マイナビ キャリアリサーチLab

【IT業界】の転職市場を2022年最新調査から考える
―業界別に転職市場を徹底分析―

朝比奈あかり
著者
キャリアリサーチLab研究員
AKARI ASAHINA

はじめに

加速する技術革新、日々変化する新型コロナウイルスの影響――。現代はVUCA(先の見通しが立たない時代)だといわれて久しいが、先行きの不透明感はさらに増しているように感じる。

著者はマイナビキャリアリサーチLabで中途採用分野の調査・研究を担当している。定期的に調査を行うなかで感じているのは、新型コロナウイルスの流行以降、中途採用の状況においても先行きの不透明感が増しているということだ。

このような環境下で中途採用・転職の満足度を上げるために著者ができることは、企業・求職者の相互理解につながるような情報を発信することではないかと考え、本コラムを企画した。採用難を感じている採用担当者・自身のキャリアに悩む転職希望者がより良いかたちでマッチングできるよう、微力ながら助力させていただきたい。

最高のマッチングを追い求めるよりも入社後の相互努力の方が重要ではないか、という意見も否定しない。しかし先行きの不透明感が増す現代では、リスクを最小限にするためにもマッチング前に行う情報収集の重要性が高まるのではないだろうか。

中途採用の状況は業種ごとに特徴がみられるため、これからシリーズとして複数の業種についてまとめていきたい。本コラムでは第一弾として「IT・通信・インターネット業界」の転職事情について特徴をまとめる。扱うのは、マイナビ転職のサイトデータ、公的統計データ、キャリアリサーチLabで行ったインターネット調査のデータで、回答者の情報が偏らないように留意した。

目次

マイナビ転職サイトデータ・公的データからわかること

IT・通信・インターネット業界の掲載数の推移は?

2022年のIT業界の求人掲載数は2018年平均比150%前後

2018年平均を基準に平均月間掲載数の推移をみると、全体では2019年平均から2020年平均で減少し、その後現在まで増加傾向が続いている。
IT・通信・インターネット業界に絞ってみると、2019年平均から2020年平均で減少しているものの、2020年平均も104.7%と2018年比プラスを保ち、2021年平均では137.2%と大きく増加した。2022年以降を3か月ごとにみると2018年比150%前後で推移している。

掲載数推移(2018年比)

経験者向けの求人、未経験者向けの求人どちらが多い?

IT業界の求人は全12業種中もっとも経験者募集が多い

掲載開始した求人について経験者求人・未経験者求人(※)の比率を集計し、推移をみる。
全体では、2018年の年間平均から現在まで継続して未経験者求人の方が多い。
IT・通信・インターネット業界に絞ってみると、2018年平均、2019年平均は未経験求人の方が多かったが、2020年平均からは経験者求人の方が多くなっている。2022年7-9月の平均では経験者求人の比率は54.2%で、経験者求人の比率は2021年以降下降傾向にある。
全12業種の値と比べると、IT・通信・インターネット業界の求人は2018年平均から一貫して経験者求人の比率がもっとも高かった。2022年は下降傾向にあるものの、2位の業種と比べて10pt以上高い状態で推移している。

(※)経験者求人:職種・業種いずれか、または両方の経験を問う求人/未経験者求人:職種・業種ともに未経験OKの求人

経験者を募集する求人割合の推移

初年度年収はどのくらい?

IT業界求人の平均初年度年収は2022年7-9月平均で516.3万円と全12業種中もっとも高い

求人に記載されている初年度年収の平均値を集計し推移をみると、全体では2018年平均から2021年平均にかけて増加し、2022年は高止まりしている。
IT・通信・インターネット業界に絞ってみると、2018年平均から2020年平均まで増加し、2021年では減少に転じたが、現在は再び増加傾向にある。
他業種と比べるとIT・通信・インターネット業界の求人の平均初年度年収は2022年1-3月平均では全12業種中2位、4-6月平均では1位、7-9月平均では1位と、高い水準で推移していることがわかった。

平均初年度年収の推移

公的データ(一般職業紹介状況)は?

情報処理・通信技術者の有効求人倍率は1.49で全体よりも高い傾向

厚生労働省から毎月発表されている「一般職業紹介状況」から、有効求人倍率・有効求人数・有効求職者数をみると、全体では2020年1月以降の有効求人倍率は2020年9月にもっとも値が下がったあと、現在まで増加傾向にある。有効求人数は2020年6月以降現在まで増加を続け、有効求職者数は2020年4~8月にかけて増加したあと現在まで緩やかに減少している。
情報処理・通信技術者に絞ってみると、直近の2022年9月の有効求人倍率は1.49だった。全体と比べて求職者1人当たりの求人数が多く、売り手市場感が比較的強いことがうかがえる。
有効求人数・有効求職者数の動きは全体と似ており、求職者の動きに比べて企業側の動きが活発であるようだ。

有効求人倍率の推移(月次)

厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」をもとにマイナビが作成

企業向けインターネット調査からわかること

正社員の人手不足感は?

IT業界の正社員不足感は平均程度

2022年1-6月に中途採用を行った担当者に「正社員の不足感」を聞いたところ、全体の不足計(「とても不足している」+「不足している」)が43.3%で、余剰計(「とても余剰を感じている」+「余剰を感じている」)25.4%を上回った。
IT・通信・インターネット業界のみでみると、全体との大きな差はみられなかった。

2022年1-6月の正社員全体過不足感

マイナビ「中途採用実態調査2022年」より作成

中途採用実施理由の特徴は?

IT業界の中途採用は「既存事業の拡大」「IT化・DX」「新事業への進出」など増員が理由

2022年1-6月に中途採用を行った担当者に「中途採用の理由」を聞いたところ、全体でもっとも高かったのは「退職者の増加(自己都合による欠員の増加)」、次いで「既存事業の拡大」だった。
IT・通信・インターネット業界の回答をみると、もっとも高かったのは「既存事業の拡大」「IT化・DXのため」、次いで「新事業への進出」で、増員を理由に中途採用を行った企業が比較的多かったことがうかがえる。全体ではトップだった「退職者の増加」は、全体より10pt以上低かった。
不足感の強さは平均的だったが、不足している理由については全体との違いがみられた。

2022年1-6月に行った中途採用の理由(複数回答)

マイナビ「中途採用実態調査2022年」より作成

中途採用を成功させるためにしていることは?

IT業界の採用成功のカギはWEB化か

2022年1-6月に中途採用を行った担当者に「中途採用を成功させるためにしていること」を聞いたところ、全体でもっとも高かったのは「人事制度の見直し」、次いで「採用ターゲットの明確化」、「選考基準の見直し」だった。
IT・通信・インターネット業界の回答をみると、もっとも高かったのは「働き方改革の推進(テレワークなど)」、次いで「採用ターゲットの明確化」、「採用手法のWEB化」だった。
特に「採用手法のWEB化」については、面接前・面接後・内定の辞退対策としてもっとも効果的だったことの1位にもなっている。
面接前・面接後・内定の辞退対策について、全体では面接前辞退は「面接日程は応募者の希望を優先した」が1位、面接後辞退では「面接時に仕事内容の説明を丁寧にした」が1位となっている。IT・通信・インターネット業界は、全体と比べてWEB化が選考に良い影響をもたらすようだ。

中途採用を成功させるためにしていること(複数回答)

マイナビ「中途採用実態調査2022年」より作成

中途採用の満足度は?

IT業界は入社者の質への満足度が全12業種中もっとも高い

2022年1-6月の中途採用の満足度について、入社した人の質・量(人数)それぞれについて聞いた。
全体では、質について満足計(「満足」+「どちらかといえば満足」)が47.3%、不満計(「不満」+「どちらかといえば不満」)19.3%で満足計が上回った。量については、満足計が44.1%、不満計24.8%で満足計が上回っており、質と量では、質の満足度の方が高い傾向にあった。
IT・通信・インターネット業界の回答は、質については満足計が57.1%、不満計が15.9%で、全体と比べて、満足計が約10pt高い。量については満足計が51.6%、不満計が23.6%と、全体と比べて満足度が5pt以上高かった。
IT・通信・インターネット業界の入社した人の質の満足度は全12業種のうちもっとも高く、全体と比べて中途採用理由にマッチした人材を獲得できた企業が多いと推察する。

マイナビ「中途採用実態調査2022年」より作成

今後の意向は?

IT業界は今後も中途採用に積極的

今後の中途採用意向について、全体では積極的計(「今後は積極的になる」+「今後はやや積極的になる」)が52.9%、消極的計(「今後は消極的になる」+「今後はやや消極的になる」)が7.3%だった。2020年から積極的計は増加傾向にある。
IT・通信・インターネット業界の回答は、積極的計56.0%、消極的計6.6%だった。他業種と比べると、積極的計の値は全12業種のうち3位で比較的中途採用への積極性が高いと考えられる。

今後の中途採用意向(全体)

マイナビ「中途採用実態調査2022年」より作成

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