マイナビ キャリアリサーチLab

賞与の金額で転職者は増えるのか?【ボーナスと転職の関係性を紐解く】

朝比奈あかり
著者
キャリアリサーチLab研究員
AKARI ASAHINA

株式会社マイナビは、正社員20代~50代男女のうち、前月転職活動を行った人または今後3か月で転職活動を行う予定の人(3か月以内に中途入社した人を除く)を対象とした「2023年冬ボーナスと転職に関する調査」を実施した。

本コラムは、ボーナスと転職の関係性を紐解くために実施した調査結果をまとめ、考察しているものである。調査概要は以下の通りだ。

調査概要

内容 2023年冬ボーナスと転職に関する調査
調査期間 2023年11月1日(水)~11月6日(月)
調査対象 正社員として働いている20代~50代の男女のうち、前月転職活動を行った人または今後3か月で転職活動を行う予定の人(3か月以内に中途入社した人を除く)
調査方法 インターネット調査
有効回答数 スクリーニング調査:21,153名 本調査:1,318名

賞与(ボーナス)とは

賞与とは、固定給とは別に支給される給与のことで、労働基準法には以下のように明記されている。

賞与とは、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであつて、その支給額が予め確定されてゐないものを云ふこと。定期的に支給され、且その支給額が確定してゐるものは、名称の如何にかゝはらず、これを賞与とはみなさないこと。

労働基準法 昭和22年9月13日発基17号

つまり、

  • 定期または臨時に、労働者の勤務成績に応じて支給されるもの
  • その支給額があらかじめ決まっていないもの

とまとめることができる。
一般的に賞与の支給は、夏と冬の年2回行うケースが多い。そして「労働者の勤務成績に応じて支給される」という性質上、賞与は転職意欲に影響を与えると考えられる。

今回は、冬の賞与支給を目前に控えたタイミングで、賞与と転職の関係について紐解いていきたい。

「賞与の少なさ」と転職

「賞与が少ない」ことが理由で転職をしたことがある割合

「賞与が少ない」ことが理由で転職をしたことがある人は62.5%だった。その内訳として「賞与が少ないことが一番大きな転職理由だった」とする人が25.4%、「1番ではないが転職理由だった」が37.1%となっており、全体の4分の1は「1番大きな転職理由だった」としている。【図1】

「賞与が少ない」ことが理由で転職をした経験_冬ボーナスと転職の調査
【図1】「賞与が少ない」ことが理由で転職をした経験

転職理由になるほど少なかった賞与額とは

「賞与が少ない」ことが理由で転職をした経験がある人に、そのときの賞与額を聞いたところ、全体の平均は31.1万円(1回あたりの支給額)だった。現在の役職別に見ていくと、部長クラスで60.3万円、課長クラスで47.9万円、係長・主任・職長クラス で34.8万円、役職についていない人で18.3万円となっている。【図2】

転職したほど少なかった賞与額_冬ボーナスと転職の調査
【図2】転職理由になるほど少なかった賞与額(1回あたりの支給額)

「賞与が少ない」以外の主な転職理由

また「1番ではないが転職理由だった」と回答した人に、そのときの1番の転職理由を聞いたところ、「賞与以外の給与(月給)が低かった」がもっとも多く17.9%だった。賞与が1番ではなくても、お金に関する不満が転職に結び付いている。【図3】

1番の転職理由_冬ボーナスと転職の調査
【図3】1番の転職理由

「賞与の高さ」と転職

賞与が高かったので転職するのをやめたことがあるか

一方、賞与額が高かったので転職することをやめたことがあるかを聞いたところ、「やめたことがある」が全体では30.7%で、役職別にみると部長クラスがもっとも高く41.3%だった。【図4】

賞与が高くて転職をやめた経験_冬ボーナスと転職の調査
【図4】賞与が高くて転職をやめた経験

「賞与が少ない」ことを理由に転職をしたことがある人は6割以上いたものの、賞与が高かったために転職をしなかったという人も全体で3割以上存在している。賞与は転職を決意する要因にも、転職を思いとどまる要因の1つにもなる可能性があり、働く人の勤続意欲に影響するようだ。

転職をやめるほど高かった賞与額とは

「賞与が高かったので転職をしなかった」ときの実際の賞与額はいくらだったのかを聞いたところ、全体では107.7万円、部長クラスでは190.4万円、課長クラスでは137.8万円、係長・主任・職長クラスでは104.1万円、役職についていない人では73.4万円だった(1回あたりの支給額)。

自分の仕事に見合う理想の賞与額とは

また別途、「自分の仕事に見合う理想の賞与額」についても聞いている。全体では89.2万円、部長クラスでは193.4万円、課長クラスでは132.7万円、係長・主任・職長クラスでは95.0万円、役職についていない人では57.0万円となった(1回あたりの支給額)。

特に部長・課長クラスでは「賞与が高かったので転職をしなかったときの賞与額」と大きな差がない金額で、極端に大きな金額が必要なわけではなく、自分の仕事に見合う賞与額であれば転職を思いとどまるという人が多いと考えられる。【図5】

賞与が高かったので転職をしなかったときの賞与額/自分の仕事に見合う理想の賞与額
【図5】賞与が高かったので転職をしなかったときの賞与額/自分の仕事に見合う理想の賞与額

「賞与の想定額」と転職

前年(2022年)の冬の賞与額と、今年(2023年)想定している冬の賞与額

回答者に2022年冬の賞与額と、2023年11月現在で想定している冬の賞与額をそれぞれ聞いた。
全体では、「2022年の冬の賞与額」は46.7万円、「2023年に想定している冬の賞与額」は46.2万円と、
2023年の想定を前年よりも低く見積もっている人が若干ではあるが多いことがうかがえる。

再掲として表に「賞与が少ないことが理由で転職をしたときの賞与額」を入れているが、全体では、「2023年に想定している冬の賞与額」と、「賞与が少ないことが理由で転職をしたときの賞与額」には15.1万円の差があった。

現在の役職別にみると、部長クラスでは31.9万円、課長クラスでは31.8万円、係長・主任・職長クラスでは17.6万円、役職についていない人では9.2万円の差があり、部長クラス、課長クラスでより大きな差がみられた。【図6】

想定賞与額_冬ボーナスと転職の調査
【図6】前年賞与額と想定賞与額

想定より賞与額が低かったときの「転職意欲」の変化

想定しているよりも賞与額が下回ったときに転職意欲はどう変化するか聞いたところ、全体では「転職意欲が高まる」が72.3%だった。役職別に見ると課長クラスがもっとも高く、8割以上の人が賞与額が想定を下回ったときに転職意欲が高まる結果となった。

転職意欲を5段階で聞いたとき、「高まる」を選んでいる人がもっとも多かったのが「係長・主任・職長クラス」で44.0%だった。リーダーや管理職を任されている人の方が、賞与が低かったときに転職意欲が高まる傾向にあるのではないかと考えられる。【図7】

転職意欲の変化_冬ボーナスと転職の調査
【図7】賞与額が想定を下回ったときの転職意欲の変化

「賞与支給日」と転職のタイミング

転職のタイミングを賞与後に調整したことはあるか

賞与前後の転職のタイミングについて、「賞与支給日を逆算して事前に転職活動を始めた」は31.5%で、「賞与額を見てから転職活動を始めた(18.9%)」と合わせると50.4%となり、約半数の人が賞与によって転職のタイミングを調整していることがわかった。【図8】

調整経験_冬ボーナスと転職の調査
【図8】転職タイミングを調整した経験

転職のタイミングを賞与後に調整した理由(自由回答)

転職のタイミングについて、「賞与支給日を逆算して事前に転職活動を始めた」「賞与額を見てから転職活動を始めた」それぞれについて理由を自由回答で聞いた。

「賞与支給日を逆算して事前に転職活動を始めた」人は、「賞与は今まで働いた分の報酬であるためもらえないと損をした気分になる」「今後の生活に支障が出ないように」、といった、今まで働いた対価を求める人や、転職活動時の生活を考えた理由を回答している傾向にあった。

「賞与額を見てから転職活動を始めた」人は、「賞与額は自分への評価のバロメーターだと思っており、その額が低かったので、この会社だと将来性がないと思ったから」「これだけ働いて正社員なのにこのボーナスはありえないと思ったから」「転職を決めかねていたので、1つの判断基準としたため」などの理由をあげていた。

賞与額を自身の評価として重視している人の転職を決意する要因となっていたり、仕事に対して対価が見合っていないと判断していたりと、賞与額がきっかけで転職活動を始めた人が多いようだ。【図9】

賞与支給日を逆算して事前に転職活動を始めた 30代:男性(メーカー) 賞与の前月に退職してしまうとそこまで働いた分の賞与が一切貰えず損をした気分になってしまうから
50代:女性(金融・保険、コンサルティング) 賞与を支給された方が今後の生活にとって良いと思ったから
40代:男性(メーカー) 金銭面で転職活動に支障が出ないように。また過去の成果に対する対価を受け取る権利は活用しようと思ったから
30代:男性(運輸・交通・物流・倉庫) 転職することは決定事項だったので、あとはどのタイミングで転職するかと考えたときに、ちょうどいい理由になった
賞与額を見てから転職活動を始めた 50代:男性(IT・通信・インターネット) 賞与額は自分への評価のバロメーターだと思っており、その額が低かったので、この会社だと将来性がないと思ったから
50代:女性(サービス) 少しとはいえまとまったお金が入ったので経済的に余裕ができたから (自分は生活費を考えておかないと転職が出来ないので)
40代:女性(その他の業種) これだけ働いて正社員なのにこのボーナスはありえないと思ったから
30代:女性(メーカー) とりあえず賞与を見て、この今の仕事に見合った評価をして貰えてるのかを判断しようとした
転職を決めかねていたので、1つの判断基準としたため
ない 40代:男性(不動産・建設・設備・住宅関連) ずっと転職先を探しているし、いい企業が見つかればもらい損をしてもかまわない。新しい企業を見つける事のほうが大事
30代:男性(IT・通信・インターネット) できるだけ早く転職したいので
20代:女性(医療・福祉・介護) 仕事量、内容と賞与額について特に不満がないため

【図9】賞与で転職タイミングをずらした・ずらさなかった理由

「賞与支給日を逆算して事前に転職活動を始めた」人については、すでに転職を決意しているケースが多かった。

しかし「賞与額を見てから転職活動を始めた」人については、転職を決意している人は少なかったため、評価に正当性を感じるフィードバックがあったり、自身の仕事に見合う賞与額になったりすれば、転職を止められる可能性があるだろう。

総評

今回の調査では、賞与額は転職と少なからず関りがあることがわかった。賞与額が想定を下回ると転職意欲が高まり、実際に6割以上の人が「賞与額が少ない」ことを理由に転職をした経験があることがわかっている。本当に流出させたくない人材がいる場合は、賞与額の引き上げで交渉をするのも1つの手となる可能性がある。

あわせて、納得感のある賞与額が社員の転職を止める一因になると考えられるが、金額だけでなく、評価についてのフィードバックを丁寧に行うことで、社員に自身の評価と賞与額について納得感をもってもらうことができるだろう。金額が低すぎても人材流出の危険性が高まるが、ある一定の金額以上は、その評価に対する納得感、正当性を感じられるかどうかがポイントになるのではないだろうか。

働く人への利益の還元に注力している会社には、人材が定着しやすいと考えられる。人口減少・少子高齢化によりさらなる労働力不足が予想される現在、賞与を含めた給与待遇の改善は、重要な課題となりそうだ。

キャリアリサーチLab 研究員 朝比奈あかり

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