、日本経済は拡大基調で推移し、日銀の量的・質的金融緩和政策により、企業の資金繰りが改善され、設備投資や雇用拡大が進んでいた。また、世界経済の拡大も追い風となっていた。

しかし、全体的に前向きな雰囲気だったところに起こったのが、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行である。2019年の冬に中国で確認されたことを皮切りに、世界中に拡大。日本だけでなく世界規模で社会的、経済的に大きな打撃を受けることになった。

日本においては、東京オリンピック・パラリンピックに向けて、インバウンド事業の拡大を目指していたが、感染症対策として多くの国で実施された海外への渡航制限によって、観光事業全体が低迷することとなった。2020年に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックの開催は2021年に延期され、さらに、無観客での開催となり、当初見込んでいた経済効果が大きく減少する結果となった。

一方で、感染症対策として「非接触」のコミュニケーションが求められたこともあり、図らずも、社会全体のデジタル化が大きく伸長するきっかけにもなった。東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、特に東京都内で導入がプロモーションされていたテレワークについても、このコロナ禍をきっかけに大きく広がったといえる【図1】。

「第6回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(内閣府)
【図1】「第6回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(内閣府)*レポートより引用

同時に、教育機関におけるオンライン授業なども普及し、社会全体でデジタル化が加速することになった。なお、日本においては2023年5月に新型コロナウイルス感染症が2類から5類へ移行、海外渡航への制限も解除されるなどして徐々にインバウンドを含む、観光事業も復活し始めている。

また、デジタル化の部分に注目すると、2022年頃から広く社会に伝わった生成AIが注目されている。Chat GPTのように一般のユーザーが簡単に利用できるツールが充実しつつあり、今後も広がっていくと思われる。AIはこれまでも何度かブームがあったが、これまではその活用のために高度な技術や知識が必要な印象が強かった。

しかし、Chat GPTのようなツールが生まれたことにより、AIは誰もが簡単に使えるツールになりつつある。情報の精度や著作権侵害のリスクなど解決すべき課題は残っているものの、今後はビジネスの現場でも利用される機会が増えると予想されている。

また、それに伴い、人が行う仕事が変わっていくことも予想される。「AIが人の仕事を奪う」などという懸念もされているが、単純に奪うというよりも、人の仕事の種類を変えていくとみられている。特に日本においては、人口減少が進んでおり、労働人口においても同様に減少していく予想だ。こうした人材不足の対策として、AIが活用されるのは、もはや必至ともいえるだろう。

就職活動生の企業人気ランキングの状況

マイナビが実施している就職企業人気ランキングの結果から、この頃の人気企業を確認する。該当期間の結果で上位10社までをリストにした。

文系学生においては、2020年まで観光業関連の企業が多くランクインしていたが、コロナ禍の影響もあり、2021年以降は小売業が台頭してきていた。また金融やマスコミも継続的にランクインしている。理系学生においては、電機メーカー、食品メーカーなど幅広く製造業がランクインしている。コロナ禍を経てもあまり大きな変化はないが、ここ数年で通信業やゲーム関連企業がランクインするようになった。

就職企業人気ランキング(2013~2023年)
就職企業人気ランキング(2013~2023年)

主な労働政策

この頃の主な労働政策は以下のとおりである。
※いずれも、記載内容は当時のものであり、現在は改正されている場合もある。

✓女性が働きやすい環境の整備を企業に義務付け、女性が活躍できる社会の実現を目指して、2016年に「女性活躍推進法」が施行された。常時雇用する労働者数が301人以上の事業主は、女性の活躍推進のための行動計画を策定し、公表することが義務付けられた。行動計画には、女性管理職の割合や育児休業取得者の割合など、一定の取り組みを定めることが求められた。しかし、この時点では行動計画は企業の自主的な取り組みとして行われるものであり、形骸化してしまうという課題があった。そのため、2017年に「女性活躍推進法」が改正され、女性管理職の割合、育児休業取得者の割合、男性の育児休業取得者の割合など、一定の目標を設定すること義務付けられた。また、2022年の改正では、男女の賃金の差異際を 公表することを義務付けられるようになり、男女の賃金格差の把握、さらに改善に向けた取り組みを実施することが求められ、より実効性が高まることが期待されている。

✓2019年頃から段階的にいわゆる「働き方関連法案」が施行された。大きな柱としては「長時間労働の是正」、「柔軟な働き方の推進」、「非正規雇用の処遇改善」があげられる。
「長時間労働の是正」については、これまで労働基準法で定められていた「時間外労働の上限を原則として月45時間、年360時間」に関して、臨時的な特別の事情がある場合を除いてこれを超えて労働させることを禁止することとなった(中小企業に対しては、2020年4月から1年間の猶予期間が設けられている)。
「柔軟な働き方の推進」についてはフレックスタイム制やテレワークの推進が図られた。フレックスタイム制は適用範囲が拡大され、清算期間の上限が1ヵ月から3ヵ月に延長され、さらに、適用対象が常時雇用者50名から「10名以上」に拡大された。また、テレワークについては、利用促進のためのガイドラインが策定された。
「非正規雇用の処遇改善」については、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者・パートタイム労働者・派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指して「同一労働同一賃金」の導入が求められるようになった。具体的な法令は、パートタイム・有期雇用労働法(2021年4月1日より全面施行)、労働者派遣法(2020年4月1日より施行)である。どのような雇用形態を選択したとしても、納得できる処遇を受けられることで、多様な働き方が選択できるようにすることを目的としている。

✓2021年、高齢者が活躍できる環境の整備を目的とした「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」の一部が改正、施行された。65歳までの雇用確保(義務)に加え、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置をとることが努力義務として新たに設けられることになった。この高年齢者就業確保措置には「70歳までの定年引き上げ」「定年制の廃止」「70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)」「70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」「70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入(a.事業主が自ら実施する社会貢献事業/b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業)」があり、いずれかの措置を講ずるように努めることとされている。

✓働き方関連法案の施行より前から政府においても重要な課題であった「男性の育休取得促進」に関しても、働き方改革の重要な目標の一つとしてあげられ、2022年10月に施行された育児・介護休業法の改正が行われた。
男性版産休「産後パパ育休」の創設
産後8週間以内に、4週間(28日)を限度として2回に分けて取得できる休業。
女性の産後休業と併せて取得することで、夫婦で育児に専念することができる。
育児休業を取得しやすい雇用環境整備および妊娠・出産の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け
事業主は、育児休業を取得しやすい雇用環境を整備し、妊娠・出産の申し出をした労働者に対して、育児休業の取得について個別に周知・意向確認を行うことが義務付けられた。
育児休業の分割取得の拡大
育児休業を1歳までの間に、最長で2回分割して取得できるようになった。

以前から労働人口の減少が課題となっており、多様な人材が活躍できる社会の実現を目指して、さまざまな施策が実施されてきたが、この時期は特に柔軟な働き方の推進や不平等の是正など、実効性の高い政策が多く実施された印象だ。

新型コロナウイルス感染症の流行は社会的にも経済的にも大きな影を落とす出来事ではあったが、半ば強制的にテレワークの利用が拡大するきっかけにもなり、柔軟な働き方が促進された。また、仕事と家庭の距離が縮まったことで、ワーク・ライフ・バランスを重視する傾向が高まるなど、大きく価値観と行動を変えたともいえるだろう。

暮らし方

暮らし方の変化

生活面での大きな変化に注目すると、まずあげられるのはスマートフォンの普及によるデジタル化の進展だろう。スマートフォンの世帯保有率の推移をみると、2010年の段階ではわずか9.7%であったものが、2023年には90.1%になっている。【図2】

情報通信機器の世帯保有率の推移/通信利用動向調査(総務省)
【図2】情報通信機器の世帯保有率の推移/通信利用動向調査(総務省)

他に例のないくらい急速に一般的になったツールだといえるだろう。スマートフォンの普及によりインターネットを使って情報収集や買い物、交流を行うというだけでなく、動画配信サービスやオンラインゲームなどの利用も拡大し、人々の余暇の過ごし方が大きく変化した。

また、この10年間で大きく変化したものとして、共働き夫婦世帯の増加もあげられる。2000年代に入り、徐々に共働き世帯が専業主婦世帯を上回るようになっていたが、特に、2012年頃から大きく増加し、2022年には専業主婦世帯の2.3倍になっている。【図3】

専業主婦世帯と共働き世帯/労働力調査(総務省)
【図3】専業主婦世帯と共働き世帯/労働力調査(総務省)

さらに、女性の年齢階層別の就業率をみても、30代で凹みが解消されつつあることがわかる。【図4】

女性の年齢階級別就業率の変化/労働力調査(総務省)
【図4】女性の年齢階級別就業率の変化/労働力調査(総務省)

女性の就業率向上については、いまでも非正規雇用において女性の比率が高く、それは賃金における男女差につながっているという課題はあるものの、働き方関連法案の施行を背景に、さまざま実施されている対策が効果を発揮していくことが期待される。

このように女性の社会進出が進む一方で、男性の家庭進出の促進も望まれている。育児休業取得率は先述した法改正の影響などもあり、厚生労働省が実施している「令和4年度雇用均等法基本調査」によると、男性の取得率は過去最高となり17.1%であたったが、女性の80.2%に比べるとその差は大きい。さらにいうと、多くの女性は子供が1歳になるまで育休を取得するのに対して、男性側は、妻の出産後の時期のみであるなどその期間においても違いがあるようだ。

また、仕事と家事に費やす時間についても男女差は大きい。総務省が実施している「社会生活基本調査」の結果を用いて、有業者に限定し、仕事や家事に費やす時間を1991年と2021年の2時点、さらに男女で比較した。

先述したように、1991年から2021年の間には、働き方に関する制度は大きく変わってきており、仕事時間は男女ともに減少、家事時間は増加する傾向がみられた。しかし、それよりも大きいのが男女差である。特に家事時間については、2021年のみでみても、男性が19時間にあるのに対して、女性は128時間となっており、女性のほうが6.7倍という結果だった。

1週間当たり 書く活動に費やす時間/社会生活基本調査(総務省)
【図5】1週間当たり 書く活動に費やす時間/社会生活基本調査(総務省)

主に共働き夫婦について述べてきたが、今後、労働力不足の解消や誰もが生き生きと生活し、多様な人材が活躍できる社会を作っていくためには、法制度を整えると同時に、人々の生活が変化する実効力を持たせる必要があり、そのためにも企業と従業員の双方がともに努力する必要があるだろう。

さいごに

本コラムでは「2013年~2023年(AIとデータドリブンな社会の展開期、新型コロナウイルス感染症の流行)」についてはまとめた。また、今回が本シリーズの最終章となる。新型コロナウイルス感染症の流行について述べたが、本シリーズを通してこの50年の間にさまざまな出来事があった。大きな災害など悲しい出来事も多くあったが、そのたびに人々は復興に向けて努力し、それを機によりよい社会を作ろうとし、実際に社会を変えてきたのもまた事実である。

今後も、こうした社会の変化に注目しながら、働き方や日々の生活を送る人々の姿をレポートしていくとともに、すべての人が自分にとってより良く生きられる社会とはどういうものなのかを常に考え、少しでもヒントにしていただけるようなメッセージを発信していきたい。

マイナビキャリアリサーチラボ 主任研究員 東郷こずえ

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