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最低賃金改定後の全国平均時給1,004円は、アルバイト就業者の満足感につながるのか?~アルバイト就業者も時給アップや満足感向上のため「リスキリング」の第一歩を~ 

関根 貴広
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
TAKAHIRO SEKINE

2023年10月に行われる地域別最低賃金額改定は、全国過重平均1,004円と決まった。最低賃金改定により、待遇改善を図ることは、労働者の生活安定や労働の質向上に影響するため、定期的な引き上げが求められている。

2022年の改定では、2021年から31円引き上げられ、全国平均961円と過去最大の上げ幅となったが、今年も政府の目標を受け過去最高となる前年比43円の増額で、全国平均1,004円となる。

一方で、「最低賃金1,004円」はアルバイト就業者にとって、私生活・仕事において本当の満足感につながるのだろうか。アルバイト就業者の意識と企業の採用活動の動きに関する調査結果をもとに、今後のアルバイト市場に求められることを考察する。

アルバイト就業者の「私生活」や「仕事」の満足感につながる時給額とは?

2022年3月時点で時給制アルバイトの就業者に対して、時給別に私生活と仕事に対する満足感を聞いたところ、2023年10月改定後の最低賃金全国平均にあたる「1,001~1,200円」では「私生活の満足度」52.3%、「仕事への満足感」50.6%となった。

一方、もっとも満足感が高かったのは「1,401円~1,600円」で、「私生活の満足感」62.9%(1,001~1,200円比:+10.6pt)、「仕事への満足感」63.5%(1,001~1,200円比:+12.9pt)となり、いずれも10pt以上上回る結果となった。

次に、労働時間別の満足感が、もっとも高かったのは「週11時間~20時間」の労働で、「私生活の満足感」53.4%、「仕事の満足感」49.8%となり、週の労働時間が長いほど、満足感は減少していくことがわかった。(「マイナビライフキャリア実態調査 2022年版」より)【図1】

<時給別・労働時間別>アルバイト就業者の私生活・仕事の満足感
【図1】<時給別・労働時間別>アルバイト就業者の私生活・仕事の満足感

物価上昇などが進む中、2023年10月改定後の「最低賃金の全国平均1,000円」では、就業者の満足感を高めることは難しいことがわかる。

最大上げ幅での最低賃金改定となる中、企業のアルバイト採用活動の現状は?

マイナビバイトに掲載求人のアルバイト平均時給と求人件数の増減率推移をみると、2022年の年間平均時給は1,147円(21年比:+24円)、求人件数は2021年比で168.0%となっており、特に求人件数は大幅な増加で推移している。

2023年の月間平均時給推移をみると、2023年7月の平均時給は1,203円で、2023年1月から7ヶ月間の時給平均は毎月、前年同月比+40円以上で推移している。

また、求人件数も前年同月比120~140%水準で推移しており、10月の最低賃金改定が迫る中、賃金・求人数ともにアルバイト市場が活発化している様子がうかがえる。(「アルバイト・パート平均時給レポート(7月)」より)【図2】 

アルバイト平均時給の推移と求人件数の推移
【図2】<全国>アルバイト平均時給の推移と求人件数の推移

2023年前半のアルバイト時給は上昇しているが、今後の予定はどうなのだろうか。
アルバイトを採用・雇用する企業に対して、今後半年間(6月以降)の給与変更予定を聞いたところ、46.4%の企業が「上げる予定」と回答し、過去最高を更新した。

上げる理由については、「人材確保が難しくなったため」が41.3%でもっとも高くなり、市場の変化よりも企業の人手不足感を解消するために検討をしているようだ。(「非正規雇用の給与・待遇に関する企業調査(2023年)」より)【図3、4】

今後半年間の給与変更予定
【図3】今後半年間の給与変更予定

今後半年間にアルバイトの給与を上げる予定の理由
【図4】今後半年間にアルバイトの給与を上げる予定の理由

賃金上昇が続く中、企業が非正規社員に求める能力は変化していくのか?

企業に、「将来的に非正規社員に求められる能力は変化すると思うか」を聞いたところ、半数以上(51.4%)の企業で将来的に「変化すると思う」と回答。また、求める能力を聞いたところ、サポート業務だけではない、正社員同等の能力を求める声が多かった。

具体的な内容を職種別にみてみると、[事務・データ入力・受付・コールセンター]では「DXの浸透など既存のテクノロジーの新展開や、新しいテクノロジーに対応するための知識」、[コンビニ・スーパー]では、「AIの発達により、レジ仕事がなくなった場合には、よりお店を管理する能力が求められる」、[飲食・フード]では「人間でなければできないこと、特に表情、話し方、人を惹きつける魅力的な人間力」などのコメントがあがった。

職種によっては、AIやテクノロジー進化への対応能力という声もあがる一方、接客業においては、AIに代替えできないようなコミュニケーション能力を求める声もある。(「非正規雇用の給与・待遇に関する企業調査(2023年)」より)【図5、6】

将来的に非正規社員に求める能力は変化すると思うか
【図5】将来的に非正規社員に求める能力は変化すると思うか

将来的に非正規社員に求められる能力
【図6】将来的に非正規社員に求められる能力(自由回答)

仕事・私生活での満足感を得るため時給UPに向けたリスキリングの検討も必要

ここまでみて頂いた通り、2023年10月改定の「最低賃金1,004円」では、必ずしもアルバイト就業者が高い満足感を得ることにつながらないことがわかった。

一方で、賃上げに伴い非正規社員に求める能力を変化させる企業が多いことから、今後満足感の高い時給を得るためには、仕事内容に合わせた新しい能力の取得が求められていく可能性が高い。

「リスキリング」「学びなおし」と聞くと、「アルバイトで働く自分には関係ない」「そもそも何を学べばよいのかわからない」など、気おくれしてしまうかもしれないが、インターネット上には無料で取り組める学びのコンテンツもある。

まず、自分が取り組みやすいと思うコンテンツ、少しでも興味を持てそうなコンテンツがないか、探し始めてみてはいかがだろうか。最初は狭い歩幅であってもその「第一歩」が、将来的に自分が望む満足感のある働き方につながっていくのではないだろうか。

キャリアリサーチLab 主任研究員 関根貴広

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