マイナビ キャリアリサーチLab

コロナ禍による転職活動の変化~2年で転職をする20代男性~

荒木貴大
著者
キャリアリサーチLab研究員
TAKAHIRO ARAKI

コロナ前の水準に戻った転職市場

転職動向調査の時系列を確認していくと、正社員転職者割合はコロナ禍中では下がっていたが2022年調査(調査対象期間2021年)ではコロナ前の水準に戻った。【図1】

正規社員の転職率 /マイナビ転職動向調査(2022)
【図1】 正規社員の転職率

しかし、WEB面接の普及などコロナ前とは転職活動の様態が変わってきており、それによって転職者の実態にも変化が見られていると考えられる。また、そういった変化は比較的ITリテラシーの高い若年層に現れると仮定できる。

本コラムでは、転職動向調査の結果を踏まえつつ属性ごとの分析からコロナ前後の転職実態の変化を確認する。

なお、本コラムでは過去3年分(2019年~2021年)の転職動向調査を利用する。また、新型コロナウイルス流行の推移に関しては下記の通りとする。
2019年 – コロナウイルス流行前(日本国内のコロナウイルス感染症第1例が2020年1月)
2020年 – コロナウイルス流行後(1年目)
2021年 – コロナウイルス流行後(2年目)

転職活動期間の短縮化と情報選択の高度化 ~転職活動期間と閲覧・応募・面接・内定企業数の変化~

まず転職活動の中身がどのように変化しているかを見るため、「情報収集をしてから内定を獲得するまでの期間」「転職活動時に【閲覧・応募・面接を受けた・内定を獲得した】企業数」「WEB面接の実施率・意欲変化」「前職の就業期間」を確認する。【図2】

「情報収集をしてから内定を獲得するまでの期間」に関しては時系列で見ると2019年(120.6日)から2021年(109.5日)で10日ほどではあるが短くなっている。また過程を分けると、「転職を意識して情報収集してから、現在の会社に応募するまで」の期間で短くなっている(2019年:86.6日、2021年:72.8日)。

転職先の情報収集を始めてから内定通知を受けるまでの期間  /マイナビ転職動向調査(2022)
【図2】 転職先の情報収集を始めてから内定通知を受けるまでの期間

次に「転職活動時に【閲覧・応募・面接を受けた・内定を獲得した】企業数」であるが、「閲覧企業数」はコロナ前の2019年とコロナ後の2021年で微減傾向(2019年:35.6社、2021年:32.6社) といった状況である。「応募企業数」(2019年:7.9社、2021年:8.4社)、「面接を受けた企業数」(2019年:3.3社、2021年:3.5社)、「内定を獲得した企業数」(2019年:1.6社、2021年:1.6社)に関してはコロナ前との差は見られない。【図3】

転職活動時に【閲覧・応募・面接を受けた・内定を獲得した】企業数 /マイナビ転職動向調査(2022)
【図3】転職活動時に【閲覧・応募・面接を受けた・内定を獲得した】企業数

時系列の中間地点にあたる2020年では「閲覧企業数(41.6社)」と「応募企業数(10.6社)」が増加している。コロナ1年目の期間と重なっており、企業側がコロナ禍で採用活動を縮小したことによって転職者側は先行き不安な状況の中で多くの企業にエントリーをしないと面接や内定に進むことができなかったと考えられる。だが、この動きはコロナ2年目にはすでに治まっているようである。

また、2019年から2021年で情報収集から応募までの期間は短縮化し閲覧した企業は微減しているが、応募企業は減っていないという状況から、短い期間で自分に合いそうな企業の情報を適切に選択することができているように見える。コロナ禍による巣ごもりでネットに接する機会が増え、ITリテラシーや情報収集力がより強化されたのではないか。

転職活動におけるデジタル化の普及

コロナ禍による就業上の大きな変化としてリモートワークの推進が挙げられる。週5日以上在宅勤務を行っている割合を見ると2020年(36.1%)から2021年(41.8%)で5pt以上増加している。また年代別で増加率を見ると、20代(2022-2021=9.8pt)、30代(2022-2021=7.4pt)、40代(2021年-2020年=1.8pt)、50代(2021年-2020年=-6pt)と若年層ほどリモート化が進んでいる。

 年代別週5日以上在宅勤務を行っている割合/マイナビ転職動向調査(2022)
【図4】 年代別週5日以上在宅勤務を行っている割合

また、コロナ禍では転職活動でもWEB面接が普及した。直近の転職活動には限らない数字ではあるが、WEB面接経験率は2019年で19.3%だったのが2020年39.2%、2021年49.7%と約半数にまで達している。また、2021年を年代別で見ると20代(54.6%)30代(52.4%)は半数以上と若年層で経験率が高い。

WEB面接経験率/マイナビ転職動向調査(2022)
【図5】 WEB面接経験率

さらに、今後もし企業からWEB面接を提示されたら受験意欲がどのようになるかを全員に聴取したところ、「受験意欲が高まる」計と答えた人がコロナ前に比較して増加した(2019年39.6%→2020年52.2%→2021年57.1%)。また年代別では20代が62.9%ともっとも高く、WEB面接経験率と同様若年層が意向の高さをけん引している。

WEB面接提示時受験意欲(「受験意欲が高まる」+「どちらかというと受験意欲が高まる」)/マイナビ転職動向調査(2022)
【図6】 WEB面接提示時受験意欲(「受験意欲が高まる」+「どちらかというと受験意欲が高まる」)

受験意向のもっとも高い20代に絞ってWEB面接の意向理由を聞くと、2021年では理由の高い順から「面接会場に行く必要がないから」「交通費の負担がないから」「コロナ対策になるから」の順で高かった。しかし2020年と比較を行うと、上記3つはいずれも減少(「面接会場に行く必要がないから(2020年:35.2%→2022年:29.8%)」「交通費の負担がないから(2020年:39.9%→2021年:29.5%)」「コロナ対策になるから(2020年:32.6%→2021年:25.7%)」)している中、「ITに対して積極的な会社だと好感が持てるから(2020年:14.4%→2021年:20.8%)」で6.4pt、「緊張感が減るから(2020年:14.1%→2021年:19.3%)」で5.2pt増加していた。

20代WEB面接意向理由/マイナビ転職動向調査(2022)
【図7】20代WEB面接意向理由

コロナ禍が日常化していくことでコロナ対策や交通費負担減といった実利的な側面は一般化され始めているようである。一方で、WEB面接の実施がITへの積極的な姿勢と捉えられ企業イメージが向上したり、緊張感が緩和されたりといった心理的側面が20代社員にとって重要度を増しているように見える。

転職前就業期間の変化~20代男性で1年以上短くなる~

転職活動の短縮化やWEBを利用した面接手法の導入、さらには本業でのリモートワークが普及した状況において、転職活動開始のハードルは下がってきているのではないだろうか。
転職活動開始のハードルが下がっているかを考える材料の一つとして、前職の就業期間はどれくらいであったかを時系列で確認する。


全体を確認すると、2019年では61.8カ月(約5年2カ月)ほどだった前職の就業期間が、2022年時点では58.7カ月(約4年11カ月)と3カ月ほど短くなっている。
さらに属性によって違いがあるのかを確認すると、男性20代では2019年で36.1カ月(約3年)ほどであった前職就業期間が2021年では26.5カ月(約2年3カ月)と半年以上短くなっており、遡ることができる2018年(39.9カ月:約3年4カ月)まで比較すると1年以上短くなっていることがわかる。

20、30代男女別前職の就業期間/マイナビ転職動向調査(2022)
【図8】20、30代男女別前職の就業期間

20代男性の前職就業期間の短さの原因を考えるために、彼らの意識面の変化を確認する。仕事のやりがいを聞いたところ2021年のTop3は「昇給・昇進する(31.3%)」「スキルアップ・自己成長を実感する(31.3%)」「興味のある分野の仕事をする(22.9%)」であった。これらの変化を時系列で見ると「昇給・昇進する」(2019年:26.7%→2020年36.1%→2021年31.3%)はコロナ前後で高くなっており、「スキルアップ・自己成長を実感する」(2019年:35.0%→2020年35.1%→2021年31.3%)と「興味のある分野の仕事をする」(2019年:31.4%→2020年23.7%→2021年22.9%)はコロナ前後で低くなっているという結果であった。コロナ前後で昇給・昇進といった現実的に自分の生活を支える部分がやりがいとして存在感を強くしている。また、直近の転職の理由に関しても20代男性では「給料が低かった(22.6%)」がもっとも高い結果となっている。

男性20代の仕事のやりがい/マイナビ転職動向調査(2022)
【図9】男性20代の仕事のやりがい
男性20代(n=323)の転職理由/マイナビ転職動向調査(2022)
【図10】 男性20代(n=323)の転職理由

加えて、男性20代は2021年ではコロナの流行で転職に積極的になった割合がもっとも高い(転職に積極的になった計46.1%)、混乱する社会状況が焦りを生んで、今の職場で長く就業して昇給・昇進を目指すよりも次のステージへと一刻も早く変化したいという意識から就業期間が短くなったと考えられる。

性別年代別「新型コロナウイルスの流行」による転職活動への影響/マイナビ転職動向調査(2022)
【図11】性別年代別「新型コロナウイルスの流行」による転職活動への影響

まとめ

コロナ前から現在まで続く転職活動の変化を整理すると、①企業選びの情報収集フェーズを主とした転職活動期間の短縮化と転職者の情報選択の高度化、②20代のWEB面接の利用意向の高まりと意向理由の変化、そして③20代男性を中心とした転職者の前職就業期間の短期化、が本調査から確認された。

転職活動の短縮化・情報選択の高度化は就労者のITリテラシーが高まるにつれ進むのではないかと考えられる。ただし、転職そのものが「簡単にできる」といった意識はコロナ前後で横ばい(2019年:40.0%→2020年:37.7%→2021年:41.0%)であるため、転職の主観的難易度が下がるほどの影響は出ていないようである。

転職に関する考え「転職は簡単にできる」/マイナビ転職動向調査(2022)
【図12】転職に関する考え「転職は簡単にできる」

WEB面接に関しては、20代30代の若年層にとってはリモートワーク自体の普及も相まって今後も転職活動時の重要な要素になっていくだろう。ただし、これまでのようにコロナ対策のための対症療法的に使う意識は少なくなる。代わって、特に20代でITに対して積極的であるイメージやコミュニケーション面での不安を解消する手法としての重要性が増していくだろう。

最後に転職者の前職就業期間の短縮化である。新卒社員などでは「転職をするなら3年は働いてから」といった俗説も存在するが、20代男性でこれが2年強にまで短くなったというのは衝撃的な数字と言える。ただ、今後このような動きが単純に進むかと問われると慎重な検討が必要である。前述したように若年男性はコロナの流行によって転職に積極的になったという背景がある。コロナに関してはいまだ予断を許さない状況ではあるが、いずれにせよアドホックな社会変化による影響であるため、今後も恒常的な影響力を持つとは考えにくい。

ただし、あくまでもコロナの流行は転職活動開始の引き金に過ぎない。根幹にある待遇への不満感を払拭していかなければ、企業は早々に見切りをつけられてしまうだろう。転職した20代男性の意識変化を見ると、スキルアップ・自己成長と同じくらい昇給・昇進も重んじるようになってきている。この企業でどれくらい頑張り続ければどのような役職に就けるかといったキャリアパスを明確化し、安心してキャリアアップに励める環境を用意することが望まれる。

キャリアリサーチLab研究員  荒木 貴大

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