国内の出張需要は回復するのか
コロナを経て大幅に減少した出張需要
コロナ禍により不要不急の出張は大幅に制限されることとなり、一気に需要は縮小した。かくいう私も、コロナ禍前は年に数回、講演や勉強会の講師として出張していたが、2022年までは一度も出張がなかった。2023年に入って久しぶりの出張で大分に出向いたが、地元でいろいろと景気に関するお話を伺うと、インバウンド需要でホテルは概ね回復してきているものの、飲食店や飲み屋街はかなり厳しい状況が続いているとのことだった。
観光庁の「旅行・観光消費動向調査」によると2019年の日本人国内旅行消費額は21.9兆円だったが、2020年には10兆円にまで減少。その内、「出張・業務」で支出した割合は2019年の17.2% から2020年には14.6%にまで減少している。この割合で単純計算すると2019年の3兆7,668億円から2020年には1兆4,600億円まで減少したことになる。これには宿泊や交通費も含まれる為、飲食店への経済効果はさほど大きいものではないかもしれないが、それでも一定の影響を受けているようだ。
そこで今回、国内を中心とした出張需要と現在の労働者が今後どの程度、出張を望んでいるのかを調査データから深堀してみてみたいと思う。
国内の出張需要
まず、国内の出張状況を前述の「旅行・観光消費動向調査」から確認してみたい。コロナ前の2019年から直近で発表されている2023年の4-6月期までの四半期ごとの推移をグラフに起こしてみた。【図1】
結果、コロナ前は宿泊を伴う出張を経験したことのある割合が4.5%前後、日帰りの出張が3%前後で推移していたが、2020年以降は宿泊・日帰りどちらも1~1.5%程度まで落ち込んでいた。直近の2023年4-6月期で宿泊を伴う出張が3.16%、日帰り出張が1.98%まで回復しているが、まだコロナ前までの水準には戻っていないことがわかる。
またこのデータは同一対象者に対して年4回調査(4-6、7-9、10-12、1-3月期分)実施しているが、コロナ前と後では回答者が異なっている可能性がある。そこで今度は弊社が実施した「マイナビ ライフキャリア実態調査」のデータを使ってコロナ禍前とコロナ後の状況変化を比較してみたい。
出張経験者の割合
弊社が実施している「マイナビ ライフキャリア実態調査」に出張に関する設問を3問だけ追加して聞いている。こちらでは宿泊か日帰りかを分けて調査しておらず、「片道100Km以上の移動を伴う出張」と定義して回答してもらっている。集計は公務員と会社員の正社員3,816名に限定して分析を行った。
まずは出張経験の有無で比較してみると、コロナ前の1年間(2019年以前)に出張経験がある人は30.4%あったのに対し、コロナ後(2022年4月~2023年3月)になると24.0%に減少している。【図2】
コロナ禍前(2019年以前)の1年間に1回でも出張経験のある1,029人に限定してコロナ前後の平均回数を比較すると、コロナ前の年間平均5.6回に対し、直近1年間(2022年4月~2023年3月)は3.4回に減少しており、同じ人でも平均2回ほど出張が減っていることがわかる。【図3】
企業側の出張需要
続けて「会社としての今後の需要の変化」および「個人としての今後の意向」を聞いてみた。まず会社の意向を確認してみると、会社としての出張の要望は「増えそう」が38.2%に対し、「減りそう」が54.8%と上回る結果となっており、今後の需要は減少傾向にあることがわかる。【図4】
会社要望を業界別に見てみると、「増えそう」が「電気・ガス・熱供給・水道業」(58.6%)や「製造業」(48.9%)などの業界で多く、各地に工場や現場がある業界では出張需要は回復が早いようだ。
一方で「減りそう」が「生活関連サービス業、娯楽業」(73.1%)、「公務(国家公務、地方公務、外国公務など)」(65.5%)などで、要望が減少しており、直接対面の必要がない業務などでは、出張も制限されていると推測される。
個人の出張意向
併せて聞いている個人の意向を見てみると「出張に行きたい」が35.9%に対し、「出張に行きたくない」は57.1%と、個人の意向としても減少傾向にあることがわかる。
属性別の比較を見ると、「女性」より「男性」の方が行きたい割合が高く、また、「代表取締役・役員・顧問」や「部長級」など上級役職者ほど行きたがる傾向が高い。取引先との会合や接待などが多いこともあるだろうが、出張自体を楽しみにしている様子も垣間見える結果だ。【図5】
グラフには示さないが、職種では「研究者」85.0%や「保安職業従事者」55.6%、「公務員・法人・団体職員」46.2%、「販売・営業従事者」45.9%などが「行きたい」と回答する割合が高かった。「研究者」などは全国で開催される学会などへの参加や、研究目的の出張も多い為、意向も高いのであろう。
もっとも人気の高い出張先は「北海道」
ではここで、もっとも人気の高い出張先都道府県の調査結果を示す。もっとも人気の高い都道府県は「北海道」で11.9%となった。海外の観光客からも人気が高いが、出張のついでに豊富な海の幸や美味しい料理を求めているのだろうか。
2位が「東京都」9.4%、3位「海外」5.1%、4位「沖縄県」3.8%の順となっている。個人的に好きな出張先である「福岡県」は3.0%で6位となっていた。【図6】
これを各地域別に見てみよう。「北海道」は当該地域に在住でも、出張先として魅力を感じていることがわかる。関東地方は「北海道」に続いて「海外」が2番目となっている。「東京都」は東北・近畿・中部・中国・四国などの各地域からのビジネス需要も高いが、併せて観光の需要も高いようだ。
順位 | 北海道(181) | 東北地方(203) | 関東地方(1468) | 中部地方(668) | 近畿地方(660) | 中国地方(221) | 四国地方(114) | 九州地方(301) |
1位 | 北海道 | 東京都 | 北海道 | 東京都 | 東京都 | 東京都 | 東京都 | 北海道 |
2位 | 東京都 | 北海道 | 海外 | 北海道 | 北海道 | 北海道 | 大阪府 | 東京都 |
3位 | 沖縄県 | 宮城県 | 沖縄県 | 海外 | 海外 | 大阪府 | 北海道 | 福岡県 |
4位 | 福岡県 | 福岡県 | 大阪府 | 愛知県 | 沖縄県 | 広島県 | 福岡県 | 海外 |
5位 | 神奈川県 | 青森県 | 福岡県 | 大阪府 | 大阪府 | 沖縄県 | 兵庫県 | 熊本県 |
最後に
今後の出張需要は会社意向も個人意向も減少していることから、回復には今しばらく時間がかりそうだ。更には、社会の在り方の変化により、これ以上の需要回復は期待できないとの見方もある。たとえば私が以前行っていたような勉強会や講演といった、一方向的なコミュニケーションであれば、オンラインでも事足るといった考え方も納得できる。
一方で、「集う」ことの効果も見直されてきている。特に雑談による意見創出や、集団としての意識共有といった意味では直接対面で集まることの意味がある。また、出張に関していえば消費人口が減少している地域に一定の人口流動があることも経済効果が期待できる。
出張によって「場」を変えることで生まれるイノベーションや対面による情報交換の有用性もある為、出張は必ずしも無駄といえるものではないだろう。決して私が出張に行きたいと思ってこの文章を書いているわけではないが(笑)、社会が今後どのような選択を行っていくのか注視していきたい。
キャリアリサーチLab所長 栗田 卓也