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変わるアルバイトの在り方―スポットワーク、限定正社員制度、身だしなみ規制緩和

沖本麻佑
著者
キャリアリサーチLab編集部
MAYU OKIMOTO

現在、労働力不足が問題となり、企業において多様な人材の就業機会を確保することや、従業員がより良く働ける環境づくりに力を入れることによって、人材の定着や採用力の強化が図られている。

特に正社員労働者を対象とした福利厚生や勤務制度から導入されていくことが多いが、現在アルバイト・パートなどの非正規雇用においてもその動きは広がっている。そこで本コラムでは、アルバイト採用に関する現状とともに、アルバイトとして働く人に関わる制度や職場環境の変化について、これまでマイナビ調査で取り上げてきた話題をまとめた。

アルバイトの人材不足の現状

アルバイト採用を実施する企業に対する調査によると、アルバイト人材の人手不足感は2019年に7割を超えていたが、2020年のコロナ禍に一時緩和し、それ以降は毎年不足感が高まっている。 【図1】

【図1】アルバイト人材の不足感/アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年) 
【図1】アルバイト人材の不足感/アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年) 

アルバイト従業員を雇用する上で困っていることとしてもっとも多いのは「募集しても必要な人数が集まらない」で75.1%となっており、「採用しても、すぐに辞めてしまう」も半数を超えている。 

「スキルが不十分なアルバイトが多い」「希望シフトに偏りがあり、思い通りのシフトを組めない」など、応募者が募集条件に合致していないことやシフト作成に困っている企業は上位の2項目に比べると少なく、前述の不足感の背景にあるのは主に人材獲得と定着における課題であることが見てとれる。 【図2】

【図2】アルバイト人材活用で困っていること/アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年) 
【図2】アルバイト人材活用で困っていること/アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年) 

求職者がアルバイト勤務先に求めること 

一方でアルバイトとして働く人が仕事探しにおいて求めることは、「シフトの融通が利く」が最多で53.2%、つづいて「自宅から近い」が50.7%だった。アルバイト就業者の主な仕事探しの基準は柔軟なシフトとアクセスの良さということが見てとれる。 

また、「長期で働ける」も上位10項目に入っており、27.9%の人が必須条件としている。企業側としては定着率に悩んでいるが、求職者側では長期で働けることを条件に仕事探ししている人が一定数いることも分かる。【図3】

【図3】アルバイト探しの必須条件/アルバイト就業者調査(2024年)
【図3】アルバイト探しの必須条件/アルバイト就業者調査(2024年)

 アルバイトで働く人に今後希望する働き方を聞くと、アルバイト・パートとして働きたいと回答した人がもっとも多く56.6%で、契約社員や派遣労働者、業務委託と合わせると60.9%となった。 

非正規社員や業務委託として働きたい理由について聞くと、「自宅の近くで働けるから」が49.0%と最多だった。「転勤がないから」も23.7%と一定数の回答があり、アルバイト・パートなどでの勤務を希望している背景には、勤務先へのアクセスが良さと、その状況が変わらないことを求めている意識があると分かる。【図4】

【図4】今後希望する働き方・非正規社員や業務委託で働きたい理由/アルバイト就業者調査(2024年)
【図4】今後希望する働き方・非正規社員や業務委託で働きたい理由/アルバイト就業者調査(2024年)

また、上位には「家事・育児・介護等との両立がしやすいから(35.6%)」「趣味や他の時間との両立をしやすいから(34.4%)」もつづいており、私生活との時間のバランスがとりやすいことも重要な点であると見てとれる。「自宅に近い」については通勤時間を減らすことでより私生活の時間を捻出したい意図もあると推察できる。 

アルバイトにおける働き方の変化

アルバイト就業者は特に「時間の融通」や「アクセスの良さ」を求めており、企業はそのようなニーズに応えることで採用力や定着率向上に努めている。

また、2017年に厚生労働省がまとめた「働き方改革実行計画」でも、働く人の視点に立った柔軟な働き方や非正規雇用の処遇改善の推進がうたわれており、このような動きも変化の大きな起点となっている。ここからは昨今話題となっているアルバイト労働の働き方の変化について具体例を見ていく。 

スポットワーク

アルバイトの働き方として、昨今話題となっていることの一つが「スポットワーク」や「スキマバイト」などと呼ばれる、1時間~数時間単位で継続した雇用関係のない単発的な働き方だ。業務委託や派遣としてではなく企業と直接雇用契約を結びながらも継続した雇用関係ではなく、あくまで求職者は予定が空いている時間のみ働き、企業は人手が足りない時間・業務のみ働いてもらうという新しいシステムである。 

2018年に厚生労働省が「働き方改革実行計画」を踏まえた、副業や兼業の促進についてのガイドラインを示し、企業に対して原則副業・兼業を認める方向で就業規則の見直しを行い、労働者が副業・兼業を行える環境を整備するよう促している。 

このように、企業で働く人も副業・兼業を促進される状況となったことや、スポットワークに特化した人材マッチングプラットフォームが誕生していることから、短期・短時間でも働けるこの働き方がさらに広まることとなったとされる。 

アルバイト採用を実施している企業で、2023年に人材確保のための施策として、「スポットワーカーの受け入れ」を実施したと回答した企業は14.8%となっており、2022年(11.7%)と比較すると3.1pt増加している。労働力確保のためにスポットワークという働き方を導入している企業がやや増えている様子が分かる。 【図5】

【図5】人材確保のために実施した施策/アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年)
【図5】人材確保のために実施した施策/アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年)

次の年にスポットワーカーを採用する予定があるかどうかについては、2年連続で約3割の企業が採用予定があると回答しており、こちらも割合は微増している。 【図6】

【図6】来年スポットワーカーの採用予定があるか/アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年)
【図6】来年スポットワーカーの採用予定があるか/
アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年)

人材確保のために今後実施したい施策について見ると、全体としては給与の増額や主婦(主夫)層の積極採用が多いが、接客業や軽作業などの業種においては、上位5位以内に「スポットワーカーの受け入れ」が入っている。特にパチンコ・カラオケ・ネットカフェのアルバイト採用においては、「職場の設備の充実・改善」に並んで2位(14.1%)となっている。 

接客業や軽作業においては今後ますますスポットワークという働き方について検討や導入が進んでいくと考えられる。【図7】

【図7】今後実施したい施策/アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年)
【図7】今後実施したい施策/アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年)

スポットワークに関する参考コラム 

参考記事(1)
実際にスポットワークを導入している企業や労働者がスポットワークのどのような点に魅力を感じているのか、「単発」という働き方が似ている「日雇い派遣」とはどう違うのかなどについては下記の記事でまとめられている。 


参考記事(2)
スポットワークが広まった背景やスポットワーカーに対する研修状況などから分かる、単発労働者を受け入れる職場で求められる環境整備については下記の記事でまとめられている。

限定正社員

スポットワークは「単発性」によるシフトや勤務先の柔軟化が特徴だが、反対に時間や仕事内容を固定することで、非正規雇用のように残業や転勤なく働けるなどのメリットを保ちつつ正社員に転換するという働き方の柔軟化もある。 

政府は労働力人口が減少する中、有期契約労働者がこれまで以上に活躍できる環境づくりの一つとして「多様な正社員」をあげている。勤務地や仕事内容、勤務時間などの範囲を限定することで、働き方を柔軟にし、ワーク・ワイフ・バランスの実現に繋がるとしている。 

アルバイト採用を実施する企業への調査によると、直近5年以内で限定正社員制度を導入した企業は40.5%となっている。大企業においては61.8%で、限定正社員制度を導入している企業の方が多い結果となった。 【図8】

【図8】直近5年以内の限定正社員制度導入状況/アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年)
【図8】直近5年以内の限定正社員制度導入状況/アルバイト採用活動に関する企業調査(2023年)

アルバイト採用に限定せず、非正規雇用を行っている企業全体に対する調査では、導入状況は22.9%と減少するが、「必要性を感じているが、設けていない」という企業がもっとも多く36.2%となっており、現状は導入されていないものの必要性を感じている企業があることが分かる。 

【図9】限定正社員制度の必要性と実施状況/非正規雇用市場における採用・求職動向レポート(2023年9-10月)
【図9】限定正社員制度の必要性と実施状況/非正規雇用市場における採用・求職動向レポート(2023年9-10月)

アルバイト就業者に対して、限定正社員制度があった場合に応募意欲等に影響があると思うか聞いたところ、応募意欲があがると思う人は35.5%、長く働きたいと思う人は55.8%、モチベーションが上がると思う人は43.4%となっている。 

限定正社員制度について企業も必要性を感じているが、実際に制度があることで応募意欲や定着率に対して良い影響があると感じる就業者もいることから、今後のアルバイトの人材獲得競争やより良い就業環境の整備において、限定正社員制度が一つのポイントとなると考えられる。 

【図10】限定正社員制度が導入されている職場だった場合の意識/アルバイト就業者調査(2024年)
【図10】限定正社員制度が導入されている職場だった場合の意識/アルバイト就業者調査(2024年)

限定正社員に関する参考コラム 

参考記事(1)
限定正社員として働く人の実態や、限定正社員として働く上でメリットに感じていることなどのデータは下記のコラムでまとめられている。 


参考記事(2)
限定正社員制度の導入状況や限定正社員制度を導入することによる企業への効果などについては下記のコラムでまとめられている。 

アルバイトの職場環境の変化

ここまで非正規労働者に関わる制度の変化について見てきたが、アルバイトの働き方は制度以外の面でも変化してきている。 

身だしなみの自由化

アルバイトの職場環境における変化としては昨今、服装やネイル、ピアスといった身だしなみに関する自由化の流れも話題となっている。スーパーやカフェなど特に接客業においてはこれまで一般的に華美な身だしなみは控えるようにと定められている職場もあったが、昨今では価値観や多様性の尊重や、採用力向上などの観点から身だしなみ自由化の動きが見られている。 

非正規雇用を行う企業に、直近5年以内にアルバイトスタッフの身だしなみの規定を緩和したかどうか聞いたところ、身だしなみについての規定がある企業のうち36.7%が「緩和した」と回答した。 

緩和していない企業についても、「緩和予定」や「緩和を検討中」「検討できていないが必要性を感じている」などを合わせると3割となっており、現時点では緩和に至ってはいないものの、必要性を感じたり、緩和に向けて動き始めたりしている企業もいることが分かる。 

【図11】直近5年以内の、アルバイト従業員の職場での服装や身だしなみについての規制緩和状況・今後の規制緩和予定/非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年5-6月)
【図11】直近5年以内の、アルバイト従業員の職場での服装や身だしなみについての規制緩和状況・
今後の規制緩和予定/非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年5-6月)

アルバイト就業者に対して、身だしなみの自由化によって応募意欲等に影響があると思うか聞いたところ、応募意欲があがると思う人は55.7%、長く働きたいと思う人は57.5%、モチベーションが上がると思う人は53.0%となっている。 

服装や身だしなみは「働き方の課題解決」とは異なり、「より良く働くためのプラスアルファの要素」と捉える人もいるだろうが、服装自由化によって応募意欲やモチベーションが上がると思う人が半数を超えるなど、実は働き方に関する制度改革と同様に働く人にとって重要な要素だと分かる。 

【図12】服装・身だしなみ自由化が仕事探しや働き方に影響すると思うか/非正規雇用市場における採用・求職動向レポート(2023年5-6月)
【図12】服装・身だしなみ自由化が仕事探しや働き方に影響すると思うか/
非正規雇用市場における採用・求職動向レポート(2023年5-6月)

アルバイトの服装・身だしなみに関する参考コラム

参考記事(1)
アルバイトの服装や身だしなみ自由化の規制緩和予定の状況や、自由化による仕事探しや働き方への影響については下記のコラムでまとめている。


参考記事(2)
アルバイトの服装・身だしなみの規定の具体的な現状や、自由化に対する賛否の意見については下記のコラムでまとめている。

まとめ

今回はアルバイト雇用における企業の課題やアルバイトにおける働き方・職場環境の変化について、キャリアリサーチLabでこれまでに公開してきたデータやコラムを紹介しながら見てきた。

企業の人材不足などから採用力や定着率向上を主な目的として導入されるケースも多いだろうが、柔軟な働き方で仕事にも私生活にも注力できる環境整備や、多様な価値観を尊重する職場づくりは、企業の人材不足解消としてだけではなく従業員のより良い働き方を模索するという観点でも重要なことだと考える。

すべての人が、何かの事情で「やむを得ず」都合のつく働き方を選ぶのではなく、自分の生活に合った働き方を豊富な選択肢の中から「前向きに」選べることや、自分らしさを発揮しながらモチベーション高く働ける環境が増えていくと良いと思う。

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