マイナビ キャリアリサーチLab

【医療・福祉・介護業界】の転職市場を最新調査から考える
―業界別に転職市場を徹底分析―

朝比奈あかり
著者
キャリアリサーチLab研究員
AKARI ASAHINA
アイキャッチ

はじめに


先行き不透明な時代に中途採用・転職の満足度を上げるため、企業・求職者の相互理解につながるような転職市場の情報を業界別に発信する本コラム企画。第1回はIT業界についてまとめた。第2回となる今回は「医療・福祉・介護」業界についてまとめる。
扱うのは、マイナビ転職のサイトデータ、公的統計データ、キャリアリサーチLabで行ったインターネット調査のデータで、回答者の情報が偏らないように留意した。

目次

マイナビ転職サイトデータ・公的データからわかること

経験者向けの求人、未経験者向けの求人どちらが多い?

医療・福祉・介護業界には未経験者を歓迎する求人が多い

マイナビ転職に掲載開始した求人について経験者求人・未経験者求人(※)の比率を集計し、推移をみる。
全体では、2018年の年間平均から現在まで継続して未経験者求人の方が多いが、新型コロナウイルスの影響で2019年から2021年にかけて未経験者求人が減少している。

医療・福祉・介護業界に絞ってみると、全体と比べて2019年からの未経験者求人の減少幅は少ない。2022年4~6月、7~9月は、2018年平均の水準には届かないものの、8割近い求人が未経験者求人だった。

実際にマイナビ転職に掲載されている医療・福祉・介護業界の未経験者求人をみると、長期間の研修があったり、国家資格の取得を金銭含めて支援する制度があったりと、技術的に未経験者をサポートできる環境を持つ企業・団体が存在していた。

(※)経験者求人:職種・業界いずれか、または両方の経験を問う求人/未経験者求人:職種・業界ともに未経験OKの求人

掲載求人の未経験者募集比率

掲載求人の未経験者募集比率
マイナビ「正社員の平均初年度年収推移レポート」より作成

初年度年収はどのくらい?

医療・福祉・介護業界の2022年7~9月平均の初年度年収は395.0万円
2018年平均から27.2万円増加

求人に記載されている初年度年収の平均値を集計すると、全体の2022年7~9月平均の初年度年収は454.0万円だった。

医療・福祉・介護業界に絞ってみると、2022年7~9月平均の初年度年収は395.0万円で、全体と比べると低い水準であることがわかる。しかし、2018年平均から2022年7~9月平均の推移をみると27.2万円増加しており、給与待遇の改善は継続的に行われていると考えられる。

平均初年度年収の推移

平均初年度年収の推移
マイナビ「正社員の平均初年度年収推移レポート」より作成

有効求人倍率(一般職業紹介状況)は?

医療・福祉・介護系職は全体と比べて有効求人倍率が高い傾向

厚生労働省から毎月発表されている「一般職業紹介状況」から有効求人倍率をみると、全体は2020年1月以降、2020年9月にもっとも値が下がったあと、現在まで増加傾向にある。

医療・福祉・介護系職を抜き出して有効求人倍率を全体と比較すると、医療・福祉・介護系職は有効求人倍率が高い傾向にあり、雇用者側のニーズが高く、人材獲得の競争が激しいことが公的統計データからもうかがえる。

月次有効求人倍率の推移

月次有効求人倍率の推移
厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」をもとにマイナビが作成

個人向けインターネット調査からわかること

現在医療・福祉・介護業界で働く人材の男女比は?

医療・福祉・介護業界は女性が働いている割合が高い

2021年6月~2022年7月に転職活動をし、現在正社員で働く20代~50代にアンケートを行った。全体の回答者1,600人のうち、男性は59.9%、女性は40.1%と、男女比は男性の方が多い傾向にある。

現在医療・福祉・介護業界で正社員として働いていると回答した130人に絞ると、男性は34.6%、女性は65.4%だった。医療・福祉・介護業界は全体と比べて女性の比率が25pt以上高い。

働く正社員の男女比

働く正社員の男女比
マイナビ「転職活動における行動特性調査 2022年版」より作成

仕事のやりがいは?

興味のある分野・専門知識を得られる・社会貢献・自己成長がキーワード

2021年に転職した20~50代の正社員に仕事のやりがいについて聞いたところ、全体では「スキルアップ・自己成長を実感する」がもっとも高く、次いで「昇給・昇進する」、「興味のある分野の仕事をする」と続いた。

現在医療・福祉・介護業界で働く人に絞ると、もっとも高いのは「スキルアップ・自己成長を実感する」、次いで「興味のある分野の仕事をする」、「さまざまな専門知識を取得できる」と続いた。

特に「興味のある分野の仕事をする」「さまざまな専門知識を取得できる」「社会との関わりを持つ、社会に貢献する」は全体と比べて回答者が多かった。医療・福祉・介護業界で働いている人は、自身が働く「社会への貢献度が高い業界」に興味を持っていて、専門知識を高めることにやりがいを感じる傾向があるとわかった。

マイナビ「転職動向調査2022年版(2021年実績)」より作成

転職理由は?

転職理由は「仕事内容に不満」が最多

2021年6月~2022年7月に転職した人の転職理由について、全体では「会社の将来性、安定性に不安があった」がもっとも高く、次いで「仕事内容に不満があった」、「給与が低かった」と続いた。

現在医療・福祉・介護業界で働いている人に絞ると、「仕事内容に不満があった」がもっとも高く、次いで「給与が低かった」、「職場の人間関係が悪かった」と続いた。少子高齢化・新型コロナウイルスの影響で業界ニーズが高まっている背景からか「会社の将来性に不安がある」を転職理由にした人は全体と比べて少なかった。

転職理由(複数回答・上位抜粋)

転職は同業界?異業界?

医療・福祉・介護業界は、全12業界でもっとも同業界への転職率が高い

2021年6月から2022年7月に転職した人について、前職の業界と現在の業界を比べた。
転職者全体では同業界への転職率は58.3%だったのに対し、前職が医療・福祉・介護だった人は80.0%が同業界に転職していた。医療・福祉・介護は、全12業界中で同業界への転職率がトップと、他の業界と比べても目立った結果だった。

転職理由でもっとも多かったのは「仕事内容に不満があった」だったが、医療・福祉・介護業界で働く人は国家資格を持っている場合も多く、同業界内で仕事内容を変えたいと転職を希望する人が多かったと考えられる。

同業界・異業界どちらに転職したか

同業種・異業種どちらに転職したか

応募意欲が上がる言葉は?

職場の雰囲気が良いことや副業が可能であることが応募にプラスの影響

2021年6月~2022年7月に転職した人に「求人情報にある言葉で応募意欲が上がるもの」について聞いた。現在医療・福祉・介護業界で働いている人の「働き方・職場環境に関する応募意欲が上がる言葉」は、「残業ほぼ無し」がもっとも高く、次いで「柔軟な働き方が可能」、「転勤がない・勤務地限定の採用」と続いた。

全体と比べると、「アットホームな職場」「副業可能」が上位となった。医療・福祉・介護業界で働く人は、職場の雰囲気が良いことや副業が可能であることが応募にプラスの影響を及ぼすようだ。

「働き方・職場環境」に関する応募意欲が上がる言葉(複数回答・上位抜粋)

「働き方・職場環境」に関する応募意欲が上がる言葉(複数回答・上位抜粋)
マイナビ「転職活動における行動特性調査 2022年版」より作成

転職先の決定理由は?

「福利厚生が整っている」ことを重視する人が全体より多い傾向

現在働いている場所(転職先)を決定した理由について、全体では「給与が良い」がもっとも高く、次いで「休日や残業時間が適正範囲内で生活にゆとりができる」、「会社に将来性、安定性がある」と続いた。

現在医療・福祉・介護業界で働いている人に絞ると、全体と同様に「給与が良い」がもっとも高かった一方で、「福利厚生が整っている」が上位となっている。全体と比べて福利厚生に重点を置いて転職を行った人が多いと推察する。

転職先を決定した理由(複数回答・上位抜粋)

転職の難易度はどうだった?

「内定取得」、過半数が簡単だったと回答

2021年6月から2022年7月の転職活動について、選考段階ごとに難易度を聞いた。

全体では、求人情報の集めやすさについては約半数が「簡単だった計(簡単だった+どちらかといえば簡単だった)」と回答した。一方内定の取得しやすさについては「簡単だった計」は36.8%で、求人情報の集めやすさに比べて内定取得の難易度は高かったようだ。

現在医療・福祉・介護業界で働いている人に絞ると、求人情報の集めやすさについて、全体と比べて「難しかった計(どちらかといえば難しかった+難しかった)」が5pt以上高かった。内定の取得しやすさは過半数が「簡単だった計」と回答している。

医療・福祉・介護業界では、全体と比べて求人情報を集めるのは難しいと感じる人が多いものの、内定は取得しやすいと感じている人が多いことがわかった。

求人情報を集める難易度の高さについては、「より細かな仕事内容」や「職場の雰囲気」など、同業界で転職をする人が多い医療・福祉・介護業界ならではの求職者の高い要望に、求人情報が追いついていない可能性が考えられる。

内定が取得しやすいと感じている人が多いことについては、有効求人倍率が全体よりも高く、雇用側の需要が高い、ということが理由として挙げられる。後述するが、企業向け調査の結果からも雇用者が慢性的な人手不足を感じていると推察できる。対象者は全体よりも同業界で転職した人が多く、特に需要が高い人材であったと考えられるので、内定が取得しやすいと感じている人が多いのだろう。

転職活動における状況ごとの難易度について

転職活動における状況ごとの難易度について
マイナビ「転職活動における行動特性調査 2022年版」より作成

転職で年収は上がったか?

全体と比べて「転職で年収が上がった人」は少ない

2021年6月から2022年7月に行った転職で年収が上がったかどうかを聞いたところ、全体では34.0%が「転職で年収が上がった」と回答し、「転職で年収が下がった」という回答よりも高かった。

現在医療・福祉・介護業界で働いている人に絞ると、「転職で年収が上がった」は27.7%、「転職で年収が下がった」は31.5%と、転職で年収が下がった人の方が多かったことがわかる。

転職理由の転職先の決定理由で「福利厚生が整っている」が上位となっていることからも、全体と比べて転職先に求めることが異なるのではないかと推察できるが、転職で年収をあげることが他業界と比較すると難しいようだ。

医療・福祉・介護業界の初年度平均年収は増加しているものの、転職による年収低下割合が高いことは、人材の流動性を上げる観点からみると課題点ではないだろうか。

転職で年収は上がったか