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カルチャーフィットを促す取り組みの効果の年代差~企業文化の浸透が進んでいるのはどの年代か~

荒木貴大
著者
キャリアリサーチLab研究員
TAKAHIRO ARAKI

はじめに

終身雇用の意識が弱まりつつある現在の日本の労働環境において、いかに従業員に長く働いてもらうかは多くの企業にとって重要な課題となっている。企業への従業員エンゲージメントを上げるためにも、自社の文化を浸透させるためのカルチャーフィットを促す取り組みを行う企業も多い。しかし、       同質な属性のメンバーから構成される集団であるならば企業文化の浸透も容易になされるだろうが、実際の企業ではさまざまな年代や属性の従業員が働くため、同じ取り組みに参加しても皆が同様の効果を得ているとは限らない。本コラムでは年代に注目してカルチャーフィットを促す取り組みによる企業好感度の変化と好感度が上がる理由を分析することで、取り組みから得られる効果が層ごとに異なることを示し、年代を経るにつれてどのように従業員自身が企業独自の文化を取り込んでいくのかについて考察を行った。

カルチャーフィットの取り組みの実施実態~取り組みを実施している企業は約4割~

カルチャーフィットとは企業独自の文化に人材が馴染めていたり、企業にうまく適合(フィット)していたりする状態を指す。企業への適合には仕事内容、職場のメンバー、組織理念・文化などの広範な要素が含まれる。

勤め先がカルチャーフィットを促す取り組み(※企業独自の文化に人材が馴染めるようにし、うまくフィットすることを目的に、全社イベントやチーム研修など、組織単位で主催するイベント・取り組み等)を行っていたかを、取り組みの有無を知っている20代~60代の2022年3月時点正規社員を対象に聞いたところ、行っている企業は38.7%であった。規模別で見ると規模の大きい企業ほど実施率が上がる傾向にあり、従業員201名以上の企業で平均よりも高い割合になった。さらに、頻度を見てみると四半期に1回以上行っている企業が14.7%であった。【図1】

従業員数別カルチャーフィットを促す取り組みの実施率/ライフキャリア実態調査(2022)
【図1】従業員数別カルチャーフィットを促す取り組みの実施率/ライフキャリア実態調査(2022)

約4割の企業がカルチャーフィットを促す取り組みを行っていることが分かった。また、規模が大きいほど実施率が高いことから、人数が多いほどカルチャーの浸透が難しいために何らかの施策が必要であったということが考えられる。昨今のネット会議の浸透から、全国に拠点のある企業でも従業員が一堂に会することができやすくなったということも後押ししているだろう。

カルチャーフィットを促す取り組みに対する参加頻度を訪ねたところ、全体では「毎回必ず参加している」が15.9%、「ほぼ参加している」が37.7%と、比較的高頻度で参加している人が半数を超えていた。また、年代別で見ると「毎回必ず参加している」は60代(20.1%)でもっとも高く、20代(12.6%)でもっとも低かった(図2)。会社主催の取り組みであっても強制参加でないところが多いと予想され、20代の若手でも参加の自由が確保されているようである。

年代別カルチャーフィットを促す取り組みへの参加頻度/ライフキャリア実態調査(2022)
【図2】年代別カルチャーフィットを促す取り組みへの参加頻度/ライフキャリア実態調査(2022)

カルチャーフィットの取り組みの効果~取り組み参加者の半分以上で会社への好感度が上がっている~

カルチャーフィットの取り組みの効果はどれほどか、取り組みに参加した人に自社に対する気持ちがどのように変化したかを聞いたところ、全体では56.0%が「好感度が上がった」、38.8%が「変化はない」、5.3%が「好感度が下がった」という結果であった。半数以上の好感度が上がっており、かつ好感度が下がる人も少ないため効果は高いと言える。

年代別で見ると「好感度が上がった」は20代(62.7%)でもっとも高く、その後30代で58.0%、40代で49.4%と年代を経るごとに下がり、50代(44.6%)で底をついて60代(68.9%)でまた上がるという動きになっている。特に40代、50代では「変化はない」が全体より高く(全体:38.8%、40代:44.7%、50代:49.9%)、ある程度の社会人歴があると比較的効果が薄まっていくようである。ただ60代になっていくと経営に近い層なども増えるためか好感度の上がり幅が一層高くなる。【図3】

カルチャーフィットを促す取り組みに参加して会社に対する好感度はどうなったか/ライフキャリア実態調査(2022)
【図3】カルチャーフィットを促す取り組みに参加して会社に対する好感度はどうなったか/ライフキャリア実態調査(2022)

好感度が上がった人たちに対してその理由まで聞いたところ、全体では「一緒に働く人との一体感が生まれたから」(30.9%)「一緒に働く人と仲良くなれたから」(27.4%)「組織への信頼感が高まったから」(25.8%)の順で高かった(図4)。「一緒に働く人」が会社単位か、部署単位か、課か、チームかといったレイヤーの違いは本調査からは判断ができないが、いずれにせよ同じ組織に所属するメンバーとの結束を深めるという意味合いが大きいようである。ただ3番目に高い理由として「組織への信頼」が挙げられたことから、メンバーよりもより高次な単位としての組織に対する信頼感向上にも一定の効果を上げているようである。

好感度が上がった理由/ライフキャリア実態調査(2022)
【図4】好感度が上がった理由/ライフキャリア実態調査(2022)

取り組みの効果に関する年代別の特徴

さらに好感度の上がった理由に関しても年代別に分析すると、各年代で特徴がみられた。下表では各年代の好感度の上がった特徴TOP3と、全体との比較を示している。まず、20代は「一緒に働く人と仲良くなれたから」「一緒に働く人との一体感が生まれたから」「組織やチームに馴染めたから」の順で高い。社会人歴の浅さからかより近しい存在のメンバーとうまく馴染むことが重視されているように見える。

次に30代では「仕事のやりがいにつながったから」がもっとも高く、これは他の年代では見られない項目である。20代で会社のメンバーとの人間関係がある程度落ち着き、仕事もこなせるようになってから、改めて自分の仕事のやりがいを意識しだすという姿がうかがえる。

40代では「一緒に働く人との一体感が生まれたから」「一緒に働く人と仲良くなれたから」「一緒に働く人の人となりが知れたから」の順で高く、一見すると20代と似通った項目になっている。しかし20代や全体の数値と比べて値が大きくなっているというところが特徴で、今後も一緒に働き続けるメンバーという実感を20代よりも強く持った結果、メンバー間の一体感が求められる割合が大きくなったのではないかと考えられる。

50代は「組織の理念や方向性に共感できたから」「一緒に働く人との一体感が生まれたから」「組織への信頼感が高まったから」の順であり、「一緒に働く人」だけでなく「組織」に対する関心が強くなっていることが分かる。社会人としての年数も増えてきたことでいちメンバーとしてだけでなく組織の中枢であるといった意識が増していくのだろう。

最後に60代であるが、「一緒に働く人との一体感が生まれたから」「カルチャーフィットの考え方に共感できるから」「組織の理念や方向性に共感できたから」という順番でいずれも全体より10pt以上も高い。「カルチャーフィットの考え方に共感できるから」というところからも、勤続年数が長いためにもともと勤め先に対するエンゲージメントがある程度高いのではと推測される。その上で、他のメンバーとの一体感を醸成できる取り組みを積極的に受け入れている。

好感度の上がった理由(年代別)/ライフキャリア実態調査(2022)
【図4】好感度の上がった理由(年代別)/ライフキャリア実態調査(2022)

取り組みの効果に関する経年での特徴~「メンバー間での適合」から「組織への適合」へ~

また年代を通した特徴についても確認すると(図5:項目全体参照)、40代と60代では全体と比較して5pt以上割合が高い項目が多い。前述した企業に対する好感度の変化では20代30代の比較的若年層の方が「上がった計」が高かったが、好感度が上がる理由を見ていくと40代と60代でより多くの理由から好感度が上がっていると言える。40代では若手を卒業し今の勤め先で定年まで勤めあげるという意識を持ち始めた人も多いだろう。また60代は年代別分析で示した通り、勤め先に対するエンゲージメントが高い層が多いと推察される。こういった理由からこれらの年代では企業イベントへの関心も高いのではないか。

さらに、年代ごとの取り組みの効果を概観すると、20代~40代の比較的若年層では「一緒に働く人」といった自分に近いメンバーと適合することが特徴で、50代60代では「組織の理念や方向性に共感できたから」といった組織全体に適合することが特徴として挙げられた。ここから、20代では何よりもまず所属組織に自分が馴染むことが優先されるが、段々と年代が上がるにつれて大局的な視点が養われるといった経年効果が示唆されている。

好感度が上がる理由、年代ごとの取り組みの効果/ライフキャリア実態調査(2022)
【図5】好感度が上がる理由、年代ごとの取り組みの効果/ライフキャリア実態調査(2022)

~まとめ~

これまでカルチャーフィットを促す取り組みの実施実態と取り組みの効果に関する年代別の特徴を見てきた。生産年齢人口が減少し続けている日本において、いかに社員に長く働いてもらうかは企業側から見れば喫緊の課題であり続けるだろう。そのため自社へのエンゲージメントの向上という面から、カルチャーフィットを促す取り組みの実施率も増加していくと考えられる。

カルチャーフィットとは企業独自の文化が浸透し、企業にうまくフィットすることであると冒頭で述べた。本コラムの年代別分析結果からは、経年変化によってどのようなアプローチで企業に馴染んでいくのかに関する一つの仮説的なストーリーが示唆された。まず入社したての20代では一緒に働くメンバーと近しい場で良好な関係を構築し、30代では自分自身のやりがい、目的が勤め先企業で実現できるかを再確認する。そして40代でメンバーとの関係性をより強く自覚していきながら、50代以降で視座を転じて組織側の立場から理念、文化への理解を高める。

本調査の結果のみで価値観の経年変化を結論づけることはできないが、ただ少なくとも各年代に価値観の違いがみられたことは明らかだ。取り組みを実施する際には、このような年代別の効果の違いも念頭に置くことも良いかもしれない。

キャリアリサーチLab研究員  荒木 貴大

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