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ジョブ型雇用とは?変わりゆく日本の労働市場と雇用システム

キャリアリサーチLab編集部
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近年大手企業の間で、「ジョブ型」と呼ばれる新たな雇用システムの導入が始まっている。

すでにバブル崩壊直後の1990年代から多くの日本企業の間で、成果主義、年俸制といった、従来の日本の雇用慣行から逸脱するような制度の導入は行われていた。

そうした動きはこの30年留まるところを知らず、終身雇用、年功序列を基盤とする日本型雇用システムは確実に変質する方向に向かっているといってよいだろう。

このような雇用システムの大きな変革の背景にはどのような動きがあるのだろうか?また、私たち個々人の働き方に今後どのような影響を及ぼすのであろうか?

「ジョブ型」雇用とはいったい何なのか?

日本の雇用システムの根幹は「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」の3つだといわれてきた。こうした雇用システムが完成したのは意外と遅く、戦中から戦後にかけてのことだという。

1950年代以降、この雇用システムは日本に高度経済成長をもたらす大きな原動力のひとつとなった。日本企業は新卒学生の終身雇用を前提に職種を限定せずに採用し、さまざまな仕事を経験させることでゼネラリストとして育てる。そして年功序列で保障された生涯賃金により、長期にわたって会社組織への大きな貢献を引き出すことで高い生産性を維持してきた。

いっぽう欧米などでは、雇用する際に特定の職種を前提に雇用契約を結び、その仕事のみでキャリアを築いていくのが通常だといわれる。こうした欧米のような雇用システムを「ジョブ型」と呼び、それとの比較で日本のシステムを、会社の社員となってからさまざまなキャリアを形成していくという意味で「メンバーシップ型」と呼ぶ。

なぜいま、「ジョブ型」雇用が注目されているのか?

日本の雇用システムや人事制度の変革は、ここ30年来継続的に進んでいる現象だ。その原因としては、かつてのような右肩上がりの経済成長が望めなくなったことにより、企業が終身雇用、年功序列といったシステムを維持できなくなったことが挙げられる。

2020年に経団連が「2020年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」を公表し、日本の国際的競争力を上げるためにも、日本型雇用制度の見直しと、高度人材の確保の効果的な手法として「ジョブ型」雇用を提起したことから注目が集まった。

「ジョブ型」雇用への動きを促しているのは、マクロの動きだけではない。

たとえば女性の活躍推進。出産、育児等のライフイベントを迎えても活躍し続けられるように、組織は働いた時間や、経験年数ではなく、ジョブ、専門的な能力に着目した雇用のあり方を推進する動きが活発化している。

また、グローバル化の影響により、国内外で外国人の雇用も進んでいる。海外では比較的にジョブ型雇用が中心となっており、評価制度もそれに準じているため、国内の年功序列型の賃金システムと整合性がとりづらくなっている。

さらに若い人たちの考え方の変化も見逃せない。若い優秀な人材は、一定のキャリアを積むまで低い賃金で我慢しなければならない「メンバーシップ型」の雇用システムに不満を感じているといわれる。企業としても、そうした優秀な若手人材を確保するために、専門領域における能力を評価して処遇を決められる「ジョブ型」雇用に目を向ける企業が出始めている。

このように、ミクロ的なレベルでの変化もまた、「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への、雇用システムの転換を促していると考えられる。

求職者や就業者は今後どうすればいいのか?

「ジョブ型」雇用システムが普及するということは、何の専門性ももたない文系出身の新卒学生には就職の機会がなくなるということなのだろうか?

日本ではこれまで、「いい学校を出て、いい会社に入る」ことが人生を勝利に導く方程式であるかのように語られてきた。しかしこれからは間違いなく、高い専門性や優れた特定の能力を養うことが、それに代わる新たな目標になるであろう。

経済学者は労働者の能力を「企業特殊的技能」と「一般的技能」に分けて考える。「企業特殊的技能」とはある企業に長年勤めることによって習得される、その企業にいてこそ役立つ技能だ。それはまさに、「メンバーシップ型」雇用システムに親和的なものといえる。「ジョブ型」雇用システムの普及が進めば、会社を移っても役に立つポータブルな「一般的技能」の方により注目が集まるだろう。

そうした「一般的技能」を習得するには、何より自分自身に対する投資を惜しまない姿勢が求められる。こうした背景もあって、近年社会人を受け入れる大学院も増えつつあり、どこに行っても役に立つ技能を身につけようと働きながら学ぶ人たちも増えている。

しかしある職種が永遠に必要とされる保証があるわけではない。「メンバーシップ型」雇用システムを動揺させている経済環境の大きな変化は、常に自分のスキルを開発し、新たな活躍機会を逃さないようにするという姿勢を個々の求職者や働く人々にも求めている。

またそうした技能やスキルだけでなく、オープンで多様性に富んだ環境で、人々と協働的に働けるような心の持ち方やコミュニケーション能力なども重要な要素になるだろう。

今後の雇用システムのあり方はどうなっていくのか?

とはいえ、今後日本の雇用システムが全面的に「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に移行するのかというと、そう簡単にはいかないというのが大方の見方だ。

雇用システムにはそれを成り立たせる社会的な背景が必要だ。

欧米では職業を聞かれると「建築家です」とか、「エンジニアです」などと、仕事の内容を答えることが多い。それぞれの仕事が独立したひとつの「職業」として認識されているわけだ。

いっぽう日本では、依然として「どちらにお勤めですか?」「〇〇会社です」という会話の方が圧倒的に自然なのではないだろうか?

日本人にとっては依然として、会社は自分のアイデンティティの一部となるものなので、「メンバーシップ型」雇用システムがすぐになくなってしまうことにはならないだろう。

実情では、日本の社会はまだまだ就社意識や、長く務めた方がより良い、という意識の高さは根強く、社会システムの変化も軌を一にして整えていかなければならないといった課題も多くある。

雇用だけでなく他のさまざまな社会の変化を引き起こしながら、またときには逆にそれらに引っ張られながら、「ジョブ型」雇用システムの議論と普及は少しずつだが着実に進んでいくことになるであろう。

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