仕事選びで見落とされがちな3つの要素とは…?
目次
はじめに
転職経験者(2020年)に「現在、勤めている会社を転職先に決めた理由」を尋ねたところ「希望の勤務地である(34.2%)」がトップ、以下「給与が良い(29.7%)」「休日や残業時間が適正範囲内(28.4%)」と続いた。また、新卒者(2022年卒)に対する「企業選択の際、どのような企業がよいと思うか」のアンケートでは「安定している会社(42.8%)」がトップ、続いて「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社(34.6%)」「給料のよい会社(17.5%)」という選択肢が上位に入った。
【転職者/転職先決定理由】※複数回答 ※上位10項目のみ表示
【新卒者/企業選択をする場合、どのような企業がよいと思うか?】
※2つまで選択 ※上位10項目のみ表示
実際の仕事選びに関しては求職者それぞれの基準でさまざまな思惑や判断、プロセスを経て「ひとつの仕事を選ぶ」という結果に至っていると思われる。ただ、希望通りの仕事に就いた場合でも「こんなはずでは…」となるケースは珍しいことではない。そういう意味で「仕事選び」というのは実に難しいものだが、長年、企業の採用活動のサポートや求職者に対するキャリア相談に関わってきた経験から仕事選びで意外と見落としがちな要素を考察してみたい。
なぜ「仕事選び」は難しいのか?
人は何かを決める際、それが些細なことであっても「自分が経験したこと」をベースに決めている。例えば朝、家を出る際に「傘を持って出かけるべきか」を決めるのも、「天気予報で降水確率30%なら(以前も降らなかったから)不要だな」とか「この空模様なら降らないな」といった過去の経験に基づいて判断しているのである。ところが「仕事を選ぶ」となると「自分が経験したこと」をベースに決めるのは非常に難しく、ほとんどの場合「経験していないこと」から選ぶことになる。さらに厄介なのは星の数ほど存在する仕事(企業や団体)から「ひとつ」を選ばなければならない。近年は学生であればインターンシップなどで“就業体験”することも可能だし、副業が認められている企業や団体で働けば同時に複数の仕事に就ける場合もあるが、仕事選びとは基本的に「経験していないこと」から「ひとつ」だけを選ぶという極めてハードルの高い作業なのである。
仕事選びで意外と見落とされる3つの要素
就職・転職活動の進め方に関する情報は巷に溢れており、「自分にとっての適職の探し方」も少し調べれば容易に入手することができる。例えば「自己分析を行って自分の強みと弱み、価値観を知る」「どのような職種や企業があるのか広く調べる」「好きなことだけにとらわれずできることに目を向ける」などは基本中の基本と言っても良いが、意外と触れられておらず、求職者も見落としがちなのが次の3つの要素である。
1, 仕事を進めるうえでの自己コントロール感があるか? |
2, 評価基準が曖昧ではなく、自分が行うべきタスクが明確か? |
3, 職場に良い仲間とソーシャルサポートが存在するか? |
上記3つの要素はいずれも「仕事のストレス」と直結するものだ。例え、好きな仕事であっても毎日がストレスに晒されていては長期間続けるのは難しく、最悪の場合健康を害しかねない。中には「こんなことは気にならないからストレスにならない」という人もいるかも知れないが、これらの要素は仕事に真剣に取り組めば取り組むほどストレスになるもので、仕事に就き「これからいよいよ成長期に入る」という時期に顕在化する場合が多い。そうならないためにも就職・転職活動を進める段階で確認しておきたいものである。
仕事を進めるうえでの自己コントロール感がなければやりがいや面白みは感じられない
なぜ「3つの要素」が重要か?について述べていきたい。仕事というものはどんな仕事であっても、自分で考え、自分が良いと思う選択をして、良い成果が出ることでやりがいや面白みが感じられる。もちろん、組織の一員として働く以上「自分で無制限にコントロールできる仕事」など存在しないが、やりがいや面白みという観点からいえば「仕事の進め方はどこまで個人の裁量に委ねられているのか?」を確認することは“残業時間”や“有給休暇の取得率”を確認すること以上に重要かも知れない。仕事選びの段階では「この仕事に就きたい!」という思いや「この仕事で頑張る!」という意気込みが強く「その仕事を進めるうえでの自己コントロール感」など気にしない場合が多いが、自己コントロール感は仕事の内容以上にやりがいや面白みに直結する要素なのである。
意外と気にする人が少ない「評価基準」と「行うべきタスク」の伝えられ方
これも仕事に就く前は気がつきにくいが「評価基準が曖昧」「何を求められているかが判らない」「指示が一貫しない」状況下で働くことは仕事内容に関係なく大きなストレスになりやすい。そういう意味で評価基準や行うべきタスクがどのように決められ従業員にどう伝えられているのか?は非常に重要である。中途採用などで配属先が決まっているのであれば「行うべき具体的なタスク」「評価基準(期待値)」は明確にしておくべきである。さらにいえば「仕事の評価とフィードバック」は常にセットなので「仕事のフィードバックはどのように得られるか?」についても確認したいところだ。
職場に良い仲間とソーシャルサポートが存在するか?
日本では人間関係による退職は転職の際の面接で言わないほうが良いとされているので、あまり表面化しないが、現実的には「職場の人間関係」が理由で転職する人は多い。「職場の人間関係など実際に働いてみなければわからない」と思うだろうが、入社前の質問や職場見学でもある程度の察しをつけることはできる。仕事の内容にもよるが「他のメンバーと雑談を交わせるような雰囲気があるか?業務に必要なことしか話せない雰囲気か?」の差は大きい。
一見、雑談が多い職場はたるんでいて業務効率が悪いと思いがちだが、同じ方向に向かって何かを達成しようとしたときに普段から雑談がある職場のほうがお互いのコミュニケーションも取りやすくうまくいく場合が多いものである。また、どんな仕事でも日常の現実においては思うようにいかないことや対人トラブルは起こるので会社としてそれをサポートする仕組みが存在するか否か?も非常に重要である。
採用する側(企業)の情報の出し方にも課題
採用する側(企業)の視点で見てみると“採用募集活動”のフェーズは「①自社の魅力の棚卸し」「②採用ターゲットの設定」「③採用手段の決定」「④求職者への周知」「⑤選考(面接)」「⑥合格通知とフォロー」に分けられるが①②をやらずに③から始めてしまうケースが実に多い。もちろん③の「採用手段の決定」から開始したとしてもどこかのタイミングで求人媒体業者に「当社の魅力はこれです」と伝えたり、求人票に書き入れたりするので「自社の魅力」について考えないわけではないのだが、多くの場合、時間も手間もかけておらず“かみ砕き”も甘いため、どこか総花的でオリジナリティに乏しく求職者に響く魅力として伝わっていない。当然のことながら「3つの要素」でアドバンテージがある場合でも気づかずにスルーしている場合がほとんどで自ら魅力を封印してしまっている。
世間的に求職者からの支持を集めやすい仕事、集めにくい仕事があるのは致し方ないが今や仕事とストレスの関係は離職や従業者の健康を考えるうえで重要な要素になり得るのだから「3つの要素」で訴求できるものがあれば具体的な事例やエピソードを交えて積極的に情報発信を行うべきである。それが「ミスマッチ採用」「早期離職」の防止にも繋がるのである。
求職者は仕事を探す際、「自分がやりたい仕事か?」「これから伸びる業界か?」「給与(報酬)がどれぐらい貰えるか?」などを基準にしてしまうことが多い。それは悪いことではないが、これらの基準だけで仕事選びをすることはリスクが高い。変動要素が多すぎる「頼りない基準」だからである。「こんなはずでは…」というミスマッチ就職にならないために「3つの要素」を加えた仕事選びをぜひおすすめしたい。
著者紹介
綿貫 哲也(わたぬき・てつや)
株式会社マイナビ 支社業務推進担当
1987年 毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)入社。就職情報事業本部 営業職として、250社の採用募集活動に携わる。管理本部総務部長、沖縄支社長、埼玉支社長などを歴任。埼玉県経営者協会をはじめとした経済団体等で企業経営者、採用担当者向け講演多数。特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会 キャリアコンサルタント(国家資格)、日本キャリア開発協会会員(CDA)、著書に「中小企業の採用担当者へ!これが新卒獲得のノウハウです」(実務教育出版)