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欧州と日本の雇用システムの違いをしり、今後のインターンシップのあり方を探る

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

国際的な市場競争の結果、先進諸国の雇用システムの多様化が進んでいる。また、雇用システムの多様化が進むことで、学校と職業との接続的役割を担うインターンシップにも変化が求められている。

この対談では、2回に分けて欧州と日本の雇用システムの違いを確認し、今後のインターンシップのあり方について議論していただく。前編となる今回は、欧州と日本の雇用システムの違いを中心に語ってもらった。

法政大学 キャリアデザイン学部 梅崎修教授/国際教養大学 山内麻理客員教授

(写真左)法政大学 キャリアデザイン学部 梅崎修教授
(写真右)国際教養大学 山内麻理客員教授 

グローバリゼーションで産業と雇用システムの多様化が進むのか

梅崎まずは、山内先生のご専門である「産業と雇用システムの多様化」についてお話をお聞きかせいただけますか。

山内:雇用システムの歴史をいつの時代から振り返るのかによって話は違ってきますが、日本型の雇用システムについては、終身雇用、年功型の賃金システムという特徴ではコンセンサスが取れていると思います。一方、ドイツなどの場合は職業訓練や集団的賃金交渉が非常に発達していて、仕事の内容や報酬が企業の枠を越えて産業の中で共通になっているという特徴があります。

これら国ごとに特徴的な雇用システムに変化が起き始めたきっかけが、グローバリゼーション(※1)です。日本の市場に外資系企業が進出してきたことによって、日本人の働き方や人生の歩み方とは異なるスタイルがあることに気づかされました。その結果、80年代から90年代に雇用システムやビジネスモデルをグローバルの基準に統一していくのだという意見が出始めたのです。

梅崎:グローバリゼーションによって、雇用システムやビジネスモデルが一つのモデルに収斂していくことになる、という主張が強まったわけですね。

山内:ところが、1990年代以降、資本主義の多様性について多くの研究成果が発表され、2001年に刊行された『資本主義の多様性──比較優位の制度的基礎』(ピーター・A ・ホール&デヴィッド ソスキス著/以下、『資本主義の多様性』)が決定打となって、雇用システム、教育・訓練システム、金融・コーポレートガバナンスなど多方面で多様性の研究が進み、研究者の間では、少なくとも一つのモデルに収斂していくだろうと考える人は少なくなりました。

※1:政治や文化、経済などが国や地域を越えて、地球規模で拡大していくこと

日本の雇用システムが直面した課題とは

法政大学 キャリアデザイン学部 梅崎修教授

梅崎:しかし、日本企業を見てみると、雇用システムをグローバル基準に合わさざるをえないケースもあったのではないでしょうか。現在も、グローバル基準に合わせるべきという意見は多いです。

山内:確かに私が以前勤めていた金融業界などでは、90年代に外資系の投資銀行が日本市場に参入し、優秀な人材を高額な報酬で採用し始めました。今でいうジョブ型雇用に近いスタイルですね。

しかし、個人的にはこれはジョブ型雇用というよりは(少なくとも当初は)特別な技能や能力を持つ人の“特別枠能力採用”みたいなものだったと考えています。海外で育ったとか英語で不自由なくコミュニケーションができるとか、あるいは、高度な数学的知識を駆使して金融商品の設計ができそうな人材ですね。

その当時は、「金融業界は特殊だね。日本の大手町の一角はニューヨークのウォールストリートのように特別な人材が活躍しているんだね」というイメージを持っている人がたくさんいました。

梅崎:それが、他の産業にも影響を及ぼすようになったのはいつ頃ですか?

山内:この5年、10年ぐらいの間でしょうか。IT業界に飛び火し、近年はトラディショナルな製造業にも影響が及ぶようになってきました。GAFA(Google、Apple、Facebook/現:Meta、Amazon)などアメリカのIT大手企業が日本でも優秀な人材を積極的に採用し始めたのです。こういった状況を踏まえて、新卒一括採用の見直し、ジョブ型雇用の導入の議論が活発になっていったと私は理解しています。

梅崎:グローバリゼーションの波が、金融業界、IT業界、製造業へと押し寄せてきたわけですね。

山内:グローバル競争にさらされてプレッシャーを受けた産業から、雇用システムをある程度変えざるをえない状況になりました。グローバリゼーションの影響を受けることが少ない鉄道会社などのインフラ系や、その逆で総合商社などもともと国際競争力が高い産業は、雇用システムを大幅に変更する必要はありませんでした。

しかし、証券業界などは採用においても国際的な競争に直面していたので、「グローバル採用」のような特別枠の採用方法を導入し、特定の人材に普通の総合職とは異なる報酬体系やキャリアパスを提示する必要がありました。

グローバル競争のもとで産業という枠組みが重要性を帯びてきて、グローバリゼーションの影響を受ける産業と受けない産業で雇用システムへの対応にも違いが出てくる状況になったわけです。

国際競争力の有無が雇用システムの多様化に影響

梅崎:金融業界やIT業界で始まった雇用システムの変化が製造業に及んだ段階で、日本型の雇用システムも変わらざるをえないという論調が定着し始めたわけですね。これからはジョブ型雇用を積極的に導入して、日本型雇用システムも変えていく必要があると。

山内:グローバリゼーションによって雇用システムの多様化が進んだわけですが、もう一つ付け加えたいポイントが、比較制度優位とか比較制度劣位という国際競争における競争力の視点です。ほとんどの製造業は、商品がグローバルに動きますから、国際競争にさらされることになります。しかし、日本の自動車産業などは国際競争力が高く、日本独自のプロダクションシステム(※2)やリーンマネジメントシステム(※3)が確立されていて、海外企業が日本型システムを模倣する傾向があるくらいです。

グローバル競争にさらされる分野の中でも、競争力のある分野と、ない分野というのがあり、競争力のある企業は、当然日本型雇用システムを継続することになりますが、競争力がある分、海外売上や海外オペレーションが大きく、グローバル人事は他産業より進展しています(長期雇用は維持しつつ、本部も含めて人事や人材のグローバル化が進んでいるわけです)。

「産業と雇用システムの多様化」より引用
山内麻理 論文「産業と雇用システムの多様化」より引用


梅崎:国際競争力の有無が雇用システムの多様化に影響を与えるということですが、多様化にはいくつかのパターンがありますね。山内先生のご研究ではどのように位置付けられているのでしょうか。

山内:主に3つのパターンがあると思っています。国際競争力が高い比較制度優位の産業と、国際競争力が弱い比較制度劣位の産業、そして国際競争にさらされない産業の3つです。

自動車メーカーのように比較制度優位の企業は、長期雇用など日本型雇用システムの重要な方針を海外に持っていくくらいですが、比較制度劣位の企業は本部ごとその業界のベストプラクティスを追求する傾向があります。証券会社や製薬会社がこれに当たります。

また、鉄道や電力、マスコミなどは国際競争にさらされる機会が少ないので、伝統的な日本型雇用システムをそのまま継続する形になります。海外オペレーションも小さいため、人事のグローバル化は重要ではありません。

梅崎:その一方で、企業ごとには自社の環境に合わせてベストプラクティスを追求できますが、教育システムを含めた国全体の制度を考えると、簡単には解決できない問題がでてきますね。

山内:そうなのです。ある企業がジョブ型雇用を導入することを前提に、ヨーロッパみたいに長期のインターンシップを導入したいと考えても、ヨーロッパの大学と日本の大学では学費負担も違いますし、そもそも大学を長期で休んで単位がもらえるのかという問題もあります。

結局のところ、学校教育を含めた制度というのは国に一つしかないので、やむなく雇用システムをその制度に合わせているのが現実でしょう。その意味ではジョブ型雇用にも限界があり、特に文系の学生については、ジョブを限定せずに採用される人が引き続き多いのではないでしょうか。

※2:条件部と結論部からなるプロダクションルールと呼ばれる知識を蓄えた人工知能のシステムのこと
※3:より良い製品を生産するために、製造工程の無駄を省き最小限の資源で最大限の価値を追求するプロセス

イノベーションの違いによっても雇用システムが変化

国際教養大学 山内麻理客員教授

梅崎:グローバル化が進むと雇用システムが世界共通になったり、国ごとの雇用システムに収斂したりするわけではなく、産業や業界、商品の特性、イノベーションの種類などの違いによって多種多様な形式が生まれるわけですね。

日本の雇用システムを考える際に、さまざまなケースを考え始めると非常に複雑になってくる。わかりやすく単純化したいわけです。“日本的”という形容詞が付くと、ついつい一つの代表的なシステムとして考えがちになってしまう危険性があります。

そもそもイノベーションには、少しずつ改善を積み重ねていくようなインクリメンタル・イノベーション(漸進的イノベーション)と、今までにない方法で解決策を生み出すラディカル・イノベーション(急進的イノベーション)があって、人材の雇用システムはそのイノベーションの進め方に応じて変化させる必要がありそうです。

そこで、日本全体の産業マップみたいなものをイメージすると、日本では漸進的イノベーションよりも急進的イノベーションに取り組む企業が増えてきていると考えてもいいのでしょうか?

山内:そこは議論が分かれるところかもしれません。急進的イノベーションを志向する企業が増えていても、彼らが国際競争力を発揮するところまで行けるかは別問題と思っています。

『資本主義の多様性』に関連する論文を読んでいると、「ラディカル・イノベーションが重要な時代があっても、それが終わると、どういうふうにインクリメンタルに活用するかという時代が来る。ラディカル・イノベーションが重要なときにはアングロサクソン系の会社がいいように見えて、インクリメンタル・イノベーションが重要になってくると、日本やドイツの会社に優位性がある」という指摘をする研究者もいます。

AIが登場した当初は画期的なイノベーションに違いありませんが、数年もして一般的になってくると、今後はAIをどう応用していくかという局面に入ることになります。そうすると日本企業のほうが存在感を発揮するという見方もできます。

それに、国の政策も変わります。アメリカは一時期、ITや金融に注力していましたが、今は製造業強化に回帰しており、それに向けた教育訓練制度の再構築が話題になることもあります。その時代にどの産業が重要視されるかによっても、求められる雇用システムや教育訓練システムは変化するかもしれません。

ー今回は、欧州と日本の雇用システムの違いを中心に語ってもらった。後編は、欧州と日本の雇用システムの違いを踏まえ、今後のインターンシップのあり方について語ってもらう。


■プロフィール

法政大学 キャリアデザイン学部 梅崎修教授

梅崎 修(うめざき おさむ)
法政大学 キャリアデザイン学部 教授

マイナビキャリアリサーチLab 特任研究顧問
1970年生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。2002年から法政大学キャリアデザイン学部に在職。専攻分野は労働経済学、人的資源管理論、オーラルヒストリー(口述史)。人材マネジメントやキャリア形成等に関しての豊富で幅広い調査研究活動を背景に、新卒採用、就職活動、キャリア教育などの分野で日々新たな知見を発信し続けている。主著「「仕事映画」に学ぶキャリアデザイン(共著)」「大学生の学びとキャリア―入学前から卒業後までの継続調査の分析(共著)」「大学生の内定獲得(共著)」「学生と企業のマッチング(共著)」等。

山内 麻理(やまうち まり)
国際教養大学 客員教授 

専門は雇用制度や教育訓練制度の国際比較、制度的補完性。カリフォルニア大学バークレー校 東アジア研究所、フランス国立労働経済社会研究所(LEST-CNRS)、ドイツ日本研究所で客員研究員、同志社大学 技術企業国際競争力研究センター、国際教養大学で客員教授(現任)。『雇用システムの多様化と国際的収斂:グローバル化への変容プロセス』(2013)が、労働関係図書優秀賞、日本労務学会学術賞を受賞、『欧州の雇用・教育制度と若者のキャリア形成:国境を越えた人材流動化と国際化への指針』(2019)が大学教育学会選書(JACUEセレクション)入賞。日本労務学会・学術賞審査委員、国際ビジネス研究学会・学会賞委員会委員、中央職業能力開発協会 参与、厚生労働省グッドキャリア企業プロジェクト審査委員などを歴任。博士(商学)。

国際教養大学 山内麻理客員教授
梅崎修
登場人物
法政大学キャリアデザイン学部教授
梅崎修
OSAMU UMEZAKI

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