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【連載】新入社員を「即」戦力化することってできるの?(3/3回目)

新入社員を即戦力化するために、どのようなポイントがあるのかを紹介する本コラム。初回は、新入社員の傾向や置かれた環境などに触れてきました。また、2回目は新入社員の周囲に目を向け、管理職の重要性などをお伝えしました。最終回となる今回は、OJT(On the Job Training※以後OJT)のポイントや潜んでいる罠について言及していきたいと思います。

OJTとは

OJTという言葉は、人事担当者であれば一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。また、新入社員教育を思案する際に、必ずと言って良いほど議題にも挙がってきます。OJTとは、On the Job Trainingの略であり、日常業務につきながら職業教育を行うことを指します。平たく言うと、現場で行われる教育のことです。現場を離れて行われる研修会などのOFF-JTとは反対の概念であり、講師ではなく、現場の上司や先輩などが教育を担当していきます。

諸説ありますが、OJTの起源は第一次大戦時のアメリカだと言われます。当時、アメリカでは大戦に伴い、多くの艦船を製造しなければなりませんでした。その分、短期間に多くの作業員を育てる必要があったのですが、既存の職業訓練施設では到底追いつかない規模でした。OJTは、こうした大量の作業員を一度に育成しなければならない必要性に迫られ、チャールズ・アレン(Charles Ricketson Allen)氏によって生み出されたものです。それまでの教育は、職業訓練施設における集団教育でしたが、アレン氏は「やってみせ」「説明して」「やらせてみて」「確認・指導する」という現場における教育を提唱しました。4つの段階からなることから、これを四段階職業指導法と呼びます。


『四段階職業指導法』(チャールズ・アレン)

日本には、高度経済成長の時代に輸入されました。当時日本のメイン産業であった製造業を中心に、高度経済成長に寄与したとされます。また、アメリカの促成栽培的なOJTとは若干異なり、日本は高品質を目指す丹念なOJTとも言われるようです。この歴史が脈々と受け継がれ、今日の日本独自の進化を遂げたOJTとして存在しています。

また、近年では、OJD(On the Job Development)を導入する企業も増加傾向にあります。OJDとは、即戦力となるための当面業務だけに留まらず、経営戦略を見据え、将来的に必要となるマネジメント能力などまで習得することを目指す現場育成・人材開発です。主体性の推進や次世代のリーダープール(※)を作りたい企業に導入される傾向がみられますが、OJTとは異なりやや中長期的で時間もかかる取り組みになります。
(※)次世代幹部候補としてポテンシャルのある人材が企業として蓄えられている状態

では、一体どのくらいの企業がOJTを実施しているのでしょうか。図①は「計画的なOJTを実施したかどうか」を問う厚生労働省の調査結果になります。

図① 「計画的なOJTを実施したかどうか」令和2年度能力開発基本調査
(厚生労働省) 単位(%)

計画的なOJTを実施したと回答した国内の企業・事業所は全体の59.4%でした。前年と比較すると若干この数値は減りましたが、およそ全体の6割が計画的なOJTを行っていることがわかります。また、企業規模別でみると、従業員数が多い企業の方がOJTの導入は進んでいるといえます(図②)。

図② 企業規模別のOJTの導入 令和2年度能力開発基本調査
(厚生労働省) 単位(%)

一方で、図③「OFF-JTの実施状況」を問う設問においては、「実施している」と回答した企業・事業所は69.8%となりました。OJT、OFF-JTの両輪を回しながら能力開発を行っていくことが求められると言えそうです。

図③「OFF-JTの実施状況」 令和2年度能力開発基本調査
(厚生労働省) 単位(%)

OJTに潜む罠

さまざまなメリットがあるOJTですが、一方で落とし穴も存在しています。ここでは、とあるA社(サービス系・従業員数500名程度)の事例を元に、OJTに潜む罠を見ていきましょう。

図④ OJTに潜む罠:A社の企業事例(実施背景と課題)

近年、外部環境の変化なども考慮し、自社のビジネスを変革するような企業は増えていると感じます。A社も例外ではなく、採用など変化させやすい人事施策から手を加えていきました。一方で、社内の評価制度や教育制度などには十分に手が回っておらず、変革人材として入社したはずの新入社員たちは皆、過去の文化で育てられることになってしまったのです。この事例に限った話ではないですが、OJTには図⑤のような罠が潜んでいます。もちろん、こうした罠に陥らないことが求められますが、自社で運用(または検討)中のOJTの検証はする必要があるでしょう。

図⑤ OJTに潜む罠:3つの観点

一つ目の役割不明瞭については、「人事担当者が自ら具体的なトレーナーへの期待が語れるか」という点が検証方法になります。前途のトレーナー・メンターの違いなどを参考に、不明瞭であれば具体的なペルソナ像を作成し、現場へ展開していくことが必要です。

二つ目の制度未浸透については、「OJT制度のみを検討していないか」という点が検証方法になります。A社の場合は評価制度も浸透していなかったという結果にはなりますが、その他人事施策がどういった浸透がなされているか、或いはなされていないならどのレイヤーで止まってしまっているかなどを確認することで、OJT制度の浸透予測、計画が立てられます。

三つ目の人選ミスについては、「現場に人選を丸投げしていないか」という点が検証方法になります。A社に限らず、現場に人選を投げてしまうと、現場は良くも悪くも「適当に」選定していまいます。それが人事としてのペルソナ像に合っていない場合、ミスマッチが起こり得ます。さすがに個人を指名することは難しいかもしれませんが、人事からは最低限「選抜基準とその理由」を指し示す必要があります。

そして、前回(2回目)のコラムでも指摘したような「管理職」がここでも重要と言われます。A社の場合、上記3つの観点いずれも管理職が機能していなかったことに起因していました(図⑥)。そもそものトレーナーとトレーニーの業務管理・監督ができていなかったという点も含め、管理職が機能しないことにはOJTも機能しないと言われます。その後、A社は管理職への教育を行う運びとなりました。

図⑥ OJTに潜む罠:管理職が機能していないケース

OJTを成功させるポイント

では、OJTを成功させるために何を検討したら良いでしょうか。一般的には、大きく以下4つの視点を確認していくことが求められています。

図⑦ OJTを成功させるための4つの観点

対・会社/事業

まずは会社・事業の観点です。変化の激しい時代、多くの企業で求められる人材像も変わってきています。それを踏まえた新入社員の一人前要件が明確かどうか、まずは確認していきましょう。過去の新入社員と比較して、近年は即戦力化という言葉にも表されるように、求められることも増えています。そうした状況でOJTが推進されていくということや、過去よりも負担が増える環境であることを認識していかなければなりません。また、OFF-JTをはじめ別途即戦力化に向けた施策も走っている企業も多いと思います。他の施策・制度と連動したOJTになっているかどうかという部分も点検が必要です。

対・管理職

次に、先の事例にもありましたが、管理職にも目を向けておく必要があります。図⑧は、OJT推進にあたって管理職に求められることの一例です。

図⑧ OJT推進にあたって管理職に求められること

OJTの推進には管理職が機能している必要があります。組織開発の一環として捉えられているかどうか、トレーナー丸投げではなく責任をとれるかどうか、トレーナーとトレーニーの線ではなく「面」で捉えられているかどうか、常に改善意識があるかどうか、まずはこうしたマインドが重要です。また、基本的なマネジメントスキル他、トレーナーを活用して新入社員を育てられる(部下を活用して部下の部下を育てるような部長レベルの)指導・育成力などのスキルも求められます。先輩社員をトレーナーとして選出しても上手くOJTが推進できていないという場合は、たいてい管理職の上記マインド・スキルのいずれかが不足しています。改めて管理職の観点から自社のOJTを点検していきましょう。

対・トレーナー

続いて、トレーナーの観点です。OJTトレーナーとして始動する前に「教える側のスキル」を保有しておく必要があります。具体的にはティーチングやコーチングスキルなどに加え、育成計画を立案・実行できるスキルと言われます。その他、トレーナーとして業務量が純増するため、タイムマネジメントや段取りスキル、上司や関係者との報連相といったベーススキルも重要になります。意外とこのベーススキルで躓く事例も多いので、注意が必要です。また、教え上手な先輩を分析することなどを通じて、適切なトレーナーとしての要件も事前に定めておきましょう。

対・トレーニー

最後に、トレーニーの観点です。新入社員や最近の若手傾向を把握した上でOJTおよびOFF-JTの計画を進めていくことが重要です。世代としての傾向はもちろんですが、採用においてどのような軌跡を辿ってきたかなどの情報までみておけると尚良いでしょう。また、いつ、どのレベルまで新入社員を引き上げれば良いのかマイルストーンも具体化しておく必要があります。

後者のトレーナー、トレーニーについては、比較的OJTを成功させるために検討されやすい項目ですが、前者の会社・事業、管理職については見落とされがちな項目です。部分最適に陥ったOJT制度の運用にならないように留意したいところです。また、近年ではOJTの推進にあたってデータやツールを活用するような好事例もみられます(図⑨)。OJTの強化にあたって、「トレーナー・指導者向け研修」を検討するケースが多くみられますが、集合研修だけではないOJTの推進策の存在も知っておくだけで、施策の幅やOJTが成功する可能性は広がっていくのではないでしょうか。

図⑨ OJTの好事例

まとめ

「新入社員を即戦力化することはできるのか」をテーマに、3回にわたって論じてきました。結論、私は新入社員の即戦力化はできるものだと考えています。但し、それは新入社員に対する施策だけでは実現なされません。彼らを取り巻く環境、具体的には人事のスタンスのほか、管理職の機能具合やOJTの質などによって大きく左右されることになります。もう少し経つと、新卒の新入社員を迎え入れるシーズンが訪れます。将来の幹部候補となり得る貴重な人材の受け入れ時期とも言えるでしょう。改めて、新入社員と彼らを取り巻く環境の両面から、自社の即戦力化計画を検討してみてはいかがでしょうか。


著者紹介 田口弘毅
2010年に株式会社マイナビへ入社。以後、一貫して採用・人材開発・組織開発のコンサルティング(各種制度設計・企画・運用支援)に従事する。
近年では、HR Trend Labの主席研究員や日本人材マネジメント協会の執行役員なども務め、若年層のリーダーシップ開発をテーマにした研究活動なども行う。
仕事においては理論と実践のバランスを、人生においては仕事と家庭(主に息子2人の育児)のバランスをとりわけ大切にしています。

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