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なぜ創造性が発揮されないのか?~「日常的な創造性」の意義と実践~

神谷俊
著者
株式会社エスノグラファー代表取締役 バーチャルワークプレイスラボ代表
SHUN KAMIYA

変化が著しい現代において、企業がサバイバルするうえで創造性は必要不可欠な要素です。しかし、諸外国に比べて日本のビジネスパーソンは創造的に業務に従事できていない現状も指摘されています。(※1)

「創造性は、どうして発揮されないのか?」

本コラムでは、少し異なる角度からこの問いにアプローチします。個人の中に潜在する偏見や先入観の問題です。創造性に対するステレオタイプが、創造性を発揮することへの遠慮や躊躇いを生み出している可能性について提示し、個人が創造性をより気軽に日常的に実践するための理論やアプローチを紹介します。

天才・奇才だけが創造性を持っている?

みなさんは、職場において「自分のような”普通”の社員が、アイデアや企画を提案して良いのだろうか?」と思ったことはないでしょうか。創造性は「特別なもの」であると感じている人は、意外と少なくないようです。たとえば、次のような印象や考えを持っている人もいるかもしれません。

創造的なものをつくり上げるためには……

  • センスや才能といった先天的な資質を持ち合わせていなくてはならない。
  • 他者との交流を容赦なく切り捨て、一匹狼として己との戦いに挑まなければいけない。
  • 狂気や異常さといった常人ならざる要素を持ち合わせていなくてはならない。

このような創造性に対する偏見は、「創造性神話」(※2)と呼ばれています。
研究者は「神話」を多くの人が信じており、その先入観から思うままに創造することを躊躇ってしまったり、相手に創造性を求めることを控えてしまったりすることがあると指摘しています。私たちは、いつの間にか創造性を「特別なもの」にしてしまっているのかもしれません。

強調しておきたいことは、これはあくまでも「神話」だということです。「孤高の天才でなければ創造できない」は、一般的な“イメージ”としては浸透しつつも、そこに科学的な根拠はありません。それにも関わらず、このようなステレオタイプは、なぜ私たちの中に浸透しているのでしょうか。

「神話」を生み出す要因

「神話」を生み出している要因は、いくつか考えられます。たとえば「メディアの影響」です。メディアを通して紹介されるイノベーターたちの一風変わったエピソードや逸話が、いつの間にか私たちの創造性に対する先入観を作り上げてしまっている可能性が指摘されています。たとえば、次のようなエピソードです。

イノベーターは……

  • 自己中心的であり、他者に厳しい。
  • 〇〇しか着用しない。〇〇しか食べない。
  • 子供の頃から天才だった。

これらの非常人的な側面がメディアに取り上げられることによって、私たちは彼らとのあいだに大きな隔たりや違いがあると思ってしまいます。「そこまでやらないと、あのような偉業を達成できないのか」と、それを創造的な成果を生み出す条件であるかのように思い込み、妙に納得してしまうことがあります。

そのエピソードから見出される性格や生活習慣と成果とのあいだには、因果関係が証明されているわけではありませんし、世界中に何万人も存在するイノベーターのうちのたった数名のサンプルに過ぎないのですが、私たちはこれらのエピソードに強く影響されてしまいます。

芸術的創造性との混同

「神話」を受け入れてしまう別の要因として、芸術・デザイン領域における創造性(artistic creative)と、ビジネスにおける創造性(scientific creativity)の混同が挙げられます。

これらは本質的には異なるものです。芸術領域における創造性は、審美性や美的価値を追及する際に求められるものであり、ビジネスにおける創造性は問題解決やアイデアを進めることでビジネスの効果性や効率性に影響を与えるものです。(※3)

芸術における創造性は、先天的な資質の影響を受けやすいとされます。たとえば、絵画であれば持って生まれた視覚機能の如何によってパフォーマンスに差が生まれるはずです。また、音楽であれば聴覚や音感などの認知機能の影響を受けます。

他方でビジネスにおける創造性は、それらの影響は弱いとされています。たとえば、知能と創造性の相関を分析する試みなどが行われてきましたが、そこに強い相関は見られなかったことも分かっています。むしろ、創造性は本人が努力を重ねて修得した知識や技能、そしてモチベーションなどの心理的な側面が影響することが分かっています。【図1】

Businessにおける創造性の特徴説明図
【図1】

本質的には異なるこれらの創造性が同一視されてしまうと、先述の「神話」で言及したような勘違いが生まれます。先天的な資質としての「センス」や「才能」が必要だと思い込み、自らにはそれがないと無力感を抱き、創造的な行動を控えることが増えてしまうでしょう。

または「自分の仕事はデザインなど芸術的なセンスが問われない作業であり、創造性は必要ない」と線引きをしてしまう。このような解釈が生まれ、創造的な行動を控えるようになってしまうことが懸念されています。

現在、経営学における創造性研究では「創造性は誰もが発揮できるものである」という共通認識が定着しつつあります。(※4)しかし、創造性に対するステレオタイプによって、私たちはいつの間にか創造性に向かって手を伸ばさなくなっているのかもしれません。

創造性にはレベルがある

このような「創造性神話」から脱却し、創造性をより身近で実践的なものにしていくために、私たちには何が求められるでしょう。

また「創造性神話」を信じ、創造的な試みから足が遠のいてしまう部下や同僚に、何を伝えると良いのでしょう。ステレオタイプに影響されないためには、適切な知識をインプットすることが大切です。より正確な情報を獲得することで、人は思い込みや先入観を排除することができるからです。

このパートでは、創造性に対する理解を深めるために創造性のレベルについて解説したいと思います。下記の図2は「4Cモデル」(※5)と呼ばれる創造性のレベルに関する理論を図に表したものです。縦軸が「有用性(他者・組織・社会にとって、有益なものであるか)」のレベルを表し、横軸が「新規性(いかに斬新なアプローチ・アイデアであるか)」を表しています。

4Cモデルでは、これらの新規性・有用性のレベルによって、創造性を4つの段階に区別しています。【図2】

4Cモデル図
図2

1つずつ見ていきましょう。まずはレベル1「Mini Creativity」です。これは、その名前の通り「ミニ」サイズの創造性で、新規性も有用性もそれほど高いものではありません。別名“Everyday Creativity(日々の自由研究)”(※6)と呼ばれ、日常生活におけるちょっとした創意工夫やアレンジなどを意味します。

たとえば、職場で仕事をしているときに、資料をより見やすいものにしようとフォントや色合いを工夫したり、疑問に感じたことを調べて新たな知識やキーワードをインプットしたりといった誰もが経験する些細な創造的活動を意味します。

そして、レベル2は「Little Creativity」です。このレベルはレベル1のminiよりも少し新規性・有用性が高い活動を意味します。たとえば、生産性の向上を目的とした業務改善行動です。製品のバージョンアップや、組織内の制度設計、顧客対応方針の改訂などです。組織のパフォーマンス向上につながるようなアプローチがLittle Creativityです。

さらに、レベル3「Professional Creativity」になると、さらに創造性のインパクトは大きくなります。イノベーションにつながるようなインパクトを持つ創造がこれに該当します。たとえば、AIやロボティクスのような先進技術領域における開発や、記録的なダウンロードを達成するようなアプリケーションの開発など、組織的にも業界的にも大きなインパクトを生み出す創造がこのレベルです。

最後にレベル4「Big Creativity」ですが、これは後世に語り継がれるような偉大な創造を意味します。たとえば、トーマス・エジソンやグラハム・ベルなどのような偉人たちの発明です。また、インターネットやスマートフォンなどもこのレベルに位置付けられるでしょう。世界的に権威ある賞を受賞したり、百科事典に掲載さたりするレベルです。

なお、このレベルは時代背景や社会的評価の影響も受けるため、一般的にはレベル3の創造性を目指すことが多いと思われます。

創造性を広く捉えよう

4Cモデルにおいて注目したいのは、創造性を幅広く捉えている点です。このモデルでは、些細なアイデアであっても創造性と認め、促進していくことの重要性を提示しています。

偉大な発明家も、著名なイノベーターも多くの創造者がレベル1を経験してきたと言われています。「創造的な取り組み」とするのがやや大袈裟に見えてしまうような些細なアクションを、創造者本人も突き詰め、周囲がそれを支援することによって、偉大な発見や発明につながったのです。その意味でレベル1は「創造性の萌芽」と言えるでしょう。

些細な創意工夫も突き詰めていくことによって、イノベーションの端緒となる可能性があります。4Cモデルは、私たちが日常的に行っている試行錯誤の先に大きな価値をもたらすインパクトが潜んでいることを教えてくれます。

ティンカリングで創造レベルを高めていく

では、どうしたらレベル1の創造性はより高次のレベルへ発展していくのかについて見ていきましょう。重要になるのが、ティンカリング(Tinkering)と呼ばれる実践です。(※7)

ティンカリングは「いたずら心を持って、いじくること」を意味します。①積極的な観察や実験的な活動を重視すること、②発見や学習によって活動を変化させていくこと、③新たな問題を設定したり、アイデアを出したりして、遊び心を持って進めること、に特徴があります。

教育分野におけるティンカリングの例を提示しましょう。たとえば、初等教育で調理実習を行う際に、ティンカリングを用いることがあるようです。食材がつくられている農地やレストランのシェフや給食室の職員に会いに行き「食事をつくるとは、どういうことなのか?」について体感的に学びます。

さらに家族に話を聞くなどして「美味しい」とはどういうことなのかについて情報を集めていきます。そのうえで「美味しい食事」をつくるために、どのようなレシピにするか?何を工夫するか?などについてアイデアを出し合いながら進めていくといったアプローチです。現地・現物・当事者に触れながら、イメージと思考を刺激していくアプローチです。

これと対照的なものがメイキング(Making)です。メイキングは、すでに確立している計画にあわせて取り組むことを意味します。計画されたプロセスを、決められたアプローチで意図的にコントロールしながら進むプロセスです。

上記の調理実習の例にあてはめるならば、何をどのように作ればいいかについて教員が指示・計画を与え、その通りにプロセスを管理しながら進めていくような取り組みになります。予定調和的に作るのがメイキングで、予定調和を意図的に脱しながら、創っていくのがティンカリングとも言えます。

ティンカリングを行うことの最大のポイントは、「活動に意味を吹き込んでいくプロセス」にあります。調理実習の例のように「食事をつくることの意味」や「美味しさはどのように生まれるのか?」といったことについてより深く観察し、理解をしたうえで、作業を進めていくことができます。1つ1つの作業もどうして必要なのかを考え、意識的に進めるようになるでしょう。

このようにして、意義や価値をより深く理解することで、興味や好奇心が刺激され、個人はその対象に徐々に集中していくようになります。活動は、より持続的・探究的な意味合いを持ったものになっていくでしょう。それに伴って、どうしたらもっと有用なものになるかを深く考えるようになり(有用性の高まり)、また新しい方法論も積極的に試すようになっていきます(新規性の高まり)。このようにして、創造性はレベル2へと昇華していくのです。

ティンカリングの実践ポイント

ティンカリングをよりよく進めるために、どのようなアクションを進めれば良いでしょうか。最後に実践的なポイントを紹介します。推奨されているのは、次のようなアクションです。

「地続き」フィールドへの参加

自分の仕事において、より上流工程や下流工程を見に行くといった、直接的な利害関係者だけでなく、その先のステークホルダー(たとえば、顧客の顧客やエンドユーザーなど)にも関わりを持ちに行くことが有用です。

たとえば、メーカーの営業職ならば、小売店の販売スタッフや、小売店に買い物に来ている顧客層を観察したり、開発や製造現場の社員の要望やニーズに耳を傾けたりするなどの活動が考えられます。実際に“現場”を目の当たりにすることで、「どうして店舗スタッフはこれほど疲弊しているのか?」や「どうして顧客はすぐに店舗を出て行ってしまうのか?」など、具体的な疑問が生まれてくるかもしれません。

営業という業務だけに注目するのではなく、前後の業務プロセスやバリューチェーンを想像しながら関与レベルを高めていくことで、自分の仕事を改変するためのヒントや問題意識を得ることができます。

インプットの拡充

関連する情報を調べることが有効です。フィールドで観察した情報をより具体的に解釈するための知識を仕入れていきます。上記のメーカーの営業職においては、消費者の心理や行動についてより詳細に調べてみたり、実際に店舗で買い物をしてみたり、体感的に問題を見出そうとするなどのアプローチです。

インプットをするときは「手続き知識(進め方・やり方・ノウハウに関する知識)」ではなく、より本質的な「宣言的知識(AはBということである、CはDだ、というような意味を理解するための知識)」に注目するのがポイントです。

ビジネスの中では、仕事の進め方やノウハウに注目しがちですが、創造性を高めるためにはより本質的な領域にアクセスする必要があります。「そもそも顧客満足とはどういう状態を指すのか?」「どのような心理によって構成されるものなのか?」「消費者は買い物に何を求めているのか?」など、より本質的な知識を探究していく姿勢を持つと、これまでとは異なる視点や景色が見えてくるはずです。さまざまな情報をインプットすることで、顧客や業務に対する「解像度」が一層高まるでしょう。

ビギナーズ・マインド

フィールドに足を運び、インプットを拡充していくと、今まで自分が「何も見えていなかった」ことに気づくかもしれません。

自分の存在感を小さく感じることが、創造的なアプローチを展開するうえで非常に大切です。何も知らなかった自分を受け入れることで、「身軽さ」が増すためです。実験や挑戦を気軽に進め、失敗してもそこから集中的に学ぶ姿勢を維持することができるでしょう。

ビギナーズ・マインドやアマチュアリズムと呼ばれるこのような心理的モードを獲得することで、ティンカリングはより活性化していきます。「小さな自分」に気づくことで、世界が大きく感じられるようになり、1つ1つの進捗や問題解決が新鮮で大きな意味を持ったものに感じられるようになるためです。

さらに、ビギナーズ・マインドの獲得は、自分らしさを強く実感したり、人間関係を広げたり、世の中に対する健全な問題意識や疑問を次々と生み出すなどの効果をもたらすと言われています。「一人前」や「プロフェッショナル」という自負や矜持を敢えて脱ぎ捨てることによって、仕事はむしろ面白くなっていくはずです。

本コラムでは、創造性に対する誤解や偏見について取り上げ、気軽に創造性を進めるためのポイントについてお伝えしてきました。創造性は、一見すると高尚で手の届かないものに思えますが、その本質は「ティンカリング」や「ビギナーズ・マインド」といった誰もが実践できるような“初歩的”なアクションにあります。

既存の計画や目標に固執することなく、小さな1歩を「外」に向かって踏み出すこと。それだけで世界は大きく変わっていきます。本コラムが、みなさまの創造性を刺激する1つのきっかけとなれば幸いです。


※1:Steelcase. (2023). Workplace Creativity. Steelcase Asia.
 https://www.steelcase.com/asia-ja/workplace-creativity/
※2:Plucker, J. A., Beghetto, R. A., & Dow, G. T. (2004). Why isn’t creativity more important to educational psychologists? Potentials, pitfalls, and future directions in creativity research. Educational psychologist, 39(2), 83-96.
※3: Feist, G. J. (1998). A meta-analysis of personality in scientific and artistic creativity. Personality and social psychology review, 2(4), 290-309.
※4:Hennessey, B. A., & Amabile, T. M. (1987). Creativity and Learning: What Research Says to the Teacher. National Education Association, Professional Library, PO Box 509, West Haven, CT 06516.
※5:Kaufman, J. C., & Beghetto, R. A. (2009). Beyond big and little: The four c model of creativity. Review of general psychology, 13(1), 1-12.
※6:Richards, R. (2007). Everyday creativity and the arts. World futures, 63(7), 500-525.
※7:Kaufman, J. C., & Beghetto, R. A. (2009). Beyond big and little: The four c model of creativity. Review of general psychology, 13(1), 1-12.

著者紹介
神谷俊(かみや・しゅん)
株式会社エスノグラファー 代表取締役
バーチャルワークプレイスラボ 代表

企業や地域をフィールドに活動。定量調査では見出されない人間社会の様相を紐解き、多数の組織開発・製品開発プロジェクトに貢献してきた。20年4月よりリモート環境下の「職場」を研究するバーチャルワークプレイスラボを設立。大手企業からベンチャー企業まで、数多くの企業のテレワーク移行支援を手掛け、継続的にオンライン環境における組織マネジメントの知見を蓄積している。また、面白法人カヤックやGROOVE Xなど、組織開発において革新的な試みを進める企業の「社外人事(外部アドバイザー)」に就くなど、活動は多岐にわたる。21年7月に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)を刊行。

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