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ジョブ型雇用を支えるアセスメントによる継続的な取り組みとは

長瀬存哉
著者
HRコンサルタント
ARIKA NAGASE

前回のコラムでは、企業がジョブ型雇用を実現する際に障壁となる「企業と人材のギャップ」に対し、ジョブとアセスメントをどのように連動させていけばよいかについて触れた。ここでは、こうしたジョブ型の人事施策を陳腐化させないファクターとは何かについて、述べていきたい。

ジョブ型人事制度を陳腐化させない継続的な4つの取り組み

せっかく導入したジョブ型雇用を、いかに現場に浸透させていくのか。さまざまな取り組みが為されている中、導入後も陳腐化させないために継続的に行うべき4つの取り組みを紹介したい。

1)現場での定量・定性両面でのチューニング

多くの企業において、ジョブ型雇用の枠組みや制度設計は構築できたが、「なかなかしっくりこない」、といった(表現が適切かは別として)感覚に陥っている人事担当者があまりにも多いという現実がある。その要因のひとつが、「運用面や評価面がうまく現場に浸透していかない」といった声である。

職務に応じたジョブ定義によって、本来ならば、適材適所がある程度実現していると考えられる。その反面、現場目線の期待と成果というものを大枠では合致していても、日々変化していく現場論理や現場目線を過不足なく集約して制度設計に反映しきれる状態にあるのか、ということが改めて突き付けられることになる。この問題解決のために、ジョブ定義に対するアセスメントによる計量化には、人事が求める「定量的な計測」と、現場が求めるリアリティある「定性的な経験レベルやエピソード」を集約していくことが重要となってくる。つまり、ある職務における「ジョブ定義」において、それらの成果を評価し、計測していくと共に、定量レベルのチューニングと定性的なチューニングの両方を調整した計測が重要となる。これこそが「型にはまった扱いにくいジョブ型」ではなく「企業ごとの文化に即したジョブ型」の実現につながっていく動きとなる。【図1】

定量・訂正データによる計量化

2)多様化し変化する“ジョブの余白”を読み取る

ジョブ型雇用の課題の一つとして、ジョブを明確化するが故に、他のジョブとの境界線上にある仕事や、周囲との連携・協力を含め、分類しづらい新たな業務が生じた場合、それらをうまく運用できなくなるという問題がある。相互の動きを連動させ、それらの隙間を”ハブ“の役割へと昇華し、円滑な動きに接続していくことができる企業は、自社の文化を活かした機能的なジョブ型雇用を成立させている、といえる。

ジョブ型雇用の運用には、企業におけるジョブ型の定義や職務内容を枠組みとして構築したのち、企業の文化や働き方の特徴によって、ジョブそのものが少しずつ変化をしていく“ゆらぎの幅”や“ジョブ範囲の広がり”が徐々に発生していく。多くがこうしたジョブの “変化”を排除しがちであるが、こうした動きそのものを“企業ならではの文化=数値や量では測りにくい質的な変化 の許容幅”と捉えてウオッチしていくことが重要と考えられる。どのような部門の職務・ジョブ・業務内容・タスクにおいてこうした“質的変化が生じているのか”をキャッチアップしていく。中でもその質的変化に大切なのが“現場ならではの成功体験”や“貴重な顧客体験”、“思い出深い仕事におけるエピソード”となる。そして、評価そのものの定量データと共に、経験や成果レベルの質的なデータを蓄積し、具体的なジョブにおける成果との関係性を把握し、計量化していくことになる【図2】

ジョブ型の変化と余白の読み取り

3)アセスメントと連動した個別面談の実施

ある企業では、人事担当者に制度設計や人事評価、採用活動や労務活動のほか、特に重要な任務のひとつとして“社員個々のキャリア支援を行う”役割を与えていた。 “ある程度育成環境を整え成長させる”という要素も含みながら、“社員個々が自身でキャリアを描いていくための指針の提示と支援”をするというのが考えのベースにある。自らのキャリアをデザインし、紆余曲折を経てキャリアをドリフトさせる、という考えのもと、社員個々に判断材料となる情報はしっかり提示をする。そして、ただ単に与えられた情報からキャリアを考えるのではなく、自ら主体的に目標を定めて計画を立てる社員に、【現在の職務とその適合性】と共に【視野を広げると可能性が広がる職務(キャリア)】や【現職務と大局的な職務の提示】など、現在の延長線上でキャリアを考える素材を与え、改めて考え直してみる視点を提示する、ということを行っていた。

その一環として、「社員個々の適性結果の情報提示」を行っていたのである。職務と個人の特性情報をアセスメントによって連結させることで『今は営業に関わる職務をしているが、強みを活かして、コンサルティングの職務をしてみよう』であるとか『現在、システム開発の職務をしているが、もっと上流の企画開発やプランニングに携わる際の改善ポイントが分かるかも・・』といった考え方の整理につながる情報提供が可能となる。

多くの企業では、アセスメントや適性検査結果は、採用場面や、入社後に一度実施・活用する程度で、その後の個々人の経年変化をウオッチしている企業は、ほとんどみられない。そこで適性検査を経年で実施しつつ、単なる印象での人事評価伝達だけではなく「どのようにしたら自身の強みを活かせるのか、キャリア開発が可能なのか」という情報の提供を、アセスメント指標と連結させることで、個人の特性に応じた羅針盤ともいうべき“キャリアの描き方の道標(みちしるべ)”を提示できることになる。ジョハリの窓の概念を借りると、適性検査の情報には“自身が気づいていない可能性”を発見する、という機能が含まれていることから、新たな自身の魅力を発掘するきっかけになると考えられる。【図3】

変化と成長を読み取る未来図の提示

4)自身の目と他者の目のギャップから評価の“客観性”を高める

更に上司の評価に加え、第三者的な視点、つまり同僚や部下などの複数の目線によって、該当の社員がどのような状態にあるのか、ということをメンバー全員または個人がより客観的に見つめることが可能となる。自身の回答結果による主観的な情報のみならず、複数の視点からの評価を付加することで、評価や見方の偏りを補正する機能を果たす。

ただ、こうした複数の目によって生じてくるのが、本人の評価と上司の評価が合致しない“評価のズレ”といったケースである。これは、バイアス(※1)や要求水準の高さ(※2)などによって生じるものではある。これらの微妙な評価の違いをもとに第三者はどう見ているのか、今回の評価そのものは果たして本当に適切なのか、といった角度の分析を加えることで、偏りの特徴やクセを見極め、評価の調整に役立てることができる。こうしたバラつきを、補正したり中和したりする指標として活かすことで、客観性が増していくといえる。

企業文化に根付く“変化の読み”と“法則性”への取り組み

このように定量的な評価結果と共に、企業ならではの定性的な質的情報の蓄積、更にはジョブの段階的なゆらぎと変化幅をキャッチアップしながら、周囲からの客観的視点を加える、という図式によって、企業独自のジョブ型雇用の“地に足のついた状態が確立される。この一連のプロセスを言い換えれば、企業ならではのジョブ型を定着させる唯一無二の”法則性”ということになり、こうした継続的な取り組みが確立されていくことで定着化していく。ある程度枠組みとして成立している“ジョブ型の雇用制度”に“企業ならではの変化を定点観測し、データ蓄積から実行⇒検証⇒予測⇒調整による現場に活かされる方程式=”法則性”を誰もが分かる状態へと明らかにしていくことで、陳腐化しないジョブ型雇用の確立に近づいていくことになる。【図4】

起業ならではのジョブ型の法則性

ジョブ型雇用とアセスメントの“親和性”という視点で紐解いてきたが、親和性の本質は“馴染んで融合する”、つまり結果として“双方の融合による化学反応をもたらす”ということだとするなら、まさにアセスメントの有効活用は、既存のジョブや職務のみならず、未来に渡って変化していくジョブの在り方を創出していく親和性を高めるキーファクターそのものである、とも考えられる。

改めてこうした取り組みによって、人の感性のみで良し悪しを判断するアナログな世界ではなく、データ分析を通して結果の精度を高める技術や、科学的な人事活動を通して成果の再現性を高めるといったHR分野の実現がもたらされると考えられる。現に市場では多くの人材サービスが販売されているが、HRテクノロジーの未来の姿を企業ごとに作り上げるといったことも、もはや近い将来なのかもしれない。

※1:バイアスとは、自身の思い込みや環境要因により、非合理的な判断をしてしまう心理現象のこと
※2:要求水準とは、事を成し遂げようとする課題の程度についての期待や願望に関するレベルやその水準の高さのこと


著者紹介
長瀬 存哉(ながせ・ありか)
HRコンサルタント

1970年東京生まれ。大学卒業後、多種多様な業界の業態開発・商品開発に携わり、人の感性と環境・ハードとの間に融和と相乗効果が生まれる世界を見出し、人の可能性や創造性に関する調査・研究活動に取り組む。そこで、心理学・統計学分野のオーソリティに師事。HR分野の課題解決を通して、適性検査や意識調査・行動調査などの診断・サーベイ・アセスメントの設計・開発・監修を行い、その数は数百種類に上る。その後、取締役を経て独立。現在は、各企業やHRテクノロジーに関するコンサルティング・研修・講演活動を通して、HRの科学的なアプローチによる課題解決に取り組んでいる。

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