マイナビ キャリアリサーチLab

働きやすい職場とは?
人間関係だけじゃない、制度面での働きやすさ向上を目指す

矢部栞
著者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

新卒で入った会社に生涯勤めるだけではなく、転職をしてさまざまな経験をつむことが当たり前になっている現在。企業の人事担当者にとっては、自社の定着率を高めることは大きな課題ではないだろうか。 

平成26年の資料であるが、厚生労働省「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」には、<「働きがい」「働きやすさ」は、従業員の意欲、定着及び会社の業績向上と関係が深い>と記載がある。 

実際、マイナビが行った調査では「働きやすさ」と定着について関連性がありそうだという結果が出ている。「マイナビライフキャリア実態調査 2023年版(正社員限定)」では、正社員に対して現在の職場における働きやすさについての設問と、転職意向についての設問がある。その結果を掛け合わせたものが【図1】である。

【図1】現在の職場の働きやすさ×転職意向/マイナビライフキャリア実態調査 2023年版(正社員限定)
【図1】現在の職場の働きやすさ×転職意向
マイナビライフキャリア実態調査 2023年版(正社員限定)」

現在の職場について「働きやすい」「どちらかといえば働きやすい」と答えた人を「働きやすい群」、「どちらかといえば働きやすくない」「働きやすくない」と答えた人を「働きやすくない群」とし、それぞれ転職意向の有無と掛け合わせて集計したところ、現在の職場に満足していない人(働きやすくない群)の転職意向は7割近くにのぼっている。一方、現在の職場に満足している人(働きやすい群)に関しては、転職意向なしが半数を上回っており、「職場の働きやすさ」と「転職意向≒職場への定着」は関係が深いといえそうだ。 

本コラムでは、従業員の定着に課題を感じている企業に向けて、「働きやすい職場とは何か」についてデータをもとに考察していきたい。 

働きやすさ・働きがいとは

それではまず、「働きやすさ」とは何かについて考えていく。「働きがい」とあわせて語られることが多いが、前出の厚生労働省「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書(平成26年)」には以下の記載がある。 

「働きがい」は「自分の意見や希望が受け入れられる」「自分の仕事の意義や重要性に対して説明がなされる」といった「自己効力感」が充足されるような雇用管理がなされた場合に高まる傾向があり、「働きやすさ」は「自己効力感」に加え、「相談できる体制」や「福利厚生」に関する雇用管理がなされた場合に高まる傾向がみられる。

厚生労働省「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書(平成26年)」

つまり、働きがいは個人の内的要因が大きく、働きやすさは外的要因に起因するというように区分できそうだ。企業としては、ハンドリングが難しい人間関係などの内的要因よりも、福利厚生を整えるなどの外的要因=働きやすさに対してであればアプローチしやすいのではないだろうか。 

また、現在の職場が働きやすいと思っている人は、仕事に対する満足度も高い傾向にあることがわかった。(「マイナビライフキャリア実態調査 2023年版(正社員・非正規社員含む)」より)【図2】

【図2】現在の職場の働きやすさ×仕事に対する満足度/マイナビライフキャリア実態調査 2023年版(正社員・非正規社員含む)
【図2】現在の職場の働きやすさ×仕事に対する満足度
マイナビライフキャリア実態調査 2023年版(正社員・非正規社員含む)」

今の仕事や職場に満足して、「この会社で頑張ろう」と思ってもらうためには、働きやすい職場を整えることが重要だといえよう。 

新入社員にとっての「働きやすさ」

学生の就職意識を聞いた「マイナビ2024年卒大学生就職意識調査」によると、企業選択のポイントとして一番回答が多かったのは「安定している」で48.8%、これは5年連続で最多となっている。このことから、近年の学生は安定志向であることがわかる。 

続いて、何をもって安定性を感じているのかを聞いた「マイナビ2024年卒大学生活動実態調査 (3月)」の結果をみてみる。企業に安定性を感じるポイントを複数回答で答えてもらったところ、「福利厚生が充実している」が58.8%ともっとも多かった。次は「安心して働ける環境」「売上高」と続く。【図3】 

【図3】企業に安定性を感じるポイント/マイナビ2024年卒大学生活動実態調査 (3月)
【図3】企業に安定性を感じるポイント
マイナビ2024年卒大学生活動実態調査 (3月)

これらの結果から、学生は企業選択において安定性を重視しており、福利厚生が充実している会社に安定性を感じるようだ。これは、まだ社会に出ていない学生にとって、制度に守られているという安心を感じられることが重要であると考えられる。近年の新入社員にとって、制度は整っていて当たり前という感覚なのかもしれない。 

転職者にとっての「働きやすさ」

ここからは、社会経験がある転職者にとっての働きやすさとは何かを考えてみる。マイナビが正社員を対象に行った調査「転職活動における行動特性調査 2022年版」では、今後転職する際に「働きやすいこと」と「働きがいが持てること」のどちらが重要かを聞いたところ、「働きやすいこと」と答えたのが63%であった。転職をする際には、会社の仕組みが整っていることを重視する傾向にあるようだ。 

続いて「働きやすさにつながると思うものは何か」を聞いたところ、「リモートワークなど自宅以外も含め働く場所を自由に選べる」が71.2%でもっとも高く、続いて「在宅勤務(自宅のみ)と、出社勤務を自分でコントロールできる」が69.7%であった。【図4】

【図4】働きやすさにつながると思う項目/転職活動における行動特性調査 2022年版
【図4】働きやすさにつながると思う項目
転職活動における行動特性調査 2022年版

 転職する人にとっては、働く場所や勤務体系を自由に選択できることが求められているようだ。 

働きやすい職場とは何か

それでは、ここからは「マイナビライフキャリア実態調査 2023年版(正社員・非正規社員含む)」の「どのような点が働きやすさにつながると思うか」という設問をもとに、働きやすい職場にするためにはどんな制度が整っていれば良いかを考えていく。 

全体では「人間関係が良いこと(46.2%)」が一位、「休暇が取りやすいこと(39.4%)」が二位、「通勤がしやすい場所であること(37.5%)」が三位であったが、年代や子供の有無などで切り分けていくことで、置かれる状況によって「働きやすい」と思う項目に違いがあるかをみていく。

【参考】「どのような点が働きやすさにつながると思うか」回答選択肢一覧 

  • 休暇が取りやすいこと
  • テレワークの導入など社外で働けること
  • フリーアドレス制の導入など社内の自由な場所で働けること
  • フレックス制の導入など自由な時間働けること
  • 人間関係が良いこと
  • 通勤がしやすい場所であること
  • 仕事の内容が大変でないこと
  • 残業が少ないこと
  • 人事評価が適切であること
  • 教育や研修が充実していること
  • 社員食堂や食費の補助など食事に関するサポート制度があること
  • スポーツジムや健康診断など身体の健康面でのサポート制度があること
  • 社宅、家賃手当など住まいに対するサポート制度があること
  • 子育てや介護など家庭の事情への理解があること
  • 信頼できる上司がいること
  • 異動やジョブローテーションなどの希望を叶えてくれること
  • その他

現状の職場が「働きやすくない」と思っている人にとっての「働きやすさ」

まずは、現在の職場について「どちらかといえば働きやすくない」「働きやすくない」と答えた人にとって「働きやすいと思う点」と聞いた。

もっとも回答割合が高かったのは「人間関係がいいこと」で49.4%、次に「休暇が取りやすいこと」で40.9%と上位2項目は全体と同様であった。しかし、「信頼できる上司がいること」(36.3%)、「人事評価が適切であること」(31.7%)、「残業が少ないこと」(30.3%)と続き、現状の職場に対してこのあたりの項目で「働きやすくない」と感じていることがうかがえる。 

性別・年代別の「働きやすさ」

次に、「どのような点が働きやすさにつながると思うか」という設問の回答を性別・年代別にみて違いを考察してみた。 

全体として上位であった「人間関係がいいこと」「休暇が取りやすいこと」「通勤がしやすい場所であること」の3項目に関しては、男女に分けても大きな傾向の変化はみられなかった。 

これから社会に出る人も含む10代の回答をみてみると、男女ともに「教育や研修が充実していること」「信頼できる上司がいること」のポイントが全体値よりも高くなっている。若手のスタッフに対しては、研修などでしっかりしたサポートが求められている。 

20代・30代・40代の男性でみると、全体値よりも「働きやすさにつながる」と挙げた割合が多い項目として「社員食堂や食費の補助など食事に関するサポート制度があること」「社宅、家賃手当など住まいに対するサポート制度があること」「信頼できる上司がいること」「異動やジョブローテーションなどの希望を叶えてくれること」がある。
これからも長く勤める会社に求めるものとして、福利厚生の充実や仕事内容の希望を聞いてくれるかという点がポイントになっていることがわかる。 

20代・30代・40代の女性でみると、「残業が少ないこと」「子育てや介護など家庭の事情への理解があること」のポイントが高く、とくに30代女性では31.6%の人が家庭の事情への理解を重視している。休暇や残業などの項目のポイントが高いことから、プライベートとの両立がしやすい職場が「働きやすい」と思われる傾向が強いといえる。 

50代・60代では、男女ともに全体傾向と異なる特筆すべきポイントは見当たらなかった。しかし、サンプル数が少ないものの、70代は「仕事の内容が大変でないこと」を挙げた割合が多く、シニア採用の際は仕事内容の簡単さをアピールするのもひとつの方法といえそうだ。 

子供の有無でみる「働きやすさ」

続いて、別の設問「あなた自身にお子様はいますか」の回答結果と掛け合わせて、子供の有無によって「働きやすい」と思うポイントに変化はあるかをみてみた。 

「子供がいる」と答えた人と、「子供がいない」と答えた人それぞれの働きやすいと思うポイントを比べてみたところ、上位4項目は「人間関係が良いこと」「通勤がしやすい場所であること」「休暇が取りやすいこと」「仕事の内容が大変でないこと」で同様であった。 

子供がいる人の第5位は「子育てや介護など家庭の事情への理解があること」であり、急なお休みや早退などに対する理解が求められている。本項目は、子供がいない人の回答結果をみると17項目中15位のため、子供の有無によって大きく差があった。 

働きやすい職場を整えるために

ここまで、さまざまな切り口から「働きやすさ」を考えてきたが、置かれる状況や個人によって「働きやすい」と思うポイントには差があることがわかった。人間関係や通勤利便性など、企業側ではどうしようもないこともある一方で、休暇の取りやすさや残業の少なさ、テレワークなどの制度面というように企業側が整備することで整う環境もある。 

企業が従業員にとって働きやすい環境を整えることは、従業員が現状の仕事に満足しながら働くことができ、定着率のアップや業績向上というメリットが見込める。ひいては採用費削減などにもつながり、人材不足の時代に人手を確保するヒントになるだろう。 

コロナ禍による働き方の変化もあり、人々の働き方が多様化していること、また前述したようにこれから社会に出る新入社員にとっても福利厚生が重視されていることから、新入社員や転職者に選ばれるためには企業がどれだけ制度面を整えられるかが重要だ。人材の定着や採用に悩む人事担当者には、どんな人にも「働きやすい」と思ってもらえるような環境づくりを推進してほしい。 

キャリアリサーチLab 編集部 矢部栞

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