マイナビ キャリアリサーチLab

IT技術者の転職に対するイメージと
現実の転職意向理由とのギャップから見る不安感

昨今、IT人材の需要が高まっている。経済産業省からはIT人材の不足数が2030年には45万人に及ぶという試算も出されている。供給側を見てもさまざまな背景を持った人材がIT業界に流入しており、情報系の学生の新卒採用だけでなく、文系の学生の新卒採用や別業種からの未経験中途採用を積極的に行う企業もある。

IT人材の「不足数」(需要)に関する試算結果(経済産業省「IT人材に関する調査」よりマイナビ作成
経済産業省「IT人材に関する調査」よりマイナビ作成

筆者も文系職からwebアプリケーションエンジニアに転身した経験がある。スキルの向上が自身の待遇に直結することがモチベーションとなった一方で、当時20代後半の時期ということもあって今後の長期的なキャリアの形成をどのようにすべきかといった課題も感じていた。「1on1」や「ブラザーシスター制」といったエンジニアのキャリアを考えるうえで助けとなる取り組みもあったが、これらの制度は印象として「個人の意思・志向・キャリア観を前提としてエンジニアの考えを引き出す」といった側面が強く、自身の意向に沿ったキャリアパスを形成しやすい反面で、そもそも土台となるキャリア観が備わっていないと建設的な話に発展しないのではないかとも思われた。

以上の課題意識から、本稿ではIT技術者が自身のキャリアや人生に関してどのように感じているかを「マイナビ ライフキャリア実態調査 2021年版」から確認し、IT技術者が納得するキャリアを歩むために企業側にはどのようなことを求められているかを考えていきたい。

以下、分析対象全体は「2021年3月時点就業者」であり「IT技術者」は2021年3月時点で下記の職種に就いていた人279名を指す。

マイナビライフキャリア実態調査 2021年版より 2021年3月時点就業者・IT技術者

IT技術者の労働意識
~希望労働期間が短く、現在の職場でも長く働きたい意識は低い

IT技術者はどれくらい長く働きたいと考えているのだろうか。単純な期間として何歳まで働いていたいかを聞くと、「~45歳まで」から「~55歳まで」の合計でIT技術者13.8%(全体:8.5%)、「~60歳まで」までの合計で同39.0%(全体:27.3%)とIT技術者の方が希望労働期間は短い。平均希望労働年齢を出すと、IT技術者と全体とでは希望勤続期間に3.1歳の差がある(図1参照)。 また、現在の職場で今後も働きたいかを聞くと、「期間に関係なくできるだけ長く勤めていたい」は全体よりも低く(対全体比 -18.7pt)、逆に「できれば定年や契約満了前には辞めたい」は全体よりも高い(対全体比10.6pt)(図2参照)。スキルさえ身に着ければ自由度の高い職種であるため、労働時間や一つの職場に縛られずに過ごしたいと考えている人が多いように思われる。

マイナビライフキャリア実態調査 2021年版より「何歳まで働きたいか」「現在の職場で働き続けたいか」IT技術者とそれ以外の比較

IT技術者の転職イメージ
~転職に対してポジティブなイメージを持つ~

同じ企業に長くいるという傾向の弱いIT技術者では、転職イメージはどのようなものであろうか。「転職」のイメージに関してポジティブかネガティブかを聞くと、ポジティブととらえる人が66.3%で全体よりも高い(図3参照)。ポジティブな理由には何があるかを聞くと、キャリアアップ(50.4%)、スキルアップ(50.3%)、収入増加(49.0%)が上位を占め、また全体と比較しても5%以上高い(図4参照)。

マイナビライフキャリア実態調査 2021年版より「転職にどのようなイメージをもっているか」「転職にポジティブなイメージを持っている理由」IT技術者とそれ以外の比較

IT界隈は他業界と比較して転職のハードルは低いように感じる。特殊な事例ではあるが実体験として自社内に転職エージェントを用意している会社もあった。現場によって必要となるスキルセットが変わっていくので、一つの現場である程度開発技術を習得したらまた別現場に行って新たな技術を身に着けるといったように段階的に自身がスキルアップするといった感覚になりやすいのではないだろうか。 さらに、現場によって異なる技術が使われている一方で、システム開発を行ううえでの基本的なIT知識はどの現場でも共通して活用できることも、転職のハードルを下げている要因になっていると考えられる。

IT技術者の転職意向理由
~現実には、会社の将来が不安であるための転職も存在する~

IT技術者は転職に対してポジティブなイメージを持ち、また業界全体の風潮としても転職のハードルが低いことが分かった。しかし実際に転職意向がある人たちにその意向理由を聞くと、IT技術者ではイメージ通り「自己成長キャリアアップのため(47.8%)」も高いが、一方で「会社の将来が不安なため(31.6%)」も存在し、全体と比較して高い結果となっている。

マイナビライフキャリア実態調査 2021年版より「今後の転職意向」IT技術者とそれ以外の比較

実際に転職意向のある人からすると、現状はイメージほどポジティブ一色ではないようである。ではIT技術者は現状をどのように感じているのだろうか。仕事や生活に対する不安感を聞くと「お勤めの会社の状態について」どちらかというと不安を感じている人(26.6%)が全体と比較して高く、また不安に感じる計を見ると「仕事全般について(36.9%)」が全体と比較して高い。

マイナビライフキャリア実態調査 2021年版より「(現在や今後への)
不安を感じている」割合、IT技術者とそれ以外の比較

スキルアップやキャリアアップなどの自己成長といった理由は転職のイメージとしてある一方で、会社の将来や仕事全般に対して不安で転職したい人もいるようである。 コロナ渦中での在宅勤務体制など働き方の方針が定まっていない企業や、IT技術者派遣業の会社ではアサイン先が見つからない「待機状態」が半年以上に及ぶケースもある。そういった不安定な状況がIT技術者の不安感につながっているのかもしれない。

IT技術者の人生観
~会社生活だけでなく自身の今後を不安視する意識もある

さらに、IT技術者が憂いているのは会社生活だけではないようである。普段の生活において日頃どのようなことを考えているかを聞いたところ、「これからの人生や生き方について、自分なりの見通しをもっている」「自分が期待しているような人生を、この先実現できそうである」「今後どんな人生を送っていきたいのか、自分なりの目標を持っている」の項目で「あまりあてはまらない」「あてはまらない」と答えた人の合計が全体より高い。

マイナビライフキャリア実態調査 2021年版より「人生・生き方について、日頃どのように考えているか」IT技術者とそれ以外の比較

このようにIT技術者では社会生活への不安感だけでなく自分の人生に対する見通しの立たなさも特徴的である。IT技術者には所謂「手に職をつける」イメージがある。また成長産業で需要の絶えない業界に身を置きながら、意識面では会社生活や人生に不安感があることは意外に感じられた。

IT技術者は一般的な総合職と異なり、プロジェクトを基本単位として流動的に人員が入れ替わりながら働くことが多い。これはさまざまなプロジェクトで多様な技術を習得することができる一方で、プロジェクト供給側とIT技術者間でニーズのアンマッチが起きれば前述したような「待機」の空白期間が起きてしまうケースもある。こういった特殊な就労環境に加えて、技術進歩が目覚ましく常に自己研鑽して新しいスキルを手に入れることを求められる業界であるため、長期的な未来の展望よりも短期的に今の現場、今のプロジェクトで通用する技術を得ることに重きが置かれるのかもしれない。

まとめ
~IT技術者には自身のキャリアパスをしっかりと考えられる環境が必要

こういった不安はどのように解消されるだろうか。仕事全般に関する不安の解消であてはまるものについては、「会社の上司・同僚のサポートがあれば解消できると思っている(23.8%)」と「職場環境が変われば解消できると思っている(22.8%)」が同程度で上位2項目となっているが、もっともあてはまるものに限定して聞くと、「会社の上司・同僚のサポートがあれば、解消できると思っている」が18.3%、「職場環境が変われば、解消できると思っている」が11.6%と6.7ptの差がついた。ここから、IT技術者自身も職場を変更するよりは社内のサポートで不安を解消したいと考えていることがうかがえる。

マイナビライフキャリア実態調査 2021年版より「仕事全般における不安解消」IT技術者とそれ以外の比較

また、私生活における不安の解消であてはまるものについては「仕事内容が変われば不安を解消できる(20.1%)」がもっとも高く、それ以外の項目と5pt以上差をつけている。私生活の不安と言えども仕事内容が多大に影響を与えているため、ここでも社内・プロジェクト内でのサポートが必要であるだろう。

マイナビライフキャリア実態調査 2021年版より「私生活における不安解消」IT技術者とそれ以外の比較

以上の分析から得られた知見を再度確認してみる。

■IT技術者は一つの会社に長くとどまりたい意識は低く、また比較的転職意識が高い。転職に対するイメージを見ても、スキルアップやキャリアアップといった自己成長的な側面が満たされると思われている。

■しかし、実際に転職意向のある人の理由を見ると企業の将来性といった現実的な部分も挙げられた。

■さらに、IT技術者では自己の仕事や人生に対する見通しが立たない不安も持っており、同僚や会社をはじめ他者からの支援も必要としていることが分かった。

最後に、ここまでの知見と現在のIT業界の状況を踏まえて本コラムのまとめを書く。

冒頭で述べたように今後IT技術者の需要はさらに伸びていく。また、未経験の中途採用などIT業界入門の門戸は広く開かれているため、多種多様なバックグラウンドを持った人材が流入していくと考えられる。手に職を持って時にさまざまな現場を横断しながらプロジェクトに参画し報酬を得るIT技術者は、なるべく長く同じ企業に属しながら総合職としてさまざまな業務をこなしていくといった既存の働き方とは異なる新しい働き方を実現していくだろう。しかし、既存の働き方に距離を置くということは参照すべきロールモデルが少ないことも意味する。そのような状況では、自らのキャリア観・人生観をより自発的に考え、形成していく姿勢が重要になっていくだろう。

だが本コラムの分析結果を繰り返すと、現状では仕事全般や人生に関して不安を抱えているIT技術者は比較的多く、社内でのサポートも必要であるように思われる。IT技術者の自発性を促し、自身の長期キャリアを考えることができるような働きかけも企業側には求められるのではないだろうか。

以上IT技術者の転職に関するイメージと現実の転職意向のギャップから、背景と考えられる仕事や人生全般に関する不安感を抽出し、私見とはなるが企業側には何が求められるかを示した。今後は、業界特有の既存制度(メンター制度や1on1)がどれだけIT技術者のキャリアパス構築に寄与できているかを調査し、企業側からは長く働いてもらい、また技術者側からは納得したキャリアを描けるようなwinwinな関係を築くためにはどのような要素が重要かを考えたい。

キャリアリサーチLab研究員  荒木貴大

関連記事

コラム

働く人の職業スキルに変化はあったのか 2013年・2021年調査の比較

キャリア自律

コラム

人生100年時代。なぜ、いま キャリア自律が求められるのか?

コラム

終身雇用、年功序列…日本型雇用に対する世代間ギャップと、この20年の意識変化