マイナビ キャリアリサーチLab

「働き方と暮らし」の50年を振り返る【第4回】

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

本コラムはマイナビ50周年記念企画による『「働き方と暮らし」の50年を振り返る』シリーズの第4回目となる。

前回のコラムでは「1992~1999年(バブル崩壊から20世紀末)」の時代背景や当時の労働政策など振り返った。今回は「2000年~2012年(情報化時代の到来)」についてまとめていく。

2000年~2012年(情報化時代の到来)

時代背景

この時期はインターネットの普及が進み、IT産業が急速に成長した。インターネット利用率は2000年では37.1%だったが、2012年までの12年間で42.4pt増の79.5%まで上昇した。【図1】

インターネット利用率(個人)の推移/「通信利用動向調査」(総務省)
【図1】インターネット利用率(個人)の推移/「通信利用動向調査」(総務省)

その結果、オンラインショッピングの普及など、ビジネスや消費者の行動に大きな影響を与えた。

また、モバイルテクノロジーの進歩が著しく、携帯電話産業もこの期間に急速に進化した。携帯電話を含むモバイル端末の世帯保有率は2000年時点ですでに78.5%だったが、2007年には95.0%となる。【図2】

情報通信機器の世帯保有率の推移/「通信利用動向調査」(総務省)
【図2】情報通信機器の世帯保有率の推移/「通信利用動向調査」(総務省)*2008年はデータなし

2010年以降は急速に携帯電話からスマートフォンへの移行し、さらに、モバイルインターネットの利用が一般化した。このように、情報のアクセスが簡単になることで、デジタルコンテンツやソーシャルメディアの台頭が経済や社会に大きな影響を与えた。

経済的に影響の大きな出来事といえば2008年のリーマンショックだろう。アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに起こった世界的な金融危機は、日本を含む世界各国の経済に大きな影響を与えた。

特に、日本経済においては、欧米に向けた輸出の減少、株式市場の大幅な下落の影響が大きかった。リーマンショックにより欧米の需要が減少したことで、日本企業の輸出が減少し、経済成長に悪影響を与えた。

また、リーマンショックにより、日本の株式市場も大きく下落し、その結果、個人投資家や企業が多額の損失を被った。さらに、金融機関が貸し渋りの姿勢を取ったこともあり、消費の低迷や企業の設備投資の停滞から失業の増加へとつながった。

1990年代のバブル崩壊後、徐々に回復を見せていた日本経済だったが、このリーマンショックの影響で日本経済は低成長やデフレーション(物価の持続的な下落)の長期化に直面することとなった。

次に、経済だけでなく社会全体に大きな影響を及ぼした出来事としてあげられるのは、2001年9月11日にアメリカで発生した同時多発テロだろう。このテロ事件は世界的に大きな衝撃を与えるとともに、安全保障の観点での転換点となり、国際社会の関心がテロ対策に向けられた。テロの脅威に対する意識が高まり、日本国内でも防災や危機管理の取り組みが強化されるなど、安全保障やリスクマネジメントの重要性が再評価される契機となった。

次にあげられるのは、2011年に発生した東日本大震災だ。地震、津波、原子力発電所の事故によって多くの人々が犠牲になり、地域社会や経済にも深刻なダメージを与えた。これにより、エネルギー政策の見直しや防災対策の重要性が再評価されることとなった。

また、先述したように、この頃から急速にソーシャルメディアが台頭してきた時期であったが、東日本大震災においては、特に活躍したのがSNSだった。電話回線がつながらない場合でもインターネットが利用できたこともあり、一般の人々が情報を共有し、被災地の状況をリアルタイムで把握することができた。SNSの活用が一般的になるとともに、その存在価値が見直されたともいえる。

就職活動生の企業人気ランキングの状況

マイナビが実施している就職企業人気ランキングの結果から、このころの人気企業を確認する。該当期間の結果で上位10社までをリストにした。

文系学生では観光に関連する企業が多くランクインするようになり、理系学生においては、電気、機械に加えて、食品や日用品のメーカーも同程度ランクインするようになる。

最新のランキングと比較すると、文系に関してはサービス業関連の企業も多く含まれ、これまでよりは傾向が似てきたと感じられるが、理系に関してはIT、通信に関連する企業はまだ少ない印象だ。

マイナビ就職企業人気ランキング
マイナビ就職企業人気ランキング(2000~2012年)

主な労働政策

主な労働政策は以下のとおりである。
※いずれも、記載内容は当時のものであり、現在は改正されている場合もある。

✓2000年、労働者派遣法の改正により紹介予定派遣が解禁された。直接雇用を前提とした「紹介予定派遣契約」が解禁されたことで、労働者派遣終了後に、派遣元企業が派遣先企業に職業紹介をすることを予定した労働者派遣を行うことができるようになった。これにより、派遣労働者は一時的な労働力としてだけでなく、派遣元企業を介した間接雇用ではない、派遣先企業との直接雇用の機会が増えた。ただし、紹介予定派遣制度は派遣労働者の雇用形態や労働条件に関しては一定の規制がある。

✓2003年、厚生労働大臣、経済産業大臣、文部科学大臣、経済財政政策担当大臣を構成メンバーとする若者自立・挑戦戦略会議が「若者自立・挑戦プラン」を発表した。若年者(15~24歳)の完全失業率は古くから他の年齢階級よりも高い水準だったが、バブル崩壊後、さらにその傾向が強くなり、2003年には全体は5.3%に対して、若年者は10.1%にまで悪化した。フリーター、若年失業者・無業者が増加している状況が社会問題化してきたことを受け、教育政策・雇用政策・産業政策の連携を強めるとともに、官民一体となった若年者対象の「人材対策の強化」を総合的に打ち出すことをねらいとしたものだった。この中で、「キャリア教育」が重要な要素として取り上げられた。

✓2004年、「高年齢者等雇用安定法」が改正され、高齢者の雇用継続のための措置が義務化された。具体的には、定年を65歳まで引き上げることや継続雇用制度の導入が定められ、さらに、高年齢者の離職予定者に対する求職活動支援書の作成・交付の義務化や、年齢制限のある募集・採用の場合には理由の提示が義務化された。また、シルバー人材センターによる一般労働者派遣事業に特例が設けられるなど、これらの措置により、高齢者が働き続ける環境が整備された。

✓2006年、「改正男女雇用機会均等法」が成立し、男女の雇用機会均等を推進するだけでなく、育児や介護、セクシャルハラスメントの問題にも取り組み、より公平で多様性を尊重した職場環境の実現を目指す内容となった。具体的な内容としては、まず、企業は男女の雇用機会均等のための目標を設定し、その達成状況を報告する義務が課された。また、育児・介護休業制度が改善され、取得条件や休業期間の拡充、復職後の待遇や配置の保障も強化された。さらに、セクシャルハラスメントに対する規制が厳格化、女性の管理職登用の促進のため目標設定とその達成状況の報告が求められた。

バブル崩壊から長期間にわたって経済が低迷していたが、追い打ちをかけるようにリーマンショックが起こり、その後の日本経済は、景気後退や雇用の減少、企業の業績悪化などの厳しい状況に直面していた。

さらに少子高齢化なども課題となっていたため、新たな成長戦略の策定が求められていた。そのような状況下で日本経済の再生と持続的な成長を目指して2010年に閣議決定されたのが「新成長戦略 元気な日本 復活のシナリオ」だ。

成長の創出、地域とともに生きる社会の実現、持続可能な社会の実現という3つの基本方針を掲げ、重点分野の振興や産業の転換、人材育成、環境・エネルギー政策など多角的な施策が盛り込まれた。

暮らし方

暮らし方

2000年以降、共働き世帯が専業主婦世帯を上回り、その差は徐々に開いていく。2000年にはその世帯数は同程度だったが、2012年には専業主婦世帯が787万世帯なのに対して、共働き世帯は1,054万世帯と約1.3倍となった。【図3】

【図3】専業主婦世帯と共働き世帯/「労働力調査」(総務省)

女性の社会進出が進むにつれ、浮彫になったのが結婚・出産・育児などを機に退職する女性の姿で、年齢階層別の就業率を見ると、30代で低下してしまう現象が起こっていた(M字カーブ)がこちらも2000年から2012年の間に徐々に状況は改善され、その凹み方が緩やかになっていった。【図4】

【図4】女性の年齢階層別就業率の変化/「労働力調査」(総務省)

これだけみると労働市場における男女差が解消されているように思われるが、雇用形態別に見ると、女性の非正規雇用割合は高く、女性の就業率の高さは正社員として仕事を継続しているというよりは、パート・アルバイトといった形で雇用形態を変えて就業を継続する女性に支えられていたといえる。【図5】

【図5】非正規雇用の割合推移/「労働力調査」(総務省)

共働き夫婦が増え、かつてのような「大黒柱モデル」ではなくなりつつあったが、「正社員の夫と、パート・アルバイトで働く妻」という夫婦の形が一般的であり、そういう意味ではやはり主たる稼ぎ手は夫である家庭が多かったといえるだろう。

また、この時期の特徴としてあげられるのが「単独世帯」の増加である。2005年時点でこれまでもっとも多かった「夫婦と子供から成る世帯」と同程度になるが、2010年の調査では「単身世帯」が「夫婦と子供から成る世帯」よりも多くなり、その後、その差は開いていっている。【図6】

世帯の家族類型別一般世帯数/「国勢調査」(総務省)
【図6】世帯の家族類型別一般世帯数/「国勢調査」(総務省)

第1回目のコラムでも単独世帯の増加の理由に関して、晩婚化・非婚化や子供が独立したあと単身世帯となった高齢者の増加が考えられると述べたが、特にバブル崩壊、リーマンショックなどを経て、雇用が不安定になったことによる経済的な不安は晩婚化、非婚化の一因になっていることが指摘されている。

さいごに

本コラムでは「2000年~2012年(情報化時代の到来)」を振り返った。バブル崩壊で経済的に大きなダメージを負った日本社会がなんとか回復しようと努力していたさなかに起こったリーマンショック、そして、東日本大震災は日本の社会経済に大きな影響を及ぼした。

それはまた、大きなダメージとなったが、その一方で、女性の就業状況やデジタル化の拡大、エネルギー政策の見直しなど産業構造が大きく変化していくきっかけにもなった。

次は本シリーズの最終回だが、「2013年~2023年(AIとデータドリブンな社会の展開期)」という大きな変化の時期について述べていく。


マイナビキャリアリサーチラボ 主任研究員 東郷こずえ

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