非正規雇用市場におけるコロナの影響による変化とコロナ5類移行後の動向~企業の採用活動と働き手の仕事観 ~
はじめに
2020年に新型コロナウイルス感染症の拡大が日本で確認されてから2023年で3年目となるが、政府は新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類を2023年5月8日に季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行することを決定し、屋内のマスク着用が原則不要となるなど生活面や企業活動の制限が緩和され、平時の社会経済活動に戻ることが期待される。コロナ禍をきっかけに、リモートワークや時差出勤を活用した柔軟な働き方、密の回避など人々の働き方やライフスタイルは大きく変化した。働き手の仕事選びにも影響があり、コロナ禍でアルバイトを選ぶ基準が変わった人は約3割、若年層ほど変わった割合が高く、学生においては約半数となった。【図1】
また、コロナの影響により人々のライフスタイルが変わったことで、企業活動や採用にも変化がみられた。本コラムでは、非正規雇用市場における企業の採用活動と働き手の仕事観について、コロナの影響による変化とコロナ5類移行後の動向をみていきたい。
コロナ前からの変化
1.コロナ前より従業員数が増えても「不足」を感じている企業が約6割
コロナ前(2020年1月以前)よりアルバイト従業員数が増えた企業は14.4%、変わらない企業は65.4%、減った企業は20.2%で、業種別でみると、コロナ禍で特に大きな影響を受けた「飲食・宿泊」は「減った」と答えた割合がもっとも高く33.8%であった。【図2】
急速に経済が回復するなかで、人手不足が深刻化している飲食・宿泊業において、アルバイト従業員数はコロナ前の水準には回復していない様子がうかがえる。コロナ前と比べたアルバイト従業員数の増減別に、人手不足を感じている割合をみると、アルバイト従業員数が「減った」企業では8割に迫っている。さらに、アルバイト従業員数が「増えた」企業においても、約6割が人手不足を感じていることがわかった。【図3】
2.一部企業において退職・休職者の補填以外の理由でアルバイトを確保する必要性が高まった
コロナ前より従業員数が減った企業と増えた企業のアルバイト採用活動実施理由を比べると、減った企業では「退職者・休職者分の補填(20.3%)」が、増えた企業を+4.9ptともっとも上回っており、減ってしまったアルバイト従業員数をコロナ前の水準に回復させるために採用活動を実施している様子がうかがえる。一方、増えた企業では「正規社員に重要業務に専念させるため(38.5%)」が、減った企業を+19.8ptともっとも大きく上回り、次いで「既存事業の拡大(20.9%)」で+12.0pt、「即戦力人材獲得のため(34.1%)」で+8.9pt、「シニア層の再雇用(12.1%)」で+8.8ptとなった。アルバイトの従業員数が増えたにも関わらず人手不足感が高かった理由は、退職者・休職者の補填以外の理由でアルバイトをさらに確保する必要が出てきたからだとみてとれる。【図4】
3.コロナ前より採用数が増えた職種は「飲食・フード」がトップ
コロナ前(2020年1月以前)より非正規社員の採用数が増えた職種は、[飲食・フード]で33.3%ともっとも高く、次いで[クリエイティブ・編集]で32.7%、[軽作業]で22.6%、[エンジニア・サポート・保守]で22.4%、[イベント・キャンペーン]で22.0%となった。【図5】
飲食・フードやイベント・キャンペーンについては、コロナ禍の需要低迷期で離れた働き手が戻らないまま急速に経済回復が進んだため、採用数を増加させたとみられ、軽作業はコロナ禍での電子商取引(EC)の拡大で需要が増加したことが影響していると考えられる。また、WEBディレクターやWEBデザイナーなどのクリエイティブ・編集やエンジニア・サポート・保守は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速するなか、正規社員の採用が難しさを増しており、雇用対象を非正規社員にも広げて採用を強化した企業が多かったと考えられる。
4.対面業務が多い職種において働き手の求職意欲が減少
コロナ前(2020年1月以前)にも非正規で仕事をしていた、もしくは仕事探しをしたことがある人に、現在の希望職種とコロナ前の希望職種に変化があったかを聞いたところ、「コロナ前は希望していたが、現在は希望していない」がもっとも高い職種は[医療・介護・福祉]で21.4%、次いで[教育][警備・清掃・ビル管理]で21.3%、[イベント・キャンペーン][飲食・フード][軽作業]で2割を超えた。【図6】
対面業務が多い職種においてコロナ前より求職意欲が落ちた様子がみられ、経営や感染症への不安感などコロナ禍でのネガティブなイメージが影響していると考えられる。
コロナ禍における企業と働き手の変化まとめ
コロナ禍で特に大きな影響を受けた飲食・宿泊業でアルバイト従業員数の減ったと答えた割合がもっとも高く、コロナ前より非正規社員の採用数が増えた職種としても飲食・フードが3割と上位にあがった。しかし、飲食・フードの職種は、働き手が「コロナ前は希望していたが、現在は希望していない職種」としても上位にあがっており、企業の採用ニーズと働き手の求職ニーズにはギャップがみられた。また、アルバイトの採用活動理由は、コロナ前よりアルバイト従業員数が減った企業では、従業員数をコロナ前の水準に回復させるためだったが、コロナ前よりアルバイト従業員数が増えた企業では、正規社員に業務に専念させるためや既存事業の拡大などといった退職者・休職者の補填以外の理由でアルバイトをさらに確保する必要が出てきたからだとわかった。
コロナ5類移行後の変化の見通し
1.特に「飲食・宿泊」業界で企業のアルバイト採用意欲の増加と時給改善の動きがみられる予測
では、次にコロナ5類移行後の企業と求職者の動向について探っていきたい。コロナ5類移行後(2023年5月8日~)に企業がアルバイト従業員数を増やす予定は28.2%で、増加予定がもっとも多かった業種は[飲食・宿泊]で57.3%となった。【図7】
飲食・宿泊業では、コロナ前(2020年1月以前)より非正規社員の時給を上げた企業が46.5%と小売(50.9%)に次いで高かったが、コロナ5類移行後(2023年5月8日~)に時給を上げる予定の企業も28.8%と業種別でもっとも高くなり、人材確保のために待遇改善に取り組む企業が多い様子がみてとれる。【図8】
2.正規社員の補填を目的とした採用が活発化する見込み
コロナ5類移行後(2023年5月8日~)に非正規社員の採用数を増やす予定の職種は、[営業]で44.4%ともっとも高く、次いで[医療・介護・福祉]で43.1%、[飲食・フード]で38.5%、[エンジニア・サポート・保守]で38.4となった。【図9】
マイナビの中途採用状況調査2023年版(2022年実績)で正規社員の人手不足を感じている割合が高い傾向にある営業や、中途採用募集平均人数が多かった営業や医療・福祉で採用意欲が高い様子がみられたことから、今後正規社員の業務の補填を目的とした非正規社員の採用が活発に行われることが予測される。
3.働き手の求職意欲は増加する見込み
現在(2023年3月調査時点)と比べてコロナ5類移行後(2023年5月8日~)の非正規社員の就業・求職意欲が増える割合は26.8%となった。【図10】
コロナ5類移行後に就業・求職意欲が「増える」とした理由では、「活動制限も緩和され、より幅広い働き方ができると思ったから」や「感染しても長い間休まなくてよいから」「コロナの不安が減りオフィスワーク以外も関心が出てくる可能性がある」などのコメントがある。反対に、コロナ5類移行後に現在の就業・求職意欲より「減る」とした理由では、「まだコロナが無くなったわけではないので、感染に不安が残る」や「まだコロナ感染が怖く、在宅ワークもしたいから」などのコメントがある。【図11】
4.コロナ禍で避けられていた職種に対する働き手の求職意欲が高まる可能性も
また、現在の希望職種と新型コロナウイルス感染症法上の位置づけ5類移行後(2023年5月8日~)で、希望職種に変化があるかを聞いたところ、「現在は希望していないが、コロナ5類移行後は希望する」がもっとも高い職種は、[警備・清掃・ビル管理]で14.4%、次いで[軽作業]が14.3%、[イベント・キャンペーン][教育]で13.7%となった。【図12】
「コロナ前は希望していたが、現在は希望していない」で上位となっていた[警備・清掃・ビル管理][軽作業][イベント・キャンペーン][教育]では、「現在は希望していないが、コロナ5類移行後は希望する」で上位となっており、感染対策の観点からコロナ禍で求職意欲が減少していた職種でも、規制緩和により今後求職意欲は回復する可能性も考えられる。
コロナ5類移行後における企業と働き手の動向まとめ
飲食・宿泊業の3割がコロナ5類移行後に時給を上げる予定となり、飲食・宿泊業ではコロナ5類移行をきっかけに人材確保の競争はさらに加速しそうだ。コロナ5類移行後(2023年5月8日~)に非正規社員の就業・求職意欲が増える職種は、コロナ禍で求職意欲が減少していた[警備・清掃・ビル管理][軽作業][イベント・キャンペーン][教育]が上位となり、コロナ感染への不安が残るものの、規制緩和により幅広い働き方やコロナで消極的になっていた職種への関心が高まり、働き手の動きが活発化することも考えられる。一方で、企業の採用ニーズは[営業][医療・介護・福祉][飲食・フード][エンジニア・サポート・保守]など正規社員の採用ハードルが高い職種が上位となり、非正規社員としての働き方を希望する人の就業・求職ニーズとはギャップがあることがわかった。非正規社員の働き方を希望する人は、働く時間や場所の自由度が高いことに利点を感じる人が多いため、非正規社員に雇用形態を広げて採用を行う場合は、同じ募集職種でも働き方の自由度を高めるような職場環境を整備することが重要となると考えられる。
コロナ禍で非正規社員にもリモートワークが広がる
ここまで、非正規雇用市場における企業の採用活動と働き手の仕事観についてコロナ禍の変化とコロナ5類移行後における動向をみてきたが、コロナ禍で変化した働き方やライフスタイルのなかでも今後定着するか、あるいはさらに広まるかが注目されるリモートワークと地方移住についてみていきたい。コロナ前(2020年1月以前)よりリモートワークを活用した遠隔に住む非正規社員の採用数が増えた業種は[ソフトウェア・通信]で20.8%ともっとも高く、コロナ5類移行後(2023年5月8日~)の増加意向も[ソフトウェア・通信]で25.0%ともっとも高かった。一方で、コロナ5類移行後にリモートワークを活用した遠隔に住む非正規社員は雇わない予定は、[医療・福祉]で27.4%ともっとも高く、次いで[飲食・宿泊]で25.3%となった。【図13】【図14】
コロナ禍でリモートワークの実施対応が進んだソフトウェア・通信の企業では、コロナ5類移行後もリモートワークを活用して遠隔に住む非正規社員の採用が活発化傾向にあり、今後非正規社員においても働く場所の自由度が高まり、地方に住みながら行える仕事も増えると考えられる。そこで、非正規雇用の仕事を探した人に地方移住への興味を聞いたところ、興味がある割合は39.0%となった。【図15】
地方移住に求める支援・施策では、「地方企業の給与アップ」が37.7%ともっとも高く、次いで「地方での求人数増加」が34.4%、「充実した求人の情報提供・開示」が32.4%となり、賃金や求人など仕事に関する項目が上位となった。【図16】
都市に比べて地方の求人数は少ないため、都市部の企業でリモートワークができれば、地方での仕事探しという仕事への不安が軽減され、地方移住という選択がより現実的に検討できるようになると考えられる。一方で、医療・福祉や飲食・宿泊の業種では、対面業務が多いことからリモートワークの活用が難しい職種であり、今後非正規社員のなかでも業種間で働き方のギャップは広がるとみられる。
まとめ
コロナ禍で特に影響を受けた飲食・宿泊業においては、企業の採用ニーズは回復傾向である一方で、働き手の求職ニーズは未だに低迷している。しかし、コロナ5類移行後は採用ニーズと求職ニーズともに増加する見込みである。今後、非正規社員の採用活動を実施する目的は、正規社員に重要業務を専念させることや、既存事業の拡大や即戦力の獲得のためなど、コロナ禍で減ってしまった従業員の補填といった単なる労働力の確保だけではなくなるとみられ、非正規社員に求めるスキルがより明確になる可能性もあるだろう。また、人手不足により正規社員の採用が難しいことからターゲットを非正規社員に広げるといった企業も増加すると考えられる。非正規社員の働き方を希望する人は、働く時間や場所の自由度が高いことに利点を感じる人が多いため、非正規社員に雇用形態を広げて採用を行う場合は、同じ募集職種でも働き方の自由度を高めるような職場環境を整備することが重要となると考えられる。また、今後労働人口の減少により、さらに人手不足が深刻化するなかで、雇用形態問わずに正規社員でも柔軟に働ける環境作りが求められるだろう。アフターコロナの非正規社員の雇用市場について、今後も企業と働き手の動向について注目していきたい。
キャリアリサーチLab研究員 三輪 希実